Plasma_Network~プラズマネットワーク(アルファポリス版)

カチコミぱいせん

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Chapter_3:機械工の性

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 天上の星々が砂漠の狩人達を見守る。夜空の下、月のごとく輝く惑星に照らされて、砂漠の砂が星のように映る姿はまるで、満天の星空のようであった。

 【トレザー砂漠】の平地にて、300mメートル級の巨大機体【タイタン号】が片脚を伸ばして座っていた。巨大機体を隠せる場所は見当たらず、今回は姿を晒したまま休憩を挟む。

 一般に巨大機体を隠すための空間は、付近に都市が存在することが多い。地域を開拓する最中に、機械霊に襲われないようにするためである。特に都市が付近にある場合、先人が残した機械を拝借し、ジャミングを張ったり倉庫に入れたりしてやり過ごす。

 既に0時を過ぎている。ライラは自分の部屋で就寝して英気を養っていた。しかし寝付けないまま、シーツを握り締めていた。


「……せめて襲ってくるのが悪い人じゃありませんように。機械霊じゃなく、盗賊じゃなく、エンダー家でもなく……」


 まぶたを半開きにして、ただただ願うばかりであった。同時にサドの話を振り返った。


_____


「……“シェルター”の人達についてさ。」

「シェルターって、これから向かう場所のこと?」

「そうです。ライラさんには小耳に挟んでほしいのですが……」


 サドは僅かに険しい顔をしながら話した。


「彼らを助ける際に、注意するべきことがあります。その為に助けた後、それ以上深く関わることは控えてほしいです。」

「え……どうして?助けたら味方になってくれるかも知れないのに?」

「だとしてもです。」


…サドは妙に強く警告してきている。ここまで念押しに注意を払うのは珍しい。

 ライラは質問する。


「そんなに恐れる必要があるの?弱い立場の人達を守るのに……そんな躊躇ちゅうちょする必要があるの?」

「良い人達であれば幸いですが、そんな事は極めてまれです。シェルターの人達は街から離れている分、自分が生きることを優先して考えています。

最悪、僕達に危害を加えてくる可能性もあります。礼も期待しない方が良いでしょう。

簡潔に言うならば、彼らを助けるだけに留めてください。くれぐれも勧誘はやめてください。危険ですので。」


 意外であった。いつもは“助けて仲間にする”のが彼らのやり口であったのに、それを否定したサドに驚きを隠しきれなかった。

 ライラは更に深掘りして、その実情について理解しようと努める。


「そこまで言うなら……。でも例えば、その人達はどんな事してくるの?もし知ってるなら、せめてそれだけは教えてほしいの。」

「……聞くだけでも襲撃や誘拐、強盗もためらいなくやってきます。助けたところを、彼らに殺された仲間もいました。

口酸っぱく言いますが、助けた相手が僕達に手を出しても、証拠を揉み消されて無かったことにされます。説得も困難になるでしょう。

人によっては、エンダー家が外惑星の人達にやったようなことをしてくる場合もあります……」


 ライラは一瞬だけ慄然とし、息を呑みつつ正気を保たせた。ただ、背筋が凍りついたかのように僅かに身震いする。

…サドは彼らの愚行を許すはずがなかった。


「無論、見かけたら半殺しにするつもりです。仲間に手を出した落とし前は、高く払わせます。他者を揉み消せるのは……彼らだけの特権ではありませんので。」


_____


…今思えば、あの時のサドはこれから助ける人達に強く当たろうとしていた。不自然な彼の振る舞いに、ライラは胸騒ぎが止まなかった。

 サドは既に外へと出て、タイタン号周辺の巡回に向かっている。もう手遅れであった。何もできないまま、1人で行かせてしまった。

 代わりに枕を抱き締め、無事に彼が帰還することを祈る。ただひたすらに…


(……何かしてあげられたのかな……。)


…離別を惜しみながら、目を瞑った。




 同刻、レオは自分の部屋で寝ながら、ある小物を上に掲げていた。【惑星堰堤】にてサドが押収した【ブレインチップ】である。

 サドは未だ手を付けておらず、未解明のまま彼女の手に渡っている。彼に返す合間も見当たらず、レオは見つめていた。


(……確か、キエラで使うとか言ってたよな。)


 用途ですぐ思い当たるのは、かつての人造人間アンドロイドが使っていた立体映像による擬態である。そのように使おうとするが、起動することなく、特に何も変わらなかった。

 サドが来てからのお楽しみである。用を足してから解析してもらうつもりだ。腕を下ろし、無表情で目を瞑った。


(……タイタン号もそろそろ強化させないとな。)


 今の【タイタン号】は1万年前の物を取り出し、代替の素材で命を繋ぎ止めている状態にある。壁紙で隠したくなるほどの古傷を、レオは気にしていた。


_____


 空が青みがかっていき、日の光が迫ってくる。技術を持たぬ機械霊に対して、夜は狩人達の好機チャンスであり、逆に行動する敵のレベルも高度になる危機ピンチでもある。

 日常茶飯事とも言わんばかりに、星空の砂漠をぎの機械の軍勢が駆け抜けていく。次々と現れる流浪の集団は、巨大機体に近づくほどその豪胆さに心躍る。


『でっっ……』
『すごいなぁ、いかにも裕福そうな……』
『ああ……ブッ壊してぇなあ?我慢ならねぇぜ。』

「……解体して、取り分を分ける。女も食糧もな。野郎は殺しても構わねぇ。」


 褐色モヒカンの女性パイロット【タニア】が仕切る。一人が質問を呈した。


『律儀だな……無論、ボーナスはあるよな?』

「自分で取った分は自分の物。早い者勝ちだ。」


 先頭の50m級の機体1つが最初に走る。追いかけるように7機もの20m機体、そして無数の小型機体が次々と【タイタン号】に向かって加速する。

 パイロット達は、粗末な部品で繋ぎ合わせた機体を強化させるために、あの巨大機体から剥ぎ取ろうとしていた。



 彼らの動きを先読みして、サドは100mほど離れた位置で出迎えていた。50mのレジスタンス機の中で、単騎で待ち構える。


「……敵が通信を取っている。やっぱり、僕達を狙っているね。」

『盗賊ですね。報告を入れましょう。』


 サドはタイタン号に連絡を取る。


「……来ました。西北西より50m1機、20m7機、他小型機28機。手造りの機体より、盗賊かと思われます。

襲撃に備えて、準備をお願いします。その間に僕とマークⅢで抑えておきます。」


 サドは冷静に伝えた。徐々に遠くから近づいてくる。堂々と真っ向から、彼らに立ち向かおうとしていた。

 左手に【光線銃】と右手に【ビームソード】を構えて、早々と臨戦態勢に入る。今からでも敵が攻めてくる可能性がある。それを踏まえての“準備”であった。

 距離が近づくにつれて、敵もサドの機体を見つける。背後にある巨大機体の門番と言ったところか。


「お前ら、準備をしろ!すぐに戦うことになる……。」


 両手の鉄製の刃物を出す。

 しばらく近づいてから、機体をゆっくりと止める。背後の機体も疎らに止まっていく。列も揃わず不均一に散らばる。



 双方停止して、互いに様子をうかがう。一方は睨みを利かせ、もう一方は悠々と話しかける。


『お前、あのデカブツの部下か?名乗ってみろ。』

他人ひとの名前を聞きたければ、まず自分から名乗るものでしょう。』


 間髪入れずに、サドは注意する。その男の声に敵は反応を示した。


(野郎か……なら遠慮はいらねぇな。)

『よおゲス野郎。お前らにその機体は不似合いだ……裸になって惨めに投降するなら、見逃してやるよ。』

(やっぱりシェルターの人間か。通して失うものは多い。)


 タニアは挑発してきた。サドは敵の言動から、粗方の人間性を割り出す。


『大体分かったよ……断る。』

『後悔すんなよ、クズ野郎が!』


 一斉に襲いかかってきた。敵は味方の数を利用し、戦闘と襲撃の二手に分かれる。単騎で挑むサドが優先すべきは…無論、タイタン号に向かおうとする人達である。

 迫ってくる中型機をまずは1つ、光線銃を撃ち込んで転倒させる。周囲の小型機が巻き込まれ、高い悲鳴が聞こえた。


「「「ぐわあああっっっ!!!」」」


 撃った隙を狙って、もう1つの中型機が刃物を振り下ろしにかかる。刃毀れが目立つ粗末な刃が、装甲によって砕けて折れる。

 驚くにわかに、サドが忠告する。


『機械を身に纏ったからには、戦士として認めます。同じパイロットとして……無論、“命”を懸けて。』


 左腕で弾き、光剣を突き刺した。横に振り払って機体を上下にブッた斬る。

 大きさを活かした大胆な戦術は、敵をも絶望させた。


『やりやがって……オス風情が良い気になんなよ。お前ら!あのゲス野郎は絶対にやれ!』


 タニアは仲間に指示を出す。次々と敵が迫ってくるところ、サドは武器を元に戻し、背負っている大砲を前に装着させる。

 解明した設計図を元に造られた大砲、取替可能な【キャノン】であった。アクセサリーのように“第三の武器”を扱う。

…敵に狙いを定める。爆音と共に、そのまま渾身の一発をぶち込んだ。


『あいつ!お前ら……』


 既に手遅れであった。着弾と同時に、砂塵が宙を舞って、敵を小型機ごと吹き飛ばした。軽い機体が浮いている間でも、中型機が襲ってくる。

 容赦なく、何発も、何発も撃ち込む。2機ほど貫いて爆散させていく。もう3機が通り過ぎてタイタン号へと駆け抜ける。

 サドが追いかけようとした、その時であった。


『ウオルアアァァァァァァッッ!!!!!』


 50mほどの大型の敵機が、ようやく彼に襲いかかってきた。両腕から生えた長身の刃物で、サドに飛びかかってきた。

 硬い装甲を盾にして受け止め、同時に光剣で敵機にダメージを負わせる。敵は一旦距離を取った。

…互いに耐性を持っておらず、それぞれ傷痕を残した。


『お前ら!先に行け!』

『させません。』

『待てよ!』


 振り払われた鉄の剣を、光の剣で溶かす。しかしながら、根本からカッターの様に更に延びていく。まだ戦うつもりだ。


『追ったら背中を斬る……いいな!?』

『こっちの台詞!』


 光線銃を撃ち込んで、颯爽と彼らを追う。タニアはサドを追いかけようとした。

 遠方より、中型機が突如として爆風に巻き込まれる。黒煙から抜け出し、向かう先を二度見した。皆が注目していた。

…そこにいたのは、20m級汎用移動機体【クラスE-m型】…爆発の正体は、武装の1つ【スナイパーマグナム】の砲弾であった。

 サドはすぐに通信を取った。無論、彼にはその正体が分かっていた。



『……サド君、お待たせ!!!』


 タイタン号の乗員、そして仲間であるライラが駆けつけてくれた。彼女もまた守り抜くために、自ら戦場へと赴く。勇気と、信念を心に秘めて立ち向かった。


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