Plasma_Network~プラズマネットワーク(アルファポリス版)

カチコミぱいせん

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Chapter_3:機械工の性

Note_65

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 【トレザーコロニー】の一般道の途中、道中の景色は白い電灯が散見し、寂れたスラムを駆け抜ける。異様に静かな分、神秘的な風景に惹かれる。

 レオとサドは移動用機体を乗りこなす。レオが席から操縦し、サドが後ろで取っ手を掴んで立つ。目標は【タイタン号】。盗んだ機体で走り抜ける。

 裏路地から、アジトを後にした人造人間アンドロイドが機体に乗り込み、2人の後を追う。彼の本性が口から露わになる。


『絶対に消す。』


 怒りの感情をそのままに、急加速させて奴らに突っ込んでいく。

 そのまた後ろから、【アルデバラン】のギャングが武器を持って追う。


「待てやクソガキがッ!」


 エンジン音が閑静な一般道に響き渡る。サドは後方を確認して、レオに報告する。


「追手が来るよ!」

「武器とか使って倒しておけ!」

「うん!……ってうわっ!」


 車線を変えた瞬間に、突然機体が傾く。サドは驚愕して、体勢を崩してしまった。取っ手を握りしめ、滑らせた足を元に戻す。腰にあるビームソードを構えた。

 レオは妥協せず、猛スピードで駆け抜ける。巧みな操縦で障害物を回避していく。しかし、敵も同様に彼らを追いかける。速度を落とせばすぐに追いつかれる、油断ならない状況だ。

 レオは正面を向いたままサドに話す。


「サド!生きてるか!?」

「大丈夫!レオ!前!」

「分かってる!」


 レオは前方から煽る敵機を間一髪のところで回避する。追いかけてきたところに、サドが光剣を刺して敵機を破壊する。

 電気を帯び、後方へと転倒していく。それは更なる敵を排除していく。


「うわああああっ!!」


 後方は爆発を起こした。ある程度の敵を排除しただろう。

…それでもなお、敵は追ってくる。特にアンドロイドは抜群の超反応で乗り切る。サドはレオに話しかける。


「後ろまだやってくる!」


 前方からも増援が入る。一般道は白い街灯が、どんどん色味を帯びていく。鮮やかな道のりにある戦慄と爽快感が、若きレオの心を踊らせた。

 決心と、自信が彼女の本領を発揮させる。


「……上等だ。全速力で行くぞ!」


 レオは機体を急加速させる。前方にいる敵を追い上げるほどに、一本のハンドルを前に押し込む。

 ギアは最大の“6”に上げている。高速運転に用いられ、使う分には咎められないが、左右の操縦が効かなくなりやすい。


「壁でも舐めてろ!」


 敵も無論、“6”ギアで対抗してくる。追いついてくるところに、敵が機体を横に寄せてくる。衝突に合わせて、サドが光剣で斬った。

 敵機は脚部を切断され、転倒して爆散した。レオ達も壁に擦りつける。軋轢音あつれきおんに見舞われるも、意識を保って機体を中央へと戻す。

 レオは集中してハンドルを握る。サドは後方から光線銃を撃ち込むが、一部の敵が完璧に見切って近づいてくる。横に追いつかれてしまう。


「サド!捕まってろ!」


 サドは即座に両手で取っ手を掴む。レオは反対方向に機体を寄せ始める。敵機は同じ方向に詰める。


『………!』

「食らってろ!」


 レオは思い切り敵機体に衝突させた。敵機体の片腕が外れる。追い討ちをかけるように、再び機体ごとぶち込む。敵機は横にバウンドし、パイロットのアンドロイドごと撃破した。

 快感に浸り、レオは歓喜する。


「……ッシャア!」

「レオ!前!」

「ん?」


 前方から砲弾が飛んできた。着弾後、すぐに爆発を引き起こし、機体ごと吹き飛ばされた。

 レオはハンドルを握りしめ、機体を着地させる。サドは手放してしまう。


「うわっ!」

「サド!」


 下の取っ手を即座に掴んだ。猛スピードのまま、足が完全に浮いてしまっていた。両手で必死に握りしめて、浮きながらなんとか耐える。


「うわああああああああっ!!!」

「サド!」


 サドは風に吹き流されかけている。レオは正面を確認する。そこには姉弟を襲っただろう、大砲を担ぐ15m級の機体が正面で待ち構えていた。

 レオは回避するために脇道へと曲がる。


「右に行くぞ!」

「ああああっっ!!」


 サドは機体に振り回される。人ならば振り払われていただろう。脇道で体勢を戻して、サドは取っ手にしがみついた。

 彼は壮絶な状況を通して、息を切らしていた。


「はぁ、はぁ……」

「………。」


 サドが息を整えている内に、3機もの敵機が後ろから追いついてきた。レオはドリフトを活かして、幾重にも渡るコーナーを難なく突破する。

 振り回されつつも立て直して、サドは後ろに光線を撃ち込む。2機を破壊させたが、もう1機が追い上げてくる。横から拳銃を構える。


『私の前から……消え失せろ!』


 レオは即座に屈み、ハンドルを後ろに引く。発砲されるが、早い判断が功を奏した。


「ウラァッ!」


 少し下がったところで、ハンドルを横に少し倒す。敵の後方部に触れ、そのままスピンさせた。敵機はスピードを失いそのまま壁に衝突し、爆散する。

 マークⅢが案内する。


『元の一般道に戻れば、10km先に駐機場への通路があります!そこへ行きましょう!』

「サンキュ!」


 レオは曲がり角を抜けて、元の一般道に戻る。しかし、進む先はギャング達が機体に乗って封鎖していた。

 移動用機体で簡単に受け止められるような、15m級の中型機体であった。


(正面は無理だな……なら!)

「ぶ ち ま け ろ ! コロニー外の ガ ラ ク タ 共 がァッ!!!」


 敵が1機だけ、こちらに正面からぶつかりに行く。馬鹿正直に向かってくる敵は、長い金属棒をレオに向けてぶち込みにいった。



 サドが正面から光線を撃ち込み、敵機が制御を失った。

 横転する敵機を避け、その勢いのまま機体を横に飛ぶ。片腕をクッションに、ビルの壁を足場にして、敵の包囲網を横から通り過ぎていく。

 華麗に着地させて、レオ達は先を急ぐ。移動用機体と車の最大の違いは、この機動性にある。経路の選択肢が広がることが強みの1つである。

 レオ達はギャング達の包囲網を見事に突破した…かと思えた。


『レオさん!サド君!この先にまだ敵機がいます!一本道ではありますが、人もいないため、敵も本腰を入れてきます!』

「まだいるの!?」

「安心しろ。丁度、燃えてきたところだ!」


 レオは機体を高速で飛ばす。多彩な街並みから、白い街灯へと変わっていく。スラムとは違いこちらは整備され、綺麗に整列されていた。





 直進が続く。本来、来賓を迎えるために手入れを施した道である。その為に用意された景色は、道路を含めて綺麗に仕上がっている。

 自分達だけの空間を堪能していた。それも束の間、敵が後ろからすぐに追いかけてきた。


「サド!」

「懲りない人達だ!」


 サドはすぐに光線銃で対処する。見事撃ち抜き、敵を一掃する。

 煙の中から、何かが飛び出す。黒い影に身を包み、コロニーの空に紛れ込む。その存在に気づいて直ちに伝える。


「レオ!上から来る!追手の機体だ!」

「前からも来た!」


 敵は挟み撃ちを仕掛ける。道幅も狭く、衝突を覚悟して突き進む。サドはP-botに変化し、光剣を構えた。

 電気を帯びた棒を双方から叩き込むつもりだろう。



…サドは剣を横に一回転して、斬り払った。P-botの強化による広範囲の光を、前後の敵に浴びせて爆破させた。レオは爆風を突っ切り、先を急ぐ。サドの体に戻した。

 道の先にいる手先を見つけ、レオは気を引き締めた。


「まだまだ!」


 レオは急加速させると、サドは取っ手を掴んで前を向いた。どんどん敵に近づいていく。そのまま追い越そうとした。

 その時、背後から強烈な爆風が襲いかかった。機体は宙を舞い、ガードレールから道を外れていく。


「うおおおおおっっっ!!!」
「わあああああっっっ!!!」



(なんとかなれ!)

「サド!捕まってろ!」


 サドは取っ手にしがみつく。レオは機体の足にレールを噛み合わせて、一般道に復帰する。

 レオはサドに呼びかけた。


「サド!生きてるか!?」

「ここまでする……なんて……」

「生きてるか!!?」

「生きてる!」


 サドは無事のようだ。根性で立ち上がり、再び光剣を構える。

 後ろを振り向くと、最初にレオ達を襲った大砲持ちの機体が見えた。


「レオ!後ろから大砲持ちが追っている!」

「分かった!このまま飛ばす!」


 レオは速度を下げなかった。直線通路を駆け抜ける。距離さえ離せば、大砲の射程からは外れる。

 だからと言って、ギャング達もこのまま逃がすつもりはない。後方から機体を加速させて、計4機が2人を囲むように詰める。

 銃口をサドに向けて、蜂の巣にしていく。しかし、頑丈なアンドロイドの肉体を貫くことは無かった。


「無傷……チィッ、舐め腐りやがって!」
「そっちは機械だ!運転手を狙え!」
「「へい!」」


 前方の敵が速度を落として、レオ達の機体と衝突させる。一気に減速された。

 容赦無く撃ち込まれる砲弾が、レオ達に迫る。サドは光線で相殺させ、危機を乗り切る。爆風が彼らを後押ししてくれた。勢いをそのままにして、ギャングに追いつく。

 銃弾が前方から撃ち込まれる。レオはハンドルを前に倒しつつ、そのまま隠れる。前を見ることもままならない。

 レオはサドに指示する。


「サド!コパイ頼む!」

りょ了解!……50、6L8、&、5R4、open、long、widen。200。」


 レオは50m先より、6速でハンドルを左に約23度傾け、即座に5速で右に45度傾ける。長い右カーブをドリフトで駆け抜けた。

 カーブを超えて、道幅が広くなったところで、レオは顔を上げて機体を思い切り加速させる。

 機体を左右に移動させ、弾幕を潜り抜けた。敵との距離が狭まり、サドも光剣を構えた。

 背後に、大胆にカットしてきた中型機がレオ達を追う。性懲りもなく追跡を続けるようだ。


「レオ!前からロケラン!」

「はぁ?……ってうおぁ!」


 即座に車線を変え、避けきるものの追撃にもう一発撃ち込んできた。



 一瞬にして、爆煙が姉弟を飲み込む。敵は後ろを見て歓喜していた。

…黒煙の中から、1機がガードを足場に、道の中央へと飛び込む。一気に距離を縮め、レオは自分の光線銃で撃ち、敵を2人仕留める。

 敵機は後方へ横転し、中型機に衝突し、爆発に巻き込まれる。ダメージを受け、胸部に黒い痕が見られた。

 レオは敵機の間に入る。


「旅立ちの祝砲……」


 2人は光線銃を片手に、


「歓迎の代わりに……」


 それぞれの機体に撃ち込む。


「「打ち上げてろッ!!!」」


 2機同時に撃ち抜く。ハンドルの根本が溶け出し、制御が効かなくなった。そのまま機体が横転して、後ろの機体を巻き込む。





 断続的な爆発音が響き渡り、白い光が上に打ち上げられる。まるでレオ達の旅立ちを祝うように、綺麗な光で彼らを見送った。





 これ以上、敵はいない。後を追う者達も爆炎に飲まれて一掃された。駐機場に敵もいない。姉弟は一息ついていた。


「サド、生きてるか?」

「……おかげさまで。すごく上達してる。」

「ん、そうか?」

「キャンプで腕上げたんだね。」

「とにかく……帰るぞ。」

「……ありがと。」


 サドはレオの巧みな操縦を褒めた。レオは最後まで集中する。


_____


 猛スピードのまま、駐機場にたどり着く。【タイタン号】前にブレーキをかけて、機体を乗り捨てた。

 周囲にコンテナは無く、誰かによって片付けられたようだ。サドはすぐに連絡を取る。


「……ライラさん、荷物片付けたんですか?」

『早速、使ってみたけど……【オートマ】の機体って、やっぱり便利ね。軽々と運べたもの。』

「そうですか。」

『あと、ロボットの女の子もいたけど……それは司令室でいいの?』

「司令室ですね。分かりました。そのままでお願いします……では。」


 サドは通信を終え、一緒にタイタン号に乗り込む。盗み聞きしていたレオが話しかける。


「何だ?機械の少女なんか買ってよ。」

「必要経費。色々使うつもりさ。」

「色々って……」

「普通に戦闘に使えるし、デコイにも使えるし、監視用ロボとしても使えるし……」

「分かった、分かったから。早く上に行け。」



 タイタン号が動き出す。ライトを頼りに、出口…逆方向の道を進む。長く静かな一本道が、レオ達の心を癒やしてくれる。

 レオは自分自身の若い心に、別れを告げる。


(元気でな。)


 都会の色に見初められ、幼馴染と再会したこともあり、彼女の童心を燻らせてくれた。

 レオの心境は複雑ではなかった。


「このまま突っ切る。」


 目の前のシャッターは開いていた。審査官が慌てふためき、タイタン号を止めようとした。急ぎシャッター閉ざす。


『止まれ!止まれって!』


 落ちてくるシャッターを無理やりこじ開け、“今”の自分を解き放つ。


『オルァッ!!』

『馬鹿野郎オォォォォォォッッッ!!!!!』


 例の審問官に耳もくれず、レオは先へと向かう。一気に出口に行こうとした。

 1人残された審問官に通話がかかる。苛立ちながら端末を取る。


「どちら様!」

『随分と、不機嫌のようだな。』

「……っ!?」


_____


 審問官の通話相手は、ソトス本人であった。


「どうやら、今動いてるデケェ機体の人間に助けられてな。見逃してくれねぇか?」

『はぁ?あの女に?』

「その様だ。」

『誰がクソオスに従うか!どんな身分にしたって、卑劣な人間に……』

「まずは修理費に1万。」

『……えっ?///』


 唐突な金額に言葉を失ったようだ。ソトスは更に話を進める。


「そして、依頼金として3万。」

『えっ、えっ、えっ?///』

「更に迷惑料として1万……計5万で手を打とう。」

『……そ、そんな手を使っても……私は屈しないから!///でも……』

「気が向いたらでいいよ。やってくれなくとも、2万を出すよ。」

『そんな事、言ったって……』

「根回しは万全さ。だからやってくれたら言い値そのまま出す。じゃ!」

『えっと……///』


 ソトスは通話を切る。他の人に通話を掛け直す。例の男に通話をする。


「アメリアちゃんの件で話がある……【パーバ】。」

『……アルデバランのボスが、どうして俺に電話をかけるんだ?』

「先にかけてきたのはお前だろ……

……アメリアの友達ダチについて話がついた。」

『レオさんの脱出……よくアポ取れたな。』


 ソトスは余裕の表情で、イスに腰を掛ける。


「金に正直な奴なんざ、俺の敵じゃねぇ。そういう連れとは何度も相手にしてる。伊達に裏を統べてるわけじゃないんでね。」

『……ありがとう。』


 パーバから礼を言われた。しかし、ソトスはこのままでは終わらない。


「代わりに、アメリアちゃんは【アルデバラン】の一員になる。ソフィは降格させた。彼女の働きに期待している。」

『俺は反対だって……』

「ま、心配するな。彼女には【ミア】だっているんだろ?ちゃんと仕事できるはずさ。

……いつか、お前に救いが来る日も近いだろうよ……また明日。」


 ソトスは通話を切った。本部も復旧し、副長のクーデターも片付き、アメリア達への謝礼や根回しも完全に尽くした。

…しかし、一度自分の命が狙われた以上、他の部下からも刺客がやってくるだろう。副長という立場から、ソフィのネットワークも広い。


(さてと……これからが大変だ。それが片付くまでは、世代交代はお預けか。あのにはまだ荷が重過ぎる。他人のツケを払うべきじゃない。

……折角、外で隠居できると思ったけどなあ!)


 渋い顔をして、自分の運命を悔やんだ。コーヒーを手に取ろうとした時に、自分の拳銃が手に触れてしまう。

 自然と手に持ち、銃を構えて、自分の過去を思い出す。煌めく時代を懐かしむ。


「俺も衰えたもんだな。ここで終わるわけにはいかねぇってのに。」


 ソトスは全盛期の自分になりきれなかった。実力の劣化を気にせずにはいかない。

 あの時を思い出すたびに、今日出会った4人の者達も同時に喚び起こす。彼らが自分を守ってくれたようなものだ。

 若い自分の写真をひと目見て、机に伏せておいた。


「……少年少女よ……未来は良いぞ。過去をより楽しめる、エッセンスだからな。

……大いに暴れるがいい。昔の俺のようにな。」


 ソトスもまた余韻にひたり、新たな仕事を始めようとしていた。


_____


 タイタン号はコロニーの出口に向かって走っている。一直線に出ていこうとした。

 コクピット内ではレオが操縦している。そして、内線に繋げる。


「なあ、1つ聞いていいか?」

『レオ……まさか……』


 そのまさかである。


「出口どこだ?」

『やっぱり、後先考えてなかった!』

「そこまで言うことじゃねぇだろ!?」

『ねえ!どうするの!?』

『ナノマシンの回復力に任せて、ビームを撃つのは?』

「知らねえからな!」


 レオは言動とは裏腹にノリノリだった。そのまま片手を前に出そうとした。

 次の瞬間に扉が開いてしまう。拍子抜けではあるが、有無を言わずにレオはまっすぐ突き進む。

…もうしばらく、過去は振り返らなくても十分だ。目の前にある未来に向かって、駆け抜けていく。

 まばゆい光に襲われる。





 いつもの砂漠へと戻る。コロニーの前後が分からず、レオは更新されたマップを確認する。


「サド、こっちの方向で合ってるか?」

『バッチリ!以前通った場所とは逆から出たね。』


 レオは引き続き、タイタン号を乗りこなす。彼女は振り返らない。ひたすら前を目指す。

 やり切った気持ちをそのままに、この青い空の世界に彼らは挑む。やり残したことを成し遂げるため、守りたいものを守るために、彼らは舞い戻った。


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