Plasma_Network~プラズマネットワーク(アルファポリス版)

カチコミぱいせん

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Chapter_2:コーズ&エフェクト

Note_44

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 【フェニコプテラス】の上町と下町の駐機場を繋ぐ【緊急通路】にて、レオはレジスタンス機に乗ってコンテナを引っ張りながら下町の【セカンドステップ】を目指す。

 コンテナの重みで若干スピードが落ちている気がするが、昨日の燃料を運んだときよりかは軽い。レオは気にせず前へと走っていく。

 前方は上り坂となっていて、レジスタンス機のパワーでギリギリ走れる状態であった。その中で、不穏な音が通路内で響き渡る。


『侵入者、発見。直ちに排除します。』

「……サド……いるか?いるなら返事しろ!」


 誰も答えてくれない。


(……まさか、駐機場で抑えてんのか?大型機体の集団を……まず1人で何とかするか。)


 背後に10mメートルほどの中型無人機が3機だけ迫っていた。無人機が銃を武装しようとしたとき、レオは後ろに向けて、脇から光線銃を撃つ。

 慣れない撃ち方をするものではない。結果として5発中、1発だけしか的中できず、直撃ですらなかった。

 3機が撃ち込んでくる。実弾でありコンテナにはその耐性がある。レジスタンス機はバッチリ撃たれているが、コントロールを利かせて左右に避ける。

 もう少しで上り坂は終わる。まだアラートは鳴っていない。レオも余裕の表情で駆け上がっていく。

 そして上り坂が終わる。打ち上がらないよう速度を少し下げて、ちゃんと地面に乗ってから加速させた。遠くを見ても緩やかなカーブが続く。


「よし、坂終わり!急加速だ。」


 スピードを上げて後ろの無人機と距離を離す。敵が構えている銃の種類が変わっている。形状からして光線銃であった。コンテナにその耐性があるかは分からない。

 慎重に動く必要がある。


(レジスタンス機には……耐性があるはず。このコンテナは……?)


 早速、光線がコンテナをかする。当たった部分が黒ずんでいる。救出した人達も、このままでは貫通されかねない。

 敵の猛攻は続く。光線が撃ち込まれる。


「舐めんな!」


 光線銃で敵に1発だけ撃つ。

 それと同時に、ある機体が無人機を後ろから破壊する。そして一気にこちら側に、美しく飛び込んできた。



『……ドンピシャアッ!!』



 コンテナの後ろで、レオの背後を守る形でその機体も共に駆ける。


『誰だお前!?』

『俺、【オスカル】っつーんだけど。噂聞いて上町に来たった!取りあえず間に合ったようだな!』

『ここは危ねぇって……』


 後ろの生き残りが光線を撃ってくる。三角状のシールドが突然、彼の前に現れて防御する。

 オスカルの機体は20mの中型機体【宮-ku- Xじゅう】である。銃や剣を持つ手は無いが、強力な武装【デカロセイバー】を持つ。

 敵の光線に対して、10機もの小型機で応戦する。その内3機を三角状のシールドを張ることに使う。

 攻撃を跳ね除けた。しかし無人機が1つ減ったところで敵の猛攻は止まらない。もう2機が追いかけてくる。


『兄貴ィッ!』
『レディ相手に複数人……固めて守るが普通じゃん?』
『なんとか追いつけそう!』
『邪魔だァッ!』

『……敵の増援か?』


 4機もの機体【マゼラニックドグマ】が敵機を【電磁剣】で粉砕していく。そしてスピードを上げて後ろに付いてくる。

 レオの問いに対して、オスカルが答えた。


『いや、俺の頼れる仲間だ。』

『兄貴ィッ!そろそろ【ジャミング】来るっすよ!!!』

『ん?……あ、やっべ!』


 向かう先には目に見えない、微弱な通信妨害のエリアが迫っている。すぐ小型機を戻して、無効化を回避した。間一髪であった。


『あっぶね!置き去りにするとこだった。』

『前から敵が!キャノンで……』

『……任せろ。』


 レオが静かに光線銃を前に構える。前方ならば、正面から真っ直ぐ狙える。1発撃ち込む。1機を転倒させて巻き添えを食らわせようとしたが、敵のAIが賢く瞬時の判断で躱される。

 それでも冷静に残りの機体を狙い撃つ。見事、直撃させて敵陣を抜いていく。


『カッケーッ!!』


 オスカルの弟分も、その強さに惚れ惚れしているようだ。レオは5人の男衆に指示する。


『前は私がやる。あんたらは後ろだ。後ろだけで十分だ。』

『ウィッス!

お前ら!作戦名提案者【カイル】、“お姫様大作戦”いっちゃう?』

『『『『いったれ兄貴ィ!』』』』

(……んだよ、“お姫様大作戦”って……ダサすぎんだろ。)


 陽気な5人組に呆れ果てた。だが実力は確からしい。レオは彼らを利用する。

 再び上り坂である。同様の中型無人機が後ろから3機迫ってくる。しかし、今度は頼れる味方がいる。キャノン砲で応戦して命中させる。


WOOウーHOOフー!!』
『でかした、カイル!このままいくぜ!』

(嫌な予感が……センサーか!?)


 レオが前方のセンサーを見破る。


『センサーだ!前方の準備をしておけ!』


 レオは左右に巧みに回避していくが、50mの高さと相まって、横一直線のセンサーに直面してしまう。

 上り坂は終わりだが、次の道なりで不利になりうる。なんとかして避けたい。


(……避けきれねぇ!)


…センサーに触れてしまった。


『防御システム始動。閉鎖します。』


 レオは一旦スピードを落として、コンテナを打ち上げないようにする。そしてすぐにビームソードで身構えた。

…しかし何も起きない。不自然なくらい、何も起きなかった。機体が現れることなく、壁も出てくることはなかった。

 オスカルはレオに伝える。


『そう言えば往路の時に、あねさんのロボがポールを全部ぶった斬ってくれたはず。』

『最初に言えよ!』


 レオはとんだ思い違いをしたようだ。自分は元の下町に帰ろうとしていること。このレジスタンス機が向こうからやってきたこと。考えれば困難を無理やり越えてきたと再確認する。

 しばらく気楽に運転できる。そしてジャミングも丁度良く終わり、オスカルも守衛に再参加する。

 そして、オスカルは忠告する。


『前方、レーザー地帯!俺が守る!』

『コンテナを守ってくれ!特に底をシールドで張ってほしい!』

『ウィッス!』


 オスカルは小型機4つ使って、コンテナの底を満遍なく守る。レジスタンス機には光線への耐性がある。もう6機は三角状のシールドを張って側面や上方を守る。

 【デカロセイバー】の防御壁は、1面しか張ることができず、立体の防壁を張ることができない。あくまで、間に合わせの防壁である。

 なお、オスカル達は気合いで避けきるつもりであった。

 目の前から光線が持続的に張られている。


『来たぞ!』


 まずは上から。オスカル達は容易に回避する。次に左、コンテナは守られている。

 先へ進むごとに光線の壁が厳重になる。奥へ向かうと、3方向から光線が放射される。

 空きの方向を上、右、左、左、右、上、左、上……とオスカルは防御壁を絶え間なく動かす。

 最後の最後で、4方向から3本ずつ光線が放出された。レオが指示する。


『左を開けろ!』

『ウィッス!』


 上と右にシールドを張る。レジスタンス機はコンテナの紐を右手に持っている。右手側にコンテナを前に押し出していく。

 そして、レジスタンス機の姿勢を下げることでコンテナの右側を守る。

 オスカルは中央の部分を、華麗に宙を舞って回避した。部下達は光線が消えるのを待つ。最後の光線が消えていくのを確認して、すぐにレオ達に追いつく。


『ウェーイ!ナイスゥ!』
『やりぃ!』
『作戦は成功だァ!』
『お前ら最高だ!』
『姉さん、やりましたね!』

『……ってことは、出口か。』

『そうっす!』


 奥から光が見えてくる。ようやく出口だ。レオは徐行していった。





 無事にたどり着く。追手もいない上に、待ち伏せもいない。役人もどこかに消えている。

 すぐに元々駐機していた場所に戻って、コンテナを上の歩行スペースに置く。レジスタンス機から降りて、コンテナを開けた。補助階段も同時に出てくる。

 女性達が外へ出ようとなだれ込む。16人、全員が無事であった。テリーサはレオに話しかけてきた。


「助かりました。みんなも無事です。」

「そうか。……怪我も無いか?」

「お陰様で。」


 どうやら、コンテナに入った人達は全員無事らしい。ライラがレオに話しかける。


「大丈夫!?」

「……あいつらが助けてくれた。」


 向こうで、タトゥー入りの男衆が手を振っている。ライラは意外な出逢いに驚愕した。


「えっ……えぇ!?」

「何を驚いてんだ?」

「だってあの人達、昨日私を囲って誘ってきた人達で……」

「あぁ……なるほどな。あいつらは何か手を出してきたのか?」

「いや、誘ってきただけ。」

「ならいいんじゃねぇのか?手を振るだけでも、あいつらには励みになるだろ。」


 レオは冷静にライラと話す。一度は躊躇したものの、ひと呼吸置いてから笑顔を見せて、彼らに手を振った。

 男衆はまるで、すべて収まったかのように喜んでいた。地球から連れ去られた人達が全員無事と知って、諸手を挙げて喜んでくれた。

 しかし、すべて収まったわけではない。レオは彼らに近づいて、もう少し働いてもらおうと話しかける。


「ここまで来たからには、裏切らずに最後までやってもらうぞ。」

「えっ、他に何か……。」

「今、救出した人達をここで護衛できるか?他の奴らが出張らねぇようにさ。

……無論、手を出したら……沈めてやるよ。事情を聞けばすぐ分かるからな。」


 レオの発言に、男衆は怯えていた。これなら誰も手を出すまい。更に頼みを聞いてもらうことにする。


「それとだ……」

「今度は何?」

「もう一度、向こうに行くことができるか?1人でいい。特に、オスカルだっけ?あんたの機体なら上手く避けられるはずだ。」


 オスカルは余裕の表情で答える。


「……女性を単独で戦場に行かせる男なんざクズ野郎だ。……なんてかっこいいキャラの台詞使いたかったけど、かたじけない……ガス欠っす。

あのかったるい道を全力で往復したんすよ。多分だけど、姉さんの機体も同じはず。ダメージも受けている。

……それでも行くんすよね?なら本当に申し訳ないっす。俺はやはり、クズ側の人間になるしかないんすね……。」

「あまり他人の言葉に振り回されんなよ。普通はまず、自分の言葉で生きてみるもんだろ。

成功者の話を真に受けるなとは言わねぇけど、経験積んで自分の答えを出してからそういうのは決めるもんだ。」

「姉さん……」


 少女に諭され、何もできない不甲斐なさと情けなさを持ってオスカルは悔しむ。同時に未熟さを再確認して、今の当てられた役割を全うするつもりだ。

 しかし、レオは不満を持つ。


(本当は、あいつに一番先に言わなきゃならねぇ言葉なんだけどな。)


 そして彼にまだ、その重要な事を口で伝えられていないことにわだかまりを覚えていた。

 さて、手段が無ければ緊急用の移動用機体を出して向かう手もありだが、あの通路を通れる自信がない。

 でもやるしかない。レオが準備を始めた時にある女性5人がこちらに歩いてくる。


「あいつが、あの議員に高く買われているエンジニアか?」


 昨晩にライラを襲った女性達、大傷を顔に負った女性【スザンナ】を筆頭に駐機場にやって来た。ライラは光線銃の銃口を彼女に向ける。


「あなた達、一体何が目的なの?」

「これから稼ごうと思ったときに、偶然居合わせたようだな。何なら“シェルター”に連れて行ってもいいんだぜ。」

「……話があるのはこっちの方だろ?」


 レオが2人の間に割って入る。


「出会って早々“シェルター”誘うとか、よくそんな畜生発言できるな。部下がいるんだからそっちで我慢したら?」

「クソガキが!姉貴はな……」

「フッ……それもそうか。私は【スザンナ】。そこにいる地球人を見る限り、アブロの言ってた奴はこいつに違いない。」

「……んで、何の用だ?」


 レオは苛立ちを露わにした。スザンナは事情を話す。


「何か手伝えることは無いか?先輩として助けてやるよ。」

「分かったよ。んじゃあ、お前とだけ行く。残りは救出した人達をここで護衛する。手出ししたら連帯責任で5人とも貯水池にぶち込む。

……スザンナだったか?」

「スザンナ“さん”だ。」

「……ッ、分かったよ。面倒くせぇな……機体とか用意できるか?もう一度、向こうに行きたい。」


 レオの頼みに、スザンナは答える。


「いつでも行ける。」

「んじゃ、すぐ行こう。」


 レオとスザンナが一緒の機体に向かおうとしたときに、ライラがレオの所に走ってきた。


「待って!」

「何だ?」


 ライラは息を切らし、彼女に伝える。


「私も連れて行ってほしい!私も……」

「ロボ操れるのか?」

「………。」


 ライラはうつむいた。レオは続ける。


「次の戦いは、人を相手にするのと根本的に違ってくる。ある程度、パイロットの経験が無いとまず勝てない。

あんたの言い分は読めてる。サドを助けたいんだろ?……それは私も同じだ。」

「………。」


 ライラは黙って耳を傾けている。


「私は本気で助けたい。だから、あんたらをここに置いて私は行く。

そんで、次はサドを守る番……だろ?」


 レオは、ライラの後ろに隠れているオルガを看破する。オルガは静かに姿を現して頷いた。

 オルガはレオに懇願する。


「レオ姉ちゃん、サド兄ちゃんをちゃんと守ってきてね。」

「言われなくとも。……行くぞ。」


 レオはスザンナに目配せした。スザンナは10m級の中型機【ヒート・ランナー】を扱う。無名のエンジニアが作ったレシピを拾って、そのまま造ったものだ。【オートマ】に改造されており、片腕を失っても走ることができる。

 高熱に耐性があり、火事の中でも堂々と走れる機体だ。レオにとって最悪その機体は失くなっても良いものであるが、運が良かった。

 2人乗りに改造されている。レオが後ろに乗って、スザンナが前で操縦する。

 スザンナは不満を持ちつつ、グローブを憎い仇のように勢いよく身につけた。


「結局、性欲かよ。」

「お前には一生分からねぇよ。」

「……うるせぇよ。」


 スザンナがコクピットを閉ざした。いざ戦場へと向かわん。


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