107 / 114
Chapter_3:機械工の性
Note_86
しおりを挟む
広場から大通りにかけて、集団が通路を妨げている。広場のモニター越しから、ロボット同士の壮大な試合が繰り広げられようとしていた。熱狂に駆られて住民達は湧き上がった。
通路では3mもの機体がゆっくりと前進し、パレード気味な装飾を照らしながら騒ぎ立てていた。アニメキャラに扮したレイヤー達も集まって、共に写真を撮っている。
【キエラ】の街並みは、靄のかかったカラフルな電灯によって照らされる。試合間近ということもあって、賑やかだ。
「テラス席は貸し切りか?」
「空いてるっすよ!1団体分!」
ユーリは店員と話を進めていた。テラスの場合、試合観戦は遠くにある広場のモニターから眺めることになる。プライバシーの欠片もないが、吹きさらしで気持ちがいいらしい。
粉物は惑星開発の友として、時代を越えて愛されてきた。鉄板焼きの類で多様性ある料理ならば、受け継がれやすい傾向にある。
伝説の料理を…キャンソン姉弟は初めて食すのだ。
「「………。」」
「ちょっと、上行くよ!」
姉弟が店主の調理を見ていた傍らに、ゾーイが割り込む。あまりにも綺麗なお好み焼きに、2人は感動を覚えていた。
姉弟は階段を登りながら、例の物について話した。
「サド……自分の分は自分で作れよ。私のは私で作るから。」
「マークⅢに任せなくて大丈夫?」
「分かってねぇなあ。ああいうのは『完璧を目指す過程』ってのが醍醐味なんだよ。……失敗してもあげねえから。」
「言ってないけど……分かったよ。一応、4人前頼んでおくよ。」
レオは不服の表情を示した。
「私が失敗する前提かよ。」
「いや、マークⅢに作らせて【タイタン号】のメンバーで試食するのさ。マークⅢもじっとしてるの、辛いだろうし。」
「………。」
目には見えない。表情も確認できない。サドの正体を隠すために、声さえも出してくれない。だがサドは確信しているようだ。彼の笑みひとつで完全に理解できる。
「AIだしな。せめて、端末から出してあげればいいよ。」
「こういう時こそ、だね。」
姉弟が向かったテーブルには、先にライラが座っていた。サドの端末を気にかけてきた。
「どうしたの?」
「【タイタン号】復活の立役者に、ぜひ立ち入ってもらおうかと。」
「盛り上げ役ってことだ。」
レオとサドが隣同士に座っていた。サドが自然とライラの隣に端末を置き、マークⅢの席とした。
「あれ、レオちゃんはこっちに来ないの?」
「まあ姉弟ってのも悪くねえだろうし、姉として手伝ってやらねえとな。」
「へぇ~偉いね~おねーちゃんは。」
隣のテーブルから、ゾーイがちょっかいをかけてきた。向かいにユーリが険しい顔で座っている。話しかけないでくれと言わんばかりに。
無口になった彼の他に、話し相手が欲しかったようだ。
「……ん~?」
ゾーイは画面内のロボットに興味を示す。
「あなたは誰?」
『初めまして!私は【タイタン号】のクルーの1人、AIのマークⅢと申します。』
「このAIはサド君の趣味?」
「説明できないのですが……いつの間にかいました。でも超優秀なAIですよ!チャットボットとしては、まるで人の如く接してくれて、ビジネスに役立ちました!」
「ええっ!?ということは、3人を守ってきた一番の功労者って……。」
姉弟は頷いた。既に認めていたのだ。
『私はサド君の為に、レオさんやライラさんを守ってきました。【タイタン号】のクルーとして、レオさんの為にも尽くしています。
……しかし、姉弟も私のために助けたり、未熟な私に多くの事を教えてくれたのも、仲間のおかげです。私が引っ張るべき立場のはずですが……今では一緒にいることを、私自身も誇りに思っております。』
マークⅢは画面越しから微笑んでいた。本心だった。
「……4人だったのね。レオちゃんと、サド君と、ライラちゃんと、そしてマークⅢちゃん。
ここまで来たご褒美ね。ご注文は?」
「豚肉。」
レオはメニューを取り出し、一瞬で選ぶ。ゾーイは質問した。
「それは具だよ。慎重に選んでね。ミックスもできるけど。」
「じゃあ、豚とエビのミックス。グラムは……」
「1人前250グラムが目安よ。」
「じゃあそれで。」
続けてサドとライラが注文する。
「私も同じ具材を。」
「私も!」
「それともう1人前ください。」
計4人分を頼む一向に、ゾーイは助言した。
「1つ余分ね。料理は失敗を恐れないことが重要よ。効率良くテキパキとこなすこと、お好み焼きだって一緒よ。」
「助言どうも。2つとも成功させる。」
ゾーイが壁の受話器を手に取り、厨房に直接注文した。
「火ィ点けっぞ。気ぃつけい。」
鉄板の火を点け、油脂を塗り、器を置いて店員は去っていった。
やってきたのは、器を満たしている具材入りの生地であった。そう、生地に具材を入れているだけである。それでありながら、怒ることなく、目の前の鉄板から一瞬ですべて理解した。
『作り方をお教えいたしますね。』
レオはマークⅢを差し置いて、先に生地を鉄板の上に全部のせようとした。本能と感覚が、自分の意識すら置いていったのだ。
『まだ油を引いてませんよ!?』
「レオちゃん!」
「うおっと!」
危うくこぼしかけた。全部、無事のようだ。
「……あっぶねぇー。匂いに釣られていきなり失敗するところだった。」
『温まるまで、作り方を説明しますね。生地と具材は一緒になっているようです。なので、最初の部分を省略いたしますね。
……鉄板を温めたのち、油を引いていきます。油を広げたら、生地を軽く混ぜてから流してください。生地の厚さを均一に保てば、ひっくり返すときに成功しやすくなるでしょう。
生地にある程度、熱を通したらひっくり返して表面も焼いてください。焼き加減は目で見て確かめましょう。
以上です。ソースとマヨネーズ、手元のトッピングを好みでご利用ください。』
生地を流して、ひっくり返す。それだけのこと。レオは拍子抜けしてしまった。
「大したことないな。全部、私が作ってやるよ。」
「僕もやる。」
「お前は駄目だ。ズルできるからな。こういうのは人類が勝たなきゃ、ロボットに見下されちまう。
それに任せっきりも飽きたし、少しは良いところ見せてやらねぇとな。」
レオはそう言って箆を両手に、調理へと移る。器を満たす生地を鉄板の上に流していく。
一方で試合中継も盛り上がっているようだ。
『さあ、青チーム“ガーバ”がバズーカ砲を構えて狙っている。』
熱を読み、機を窺い、静かに生地を箆に乗せていく。
『……飛行と同時に撃ち込んだ!』
(今!)
無心のまま、生地をひっくり返した。見事な焼き加減で飛散も無い。
『敵機大破!』
「「「うおおおおおおおおっっっ!!!」」」
…完璧だ。
「すごい!もうマスターしてる!」
「レオちゃん上手!」
サドとライラも大いに称えた。周囲の歓声も相まって、レオはとても居心地良く感じている。
…段々と嬉しくなってきた。
「ま、ざっとこんなもんよ。このまま2人の分でも作ってやるよ。」
「私もやる!えっと……」
ライラは自分の分を取って流し込んだ。
成功体験は自身をさらなる高みへと進めてくれる。レオは鼻を高くし、余裕の表情を皆に見せた。
「これは最初だからな。まずは私の……分っと!」
勢いよく裏返した。料理が横に吹き飛び、鉄板の外へと脱出する。
「「「『………。』」」」
…レオは落としたお好み焼きを皿に載せた。
「……最初だからな。あんたの分だ。」
それをサドに渡した。
(失敗したの食わせる気だこの人!)
サドは渋々、無言で受け取る。レオは黙々と気を取り直して、再チャレンジに臨んだ。
「……私のはこれから作るから、食べてていいぞ。」
「焼き直すから箆を返してよ。」
「私、二刀流だから。」
「嘘つくな!」
何事も無かったかのように、レオは完璧を目指す。
_____
【Kerキャンプ】も暗くなり、電灯が次々と輝き始め、闇を消していく。光を堂々と歩む2人は、ある場所へと向かう。
彼女達の目の先には、何も見えない。闇の中に自ら入り込む。
「……調査によると、この非常通路から例の倉庫に繋がっているらしいけど、先に進むためにはキーとなる端末が必要。
それについては部下に持ってこさせる。だから大丈夫、すぐ来るから。」
「部下を危険に晒させるつもり?」
「そういうことになるわ。だから、此処に詳しい部下に任せているの。」
何かが近づいてくる。
「………あの!誰かいるのですか?」
暗闇の中、非常灯に照らされる扉が1つ見つかる。気づけば奥にも左右にそれぞれ6つずつ見つけた。その内、手前の1つから声が挙がったらしい。
四角に切り取られたようなガラスから、誰かが覗き込む。かの悪名高い尋ね者の女が2人を眺めていた。
「そこにいるの!?だったら助けて!ここから出して……あっ。」
…ウルサが個室の中にいた。どうやらここは、レジスタンスの懲罰房もどきらしい。そして、彼女が目にした2人は紛れもなく町の役人、ミラとレティであった。
2人の目の前にはレジスタンス5100万、政府7000万Uドルの罪人がいる。ミラは恐る恐る話しかけた。
「……どうしてアンタがそこにいるの?やっぱり、レジスタンス側だってこと?」
ウルサは閃き、媚を売り始める。
「いやいやいや、違うに決まってるじゃないですか!私は【エンダー家】の要請を待っていて……」
媚を売るたび、虚しくなる。
助けを求めたのに、信じていたのに、彼女達は助けること無く、結局は自力で生き延び“エ”の字さえも見つからない。それは自分達の口からしか出てこない譫言でしかなかった。
「……要請を待っていました。みんな我慢強く、貴女達の助け求め続け、そのまま死んでいく光景に我慢ならず、決死の判断で【キエラ】に参りました。
3ヵ月前、いや少なくとも4ヵ月も前から!貴女達は“既に探知していた”にも関わらず、使いの一人も出てこない!
シェルターの代表者として、聞きたいことなら山程あるわ。」
レティは長として、少女に向けて冷静に諭す。ミラと共に微笑みを浮かべた。
「機械霊に殺された人達の事は、申し訳なく思ってる。無慈悲な機械達に侵略されたために、とても苦しい思いをしたのね。残りの女性達は必ず助ける。
でも、こっちには他にも守るべきシェルターの人達が、貴女と同じような女性達が助けを待っているの。貴女達を助けるには、まだ準備がかかる。人も必要だし、機体を集めるのに時間もかかるの。分かる?
……少しはこっちの事情も察してよ。」
レティとミラは代表者であるウルサに向けて、見下すように睨みつけた。
…ウルサは憤慨した。
「ふざけないで!!!
アンタ達、話が違うじゃない!!!私達は守るべきじゃない女性達って言うわけ!!?貴女が【エンダー家】の配下なら、上院貴族の幹部なら、人も物資も、いくらでも用意できるはずなのに……
助ける約束だってしたんだ!!!通話だって記録している!何度も聞いた!機械霊のせいにすんな!!アンタ達が見捨てて無視したんだ!アンタ達が見殺しにしたんだ!!!」
責任あるものが、無様に無力を泣き叫ぶことほど、見苦しいものはない。2人は彼女をそのように見下していたのだ。時には力強く権力を誇示して、しかし今は自分達を被害者のように匿おうとする。
ウルサは最悪の事実を確信してしまった。
…【エンダー家】は誰も助けてくれないのだ。
「ここで止まっても時間の無駄よ。行きましょ。」
当然、ミラも同意見であった。2人は何事も無かったかのように先へと進む。
「こっちを向け!話を聞け!無駄とか言って責任から逃げてんじゃないわよ……!レティ!アンタ聞こえてんでしょ?」
「しつこ……ッ!?」
レティが幾度とも挙がる女性の叫びに、痺れを切らして背後を振り向いた、その時であった。
「……背を向けて両手を後頭部に押さえろ。」
拳銃の銃口を額に向けて脅す。そこには倉庫の門番であるはずの【ベン】の姿が見えた。
2人は命令に従いつつ問う。
「……斜線の前、監視しなくていいのかしら?」
「俺も副リーダーだ。1人や2人を従えるほどの人望ならあるぜ…膝を降ろせ。」
「そこの女の叫びでも聞いて、助太刀に来たの?必死過ぎて笑えるわね。」
ミラは愚かな男の特性に着目して呆れる。しかしベンは冷静に対応する。レティの腕に手錠を掛ける。
「最初から怪しいと見てた。いきなり倉庫前の事を聞き出してから、ずっとマークしていたからな。まさか後を追えば、立入禁止の場所に堂々と入るとはな……
今まで人造人間で身元が隠されていたからな。だが、お前が長のレティだったとはなぁ。
話の通じねぇ野郎だと思ったが、当て外れじゃねぇようだ。お前の気まぐれで殺されてきた仲間達を思い出しちまう……知ってる情報すべて話してもらおうか。“今は”傷つけるつもりはない。」
言葉ひとつひとつが脅迫紛いの力を帯びている。彼にその気が無くとも、一言一言の気迫で周囲を黙らせた。
次はミラだ。
「………ッ!」
静寂に轟音が一発、鳴り響く。背中の痛みが唐突にベンを襲う。
今度はベンが跪く。後ろから足音を鳴らして、誰かが近づいてきた。
「……その穢らわしい手で、ミラ様に触れるな!」
「撃ち殺したほうが良かったか?趣味の悪い集団だな。」
「いや……お前が死ねばいいだけだ。」
レジスタンスの裏切り者が後方から撃ち、ベンが振り向く隙をミラが突く。形勢逆転、2対1だ。
ベンは死を悟るも、表情だけは変えなかった。
「おっとォ~!この娘はいいのかなァ~?」
あるエンジニアの男が、レティの額に銃口を突きつけ、2人を止めた。個室群の奥から7人を引き連れて来た。3人を取り押さえて手錠をかけていく。
ベンは仕切っている男に話しかける。
「勝手に出て来んな。メンツから外しやがって……。」
「おやおや?君は【戦闘員】じゃなかったのかい?まあ最後の調整の権利は君に残しておいたから、今からリーダーと一緒に最終試験に立ち会ってもらうよォ~。
修正のときに、好きなだけ直していいぞ☆」
「おかげで死にかけた。」
「生きてんなら良かったじゃんよォ。」
「他人事のように流すな!」
部下達は裏切り者達をそれぞれ個室にぶち込む。施錠され、内側から逃げられないようにする。
ベンは1つだけ、彼に尋ねる。
「……【タイタン号】が来た。例の物について、持って来てくりゃ良いんだが。」
「何も何も。遠隔で敵アンドロイドにちょっと細工できるだけの奴だから、無くても少し手間取るだけさ。ここの敵の上官達に、ちょっかいかけるだけだし。」
「いや注文されたからには、無駄にされては困る。味方の命がかかっているんだぞ?」
「だから置いてきた。あの時、持っていったら殺された上に、技術ごと盗まれてたからな。懸けてんのは命だけじゃないしねェ~。」
「………。」
自慢気に話すドドに、ベンは不満を顕にした。無事、敵は確保して開発もほぼ完了した。2人はそのままリーダーに報告しに向かった。
_____
【キエラ】の料亭、【 好】は粉物で有名である。それは伝説の料理の一種であり、世代を越えて愛されているものであった。
サドにマークⅢが憑依して、お好み焼きを箆でひっくり返した。
…綺麗な円形、狐色に焼けた痕が香ばしく、鰹節の後にソースとマヨネーズをかけて完成。あまりの綺麗さに、サドとライラは目が点になる。
「……何か2人のと一緒ですね。」
「誰にでも作れるようにできてるのね。」
「8等分にしますよ~。」
「待って!さっきサド君がやってたアレ、あの一口サイズの奴やって!」
「えっ、…分かりました。」
サドが碁盤目状にお好み焼きを切っていく中で、ユーリが傍らから覗き込む。
「キレーにできたなぁ。料理の才能あるんじゃないか?あんさん。」
「鉄板に生地ぶっかけて、ひっくり返しただけですけどね。」
「今じゃファストミールが多いから、器具持つだけでも一苦労だってのに…」
サドとユーリが談話している間、もう一方のテーブルで、レオはゾーイと共に話を進めていた。
後輩の門出を嬉々と祝い、サイダーを片手に、【戦闘員】の何たるかについて説いていた。
「おめでとう、レオちゃん!みんなを守る【戦闘員】は即断即決と完璧な判断力が必要なの。これは仲間を守るための称号。誰のために戦うか、もう分かるよね?」
「仲間……。」
導かれるように反射的に答える。ゾーイは頷きつつ、。
「そう。巨大機体の操縦士は、搭乗者全員の命を最後まで請け負う。だからこそ、責任を背負える戦闘員だけが、巨大機体を操縦することにしているわけ。」
「……私は、【タイタン号】の操縦士になるために道中で頑張ってきた。裏切られて引き抜かれて、ロボットも武器も盗られて……道中で力を付けなきゃ駄目だ。
サドも行きたがってる。タイタン号は主力だが強化が必要だ。素材も足りない。今、持ってる技術以上の知識もいる。あいつは今後もタイタン号に必要な人材だ。」
「ふぅん。」
暖かい目で見つめた。新入りができて、ゾーイも心躍るようだ。表情から察せる。
「……でも操縦士は私がなるよ。」
「えっ?」
ゾーイは豪語した。
「何も、タイタン号のパイロットになりたいのは貴女だけじゃないの。巨大機体を動かすことは大きな責任と共に、莫大な利権が伴ってくるの。だってリーダーとサブが動かしてるのも、巨大機体なのよ。
つまりタイタン号は次期頭領候補の唯一の座席。EDSキャンプのリーダーもそうだったはずだし、先のキャンプにも候補生は勿論いるからね。
私がなったら、何が何でも本部に向かうわ。1つ遅れて仲間がやられたら、本末転倒だもの。
……まあライバルとして、これからよろしくね!」
…恐ろしいことを耳にしてしまった。レオは戦慄と絶望が入り混じったかのような表情をゾーイに返した。だが、考えまで表に出すことはしない。話すことすら恐ろしい内容だろう。
(まさか試験で扱いてきた見るからにヤバい奴らと、これからも相手することになるとは。それも多数も……無理かなぁ。やっぱり。)
人間な彼女は、ゾーイの超人技を目にした張本人だ。それも本気ですらないだろう。味わったのがたった一片に対して、絶望の大きさは計り知れない。
俯く前に、サドとライラの方に顔を向ける。ライラがユーリに向かって頼み事をしていた。
「私をタイタン号に乗せてください!」
「いいよ。」
「軽っ!?」
「地球育ちってだけで、この戦いに関わってるわけではないだろ?それにこの街は野蛮な奴らが屯している。留まる方が危険だ。次のレジスタンスキャンプまで送ろう。」
「あ、ありがとうございます!」
「……僕はやっぱり駄目なんですか?」
「命令だからな。それに君は、レジスタンスの主力だ。是非とも前線で戦ってもらいたい。」
キャンソン姉弟の送迎は頭領の命令である。偉い人間から通知されたのだから、従わないわけにはいかない。
しかし、サドもレジスタンスの重要人物だ。ここで引き下がるつもりはない。
「……タイタン号を待たずに、攻め入るつもりなんですか?」
「別にそうは言ってない。お前さんは“守るべ…」
「あ、それなら大丈夫です。」
サドは話をせき止めた。
「レオがタイタン号に乗るなら、僕もそうします。決戦兵器の強化もまだなのに、蔑ろにするわけにはいきません。
それに、“守るべき人”なら僕にもいますから。」
ユーリは戸惑う。しばらく困り果て、悩み悩んで、頭を掻き毟りつつ決断した。
「……ああもう、分かった。そう伝えておく。前線も今は停戦中で力を蓄えてるところだ。それにレジスタンスの新兵器についても、少し試行錯誤が必要だしな。怒鳴られるだろうが、何とかなるさ。」
「ありがとうございます。」
ユーリは折れた。どうやら2人はレオと一緒に行くことが決まった。
レオはタイタン号のリーダーになると決めたものの、決心が揺らいでしまった。申し訳なさと共に、俯きながら溜息を吐いた。
ゾーイの意見も急ぎたい気持ちも分かるが、タイタン号は回復がまだ済んでいない。不完全な復活である。技術力の高い前線で出しても、通用するかどうか………。レオはサイダーを一気に飲み干した。
通路では3mもの機体がゆっくりと前進し、パレード気味な装飾を照らしながら騒ぎ立てていた。アニメキャラに扮したレイヤー達も集まって、共に写真を撮っている。
【キエラ】の街並みは、靄のかかったカラフルな電灯によって照らされる。試合間近ということもあって、賑やかだ。
「テラス席は貸し切りか?」
「空いてるっすよ!1団体分!」
ユーリは店員と話を進めていた。テラスの場合、試合観戦は遠くにある広場のモニターから眺めることになる。プライバシーの欠片もないが、吹きさらしで気持ちがいいらしい。
粉物は惑星開発の友として、時代を越えて愛されてきた。鉄板焼きの類で多様性ある料理ならば、受け継がれやすい傾向にある。
伝説の料理を…キャンソン姉弟は初めて食すのだ。
「「………。」」
「ちょっと、上行くよ!」
姉弟が店主の調理を見ていた傍らに、ゾーイが割り込む。あまりにも綺麗なお好み焼きに、2人は感動を覚えていた。
姉弟は階段を登りながら、例の物について話した。
「サド……自分の分は自分で作れよ。私のは私で作るから。」
「マークⅢに任せなくて大丈夫?」
「分かってねぇなあ。ああいうのは『完璧を目指す過程』ってのが醍醐味なんだよ。……失敗してもあげねえから。」
「言ってないけど……分かったよ。一応、4人前頼んでおくよ。」
レオは不服の表情を示した。
「私が失敗する前提かよ。」
「いや、マークⅢに作らせて【タイタン号】のメンバーで試食するのさ。マークⅢもじっとしてるの、辛いだろうし。」
「………。」
目には見えない。表情も確認できない。サドの正体を隠すために、声さえも出してくれない。だがサドは確信しているようだ。彼の笑みひとつで完全に理解できる。
「AIだしな。せめて、端末から出してあげればいいよ。」
「こういう時こそ、だね。」
姉弟が向かったテーブルには、先にライラが座っていた。サドの端末を気にかけてきた。
「どうしたの?」
「【タイタン号】復活の立役者に、ぜひ立ち入ってもらおうかと。」
「盛り上げ役ってことだ。」
レオとサドが隣同士に座っていた。サドが自然とライラの隣に端末を置き、マークⅢの席とした。
「あれ、レオちゃんはこっちに来ないの?」
「まあ姉弟ってのも悪くねえだろうし、姉として手伝ってやらねえとな。」
「へぇ~偉いね~おねーちゃんは。」
隣のテーブルから、ゾーイがちょっかいをかけてきた。向かいにユーリが険しい顔で座っている。話しかけないでくれと言わんばかりに。
無口になった彼の他に、話し相手が欲しかったようだ。
「……ん~?」
ゾーイは画面内のロボットに興味を示す。
「あなたは誰?」
『初めまして!私は【タイタン号】のクルーの1人、AIのマークⅢと申します。』
「このAIはサド君の趣味?」
「説明できないのですが……いつの間にかいました。でも超優秀なAIですよ!チャットボットとしては、まるで人の如く接してくれて、ビジネスに役立ちました!」
「ええっ!?ということは、3人を守ってきた一番の功労者って……。」
姉弟は頷いた。既に認めていたのだ。
『私はサド君の為に、レオさんやライラさんを守ってきました。【タイタン号】のクルーとして、レオさんの為にも尽くしています。
……しかし、姉弟も私のために助けたり、未熟な私に多くの事を教えてくれたのも、仲間のおかげです。私が引っ張るべき立場のはずですが……今では一緒にいることを、私自身も誇りに思っております。』
マークⅢは画面越しから微笑んでいた。本心だった。
「……4人だったのね。レオちゃんと、サド君と、ライラちゃんと、そしてマークⅢちゃん。
ここまで来たご褒美ね。ご注文は?」
「豚肉。」
レオはメニューを取り出し、一瞬で選ぶ。ゾーイは質問した。
「それは具だよ。慎重に選んでね。ミックスもできるけど。」
「じゃあ、豚とエビのミックス。グラムは……」
「1人前250グラムが目安よ。」
「じゃあそれで。」
続けてサドとライラが注文する。
「私も同じ具材を。」
「私も!」
「それともう1人前ください。」
計4人分を頼む一向に、ゾーイは助言した。
「1つ余分ね。料理は失敗を恐れないことが重要よ。効率良くテキパキとこなすこと、お好み焼きだって一緒よ。」
「助言どうも。2つとも成功させる。」
ゾーイが壁の受話器を手に取り、厨房に直接注文した。
「火ィ点けっぞ。気ぃつけい。」
鉄板の火を点け、油脂を塗り、器を置いて店員は去っていった。
やってきたのは、器を満たしている具材入りの生地であった。そう、生地に具材を入れているだけである。それでありながら、怒ることなく、目の前の鉄板から一瞬ですべて理解した。
『作り方をお教えいたしますね。』
レオはマークⅢを差し置いて、先に生地を鉄板の上に全部のせようとした。本能と感覚が、自分の意識すら置いていったのだ。
『まだ油を引いてませんよ!?』
「レオちゃん!」
「うおっと!」
危うくこぼしかけた。全部、無事のようだ。
「……あっぶねぇー。匂いに釣られていきなり失敗するところだった。」
『温まるまで、作り方を説明しますね。生地と具材は一緒になっているようです。なので、最初の部分を省略いたしますね。
……鉄板を温めたのち、油を引いていきます。油を広げたら、生地を軽く混ぜてから流してください。生地の厚さを均一に保てば、ひっくり返すときに成功しやすくなるでしょう。
生地にある程度、熱を通したらひっくり返して表面も焼いてください。焼き加減は目で見て確かめましょう。
以上です。ソースとマヨネーズ、手元のトッピングを好みでご利用ください。』
生地を流して、ひっくり返す。それだけのこと。レオは拍子抜けしてしまった。
「大したことないな。全部、私が作ってやるよ。」
「僕もやる。」
「お前は駄目だ。ズルできるからな。こういうのは人類が勝たなきゃ、ロボットに見下されちまう。
それに任せっきりも飽きたし、少しは良いところ見せてやらねぇとな。」
レオはそう言って箆を両手に、調理へと移る。器を満たす生地を鉄板の上に流していく。
一方で試合中継も盛り上がっているようだ。
『さあ、青チーム“ガーバ”がバズーカ砲を構えて狙っている。』
熱を読み、機を窺い、静かに生地を箆に乗せていく。
『……飛行と同時に撃ち込んだ!』
(今!)
無心のまま、生地をひっくり返した。見事な焼き加減で飛散も無い。
『敵機大破!』
「「「うおおおおおおおおっっっ!!!」」」
…完璧だ。
「すごい!もうマスターしてる!」
「レオちゃん上手!」
サドとライラも大いに称えた。周囲の歓声も相まって、レオはとても居心地良く感じている。
…段々と嬉しくなってきた。
「ま、ざっとこんなもんよ。このまま2人の分でも作ってやるよ。」
「私もやる!えっと……」
ライラは自分の分を取って流し込んだ。
成功体験は自身をさらなる高みへと進めてくれる。レオは鼻を高くし、余裕の表情を皆に見せた。
「これは最初だからな。まずは私の……分っと!」
勢いよく裏返した。料理が横に吹き飛び、鉄板の外へと脱出する。
「「「『………。』」」」
…レオは落としたお好み焼きを皿に載せた。
「……最初だからな。あんたの分だ。」
それをサドに渡した。
(失敗したの食わせる気だこの人!)
サドは渋々、無言で受け取る。レオは黙々と気を取り直して、再チャレンジに臨んだ。
「……私のはこれから作るから、食べてていいぞ。」
「焼き直すから箆を返してよ。」
「私、二刀流だから。」
「嘘つくな!」
何事も無かったかのように、レオは完璧を目指す。
_____
【Kerキャンプ】も暗くなり、電灯が次々と輝き始め、闇を消していく。光を堂々と歩む2人は、ある場所へと向かう。
彼女達の目の先には、何も見えない。闇の中に自ら入り込む。
「……調査によると、この非常通路から例の倉庫に繋がっているらしいけど、先に進むためにはキーとなる端末が必要。
それについては部下に持ってこさせる。だから大丈夫、すぐ来るから。」
「部下を危険に晒させるつもり?」
「そういうことになるわ。だから、此処に詳しい部下に任せているの。」
何かが近づいてくる。
「………あの!誰かいるのですか?」
暗闇の中、非常灯に照らされる扉が1つ見つかる。気づけば奥にも左右にそれぞれ6つずつ見つけた。その内、手前の1つから声が挙がったらしい。
四角に切り取られたようなガラスから、誰かが覗き込む。かの悪名高い尋ね者の女が2人を眺めていた。
「そこにいるの!?だったら助けて!ここから出して……あっ。」
…ウルサが個室の中にいた。どうやらここは、レジスタンスの懲罰房もどきらしい。そして、彼女が目にした2人は紛れもなく町の役人、ミラとレティであった。
2人の目の前にはレジスタンス5100万、政府7000万Uドルの罪人がいる。ミラは恐る恐る話しかけた。
「……どうしてアンタがそこにいるの?やっぱり、レジスタンス側だってこと?」
ウルサは閃き、媚を売り始める。
「いやいやいや、違うに決まってるじゃないですか!私は【エンダー家】の要請を待っていて……」
媚を売るたび、虚しくなる。
助けを求めたのに、信じていたのに、彼女達は助けること無く、結局は自力で生き延び“エ”の字さえも見つからない。それは自分達の口からしか出てこない譫言でしかなかった。
「……要請を待っていました。みんな我慢強く、貴女達の助け求め続け、そのまま死んでいく光景に我慢ならず、決死の判断で【キエラ】に参りました。
3ヵ月前、いや少なくとも4ヵ月も前から!貴女達は“既に探知していた”にも関わらず、使いの一人も出てこない!
シェルターの代表者として、聞きたいことなら山程あるわ。」
レティは長として、少女に向けて冷静に諭す。ミラと共に微笑みを浮かべた。
「機械霊に殺された人達の事は、申し訳なく思ってる。無慈悲な機械達に侵略されたために、とても苦しい思いをしたのね。残りの女性達は必ず助ける。
でも、こっちには他にも守るべきシェルターの人達が、貴女と同じような女性達が助けを待っているの。貴女達を助けるには、まだ準備がかかる。人も必要だし、機体を集めるのに時間もかかるの。分かる?
……少しはこっちの事情も察してよ。」
レティとミラは代表者であるウルサに向けて、見下すように睨みつけた。
…ウルサは憤慨した。
「ふざけないで!!!
アンタ達、話が違うじゃない!!!私達は守るべきじゃない女性達って言うわけ!!?貴女が【エンダー家】の配下なら、上院貴族の幹部なら、人も物資も、いくらでも用意できるはずなのに……
助ける約束だってしたんだ!!!通話だって記録している!何度も聞いた!機械霊のせいにすんな!!アンタ達が見捨てて無視したんだ!アンタ達が見殺しにしたんだ!!!」
責任あるものが、無様に無力を泣き叫ぶことほど、見苦しいものはない。2人は彼女をそのように見下していたのだ。時には力強く権力を誇示して、しかし今は自分達を被害者のように匿おうとする。
ウルサは最悪の事実を確信してしまった。
…【エンダー家】は誰も助けてくれないのだ。
「ここで止まっても時間の無駄よ。行きましょ。」
当然、ミラも同意見であった。2人は何事も無かったかのように先へと進む。
「こっちを向け!話を聞け!無駄とか言って責任から逃げてんじゃないわよ……!レティ!アンタ聞こえてんでしょ?」
「しつこ……ッ!?」
レティが幾度とも挙がる女性の叫びに、痺れを切らして背後を振り向いた、その時であった。
「……背を向けて両手を後頭部に押さえろ。」
拳銃の銃口を額に向けて脅す。そこには倉庫の門番であるはずの【ベン】の姿が見えた。
2人は命令に従いつつ問う。
「……斜線の前、監視しなくていいのかしら?」
「俺も副リーダーだ。1人や2人を従えるほどの人望ならあるぜ…膝を降ろせ。」
「そこの女の叫びでも聞いて、助太刀に来たの?必死過ぎて笑えるわね。」
ミラは愚かな男の特性に着目して呆れる。しかしベンは冷静に対応する。レティの腕に手錠を掛ける。
「最初から怪しいと見てた。いきなり倉庫前の事を聞き出してから、ずっとマークしていたからな。まさか後を追えば、立入禁止の場所に堂々と入るとはな……
今まで人造人間で身元が隠されていたからな。だが、お前が長のレティだったとはなぁ。
話の通じねぇ野郎だと思ったが、当て外れじゃねぇようだ。お前の気まぐれで殺されてきた仲間達を思い出しちまう……知ってる情報すべて話してもらおうか。“今は”傷つけるつもりはない。」
言葉ひとつひとつが脅迫紛いの力を帯びている。彼にその気が無くとも、一言一言の気迫で周囲を黙らせた。
次はミラだ。
「………ッ!」
静寂に轟音が一発、鳴り響く。背中の痛みが唐突にベンを襲う。
今度はベンが跪く。後ろから足音を鳴らして、誰かが近づいてきた。
「……その穢らわしい手で、ミラ様に触れるな!」
「撃ち殺したほうが良かったか?趣味の悪い集団だな。」
「いや……お前が死ねばいいだけだ。」
レジスタンスの裏切り者が後方から撃ち、ベンが振り向く隙をミラが突く。形勢逆転、2対1だ。
ベンは死を悟るも、表情だけは変えなかった。
「おっとォ~!この娘はいいのかなァ~?」
あるエンジニアの男が、レティの額に銃口を突きつけ、2人を止めた。個室群の奥から7人を引き連れて来た。3人を取り押さえて手錠をかけていく。
ベンは仕切っている男に話しかける。
「勝手に出て来んな。メンツから外しやがって……。」
「おやおや?君は【戦闘員】じゃなかったのかい?まあ最後の調整の権利は君に残しておいたから、今からリーダーと一緒に最終試験に立ち会ってもらうよォ~。
修正のときに、好きなだけ直していいぞ☆」
「おかげで死にかけた。」
「生きてんなら良かったじゃんよォ。」
「他人事のように流すな!」
部下達は裏切り者達をそれぞれ個室にぶち込む。施錠され、内側から逃げられないようにする。
ベンは1つだけ、彼に尋ねる。
「……【タイタン号】が来た。例の物について、持って来てくりゃ良いんだが。」
「何も何も。遠隔で敵アンドロイドにちょっと細工できるだけの奴だから、無くても少し手間取るだけさ。ここの敵の上官達に、ちょっかいかけるだけだし。」
「いや注文されたからには、無駄にされては困る。味方の命がかかっているんだぞ?」
「だから置いてきた。あの時、持っていったら殺された上に、技術ごと盗まれてたからな。懸けてんのは命だけじゃないしねェ~。」
「………。」
自慢気に話すドドに、ベンは不満を顕にした。無事、敵は確保して開発もほぼ完了した。2人はそのままリーダーに報告しに向かった。
_____
【キエラ】の料亭、【 好】は粉物で有名である。それは伝説の料理の一種であり、世代を越えて愛されているものであった。
サドにマークⅢが憑依して、お好み焼きを箆でひっくり返した。
…綺麗な円形、狐色に焼けた痕が香ばしく、鰹節の後にソースとマヨネーズをかけて完成。あまりの綺麗さに、サドとライラは目が点になる。
「……何か2人のと一緒ですね。」
「誰にでも作れるようにできてるのね。」
「8等分にしますよ~。」
「待って!さっきサド君がやってたアレ、あの一口サイズの奴やって!」
「えっ、…分かりました。」
サドが碁盤目状にお好み焼きを切っていく中で、ユーリが傍らから覗き込む。
「キレーにできたなぁ。料理の才能あるんじゃないか?あんさん。」
「鉄板に生地ぶっかけて、ひっくり返しただけですけどね。」
「今じゃファストミールが多いから、器具持つだけでも一苦労だってのに…」
サドとユーリが談話している間、もう一方のテーブルで、レオはゾーイと共に話を進めていた。
後輩の門出を嬉々と祝い、サイダーを片手に、【戦闘員】の何たるかについて説いていた。
「おめでとう、レオちゃん!みんなを守る【戦闘員】は即断即決と完璧な判断力が必要なの。これは仲間を守るための称号。誰のために戦うか、もう分かるよね?」
「仲間……。」
導かれるように反射的に答える。ゾーイは頷きつつ、。
「そう。巨大機体の操縦士は、搭乗者全員の命を最後まで請け負う。だからこそ、責任を背負える戦闘員だけが、巨大機体を操縦することにしているわけ。」
「……私は、【タイタン号】の操縦士になるために道中で頑張ってきた。裏切られて引き抜かれて、ロボットも武器も盗られて……道中で力を付けなきゃ駄目だ。
サドも行きたがってる。タイタン号は主力だが強化が必要だ。素材も足りない。今、持ってる技術以上の知識もいる。あいつは今後もタイタン号に必要な人材だ。」
「ふぅん。」
暖かい目で見つめた。新入りができて、ゾーイも心躍るようだ。表情から察せる。
「……でも操縦士は私がなるよ。」
「えっ?」
ゾーイは豪語した。
「何も、タイタン号のパイロットになりたいのは貴女だけじゃないの。巨大機体を動かすことは大きな責任と共に、莫大な利権が伴ってくるの。だってリーダーとサブが動かしてるのも、巨大機体なのよ。
つまりタイタン号は次期頭領候補の唯一の座席。EDSキャンプのリーダーもそうだったはずだし、先のキャンプにも候補生は勿論いるからね。
私がなったら、何が何でも本部に向かうわ。1つ遅れて仲間がやられたら、本末転倒だもの。
……まあライバルとして、これからよろしくね!」
…恐ろしいことを耳にしてしまった。レオは戦慄と絶望が入り混じったかのような表情をゾーイに返した。だが、考えまで表に出すことはしない。話すことすら恐ろしい内容だろう。
(まさか試験で扱いてきた見るからにヤバい奴らと、これからも相手することになるとは。それも多数も……無理かなぁ。やっぱり。)
人間な彼女は、ゾーイの超人技を目にした張本人だ。それも本気ですらないだろう。味わったのがたった一片に対して、絶望の大きさは計り知れない。
俯く前に、サドとライラの方に顔を向ける。ライラがユーリに向かって頼み事をしていた。
「私をタイタン号に乗せてください!」
「いいよ。」
「軽っ!?」
「地球育ちってだけで、この戦いに関わってるわけではないだろ?それにこの街は野蛮な奴らが屯している。留まる方が危険だ。次のレジスタンスキャンプまで送ろう。」
「あ、ありがとうございます!」
「……僕はやっぱり駄目なんですか?」
「命令だからな。それに君は、レジスタンスの主力だ。是非とも前線で戦ってもらいたい。」
キャンソン姉弟の送迎は頭領の命令である。偉い人間から通知されたのだから、従わないわけにはいかない。
しかし、サドもレジスタンスの重要人物だ。ここで引き下がるつもりはない。
「……タイタン号を待たずに、攻め入るつもりなんですか?」
「別にそうは言ってない。お前さんは“守るべ…」
「あ、それなら大丈夫です。」
サドは話をせき止めた。
「レオがタイタン号に乗るなら、僕もそうします。決戦兵器の強化もまだなのに、蔑ろにするわけにはいきません。
それに、“守るべき人”なら僕にもいますから。」
ユーリは戸惑う。しばらく困り果て、悩み悩んで、頭を掻き毟りつつ決断した。
「……ああもう、分かった。そう伝えておく。前線も今は停戦中で力を蓄えてるところだ。それにレジスタンスの新兵器についても、少し試行錯誤が必要だしな。怒鳴られるだろうが、何とかなるさ。」
「ありがとうございます。」
ユーリは折れた。どうやら2人はレオと一緒に行くことが決まった。
レオはタイタン号のリーダーになると決めたものの、決心が揺らいでしまった。申し訳なさと共に、俯きながら溜息を吐いた。
ゾーイの意見も急ぎたい気持ちも分かるが、タイタン号は回復がまだ済んでいない。不完全な復活である。技術力の高い前線で出しても、通用するかどうか………。レオはサイダーを一気に飲み干した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

3024年宇宙のスズキ
神谷モロ
SF
俺の名はイチロー・スズキ。
もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。
21世紀に生きていた普通の日本人。
ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。
今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。
※この作品はカクヨムでも掲載しています。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる