Plasma_Network~プラズマネットワーク(アルファポリス版)

カチコミぱいせん

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Chapter_3:機械工の性

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 夕焼けの空を背にして、姉弟は屋上の柵に寄りかかる。【Kerキエラキャンプ】にて、2人は次の指示を待っていた。2人とも糸が切れたように全身の力が抜けていく。もぬけの殻になりかけた。

 冒険に一区切りつけて、一時的に疲れているだけ。ただ今まで多くの障害を乗り越えた上での休息であり、活力が一気に持っていかれる。


「サド。」

「何?」


 レオは気を保とうと、サドに話しかける。


「私達さ、よくここまで来れたな。」

「全部レオのおかげさ。」

「それほどでも。」


 笑みを浮かべ、褒め言葉を素直に汲み取る。真正面を向いて旅を振り返った。これからの旅について模索する。


「ライラも付いてくるんだよな?あいつの目的は拉致被害者の解放だったはず。」

「そうだね。」

「なら上にライラを乗せるよう持ちかけたい。あいつは最低限、戦える実力を備えている。

それと【戦闘員】の称号を受け取って、【タイタン号】のリーダーになる。そうすれば広範囲の権限を得られる。今の機体は強化が不十分だ。最前線だとすぐに落とされる。真っ直ぐ行かずに、素材を集めながら向かうべきだ。

マークⅢの力と、あんたの技術力を必ず使うときが来る。私が上に立ったら、側近として付いてほしい。コネじゃないことぐらいは自覚しておけよ。その能力を見越しての配置だから、責任は重い。

……やれるか?」


 サドは快諾すると思われたが、含みを入れて答えてきた。


「……また、迷惑をかけることになるね。」

「今更言うかよ、素直じゃねえな。」

「ほい。次もあるから、栄養補給に。」


 サドはバッグの中から、袋詰めの一口に切ったチュロスを取り出す。甘い香りでレオの目も覚めた。


「さんきゅ。」

「………。」


 1つつまみ、揚々と口に運ぶ。対してサドは袋をそのままにして黙り込んでいた。レオは彼の肩を叩いて、おかわりを要求する。

…反応がない。


「食わないならよこせ。」

「ちょっ!」


 袋を横取りした。サドは食わずじまいになってしまった。彼の反応はいかにも不自然であった。

 レオは疑い、サドに尋問する。


「どうした?手を止めちゃって。」

「いや、少し考えてた。

僕が女性として生まれたら、レオも楽できたのかなって。」


 サドは彼の足枷となる部分について、自分の言葉でレオに伝えた。

 過去にも自身の最大の欠点が、彼の行動に影響を及ぼしたこともある。そして何より、彼の存在でレオを危険な目に遭わせた。後ろめたい気持ちで彼はいっぱいだったのだ。


「1人にさせることだって無かった。今より幸せになれたかも知れない。この時代に悩まされずに済んだのかも知れない。レオともカプリコ博士とも仲良くできたかも知れない。守りたいものだって、守れたのかも知れない。

レオに責任を負わせることなく、物語のように全て上手くいったのかも知れない。この時代でレオに無理させることも無かった……と思う。」


 サドは自分なりに考察する。叶わぬ理想は、自分自身の素質によって簡単に打ち砕かれた。


「……絶対ねーよ。」


 砕かれた理想を、レオは自ら粉々にした。サドはこちらを振り向く。


「自分が生まれる前の事なんて、どうすることもできねえだろ。それができたら私はレジスタンスなんて立場にならねえよ。この世界なら貴族みたいに金持ちになって、優雅に生きたかった。今となっちゃ、ありえないけどな。」


 愚痴を垂らしてから、サドの誤解を指摘する。


「あんたが妹だったところで、【エンダー家】の奴らは余計にあんたを欲しがる。奴らからは男嫌い以上にドス黒い気配がする。今度は私が取り残されるかもな。

レジスタンスである以上、女性だとしても“卑しい立場”として扱われる。物語そのままで許されるのは、上の貴族共だけだ。」


 自分の立場に甘えていたのは、サドも同じであった。すべてを自分の基礎のせいにして、逃げたかったのだろう。レオはそれを止めた。

 代わりに、右腕で彼の肩を抱き寄せてあげた。





「どちらにせよ、同じ様にあんたを守ってた。世界が裏切っても……私は曲げない。」





 レオは静かに囁きかけた。彼女のサドに対する想いは至って真っ直ぐであった。


「九死に一生を得たんだ。もう後戻りもできねえし、今あるもので挑むだけ。私ならそれで十分だけどな!」


 姉としての余裕を見せた。それも相まって水飛沫に打たれたかのように、気持ち良い笑顔を浮かべる。さざ波の音色を聴くたびに、衝動的に海へ連れて行きたくなる。

 思い立ったようにサドに尋ねた。


「夜さあ、海でも……ってあれ?」


 手に持っていたチュロスの小袋が見当たらない。サドが小袋を密かに奪ったようだ。


「あっ!」

「海に行くの?いいよ!これは夜に取っておくね。もう呼ばれるだろうし。」

「私が預けるから!な?くれよ!」

「食べ尽くすでしょ。」

「1つだけ!1つだけだから!」


 袋の奪い合いが始まった。サドは袋を取られないよう回避し、レオは意地でも掴まんと必死になる。戯れてる間に端末から通達が入ってきた。


_____


 ウルサは退屈にしていた。司令部のデスク付近で、手錠をかけられ片膝を立てている。彼女が不満を持つ理由は唯一つ、“監視が男である”からだ。

 彼女の動きは奴によって制限されている。許されない。今こそ反旗を翻すときだ。


「……おっさん。」

「は、はぃ!」


 若人は脅えていた。情けない奴だ。彼が上の立場に立つことなど腹立たしいことこの上ない。


「これ、外してくれない?」

「ぇえと……あの、は、外したら、僕に斬り掛かるんですよね?……嫌です!」


 悪党風情が。到底許されるべきものではない。どうやら彼は自分が悪である自覚がないようだ。名前は【カスター】らしいが、“虫ケラ”の方が相応しいだろう。

 しかし、彼は悪としても生ぬるい。そんなに危険と思うなら、牢獄に入れても良かったろうに。ウルサは理由を尋ねた。


「脅えてるなら、どうして私を牢屋に入れないの?直接殴れる距離よ?」

「い、いえいえ!とんでもない!あ……あっ、あなたは、仲間にセッ、セクハラをして、その報いってだけです!司令に私が任されたってだけです!

……多分。」


 彼には自信がない。勇気がないのだ。

 呆れたものだ。彼など下の下にも劣る悪党だろう。こんな奴に醜く怒鳴る必要などない。静かに手早く、策を実行した。

…胸元のジッパーを下げてチャックを開けたのだ。開いた先はすべて白い素肌であった。


「うぇっ!?えっ!!?」

(簡単に引っ掛かっちゃって、馬鹿みたい。まあ男はこんなものね。浅はかで惨めで汚らわしい。)


 ウルサは明らさまに馬鹿にしていた。カスターは恥じらい、彼女から目を逸らした。


「そ、そんな、素肌晒したら、ダメです!」

「何がダメなの?今時はこういうのが普通よ?それとも女の子と関わりないの?惨めね~。

手錠のせいで、これ以上見せられないけど……特別に見せてあげてもいいかな~?」


 挑発は更に過激になっていく。カスターは耐えようとした。


「ダ、ダ、ダメです!そ、そ、そ、そんな!」

「いいの~?まあ私は構わないけど。女の子も付かないまま、負け組のまま生き続ければ良いわ。」

「………。」


 カスターは半ば虚しい顔をしつつ、ウルサに視線をちらつかせていた。

 愚かにもほどがある。その姿はすぐに知られていた。


「手錠、外してからよ。」

「……ぅぅ、ぁ、ぁぁ……」


 カスターは恐怖と後悔と悲壮で、心中ぐちゃぐちゃになっていた。

…誰かが来る音が聞こえてきた。ウルサは目を逸らして口笛を吹き始める。

 やって来たのは、ゾーイであった。


「ターちゃん!進捗どぅ……ウルサ、どうして胸元開けてんの?」


 ウルサは無視した。カスターも視線を逸らす。色仕掛けは失敗に終わり、彼女が解放されることはなかった。


_____


 司令室の前にいる。レオは一度だけ深呼吸してから、ノックをして入る。


「レオだ。メッセージを受け取り次第、ここに来るよう言われた。」

「入りなさい。」


 レオは扉を開ける。キャンプのリーダーである【コルビ】が、立派な椅子に座って待っていた。しかし立ち上がり、付近のソファに案内する。


「どうぞ、こちらへ。」


 剣を脇に置いてソファに座った。コルビは早速、要件を伝える。


「レオさん、ですね。まず聞きたいことがあります。」

「何だ?」

「【ウルサ】という女性、あなたが連れてきたのですか……どうして彼女を引き入れたのでしょう。シェルターの存在は私達に危害を与えかねません。」


 コルビはウルサの存在を懸念していた。レオは堂々と答える。


「ウルサは自ら戦いたいと志願してきたんだ。彼らと出会い、副長と話してシェルターを味方に付けることができた。」

「奴を【エンダー家】に引き渡せば、7000万の臨時収入が手に入ります。味方に手をかけたなら、その代償を払ってもらう他に、使い道は無いでしょう。」

「今、彼女を売り渡せばシェルターから反感を買われてしまう。彼らは【エンダー家】の救助を待ち、そのまま忘れ去られた。有力なカードになるはずだ。戦中は戦力として、戦後は抑止力になる。切り捨てるには早いと思うが。」

「……信じましょう。ただし、今は監視役をつけて行動を制限させています。必要ならば、司令部のデスクで受け付けなさい。」


 ウルサの引き渡しを止めることができた。彼らは秘密裏に行おうとしており、レオの耳からも初めて聞いた事情であった。

 流れのままに、レオはコルビに尋ねる。


「リーダーに頼みたいことがある。」

「初対面にしては無礼ですが……いいでしょう。」

「……【戦闘員】の称号が欲しい。その為にテストを受けたいが、今日の日程はもう終わっちまったか?」


 コルビは時間を確認する。既に17時を過ぎており、陽も暮れる頃合いだ。すぐにレオに伝えた。


「……時間がありませんね。」

「!………。」


 レオは落ち込んだ。しかし、コルビの話は終わっていない。


「フッ、安心なさい。【パイロット】の称号は持っていますか?」

「……あるさ。これ。」

「直ちに返します。」


 レオは端末から証明データを見せた。詳細を見て、データベースと照合し、確認を取ってもらう。

 偽造されたデータではなく、本物であった。コルビは端末を返してくれた。


「この場の話を済ませてから、すぐにやってもらいます。【パイロット】の称号を持っているので、5問10分のペーパーテスト、そして実技の合計とします。担当者は人事部の【ゾーイ】に担ってもらいます。」

「……ここまでしてくれて、ありがとう。」


 レオは不器用かつ不躾ながら、礼を告げた。ゾーイが同一人物か別人かは問題ではない。自分に機会チャンスを与えてくれたことに、深く感謝していた。

 コルビは問う。


「【戦闘員】になりたいのですか?どうして唐突に。」


 レオは自分の流れをそのまま利用して本心を伝えた。


「【タイタン号】のリーダーになるためだ。この旅を通して、【タイタン号】のパイロットとして多くの戦闘をこなしてきた。

EDSダストサンドキャンプ】のリーダーである【コーヴァス】から操縦者の条件を聞いた。曰く、【パイロット】の他に【戦闘員】の称号が必要らしい。だからこのテストを受けたかった。」


 レオは他に話したいことがあったが、コルビが止めた。



「そっちの方は、少なくとも【タイタン号】への乗組については……諦めなさい。」



 唐突に、【タイタン号】からの除外指令を間接的に受けた。レオは諦めなかった。彼女が乗るべき理由をつけてアピールする。


「現状、【タイタン号】の強化は不十分と言える。修理には莫大な金額と素材が必要で、本部で直せる見込みもつかない。直接、本部に向かっても相手の超兵器で簡単に破壊されるだろう。

その為に、多方面の技術に長けたエンジニアである私の弟【サド・キャンソン】を探索班長兼、【タイタン号】のサブリーダーとして配置するつもりだ。【パイロット】の実力もあるし、巨大機体の移動に大きく貢献してくれた。引き続き、力になってくれるはずだ。

レジスタンスの人員不足も目立つ。少しでも人材は欲しいが、その伝手つては【エンダー家】の思想と監視が根付いたせいで難しくなっている。

【エンダー家】の拉致被害者として、パイロットの1人、ライラが全力で協力してくれる。そして【エンダー家】に見捨てられたシェルターの一員として、ウルサが協力してくれる。2人は私らの力になってくれる上に、【エンダー家】に対抗する有力な切り札になるはずだ。

……万全を期して、予定通りに本部へと辿り着くようスケジュールもサドに組ませた。私は【タイタン号】のリーダーを目指して、この戦いに絶対に勝ちたい。どうか……お願いします。」

「気持ちは分かりますが、それでもあなたがリーダーになることは無いでしょう。」


 レオの願いも届かず、コルビは優しく拒否した。必死になって、敬語口調になっていた。

 コルビは理由を伝え始める。


「レオとサド。あなた方、2人の姉弟を本部に高速船で連れ戻すよう、ボスから伝達が来たのです。

……あなたの母上からです。」

「母が……私を?」


 レオの母であるボスは、存在を認知したらしい。一度消えた愛娘の消息が発覚して、すぐに会いたがっていたらしい。

…しかし、レオの答えは辛辣であった。


「……断る。」

「なぜ?」

「会えない。少なくとも、今の私はあの人との約束を破った。合わせる顔がない。」


 レオは母に対して後ろめたいことがあった。コルビは気にすること無く話を進める。


「あなたの苦しみも、きっと他人には測れぬほど重いものでしょう。それでも我々は送らなければなりません。キャンソンの子孫を無事に届けるために……。」

「私は!」

「少しは立場を自覚なさい!あなたはキャンソンの子息。次世代のトップとして跡を継がなければなりません。」


 完全に止められた。コルビもまた強情に推し進めた。レオの流れは完全に止められたのであった。

 説得を諦めて、唇を噛み締める。レオは立ち上がった。


「……【戦闘員】のテストを受けてもらえることだけは、本当だよな?」

「ゾーイに通達を入れました。20分休憩を入れたあとに案内させます。船の移動は2日後の明朝に出立するよう、準備を。」

「……分かったよ。」


 レオは素直に振る舞った。不満はあるが、コルビの決定が全てであった。部屋から出て、左腕を見つめる。


(タイムリミットは1日と少し。認められるために、ゾーイにも説得して周りを認めさせる必要があるな。

……サドは【ユーリ】とやらか。仲良くやって親睦を今のうちに深めてもらうとするか。こっちはゾーイに専念する。まずはテストを合格する。やるしかないな。)


 レオは諦めていなかった。周囲から認めてもらうことで、意志を認めさせるつもりだ。無理やりでも、レオはやらなければならなかった。


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