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Chapter_3:機械工の性

Note_55

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 【惑星堰堤】の監視塔1階にて、レオはサド達と分かれることになる。レオは彼に鍵を託し、レジスタンス機の見張りをする。サドはダム3階にあるプレハブを目指す。

 3人の少年はサドについていく。サドから話しかける。


「ライラさんはどうする?ダムの中は危険だと思うけど。」

「えっ、危険?」

「ロボも無いし、落ちたら戻ってこれないかもしれない。レジスタンス機ならまあ、安全かも。レオに乗せてもらうか、空いてる方に乗って休んでいるか……ですね。」


 サドは提案する。ライラは案ずる。


「1人で……大丈夫なの?」

「1人じゃ、ないので。」


 サドは一言で応える。ライラはレオと一緒に行くことにした。サドに向かって言う。


「必ず……戻ってきて。」


 互いに頷き、それぞれ移動を始めた。サドと少年達はエレベーター脇の道を進む。階段を降りていき、地下へと向かう。



 暗闇の中をライトで明るくする。結露して、しずくしたたる壁に触れれば、肌は潤い水を吸う。

 少年のジョージは問う。


「サドぉ。」

「何です?」

「万能AI見せて。」
「見たい見たい!」
「………。」

「少し早いけど……」


 3人の少年は待ちわびている。サドはタブレットを持って、もう1人と準備する。


(マークⅢ、ジャックできる?)

(お任せください!)

(カメラはマークⅢだけで。)

(はいは~い。)


 タブレットを起動させて、マークⅢを映し出した。マークⅢは笑顔で対応する。


『こんにちは~!私はサド君のサポートAI、“マークⅢ”と読んでください!』

「「うおおおおっっっ!!」」「///」


 3人は興奮する。仮想空間からマークⅢは少年達と交流することにした。タブレットをジョージに渡す。


「落とさないように。」

「分かってるって!」

『暗号解読、データ抽出、ハッキング、画像解析、などなど何でもどうぞ!』

「何でも!?」
「ねぇねぇ!」
「………。」

「何でもは……ちょっと……」

『弱気にならなくても大丈夫ですよ。』


 サドが心配するが、どうやらマークⅢには無用らしい。

 ナッシュが話しかける


「じゃ、じゃあ!このロボット直してよ!犬のロボットだけど……何か……ジャミングに遭遇しちゃったせいでもう……」


 どうやら【惑星堰堤】から発せられたジャミングにやられたようだ。誰も口述していないが、ジャミングが消えている今ならば何とかなるはずだ。

 サドにとっては気がかりだった。ジャミングが消えた原因について、嫌な予感はしている。今のうちにやってもいいだろう。


『お任せください!歩きながらでもやりましょう!』


 得意気にマークⅢは話す。愛玩用のロボ犬を起動させる。どうやら強制終了して、データが破損しているらしい。

 しかし、マークⅢには朝飯前である。壊れたデータを復元させて、破損前のデータに直す。そして再起動させる。

 簡単なプログラムで作られており、直すのもとても簡単であった。ソフトウェアの問題ならば、マークⅢの独断場である。


『直りました!再起動させます!』

「本当!?」


 ナッシュはロボット犬を抱きしめながら、愛犬の帰りを待つ。

 歩いていくと扉が近づく。鎖は乱雑に外されており、若干錆びていた。サドは両手でゆっくりと開ける。

 日光が眩しい。暖かい空気が入ってくる。中央から上に登れるようだ。

 サド達はそちらへと向かうところ、ナッシュのロボット犬が起動した。


『バウ!』

「あ!起きた!」

『クゥン……』


 ロボット犬はナッシュに甘えてきた。


「本当に良かった……ありがとう、マークⅢ!」

『無事で良かったです!』


 マークⅢも解決できて、彼女なりに満面の笑みで返してあげた。


「ナッシュの犬も直したことだし、このまま中央まで直行だ!!」

「ちょっと、待ってよ!」
『バウ!』

『賑やかで良いですね……。』

「色々、ありがとね。」

『軽いウォームアップです。ここからですよ、ここから!』


 マークⅢはサドの礼に、元気に答えていた。いつも以上にエネルギッシュな彼女だった。



 エレベーターでダムの3階へと向かう。プレハブが見えてきて、サドはそちらに指をさす。


「あそこの小さな建物ですよ。」


 本当に1室分しかないほどの小ささで、簡素な造りで隅にあった。宝探しがあっという間に終わることに、ジョージは拍子抜けしてしまった。


「何だぁ、もう終わっちまうのか……」

「元々準備のいる冒険だったってだけです。暗号も必要だし、ジャミングを切り抜ける必要もありましたよ?

皆さんが隠し持っている端末も、同様の被害を受けている……だからレオの機体に入れなかった、と僕は考えます。」

「ッ!」


 ジョージは反応する。どうやら当たりのようだ。サドは更に尋ねる。


「どんな機体でここに来たんですか?」

「……2mメートルの移動用機体。」

「運が良かったですね。完全な【オートマ】機だとジャミングでやられていましたよ?それと燃料は大丈夫なんですか?」

「それは大丈夫だけど。」


 サドは安心する。3階にたどり着いたら、少年達は走り出す。


「あっ、ちょっと……。」


 サドは彼らの後を追いかけた。


_____


 レオはレジスタンス機内で、ライラと一緒に乗っていた。ただし、レオは何か不穏な空気を察知していた。

 同様に、ライラはすごく心配していた。レオの顔色をうかがい、話しかけてきた。


「サド君……大丈夫なのかな?」

「ジャミングが切れている。」

「えっ、いつから?」

「地下にいた時だと思う。その時に、誰かが一部の装置を壊した……ジャミングの範囲が狭まったんだ。」

「壊れた……誰かが壊したじゃなく?」


 レオはグローブをはめて、ハンドルを掴む。


「ちょっと様子を見る。席に捕まってろ。」

「うん!」


 レジスタンス機を壁に寄せ、上から様子を見る。壁の上に、何かの機体が見張っていた。


「やっぱりいやがった……飛ばすぞ!」

「キャッ!」


 レオはすぐに隠れ、壁に寄せながら素早く移動を始める。大事になる前に、奴を後ろから仕留める算段だろう。

 とにかく先を急いだ。


_____


 サドはプレハブから出て、例の物をようやく手に入れた。しかし、それはただの【ブレインチップ】であった。端末と一緒に置かれている。

 実際に使ってみると、何も起こっていない。端末も何の変哲もないものだ。

 しかしレジスタンスに必要な物かもしれない。サドは全部持っていく。チップを保管して端末をバッグに入れる。

 少年達は呆れていた。


「あ~結局何もなかったな。」

「そういう時もありますよ。まあ次に期待しましょう。」


 サドが歩き始めた瞬間、影がサド達を飲み込んでくる。何かが落ちてくる音がする。サドは上を見上げた。

 危機を前に、サドは少年に声をかける。


「みんな!下がって!」


 敵の機体が目の前に落ちてきたのだ。風圧と砂塵が彼らを襲いかかる。

 ナッシュとロビーがサドの後ろで守られ、先頭のジョージが吹き飛ばされそうなところを、サドが腕を掴んで助けた。

 ジョージは前を見る。機体の正体に、彼は見覚えがある。


「……あれは……ジルファにいを攫った……!」


 その機体の姿に、サドも見覚えがあった。そして更に、聞き覚えのある声もやってくる。


『見つけたようだなぁ!?クソガキ共!』

「ポーラ……!」


 サドは気を引き締めていた。エンダー家の長女【ポーラ・エンダー】である。彼女は間違いなく…自分達の敵だ。

 ポーラは機体のカメラを通して、ノイズが邪魔してサドと分からなかった。


『クソガキ3人組と……駄目か。どのモードでもノイズが酷くて分からねぇ。落ちやすい場所で外に出るわけにもいかねえ。

……お前は誰だ?』


 ポーラの質問に、サドは無言を貫く。ジョージが先に彼女に物申してきた。


「お前!ジルファ兄を返しやがれ!」


 ポーラはジョージの存在に苛立っていた。


『……何度言ったら分かんだよ。【キエラ】の時からジルファの心は固まってんだ。事情も知らねぇお前に、何が分かる!?』

「うるせぇ!ジルファ兄を出せ!勝手に連れ出しやがったお前に、物言う資格なんかない!」


 ジョージはやけに熱くなっていた。サドは彼らの事情について何も知らなかった。


「ナッシュ君……君達に何が……?」

「……僕達、元々4人で頑張っていたんです。でも全員貧乏で、特に兄ちゃんは僕と2人だけで生活していました。

その中で……兄ちゃんは兵隊さんと一緒に、あの機体に入っていったんです。僕にすら何も言わず、ただ1人で出ていったんです。」


 ジルファは3人組の兄者、特にナッシュとは実の兄弟の関係にあった。無垢なジョージに、ポーラは一喝する。


『貴様らに守れるとでも?むしろ、彼は貴様らを守っている最中と思っているといい。』

「なんだと?」

『何もせずにジルファが了承したと思うか?対等な交渉の上で、彼は承諾したまでよ。お前ら3人が割り入る余地など……微塵もないわ。』


 ポーラは3人組の愚直さを嘲る。それでも、ジョージはジルファを出してすらくれない彼女を許せなかった。別れすら言わせない彼女に怒りを覚えていた。


「お前の話は関係ねぇっつってんだろ!ジルファ兄を返せ!

ジルファ兄!いるなら声をかけてくれよ!何の言葉も無しに別れるなんて、あんたを無くして、俺らはどこに向かえばいいんだよ!!!」


 ジョージは懇願した。彼との再会を、3人は何度も望んでいた。何度も叫んでは、同じ回数だけ無視され振り払われた。

 ジョージの声が響く。必死の声が届く。


『皆様……』


 機体の音源を通して、彼らの心に響く。ナッシュの心にはいち早く届いた。

 間違いなく、ジルファの声であった。


「兄……ちゃん……?」

『御三方に大変ご迷惑をおかけしたことを、この場をもって深くお詫び申し上げます。』

「ジルファ兄!敬語する必要ねぇよ……友達だろ!?なら、今すぐ降りてまた元の生活に……」

『できません……。』


 ジルファはジョージを止めた。


『……ポーラ様と話して決めたことです。身寄りがなく生活に困窮していた私に、上院貴族の人間として生きるチャンスをくださったのです。

10年間、ポーラ様の配下として実力を上げ、有力な人材として名を挙げ、高額な給料を手にできます。提示されたときは……開いた口が塞がりませんでした。僕達の苦しい生活が救われるどころか、本当に“兄貴”として3人の力になれるぐらいに……

今の私は、ポーラ様に忠誠を誓い、ポーラ様の為に尽くしております。多忙ゆえ、この度のご無礼を……お許しください!

また3人で、一緒に笑い合えるときをお待ちしております。あと7年の間、どうかよろしくお願いします……。』


 ジルファの悲しみが、音源から聞こえてくる。ジョージは彼の発言に絶望していた。


「……7年……俺ら……生きてんのかな……?……今の生活でも……本当にきついのに……」


 口を小さく開け閉めしつつ、長過ぎる年月に彼は放心する。更に彼は忠誠も誓っていた。

 その間を割るように、ポーラが言う。


『話は終わりだ。お前ら、そのプレハブから何か奪ったようだな。

……気に入らん。力づくで奪おう。傷ついたってここは砂漠だ。弱肉強食の世界で何も言うまい!』


 ポーラはジョージに手を出そうとした。





『……邪魔……すんなッ!』





 爆音と共に、レジスタンス機が横からぶん殴る。敵機は壁に衝突する。ジョージは無事であった。

 レジスタンス機から声が聞こえた。


『サド、3人連れて早く逃げろ!』

『私達に任せて!』


 レオとライラの声であった。サドは2人を連れて行く。そしてジョージに話しかける。


「今は逃げよう!」

「………。」


 放心していた。サドはジョージを抱えて、4人で下の階に逃げる。

 レオはポーラの機体を睨んでいた。


「お前が……ポーラか。」


 サドを狙うもの、政府の使い、自分の敵である理由はそれだけで十分である。エンダー家の人間なら尚更、見逃すつもりはない。戦いを避けるわけにはいかなかった。


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