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Chapter_3:機械工の性
Note_62
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【トレザーコロニー】のギャング集団、【アルデバラン】の本部前まで、レオとアメリアはパーバの機体で送ってもらった。
パーバの話によると、塔の地下にて取引は行われているようだ。それより上は、スラムのインフラ管理と作業上である。そちらには特別に用事はないが、緊急時はこちらへ向かう。
2人の少女が降りる前に、若い男が最終確認を行う。
「武器を買ったら、すぐアジトに帰ること。もし逃走が困難なら、上の階に行って移動用機体を拝借しておけ。
俺らは【アルデバラン】とはグレーな関係にある。通させてはくれるが、野暮な事はするな。危険な状況になったら、すぐ連絡してくれ。」
「アジトに戻るのか?」
「いや、表立つわけにはいかない。警報が鳴り次第、レオさんには直接、巨大機体に帰ってもらう。アジトに戻るのは、アメリアだけだ。
俺ができるのは……アメリアの帰りの迎えだけ。表立つあんたを庇えば、アメリアだって危険になりうる。裏じゃ、レオさんの姿だけは割れている。」
「兄ちゃん、どうにかできないの?」
「無防備なアメリアには早く帰らせる。武器を見る限り、レオさんは相当の手練だ。
無事に終えたら、レオさんも直接機体に送っていく。話すことがまだあるなら、今のうちにやっておけ……じゃ。」
「助かる。パッパ。」
「【パーバ】だ。二度と間違えるな、俺はお前のパパじゃない。」
(別に言ってねぇだろ、大げさな。)
2人は機体から降りて、パーバを見送る。レオは塔の方向へ足を運ぶ。アメリアも彼女についていく。
周囲を見れば、やさぐれ者達が座り込んで喋り合っていた。一部の者が睨みを利かせて、“圧”をかけてくる。特に、レオに対して強く当たる者が性差問わず見受けられた。
扉はなく道があるだけで、エレベーターも見当たらない。中には、1人だけ男が電子タバコを吸っている者がいた。レオはすぐ武器を出せるよう身構える。
「ちょっと、レオちゃん!物騒な事するつもりなの!?」
「つい、身構えちまうな……。あの事があってから、反射的に動いちまう。」
「……ただのタバコだ、チンピラ共。」
「「!」」
2人は男の方に顔を向けた。
「見ねぇ顔だ。何の用でここに来た。」
レオはカードを男に見せる。
「外から来た、パーバの仲間だ。ここで武装の取引が行われていると聞いた。」
「確認する。」
男はカードの裏面を見てから、背後の壁から読み取り機を出して挿し込む。暗号を入力し、扉を開けていく。
男はカードをレオに返した。
「取引はこっちでやってる。送り先は【来訪用駐機場】でいいんだな?」
「話が早くて助かる。場所は“A-01”だ……間違えんなよ。」
「……プロを舐めんな。来い。」
レオは男の後を追う。仕事人の様に淡々と進められた。そんな彼女に、アメリアは一瞬だけ思考を止めた。
階段を降りると、そこには広大な製造所が一望できていた。銃、刃物、鈍器、無人機、ミサイル、あらゆる巨大武器の工場となっていた。
同時に、ここでも機体の製造が行われていた。レオは男に尋ねる。
「すぐに買える武器はあるか?今日中にここを出なきゃならねぇ。」
「【光大剣】5万、【テトラシールド】10万、【マシンガン】5000、【エレキネット】3万だ。
それと、【スナイパーマグナム】7万5千……ラス1だ。」
「【マシンガン】を2つ。【テトラシールド】を1つ。それと……最後の奴をくれ。」
ライラの為に、遠距離で使えるものや防御できるものを買っていく。資金を惜しまない。
「8万5000……確かにいただいた。もう着いている。」
「早過ぎんだろ……。」
「場所さえ分かれば、すぐにたどり着ける。プロを舐めんな。」
「あっそ。行くぞ。」
「うん。」
レオは用を済ませ、アメリアと一緒に上に戻ろうとした。その時、扉から背の高い女性が入ってきた。
「【ソフィ】さん!その傷は……」
「あらあら。例のロボ娘の事、どこに行かせたのかしら?」
アメリアの知人らしい。レオは名前を尋ねる。
「お前誰だよ?」
「こらこら……この方は【ソフィ】さん、【アルデバラン】の副長よ。私と【ミア】のスポンサーさん。
この子はレオ、私の幼馴染です。」
「……左腕の銃を手放せ。」
レオは一瞬で見据えていた。合体剣を起動させ、無人機を周囲に浮かせる。
ソフィが袖に隠している左腕。それを怪しんで発動させた。彼女は反論する。
「レオさん、だっけ?手荒い真似は慎むようにお願いするわ。ここは製造所、機材にでも引火すれば爆発するわよ。」
「いいから手放せって言ってんだ。」
「レオちゃん……?」
レオは強く言う。アメリアは突然の反応に、少し凍りついていた。それは彼女がソフィの宿題をこなし、信頼を得ていたことが起因となっている。
アメリアは前に立ち、ソフィと話す。
「ソフィさん!申し訳ありません!すぐにここから出ま……」
ソフィが左手側の銃で撃ってきた。レオは【デルタシールド】を張り、アメリアを守った。
ソフィの狙いは、無礼なレオではなくアメリアであった。
「もう疑いようがねぇだろ。お前がミアのスポンサーだって?
……ミアは、何の目的でどこに行った?」
ソフィは余裕の表情で、レオを嘲笑する。
「ふふ、それはミアのみぞ知ること。私には関係ないことよ。そもそも、アメリアに聞けば早いのに……」
「ミアとは音信不通なんです!出て行ったきり、通信が取れない状況なんです!ソフィさん!どこかで見かけなかったのですか!?」
「お黙り!」
一喝して2人を黙らせた。
「ミアと連絡が取れないということは、あなたは失態を犯したということ。金を収められない無能な人に、手助けする気は無いの。
あなたも【アルデバラン】を目指された人なら、その帳尻合わせも知ってるはずね。」
ソフィが情報をレオ達に提示する。アジトに武装した集団が押しかけていた。アメリアの家でもあった。
…同様の集団が4人、ソフィの後ろからやってくる。一切無駄なく銃を構える。人がやるには不自然なくらい完璧な動きであった。
レオは確信した。
「私らを襲ったのも……“お前”か。その人造人間も見覚えがある。」
「レオさんにも、来てもらうつもりよ。私の顔を傷つけた礼をたっぷりと、させてあげるから。」
唐突に罪を擦り付けられた。以前、囲んでいたロボの集団もレオを付け狙っていた。
「私はやってない!」
「問答無用!“上”で待っているわ。2人を私の部屋でしつけてあげる。
せいぜい、醜く足掻いてみせなさい。」
ソフィは上へと歩いていく。増援のロボが、レオとアメリアに近づいてきた。手錠をかけようとしていた。
…後ろで聞いていた男が、ロボの背後を取って特殊警棒で1体を鎮圧する。2体に腕を固められ、身動きが取れなくなった。
「どうして……あんたも一味じゃねぇのか!?」
男は押さえつけられながら笑みを浮かべる。
「……俺も副長の思し召しで、エンジニアに就いた人間だ。間違いなくクビだろう。役人に捕まっちまう。
だが【アルデバラン】は、一度差し伸べた人間を金の問題で見捨てるほど、不寛容な場所じゃなかった!
アメリアとやら然り、裏切り者である理由を話さず、断定しやがった。どちらにせよ同じように捨てられる……ならこっちから捨ててやるぜ!」
「そんな……」
アメリアが手で口を隠す最中に、背後からロボが襲う。
レオが剣で倒した。そして男に問う。
「後悔は、しねぇよな?」
「……副長は上の階のどこか。番号は“8025919”だ。さっさと行け!」
レオは頷いた。アメリアに顔を向けて、声をかけた。
「行くぞ。パーバアに連絡を取れ!」
「……うん!……ん?……うん。」
2人は上へと向かう。アメリアはパーバに連絡を取った。腕時計型の端末で、画面が映し出され、彼の正面の姿が見られる。
すぐに事情を伝える。
『……アメリアか?』
「兄ちゃん!大変なの、ソフィさんから逃げなきゃ!」
『……アジトは奴らが押し込んでる。このコロニーから出ても、役人に捕まる。身動きできず、雇われ人にやられかねない。』
「じゃあどうすれば……」
パーバは間を空けて…アメリアに告ぐ。
『……アメリア。近くで乗せたら、それ以降は俺が必ず守ってやる。元々、俺がお前を巻き込んでしまったからな。
俺の事は構わない、アメリアには生きていてくれれば……』
「兄ちゃんと離れたくなんかない!私……私……」
アメリアは兄と離れたくなかった。過去のような孤独に、守れない罪悪感が重なってくる。それが恐ろしかったのだ。
「……!?レオちゃん!?」
「代わるぞ。」
『レオさんか?』
レオはアメリアの腕を自分の方に寄せて、話に割り込んできた。
「あんたも狙われてる身で、見つかり次第、すぐに始末されるんだろ?私に案がある。少しアメリアを貸してくれ。」
『……言ってみろ。』
「今は本部だ。あんたらが追われてんのは、副長……結局はトップじゃねぇ。もう1つ上がある。
真の長に汲んでもらって、あんたら兄妹が擦り付けられた罪を、全部ソフィに返してやる。
兄妹、どちらが消されたところで、2人とも同じように苦しむだけだ。」
『知ったような口を言うものだな。』
「あぁ……“知ってる”からな。」
『……任せた。』
パーバとの通話が切れた。副長の部屋は上。濡れ衣を晴らすため、アメリアを連れて上へと目指した。
_____
公共交通、3両編成モノレール乗り場にて、サドはライラの見送りをする。ライラには大きな心配事があった。
「街が物騒で嫌だとは言ったけど、こっちの列車も相当な物だと思うよ!?外の傷は絶対に誰かが武器で傷つけたものでしょ!?」
「一緒にスラムに戻りますか?」
「助けたい……でも怖い。」
すっかり怖気づいていた。サドはライラに話しかける。
「レオの事は任せてください。代わりに、ライラさんには【タイタン号】を任せます。
もしもの時は、買った機体に乗って守るか、タイタン号に先に乗っててください。端末を起動して、触れるだけで開けられるようにしてありますので。」
サドから言うべきことは、すべて言った。静かに自分の光線銃を手渡して、ライラの身を硬めていく。
「……お気をつけて。」
目で伝え、口で伝えて手渡し一つに重みを付けていく。
無事であってほしいのは、お互い様だ。ライラも列車に乗り、サドに一言だけ交わす。
「生きて戻ってきて!」
サドは頷いた。ライラは言い残し、列車の中へと入っていく。
ドアが閉じ、列車が発進する。遠くへと向かう列車を見送った。
サドは、心の中にいる1人を呼びかける。
(マークⅢ、レオは必ず助ける……いける?)
『………。』
(僕だけでもやるから。)
マークⅢは答えなかった。サドは急ぎ、外へと向かう。
_____
レオは上の階へと向かう。更に登るには、例のカードと男の言っていた暗号を入力する。扉が開き、上へと登る。エレベーターなどという近道など無い。
そして、一方通行だ。次の階層にて何体もの機械兵が既に銃を構え、臨戦態勢に入っている。副長の後を追うものを始末せんと待ちわびていた。
レオは先陣切って、雑兵に告ぐ。
「ボスに会わせろ。ギャングを舐め腐ったババアに、罪を返しに来た。
……そこ通せよ。」
『………。』
舐め腐った機械は、もの応じず無言を貫き通す。だが通させるつもりもない。無論、それをレオが許すつもりは無かった。
「……話す口も、聞く耳も、通す気も無いか。話は終わりだな。なら……ぶっ壊されても、後悔すんなよ。」
一斉に発砲してくる。【デルタシールド】を張ってアメリアを庇いながら戦う。
レオは敵が意志を持たぬ機械と知って、剣撃を打ち込んでいく。加工された金属の鎧が、大きくへこんでいった。
背後の敵に光線銃を撃ち込む…が、耐性を持っていた。間一髪のところを避け、腹に剣先を突き刺す。貫通して、機械は動作を停止した。
包囲網を突破する。レオはアメリアを連れて上へと向かった。
鉄板の上を走る。目の前にいたのは、副長の【ソフィ】であった。増援を配備して、笑顔で出迎えてくれた。
「ここまで来るなんて、少し余裕だったかしら?でも、途中をすっ飛ばしてきたわよね?」
残りの敵が追いかけてきた。後ろからも囲んでくる。
「この数をどう処理するか……まあ無謀ね。話にならないわ。」
ソフィが呆れた瞬間に、レオは背後の敵を薙ぎ払う。そして、1体を盾にしながら次の敵に近づく。距離を計り、狙って、致命的な一撃を打ち込んだ。
レオは1体を投げ捨てて、他の敵を同時に破壊していく。既に気づいていた。
「全部、お前の人形だろ。私より賢いつもりで上にいるつもりだろうが、一気に操れるほどの天才でもねぇだろ。
……当ててみろよ。次にどいつを解体すか、エンジニアなら機械を守ってみせる度胸はあるよな?」
「所詮は機械なのに……あなたも馬鹿ね。」
「キャァッ!」
悲鳴の元をたどる。ソフィはアメリアの腕をロボに引っ張らせ、連れて行こうとしていた。
レオはすぐに後ろから剣を叩き、アメリアを救い出す。
ソフィは通信を取っていた。
『……随分と騒がしいな。誰か来たのか?』
「例の“レオ”と言う者です。」
『客人だろう、私が出る。』
「いえ、ここは私に一任ください。ええ、ご安心を。」
『そうか、なら任せよう。』
ソフィはこの場を後にする。別の場所へと向かった。
「ソフィ!!」
レオが後を追いかける。しかし敵兵に止められ、次々と破壊する。何体も出てくる。
「キリがねぇな。1体1体は先に進んで……」
「レオ!」
サドが全力でレオの脇を通って、敵に飛び蹴りを見舞う。倒れた敵を投げて、もう1人を倒す。格闘だけで、敵を破壊してみせた。
彼が睨みを利かせ、威圧で圧倒していく。
「………。」
敵は彼を見るやいなや、逃げ出していった。レオは呆気に取られていた。
「サド、お前……」
「今、他の奴らに狙われている。」
「……なら早くかたす。」
戸惑う暇などない。レオ達は鉄板の上を駆け抜ける。
(ミアも……まさか……)
アメリアは先にある予測を心配する。レオの後ろを走って追う。副長である【ソフィ】なら知っているはずだ。
真相を追って、レオ達は先を急いだ。
パーバの話によると、塔の地下にて取引は行われているようだ。それより上は、スラムのインフラ管理と作業上である。そちらには特別に用事はないが、緊急時はこちらへ向かう。
2人の少女が降りる前に、若い男が最終確認を行う。
「武器を買ったら、すぐアジトに帰ること。もし逃走が困難なら、上の階に行って移動用機体を拝借しておけ。
俺らは【アルデバラン】とはグレーな関係にある。通させてはくれるが、野暮な事はするな。危険な状況になったら、すぐ連絡してくれ。」
「アジトに戻るのか?」
「いや、表立つわけにはいかない。警報が鳴り次第、レオさんには直接、巨大機体に帰ってもらう。アジトに戻るのは、アメリアだけだ。
俺ができるのは……アメリアの帰りの迎えだけ。表立つあんたを庇えば、アメリアだって危険になりうる。裏じゃ、レオさんの姿だけは割れている。」
「兄ちゃん、どうにかできないの?」
「無防備なアメリアには早く帰らせる。武器を見る限り、レオさんは相当の手練だ。
無事に終えたら、レオさんも直接機体に送っていく。話すことがまだあるなら、今のうちにやっておけ……じゃ。」
「助かる。パッパ。」
「【パーバ】だ。二度と間違えるな、俺はお前のパパじゃない。」
(別に言ってねぇだろ、大げさな。)
2人は機体から降りて、パーバを見送る。レオは塔の方向へ足を運ぶ。アメリアも彼女についていく。
周囲を見れば、やさぐれ者達が座り込んで喋り合っていた。一部の者が睨みを利かせて、“圧”をかけてくる。特に、レオに対して強く当たる者が性差問わず見受けられた。
扉はなく道があるだけで、エレベーターも見当たらない。中には、1人だけ男が電子タバコを吸っている者がいた。レオはすぐ武器を出せるよう身構える。
「ちょっと、レオちゃん!物騒な事するつもりなの!?」
「つい、身構えちまうな……。あの事があってから、反射的に動いちまう。」
「……ただのタバコだ、チンピラ共。」
「「!」」
2人は男の方に顔を向けた。
「見ねぇ顔だ。何の用でここに来た。」
レオはカードを男に見せる。
「外から来た、パーバの仲間だ。ここで武装の取引が行われていると聞いた。」
「確認する。」
男はカードの裏面を見てから、背後の壁から読み取り機を出して挿し込む。暗号を入力し、扉を開けていく。
男はカードをレオに返した。
「取引はこっちでやってる。送り先は【来訪用駐機場】でいいんだな?」
「話が早くて助かる。場所は“A-01”だ……間違えんなよ。」
「……プロを舐めんな。来い。」
レオは男の後を追う。仕事人の様に淡々と進められた。そんな彼女に、アメリアは一瞬だけ思考を止めた。
階段を降りると、そこには広大な製造所が一望できていた。銃、刃物、鈍器、無人機、ミサイル、あらゆる巨大武器の工場となっていた。
同時に、ここでも機体の製造が行われていた。レオは男に尋ねる。
「すぐに買える武器はあるか?今日中にここを出なきゃならねぇ。」
「【光大剣】5万、【テトラシールド】10万、【マシンガン】5000、【エレキネット】3万だ。
それと、【スナイパーマグナム】7万5千……ラス1だ。」
「【マシンガン】を2つ。【テトラシールド】を1つ。それと……最後の奴をくれ。」
ライラの為に、遠距離で使えるものや防御できるものを買っていく。資金を惜しまない。
「8万5000……確かにいただいた。もう着いている。」
「早過ぎんだろ……。」
「場所さえ分かれば、すぐにたどり着ける。プロを舐めんな。」
「あっそ。行くぞ。」
「うん。」
レオは用を済ませ、アメリアと一緒に上に戻ろうとした。その時、扉から背の高い女性が入ってきた。
「【ソフィ】さん!その傷は……」
「あらあら。例のロボ娘の事、どこに行かせたのかしら?」
アメリアの知人らしい。レオは名前を尋ねる。
「お前誰だよ?」
「こらこら……この方は【ソフィ】さん、【アルデバラン】の副長よ。私と【ミア】のスポンサーさん。
この子はレオ、私の幼馴染です。」
「……左腕の銃を手放せ。」
レオは一瞬で見据えていた。合体剣を起動させ、無人機を周囲に浮かせる。
ソフィが袖に隠している左腕。それを怪しんで発動させた。彼女は反論する。
「レオさん、だっけ?手荒い真似は慎むようにお願いするわ。ここは製造所、機材にでも引火すれば爆発するわよ。」
「いいから手放せって言ってんだ。」
「レオちゃん……?」
レオは強く言う。アメリアは突然の反応に、少し凍りついていた。それは彼女がソフィの宿題をこなし、信頼を得ていたことが起因となっている。
アメリアは前に立ち、ソフィと話す。
「ソフィさん!申し訳ありません!すぐにここから出ま……」
ソフィが左手側の銃で撃ってきた。レオは【デルタシールド】を張り、アメリアを守った。
ソフィの狙いは、無礼なレオではなくアメリアであった。
「もう疑いようがねぇだろ。お前がミアのスポンサーだって?
……ミアは、何の目的でどこに行った?」
ソフィは余裕の表情で、レオを嘲笑する。
「ふふ、それはミアのみぞ知ること。私には関係ないことよ。そもそも、アメリアに聞けば早いのに……」
「ミアとは音信不通なんです!出て行ったきり、通信が取れない状況なんです!ソフィさん!どこかで見かけなかったのですか!?」
「お黙り!」
一喝して2人を黙らせた。
「ミアと連絡が取れないということは、あなたは失態を犯したということ。金を収められない無能な人に、手助けする気は無いの。
あなたも【アルデバラン】を目指された人なら、その帳尻合わせも知ってるはずね。」
ソフィが情報をレオ達に提示する。アジトに武装した集団が押しかけていた。アメリアの家でもあった。
…同様の集団が4人、ソフィの後ろからやってくる。一切無駄なく銃を構える。人がやるには不自然なくらい完璧な動きであった。
レオは確信した。
「私らを襲ったのも……“お前”か。その人造人間も見覚えがある。」
「レオさんにも、来てもらうつもりよ。私の顔を傷つけた礼をたっぷりと、させてあげるから。」
唐突に罪を擦り付けられた。以前、囲んでいたロボの集団もレオを付け狙っていた。
「私はやってない!」
「問答無用!“上”で待っているわ。2人を私の部屋でしつけてあげる。
せいぜい、醜く足掻いてみせなさい。」
ソフィは上へと歩いていく。増援のロボが、レオとアメリアに近づいてきた。手錠をかけようとしていた。
…後ろで聞いていた男が、ロボの背後を取って特殊警棒で1体を鎮圧する。2体に腕を固められ、身動きが取れなくなった。
「どうして……あんたも一味じゃねぇのか!?」
男は押さえつけられながら笑みを浮かべる。
「……俺も副長の思し召しで、エンジニアに就いた人間だ。間違いなくクビだろう。役人に捕まっちまう。
だが【アルデバラン】は、一度差し伸べた人間を金の問題で見捨てるほど、不寛容な場所じゃなかった!
アメリアとやら然り、裏切り者である理由を話さず、断定しやがった。どちらにせよ同じように捨てられる……ならこっちから捨ててやるぜ!」
「そんな……」
アメリアが手で口を隠す最中に、背後からロボが襲う。
レオが剣で倒した。そして男に問う。
「後悔は、しねぇよな?」
「……副長は上の階のどこか。番号は“8025919”だ。さっさと行け!」
レオは頷いた。アメリアに顔を向けて、声をかけた。
「行くぞ。パーバアに連絡を取れ!」
「……うん!……ん?……うん。」
2人は上へと向かう。アメリアはパーバに連絡を取った。腕時計型の端末で、画面が映し出され、彼の正面の姿が見られる。
すぐに事情を伝える。
『……アメリアか?』
「兄ちゃん!大変なの、ソフィさんから逃げなきゃ!」
『……アジトは奴らが押し込んでる。このコロニーから出ても、役人に捕まる。身動きできず、雇われ人にやられかねない。』
「じゃあどうすれば……」
パーバは間を空けて…アメリアに告ぐ。
『……アメリア。近くで乗せたら、それ以降は俺が必ず守ってやる。元々、俺がお前を巻き込んでしまったからな。
俺の事は構わない、アメリアには生きていてくれれば……』
「兄ちゃんと離れたくなんかない!私……私……」
アメリアは兄と離れたくなかった。過去のような孤独に、守れない罪悪感が重なってくる。それが恐ろしかったのだ。
「……!?レオちゃん!?」
「代わるぞ。」
『レオさんか?』
レオはアメリアの腕を自分の方に寄せて、話に割り込んできた。
「あんたも狙われてる身で、見つかり次第、すぐに始末されるんだろ?私に案がある。少しアメリアを貸してくれ。」
『……言ってみろ。』
「今は本部だ。あんたらが追われてんのは、副長……結局はトップじゃねぇ。もう1つ上がある。
真の長に汲んでもらって、あんたら兄妹が擦り付けられた罪を、全部ソフィに返してやる。
兄妹、どちらが消されたところで、2人とも同じように苦しむだけだ。」
『知ったような口を言うものだな。』
「あぁ……“知ってる”からな。」
『……任せた。』
パーバとの通話が切れた。副長の部屋は上。濡れ衣を晴らすため、アメリアを連れて上へと目指した。
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公共交通、3両編成モノレール乗り場にて、サドはライラの見送りをする。ライラには大きな心配事があった。
「街が物騒で嫌だとは言ったけど、こっちの列車も相当な物だと思うよ!?外の傷は絶対に誰かが武器で傷つけたものでしょ!?」
「一緒にスラムに戻りますか?」
「助けたい……でも怖い。」
すっかり怖気づいていた。サドはライラに話しかける。
「レオの事は任せてください。代わりに、ライラさんには【タイタン号】を任せます。
もしもの時は、買った機体に乗って守るか、タイタン号に先に乗っててください。端末を起動して、触れるだけで開けられるようにしてありますので。」
サドから言うべきことは、すべて言った。静かに自分の光線銃を手渡して、ライラの身を硬めていく。
「……お気をつけて。」
目で伝え、口で伝えて手渡し一つに重みを付けていく。
無事であってほしいのは、お互い様だ。ライラも列車に乗り、サドに一言だけ交わす。
「生きて戻ってきて!」
サドは頷いた。ライラは言い残し、列車の中へと入っていく。
ドアが閉じ、列車が発進する。遠くへと向かう列車を見送った。
サドは、心の中にいる1人を呼びかける。
(マークⅢ、レオは必ず助ける……いける?)
『………。』
(僕だけでもやるから。)
マークⅢは答えなかった。サドは急ぎ、外へと向かう。
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レオは上の階へと向かう。更に登るには、例のカードと男の言っていた暗号を入力する。扉が開き、上へと登る。エレベーターなどという近道など無い。
そして、一方通行だ。次の階層にて何体もの機械兵が既に銃を構え、臨戦態勢に入っている。副長の後を追うものを始末せんと待ちわびていた。
レオは先陣切って、雑兵に告ぐ。
「ボスに会わせろ。ギャングを舐め腐ったババアに、罪を返しに来た。
……そこ通せよ。」
『………。』
舐め腐った機械は、もの応じず無言を貫き通す。だが通させるつもりもない。無論、それをレオが許すつもりは無かった。
「……話す口も、聞く耳も、通す気も無いか。話は終わりだな。なら……ぶっ壊されても、後悔すんなよ。」
一斉に発砲してくる。【デルタシールド】を張ってアメリアを庇いながら戦う。
レオは敵が意志を持たぬ機械と知って、剣撃を打ち込んでいく。加工された金属の鎧が、大きくへこんでいった。
背後の敵に光線銃を撃ち込む…が、耐性を持っていた。間一髪のところを避け、腹に剣先を突き刺す。貫通して、機械は動作を停止した。
包囲網を突破する。レオはアメリアを連れて上へと向かった。
鉄板の上を走る。目の前にいたのは、副長の【ソフィ】であった。増援を配備して、笑顔で出迎えてくれた。
「ここまで来るなんて、少し余裕だったかしら?でも、途中をすっ飛ばしてきたわよね?」
残りの敵が追いかけてきた。後ろからも囲んでくる。
「この数をどう処理するか……まあ無謀ね。話にならないわ。」
ソフィが呆れた瞬間に、レオは背後の敵を薙ぎ払う。そして、1体を盾にしながら次の敵に近づく。距離を計り、狙って、致命的な一撃を打ち込んだ。
レオは1体を投げ捨てて、他の敵を同時に破壊していく。既に気づいていた。
「全部、お前の人形だろ。私より賢いつもりで上にいるつもりだろうが、一気に操れるほどの天才でもねぇだろ。
……当ててみろよ。次にどいつを解体すか、エンジニアなら機械を守ってみせる度胸はあるよな?」
「所詮は機械なのに……あなたも馬鹿ね。」
「キャァッ!」
悲鳴の元をたどる。ソフィはアメリアの腕をロボに引っ張らせ、連れて行こうとしていた。
レオはすぐに後ろから剣を叩き、アメリアを救い出す。
ソフィは通信を取っていた。
『……随分と騒がしいな。誰か来たのか?』
「例の“レオ”と言う者です。」
『客人だろう、私が出る。』
「いえ、ここは私に一任ください。ええ、ご安心を。」
『そうか、なら任せよう。』
ソフィはこの場を後にする。別の場所へと向かった。
「ソフィ!!」
レオが後を追いかける。しかし敵兵に止められ、次々と破壊する。何体も出てくる。
「キリがねぇな。1体1体は先に進んで……」
「レオ!」
サドが全力でレオの脇を通って、敵に飛び蹴りを見舞う。倒れた敵を投げて、もう1人を倒す。格闘だけで、敵を破壊してみせた。
彼が睨みを利かせ、威圧で圧倒していく。
「………。」
敵は彼を見るやいなや、逃げ出していった。レオは呆気に取られていた。
「サド、お前……」
「今、他の奴らに狙われている。」
「……なら早くかたす。」
戸惑う暇などない。レオ達は鉄板の上を駆け抜ける。
(ミアも……まさか……)
アメリアは先にある予測を心配する。レオの後ろを走って追う。副長である【ソフィ】なら知っているはずだ。
真相を追って、レオ達は先を急いだ。
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かつての仲間たちの襲来、世界の裏側で暗躍する様々な組織の思惑、エデンの神になれるという鍵の存在。そして世界はレイジにある選択をせまる。彼が選ぶ答えは秩序か混沌か、それとも……。これは女神に愛された少年の物語。
<注意>①この物語は学園モノですが、実際に学園に通う学園編は中盤からになります。②世界観を強化するため、設定や世界観説明に少し修正が入る場合があります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ガチャ戦機フロンティア・エデン~無職の40おっさん、寂れた駄菓子屋で500円ガチャを回したら……異世界でロボットパイロットになる!?~
チキンとり
SF
40歳無職の神宮真太郎は……
昼飯を買いに、なけなしの500円玉を持って歩いていたが……
見覚えの無い駄菓子屋を見付ける。
その駄菓子屋の軒先で、精巧なロボットフィギュアのガチャマシンを発見。
そのガチャは、1回500円だったが……
真太郎は、欲望に負けて廻す事にした。
それが……
境界線を越えた戦場で……
最初の搭乗機になるとは知らずに……
この物語は、オッサンが主人公の異世界転移ロボット物SFファンタジーです。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
初恋フィギュアドール
小原ききょう
SF
「人嫌いの僕は、通販で買った等身大AIフィギュアドールと、年上の女性に恋をした」 主人公の井村実は通販で等身大AIフィギュアドールを買った。 フィギュアドール作成時、自分の理想の思念を伝達する際、 もう一人の別の人間の思念がフィギュアドールに紛れ込んでしまう。 そして、フィギュアドールには二つの思念が混在してしまい、切ないストーリーが始まります。
主な登場人物
井村実(みのる)・・・30歳、サラリーマン
島本由美子 ・ ・・41歳 独身
フィギュアドール・・・イズミ
植村コウイチ ・・・主人公の友人
植村ルミ子・・・・ 母親ドール
サツキ ・・・・ ・ 国産B型ドール
エレナ・・・・・・ 国産A型ドール
ローズ ・・・・・ ・国産A型ドール
如月カオリ ・・・・ 新型A型ドール
Space Shop!(スペース・ショップ!) ~売られた地球を買い戻せ~
こっこ
SF
武器は駆け引きとハッタリとヘンな才能?
近未来。異星人の罠にはまった地球は、子供を異星人向けのペットとして売り、その対価で食料を得ていた。エルヴィラとイノーラも、そうやって売られた「元」異星人ペットだ。ただ幸い機会を得て二人は独立、商人として宇宙を駆けていた。
だが奇妙な生物を助けたことから、旅は予想もしない方向へ進み始める……。
※画像はフリーをお借りしました
おっさん、ドローン回収屋をはじめる
ノドカ
SF
会社を追い出された「おっさん」が再起をかけてドローン回収業を始めます。社員は自分だけ。仕事のパートナーをVR空間から探していざドローン回収へ。ちょっと先の未来、世代間のギャップに翻弄されながらおっさんは今日もドローンを回収していきます。
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