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Chapter_3:機械工の性

Note_84

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 【Kerキエラキャンプ】は防壁を境界とすると、海と面していることが分かる。拠点から見える透き通った海は、戦で荒んだ心さえも潤わせてくれるだろう。

 それを敵機に襲撃され、仲間を失った上、拠点施設の1つを破壊されたのだ。ユーリの心象も最悪であった。任務を一通り終えて、一段落ついて海を眺めていた。崩された建物の方向を見ていた。

 綺麗な海を見るたびに、苦しむ仲間達の姿がフラッシュバックして映る。対して敵は機械で痛みを感じない。痛みを知らないのだ。

 虚無感に打ち拉がれたところを、ゾーイが割って入る。


「任務終わった~?」


 ユーリは海の方を向いたまま、深く頷いた。ゾーイは彼の視線を手を振って確認した。ずっと海の方を眺めていた。


「どうしたの?」

「いや……

【タイタン号】から資源を運搬してもらった。明日、換金して食糧や素材を調達し、兵器の移送に役立てる。交渉を任されたが、まあなんとかするつもりだ。」

「そんな軽くない顔だった気がするけど。」

「………。」

「当ててみる?」

「大丈夫だ。」


 目を逸らした彼に、ゾーイは言葉で接してくる。


「仲間を襲ったのは、あのロボット達のせい。多くの仲間が重症を負って、倒れていくのを自分の目で見て、責任が一生かけて迫ってくる……私もそうだったもの。

仲間の命を背負うことは、一人一人の無念を背負うことと同じ。それを晴らすには、私達の敵を倒すしかない。

でも、仲間を失っただけじゃない。あなたは仲間と一緒に拠点を守りきったの。おかげで助かった仲間もいた。」


 ゾーイはユーリの手を握りしめた。


「私も一緒に闘う。あなたが失った仲間の無念と、助けた人達の絶望を晴らすために。

この悲しみを、仲間として背負うわ。」


 一戦士として、ゾーイは誓う。ユーリは真剣な表情で


「今度こそ……守れるぐらい強くなる。追いついて、お前の悲しみを晴らしてみせる。

1人に全て、背負わせるつもりはない。その為にここまで来たんだ。」


 ユーリは握ってくれた手を上げ、額を下げて誓う。立場を弁えつつ畏まって接した。

 気を取り直して、ゾーイはそのままユーリを引き連れる。


「後でレオちゃんの合格祝いに、司令部のみんなと一緒に行こうよ!サド君も連れていこ!」

「本部の人の頼みは断れないな。」


 彼の目には、夕焼けの海からゾーイの姿へと移っていた。


_____


 レオは個室でシャワーを浴びていた。実技で体を動かした後ということもあり、取り敢えず体を洗っていた。

 彼女には1つ懸念していることがある。


(……バッグ取りに行くの忘れた。素で忘れた。やっば、ライラに持たせたまま、服を洗濯に出したせいで、今着るものひとつもないな。)


 レオはすぐに連絡する。


「ライラ。バッグ持っているか?」

『えっ、ああ!うん、見張ってる!』

「悪いけど、私のを個室シャワー前に置いてほしいんだけど、今は取り込み中でそっちに行けない。」

『分かった!今すぐ持ってくね!』

「ありがとう。頼む。」


 レオは懇願した。安心してシャワーに戻る。


(自分から進んで称号を得たのは、今日が初めてだな。【エンジニア】、【パイロット】……2つともグロリアさんと一緒に取ったようなもんだし。

【エンジニア】か……ロボット嫌いな私が、よくここまで来れたな。自分の機体を手入れするのも、旅に出るまでは心配だったけど、【エンジニア】の称号に恥じない知識と技術でなんとかできたもんだ。“あの時”のグロリアさんに感謝しなきゃな……。)


 レオは思い出す。対立したグロリアとの記憶が呼び起こされた。


“よく寝られたかしら?”

「!?」


 一瞬、銃を突きつけられた気がした。嫌な方の記憶が現れたらしい。

 外から誰かの声が聞こえてくる。


「レオちゃん!バッグどこに置けば良い?」

「ドアの前!すぐ取るから置いておいて!」

「分かったわ!一応、サド君のバッグも返しておいたから、先に女性の仮眠室で待ってるね!」

「お、おう……。」


 レオはシャワーを止める。夢想から醒めた今、振り返った上で【エンジニア】としての自分を確かめる。


(……自分の手で、恩人を突き離したことには変わりない。怨まれてるだろうが、譲るわけにもいかない。自立できるほどの技術をさずけてくれたことに、本当に感謝する……忘れはしない。)


 あの幻覚は完全に消える。幻聴も聞こえない。これからは、彼女の助け無しで立ち向かわなければならない。自分で掴んできた勝利の数々を……レオは握りしめた。


_____


 【キエラ】郊外から、5人の女性が機体に乗って辿り着く。リーダーらしき屈強な女性が、道路の境で見張るロボット達を警戒していた。

 仲間の女性が話しかける。


「敵がまだ見張ってる……いつもの道が塞がれてるね。」

「隙を突くのは難しいな。アンタ、行って来れば?」

「ええ!?い、いやいやいや、絶対ムリだって!てか、アンタの方が頑丈でしょうよ!?騎士なら盾になってよ!」

「あれは口説き文句に過ぎねえって!」


 屈強な女は情けない台詞を吐く。女性達が言い争っているうちに、見張りのロボット達が戻っていく。

 リーダーはまさかと思い、端末を覗いて時間を確かめた。時計は既に19時を過ぎている。


「やべっ!そろそろ時間だ!」

「えっ、もう試合の時間!?急いで街に行かないと!」

「ここの下民共はクレイジーで嫌いなんだよ!やっぱり蛮族ってクソだな!」


 リーダーは一本のハンドルを握った。


「アタシらの機体じゃ踏み潰される。奴らがレジスタンスなら、ウルサはあの壁の先にいるはずだ!」

「でも壁が高すぎる……」

「裏口があるはずだ。街に入って徹底的に洗い出す!」





『Hey bastards! Welcome to the Kyera tournament! We greet you coming for the next battles!
(野郎共!よくぞ、Kyeraキエラトーナメントに来てくれた!俺らは次の戦いを求めて来たお前らを歓迎するぜ!)





さあ!今宵もやってまいりました!無差別級チームトーナメント!』



「やべぇ、始まりやがった!急ぐぞ!」


 5人はすぐに街へと向かった。

 砂漠の空は夜を告げる。平和な街は蛮族共によって戦火の舞台と化すのだ。それは【エンダー家】さえも避けるほどであった。


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