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Chapter_3:機械工の性

Note_62

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 【トレザーコロニー】のギャング集団、【アルデバラン】の本部前まで、レオとアメリアはパーバの機体で送ってもらった。

 パーバの話によると、塔の地下にて取引は行われているようだ。それより上は、スラムのインフラ管理と作業上である。そちらには特別に用事はないが、緊急時はこちらへ向かう。

 2人の少女が降りる前に、若い男が最終確認を行う。


「武器を買ったら、すぐアジトに帰ること。もし逃走が困難なら、上の階に行って移動用機体を拝借しておけ。

俺らは【アルデバラン】とはグレーな関係にある。通させてはくれるが、野暮な事はするな。危険な状況になったら、すぐ連絡してくれ。」

「アジトに戻るのか?」

「いや、表立つわけにはいかない。警報が鳴り次第、レオさんには直接、巨大機体に帰ってもらう。アジトに戻るのは、アメリアだけだ。

俺ができるのは……アメリアの帰りの迎えだけ。表立つあんたを庇えば、アメリアだって危険になりうる。裏じゃ、レオさんの姿だけは割れている。」

「兄ちゃん、どうにかできないの?」

「無防備なアメリアには早く帰らせる。武器を見る限り、レオさんは相当の手練だ。

無事に終えたら、レオさんも直接機体に送っていく。話すことがまだあるなら、今のうちにやっておけ……じゃ。」

「助かる。パッパ。」

「【パーバ】だ。二度と間違えるな、俺はお前のパパじゃない。」

(別に言ってねぇだろ、大げさな。)


 2人は機体から降りて、パーバを見送る。レオは塔の方向へ足を運ぶ。アメリアも彼女についていく。

 周囲を見れば、やさぐれ者達が座り込んで喋り合っていた。一部の者が睨みを利かせて、“圧”をかけてくる。特に、レオに対して強く当たる者が性差問わず見受けられた。

 扉はなく道があるだけで、エレベーターも見当たらない。中には、1人だけ男が電子タバコを吸っている者がいた。レオはすぐ武器を出せるよう身構える。


「ちょっと、レオちゃん!物騒な事するつもりなの!?」

「つい、身構えちまうな……。あの事があってから、反射的に動いちまう。」

「……ただのタバコだ、チンピラ共。」

「「!」」


 2人は男の方に顔を向けた。


「見ねぇ顔だ。何の用でここに来た。」


 レオはカードを男に見せる。


「外から来た、パーバの仲間だ。ここで武装の取引が行われていると聞いた。」

「確認する。」


 男はカードの裏面を見てから、背後の壁から読み取り機を出して挿し込む。暗号を入力し、扉を開けていく。

 男はカードをレオに返した。


「取引はこっちでやってる。送り先は【来訪用駐機場】でいいんだな?」

「話が早くて助かる。場所は“A-01”だ……間違えんなよ。」

「……プロを舐めんな。来い。」


 レオは男の後を追う。仕事人の様に淡々と進められた。そんな彼女に、アメリアは一瞬だけ思考を止めた。



 階段を降りると、そこには広大な製造所が一望できていた。銃、刃物、鈍器、無人機、ミサイル、あらゆる巨大武器の工場となっていた。

 同時に、ここでも機体の製造が行われていた。レオは男に尋ねる。


「すぐに買える武器はあるか?今日中にここを出なきゃならねぇ。」

「【光大剣】5万、【テトラシールド】10万、【マシンガン】5000、【エレキネット】3万だ。

それと、【スナイパーマグナム】7万5千……ラス1だ。」

「【マシンガン】を2つ。【テトラシールド】を1つ。それと……最後の奴をくれ。」


 ライラの為に、遠距離で使えるものや防御できるものを買っていく。資金を惜しまない。


「8万5000……確かにいただいた。もう着いている。」

「早過ぎんだろ……。」

「場所さえ分かれば、すぐにたどり着ける。プロを舐めんな。」

「あっそ。行くぞ。」

「うん。」


 レオは用を済ませ、アメリアと一緒に上に戻ろうとした。その時、扉から背の高い女性が入ってきた。


「【ソフィ】さん!その傷は……」

「あらあら。例のロボ娘の事、どこに行かせたのかしら?」


 アメリアの知人らしい。レオは名前を尋ねる。


「お前誰だよ?」

「こらこら……この方は【ソフィ】さん、【アルデバラン】の副長よ。私と【ミア】のスポンサーさん。

この子はレオ、私の幼馴染です。」

「……左腕の銃を手放せ。」


 レオは一瞬で見据えていた。合体剣を起動させ、無人機を周囲に浮かせる。

 ソフィが袖に隠している左腕。それを怪しんで発動させた。彼女は反論する。


「レオさん、だっけ?手荒い真似は慎むようにお願いするわ。ここは製造所、機材にでも引火すれば爆発するわよ。」

「いいから手放せって言ってんだ。」

「レオちゃん……?」


 レオは強く言う。アメリアは突然の反応に、少し凍りついていた。それは彼女がソフィの宿題をこなし、信頼を得ていたことが起因となっている。

 アメリアは前に立ち、ソフィと話す。


「ソフィさん!申し訳ありません!すぐにここから出ま……」


 ソフィが左手側の銃で撃ってきた。レオは【デルタシールド】を張り、アメリアを守った。

 ソフィの狙いは、無礼なレオではなくアメリアであった。


「もう疑いようがねぇだろ。お前がミアのスポンサーだって?

……ミアは、何の目的でどこに行った?」


 ソフィは余裕の表情で、レオを嘲笑する。


「ふふ、それはミアのみぞ知ること。私には関係ないことよ。そもそも、アメリアに聞けば早いのに……」

「ミアとは音信不通なんです!出て行ったきり、通信が取れない状況なんです!ソフィさん!どこかで見かけなかったのですか!?」

「お黙り!」


 一喝して2人を黙らせた。


「ミアと連絡が取れないということは、あなたは失態を犯したということ。金を収められない無能な人に、手助けする気は無いの。

あなたも【アルデバラン】を目指された人なら、その帳尻合わせも知ってるはずね。」


 ソフィが情報をレオ達に提示する。アジトに武装した集団が押しかけていた。アメリアの家でもあった。

…同様の集団が4人、ソフィの後ろからやってくる。一切無駄なく銃を構える。人がやるには不自然なくらい完璧な動きであった。

 レオは確信した。


「私らを襲ったのも……“お前”か。その人造人間アンドロイドも見覚えがある。」

「レオさんにも、来てもらうつもりよ。私の顔を傷つけた礼をたっぷりと、させてあげるから。」


 唐突に罪を擦り付けられた。以前、囲んでいたロボの集団もレオを付け狙っていた。


「私はやってない!」

「問答無用!“上”で待っているわ。2人を私の部屋でしつけてあげる。

せいぜい、醜く足掻いてみせなさい。」


 ソフィは上へと歩いていく。増援のロボが、レオとアメリアに近づいてきた。手錠をかけようとしていた。

…後ろで聞いていた男が、ロボの背後を取って特殊警棒で1体を鎮圧する。2体に腕を固められ、身動きが取れなくなった。


「どうして……あんたも一味じゃねぇのか!?」


 男は押さえつけられながら笑みを浮かべる。


「……俺も副長の思し召しで、エンジニアに就いた人間だ。間違いなくクビだろう。役人に捕まっちまう。

だが【アルデバラン】は、一度差し伸べた人間を金の問題で見捨てるほど、不寛容な場所じゃなかった!

アメリアとやら然り、裏切り者である理由を話さず、断定しやがった。どちらにせよ同じように捨てられる……ならこっちから捨ててやるぜ!」

「そんな……」


 アメリアが手で口を隠す最中に、背後からロボが襲う。

 レオが剣で倒した。そして男に問う。


「後悔は、しねぇよな?」

「……副長は上の階のどこか。番号は“8025919”だ。さっさと行け!」


 レオは頷いた。アメリアに顔を向けて、声をかけた。


「行くぞ。パーバアに連絡を取れ!」

「……うん!……ん?……うん。」


 2人は上へと向かう。アメリアはパーバに連絡を取った。腕時計型の端末で、画面が映し出され、彼の正面の姿が見られる。

 すぐに事情を伝える。


『……アメリアか?』

「兄ちゃん!大変なの、ソフィさんから逃げなきゃ!」

『……アジトは奴らが押し込んでる。このコロニーから出ても、役人に捕まる。身動きできず、雇われ人にやられかねない。』

「じゃあどうすれば……」


 パーバは間を空けて…アメリアに告ぐ。


『……アメリア。近くで乗せたら、それ以降は俺が必ず守ってやる。元々、俺がお前を巻き込んでしまったからな。

俺の事は構わない、アメリアには生きていてくれれば……』

「兄ちゃんと離れたくなんかない!私……私……」


 アメリアは兄と離れたくなかった。過去のような孤独に、守れない罪悪感が重なってくる。それが恐ろしかったのだ。


「……!?レオちゃん!?」

「代わるぞ。」

『レオさんか?』


 レオはアメリアの腕を自分の方に寄せて、話に割り込んできた。


「あんたも狙われてる身で、見つかり次第、すぐに始末されるんだろ?私に案がある。少しアメリアを貸してくれ。」

『……言ってみろ。』

「今は本部だ。あんたらが追われてんのは、副長……結局はトップじゃねぇ。もう1つ上がある。

真の長に汲んでもらって、あんたら兄妹が擦り付けられた罪を、全部ソフィに返してやる。

兄妹、どちらが消されたところで、2人とも同じように苦しむだけだ。」

『知ったような口を言うものだな。』

「あぁ……“知ってる”からな。」

『……任せた。』


 パーバとの通話が切れた。副長の部屋は上。濡れ衣を晴らすため、アメリアを連れて上へと目指した。


_____


 公共交通、3両編成モノレール乗り場にて、サドはライラの見送りをする。ライラには大きな心配事があった。


「街が物騒で嫌だとは言ったけど、こっちの列車も相当な物だと思うよ!?外の傷は絶対に誰かが武器で傷つけたものでしょ!?」

「一緒にスラムに戻りますか?」

「助けたい……でも怖い。」


 すっかり怖気づいていた。サドはライラに話しかける。


「レオの事は任せてください。代わりに、ライラさんには【タイタン号】を任せます。

もしもの時は、買った機体に乗って守るか、タイタン号に先に乗っててください。端末を起動して、触れるだけで開けられるようにしてありますので。」


 サドから言うべきことは、すべて言った。静かに自分の光線銃を手渡して、ライラの身を硬めていく。


「……お気をつけて。」


 目で伝え、口で伝えて手渡し一つに重みを付けていく。

 無事であってほしいのは、お互い様だ。ライラも列車に乗り、サドに一言だけ交わす。


「生きて戻ってきて!」


 サドは頷いた。ライラは言い残し、列車の中へと入っていく。

 ドアが閉じ、列車が発進する。遠くへと向かう列車を見送った。

 サドは、心の中にいる1人を呼びかける。


(マークⅢ、レオは必ず助ける……いける?)

『………。』

(僕だけでもやるから。)


 マークⅢは答えなかった。サドは急ぎ、外へと向かう。


_____


 レオは上の階へと向かう。更に登るには、例のカードと男の言っていた暗号を入力する。扉が開き、上へと登る。エレベーターなどという近道など無い。

 そして、一方通行だ。次の階層にて何体もの機械兵が既に銃を構え、臨戦態勢に入っている。副長の後を追うものを始末せんと待ちわびていた。

 レオは先陣切って、雑兵に告ぐ。


「ボスに会わせろ。ギャングを舐め腐ったババアに、罪を返しに来た。

……そこ通せよ。」

『………。』


 舐め腐った機械は、もの応じず無言を貫き通す。だが通させるつもりもない。無論、それをレオが許すつもりは無かった。


「……話す口も、聞く耳も、通す気も無いか。話は終わりだな。なら……ぶっ壊されても、後悔すんなよ。」


 一斉に発砲してくる。【デルタシールド】を張ってアメリアを庇いながら戦う。

 レオは敵が意志を持たぬ機械と知って、剣撃を打ち込んでいく。加工された金属の鎧が、大きくへこんでいった。

 背後の敵に光線銃を撃ち込む…が、耐性を持っていた。間一髪のところを避け、腹に剣先を突き刺す。貫通して、機械は動作を停止した。

 包囲網を突破する。レオはアメリアを連れて上へと向かった。



 鉄板の上を走る。目の前にいたのは、副長の【ソフィ】であった。増援を配備して、笑顔で出迎えてくれた。


「ここまで来るなんて、少し余裕だったかしら?でも、途中をすっ飛ばしてきたわよね?」


 残りの敵が追いかけてきた。後ろからも囲んでくる。


「この数をどう処理するか……まあ無謀ね。話にならないわ。」


 ソフィが呆れた瞬間に、レオは背後の敵を薙ぎ払う。そして、1体を盾にしながら次の敵に近づく。距離を計り、狙って、致命的な一撃を打ち込んだ。

 レオは1体を投げ捨てて、他の敵を同時に破壊していく。既に気づいていた。


「全部、お前の人形だろ。私より賢いつもりで上にいるつもりだろうが、一気に操れるほどの天才でもねぇだろ。

……当ててみろよ。次にどいつを解体バラすか、エンジニアなら機械を守ってみせる度胸はあるよな?」

「所詮は機械なのに……あなたも馬鹿ね。」

「キャァッ!」


 悲鳴の元をたどる。ソフィはアメリアの腕をロボに引っ張らせ、連れて行こうとしていた。

 レオはすぐに後ろから剣を叩き、アメリアを救い出す。

 ソフィは通信を取っていた。


『……随分と騒がしいな。誰か来たのか?』

「例の“レオ”と言う者です。」

『客人だろう、私が出る。』

「いえ、ここは私に一任ください。ええ、ご安心を。」

『そうか、なら任せよう。』


 ソフィはこの場を後にする。別の場所へと向かった。


「ソフィ!!」


 レオが後を追いかける。しかし敵兵に止められ、次々と破壊する。何体も出てくる。


「キリがねぇな。1体1体は先に進んで……」

「レオ!」


 サドが全力でレオの脇を通って、敵に飛び蹴りを見舞う。倒れた敵を投げて、もう1人を倒す。格闘だけで、敵を破壊してみせた。

 彼が睨みを利かせ、威圧で圧倒していく。


「………。」


 敵は彼を見るやいなや、逃げ出していった。レオは呆気に取られていた。


「サド、お前……」

「今、他の奴らに狙われている。」

「……なら早くかたす。」


 戸惑う暇などない。レオ達は鉄板の上を駆け抜ける。


(ミアも……まさか……)


 アメリアは先にある予測を心配する。レオの後ろを走って追う。副長である【ソフィ】なら知っているはずだ。

 真相を追って、レオ達は先を急いだ。


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