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Chapter_2:コーズ&エフェクト
Note_20
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“裏オッズ”に金を賭ける者達は、ただギャンブルを楽しむだけの人間とは限らない。見聞を広げる目的で、特に【ビギナーズ】では新たな選手について、いち早くスカウトするよう随時チェックされている。
下請けがスポンサーの情報網となり、金の力で無理やり人材を奪われることは、この街ではよくあることだ。
今のサドの現状を見ての通り、様々な界隈の人から引っ張り凧にされる。たまに殴られかけることもあるが、今のところはなんとか無事である。彼はあの3人組を探しているところだ。
「お疲れっす!」
「お疲れ様です!」
「おつー!ちょっと顔暗いなぁ……」
「ディオンぐゔゔぅぅぅぅんん!!!」
メニが嬉し涙で顔を満たしながら、サドの胸に飛び込んできた。サドは偽名である“ディオン”として仕方なく付き合う。
(……最悪……めっちゃ濡れた。)
「ぉめでどぉうぁあああ!!」
「勝ったんですからそんな……」
「だっでぇ!だっで、君が勝てんかったら……明日、あだしだちは……」
「それ以上は……ここで言うな、メニ。絶対にやられるぞ。」
「……う……うぁぁあああ!!」
カナンはメニを引き剥がした。サドはカナンの台詞で推測する。
(……やっぱり隠しているな。でも引換券あるし深く詮索しないでおくか。)
確信したサドに、レイが尋ねる。
「……なぁ、その……ライセンスとかってもう渡されたのか?貰ったなら、ちょっと見せてもいいすか?」
「了解です。」
サドはテーブルに近づき、ライセンス、賞金の1000Uドル、ロボット引換券を出した。
「……すごい……。」
「かっけぇ……!次は【ライト】級か!」
「2人もいつか、こういう感じのライセンス持てるはずだって!マナちゃんも……。」
「……うん!」
マナは健気に答える。5人が談話をする中で、サドは一人だけでうつむいていた。
_____
『ここで試合終了!……第9回の勝者はァッ!!
“無双の麒麟児”【ディオン】ッッ!!!
賞金1000Uドルを贈呈します!そして【ライト】クラスの参戦権のライセンス、マスタークラス感謝祭のロボット引換券をプレゼント!
スケジュールによりインタビューは避けるが、【ライト】クラスでも挑戦待ってるぜ!』
「すげぇじゃんか!!ナイス!」
サドは退場した。どうやら受付でもらえるらしい。レイがハイタッチを要求する。サドは渋々やった。
「マナちゃん……ドンマイドンマイ。【ビギナーズ】でもこれだけの人気だ。この時点で色んな猛者がいる。勝つのはとっても難しいことだ。
でも君は若いから色々学べる!先輩達のプレイを見て成長していこうぜ!最初は真似からやってみるもんだ!
勝ってみんなに見返してやろうぜ!」
「……うん!」
マナも敗北から立ち直った。とても強い心を持っている。サドはその強さを羨ましく思う。
席に戻るも3人の姿は見られなかった。
「……多分外出だと思いますね。」
「せっかくディオン君が勝ったのにか!?マジすか……。」
「………。」
サドは先に仕度を済ませて1人で出ていこうとする。サドには用事がある。
「あの、僕は受付で賞品をもらったり、仲間と連絡を取ったりするので、先に外に出て3人を探してもらってもよろしいでしょうか。」
「合点承知!」
レイが笑顔で快く引き受けてくれた。
「“昨日の敵は今日の友”……“今日の味方は明日の敵”だ!」
(あの時の事まだ根に持ってんのか……?)
しかしこの街において、この台詞はあながち間違っていない。結局ここにいる3人は勝手に集められただけで、特に関係を持っていないからだ。
「頼みましたよ。」
サドは先立つ。
受付へと向かう前に、休憩所付近にてタイタン号の様子を把握する。左腕不随のダメージを負っているが、自動操縦状態であり、無事動いているそうだ。
(……油線を買っておいてよかった。それに自動操縦ということは、機械霊を倒したんだね。)
「……優勝報告、まず誰にやるんだ?」
サドは後方をゆっくりと振り向く。そこには1人の大きな女性がいた。金髪で、色白の美女であった。それにも関わらず、まるで顔見知りのようにサドは睨む。
「なんつー顔しやがる……せっかくの勝利だってのにさ。ほら、喜べよ。」
「……エンダー家長女の、【ポーラ・エンダー】さん……ですよね。」
「知っているのか?若いのに政治熱心だな。勤勉で良いことだ。
私の目的が何か知りたげな顔のようだな?」
サドは黙秘を保つ。寡黙な彼に対して、ポーラはご親切に説明を始める。
「私はここの稼ぎ頭となるパイロットを、格安で手に入れるために来た。ここの自治区の賞金は、【シニア】クラスになると億超えになることもある。
投資は今まで散々やってきたけど、選手を育成するのはこれが初めてでね。お前はその一人になる……はずだった。」
ポーラは鼻で笑い、サドを推し量る。
「もし、お前が潔白ならすぐにでも従えたいところだ。【HFRキャンプ】で科学者を守り抜いた“元”レジスタンスならな。だが……その表情じゃまだ付き従ってるようだな。」
サドに近づき、小声で話す。
(……反社に資金援助する気はねぇよ。当たり前だが、科学者だろうが、被検体だろうが、敵は敵だ……【サド・キャンソン】。)
サドはポーラから目を逸らさずも黙る。互いの名前は知られているのだ。ポーラは不敵な笑みを浮かべてすぐ後ろの従者に向けて話す。
「よぉく拝んでおけ。コイツは私とも面識があるレジスタンスの“科学者”様だ。」
「科学者……あの事故の生き残りですか?」
「そうだ。どうやって出てきたのかは野暮な質問だから聞かねぇよ。仲良かったそうだったからなぁ。
……その中でもこいつは群を抜いて狡猾。幼いときに【ダストサンド】で、大の女に殴られ蹴られ、姉さえも攫われた。そのまま助けずに、コイツは姉を見捨てた。
そんで……キャンプの本部に来たところ……自分がロボに乗っておきながら、【HFRキャンプ】のガキ共を見捨てたわけだ。無能過ぎて笑っちまうよ。
……お前について…向こう陣営の人でも、“あいつは使えねぇガキだ”ってよく言ってくるもんだ。
更には、“他人の命を踏み台にして生き延びているクズ野郎”とも言ってたな。
弟がこうも不出来だと、姉貴もさぞ無念だったろうなぁ?」
「………。」
サドは目を逸らした。仲間も身内も守れない自分に対して、ポーラは彼の過去を容赦なく抉ってくる。
「……辛いか?辛いだろうよ。」
ポーラは彼の目を追うように見つめる。
「ここで大事にするのも、民衆が混乱する上に、自治区の顔も立てられねぇ。有力なエンジニアも見つけたところだ。今回は大目に見ておいてやる。
次、遭うときまで答えを待つ……その時まで、自首する決心でもしておけ。」
ポーラと従者はこの場から立ち去った。サドは気落ちしながら歩いていく。緊張と不安に縛られつつ、受付へと向かう。
_____
「……ディオンくん!!」
「えっ、あっ!はい!」
「これからどないするん?もう4人解散したんやけども!」
「すみません!急いで準備します!」
サドはライセンスと金と引換券をバッグに急いで入れる。メニは詮索する。
「そんなに考え込んで……仲間でも心配しとるんか?向こうに家族でもおるんか?」
「……試合前の報告で、機械霊に襲われてしまったんです。強い仲間が守ってくれたのでもう大丈夫らしいのですが……大きなダメージを受けているので、心配です。
これから仲間の命令でロボットを引き換えたり、賞金で引き続き買い物を続けるつもりです。」
メニは一息つきながら話す。
「つまり“パシリ”っちゅーことかい。そこまで乱雑に扱うとはなぁ。」
「でも…強い仲間と一緒に旅ができて……すごく嬉しいです。
その人のためにと思うと……いくらでも頑張れる気がします。」
サドの瞳は強く輝いている。暗い表情が一気に晴れ晴れしくなった。
メニは彼を見て、ひとつ案ずる。
(こんな……強いし、若いし、優しくて……侠客の一人やけど、それでいてパシられるチンピラ級やもんな……奴らにはもったいないわ。
……強いお仲間さんに免じて、一人ぐらい……取っても構わんよな?)
「なぁ、一緒に買い物してもいいんか?私もディオン君に付いていったら……ダメなんか?」
「誰もそうとは言いってません。……この街だけですよ。」
メニがついて行くことになった。どう考えても怪しい気がするが、紹介してくれた恩情でサドは彼女を許すことにした。
2人は場所を移す。賞金をもらったので更に買えるものが増える。
(この街は機械に詳しい分、良い義肢も安く売られているな……レオにも必要かも……ちょっと高いのにしよっかな)
937Uドルの一般義手。通常価格と同等だ。義手のタイプは【L-OH-V_黒】である。レジスタンスの標準と同様のタイプで、通常の生活にも溶け込める黒い義手だ。かっこいい。
「……たっか……。これ買うつもり?」
「店員さん呼ぶか。……すみません!」
機械を行っている店員を呼ぶ。
「はい、お呼びでしょうか?」
「すみません。この義手を少し安くすることはできませんか?あまり資金もなくて……姉に買うプレゼントの義手にします。」
「んん………900Uドルでいいかな?」
「浮かせていただいた代金は手入れに必要なものに使わせていただきます。しかし家族に他にも頼まれていまして……
この製品は強固な人気を誇る、売れ筋の製品だと伺っております。そして、レジスタンスに買い占めを行われてしまい、売り切れになる実情もあります。
遠い砂漠を越えて、ようやく見つけたものです。帰りも長くなると思います……。ガソリンも必要になります。申し訳ありませんが、もう少しだけ、安くしていただけたら幸いです。」
「ディオン君………」
サドは店員の顔色を伺わない。自身のそのままの心境を彼に伝えた。そして店員は答える。
「800Uドル。これ以上は下げられねぇ。」
「…ありがとうございます。」
サドは義手を手に入れた。そして中性液体洗剤と、ガーゼ、包帯などのものと合わせて、計825Uドルとなった。あと175Uドルである。
サドは会計を済ませた。
「……過酷な環境で生きとるんかぁ。君も大変やなぁ。」
「事実を言ったまでです。実際に機体で参りましたし、姉もいます。ガソリンもほしいところです。次はロボット……。」
サド達はエリアを歩き回った。その道中でメニから話しかけてきた。
「……なぁ?君は1人で戦うんか?」
「戦うときもあります。」
「仲間の尻に敷かれて、そんな無茶なコトを押し付けられるっちゅうことは、下っ端だとよくある事やな。
……普通、パイロットはエンジニアと二人三脚で動くもんや。そっちの方がよく勝てるし成長できる。
この街のエンジニアも、今の私と同じように…スカウトしてよく探しとるんよ……。」
メニは立ち止まり、サドに言う。
「引き続き、私とタッグを組んでみんか?この2人ならどこまでも上に行けるやろ。もう上にパシられる心配もないし、こっちの方が姉の資金も集まるやろ。
いいと言うまで、帰させへんよ……。」
サドは困るふりをしながらデータを送っていた。本当はすぐにでもロボを買って帰りたい。候補のロボも決めたところなので、レオに連絡する。
「姉に連絡します。」
「ええよぉ?」
レオは反応してきた。
『……データ見たけどさ、黒いのはありかもな。通常武装は?』
「アストラルストームの【フレアハリアー】。通常武装は後付けではない【電磁砲】と【ビームソード】。そしてアクセサリーの【スフィアシールド】。とっても頼りになると思う!
……これでいいかな?」
『それにしてくれ。』
「レオは……大丈夫だった?」
サドは尋ねる。レオは答える。
『……義手はあるか?』
サドは青ざめた。
「今すぐ向かう!」
サドはメニを置き去りにしようとした。
「おい!どこいくねん!」
「ごめんなさい!ロボ引き換えてからすぐに行かなきゃ!」
「待っで!!!そんな別れ方はないやろ!ここまで来といてそんな展開あるん!?」
サドはすぐに店の中に入った。直ちに用事を済ませて、例の場所にすぐ持っていくようお願いもした。
サドはとにかく急いだ。走った。メニの姿が見えなくなるまで。
「サドぐううぅぅんん!待っでぐれぇぇぇぇぇッッ!!!おおおおい!!」
サドは駐機場に戻った。約束通りに、例の機体が送られていた。そしてその近くにある若者がいた。
「坊っちゃん!いかがたったっすか?」
「一試合、お試しでやってきました。これ駐機券です。」
「そうすか……一人でもこの競技に触れてほしいのもあって、そういう形で行われるマッチもここにはある……
それより、ここに持ってきたってことは急ぎの用事すかね?」
「人手が足りないんです。ロボットを送り届けることはできませんか?」
「200Uドルです。」
(あと10Uドル……チュロスとか買う暇なかったな……危ない危ない。)
サドは少し焦るも、丁度支払った。
「毎度あり。1人と機体1台用意おなしゃす!」
「うぃ~~っす!!」
遠くから声が聞こえた。この街で準備すべきことは尽くした。それ以上の収穫を、サドとレオはこなしたのだ。
下請けがスポンサーの情報網となり、金の力で無理やり人材を奪われることは、この街ではよくあることだ。
今のサドの現状を見ての通り、様々な界隈の人から引っ張り凧にされる。たまに殴られかけることもあるが、今のところはなんとか無事である。彼はあの3人組を探しているところだ。
「お疲れっす!」
「お疲れ様です!」
「おつー!ちょっと顔暗いなぁ……」
「ディオンぐゔゔぅぅぅぅんん!!!」
メニが嬉し涙で顔を満たしながら、サドの胸に飛び込んできた。サドは偽名である“ディオン”として仕方なく付き合う。
(……最悪……めっちゃ濡れた。)
「ぉめでどぉうぁあああ!!」
「勝ったんですからそんな……」
「だっでぇ!だっで、君が勝てんかったら……明日、あだしだちは……」
「それ以上は……ここで言うな、メニ。絶対にやられるぞ。」
「……う……うぁぁあああ!!」
カナンはメニを引き剥がした。サドはカナンの台詞で推測する。
(……やっぱり隠しているな。でも引換券あるし深く詮索しないでおくか。)
確信したサドに、レイが尋ねる。
「……なぁ、その……ライセンスとかってもう渡されたのか?貰ったなら、ちょっと見せてもいいすか?」
「了解です。」
サドはテーブルに近づき、ライセンス、賞金の1000Uドル、ロボット引換券を出した。
「……すごい……。」
「かっけぇ……!次は【ライト】級か!」
「2人もいつか、こういう感じのライセンス持てるはずだって!マナちゃんも……。」
「……うん!」
マナは健気に答える。5人が談話をする中で、サドは一人だけでうつむいていた。
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『ここで試合終了!……第9回の勝者はァッ!!
“無双の麒麟児”【ディオン】ッッ!!!
賞金1000Uドルを贈呈します!そして【ライト】クラスの参戦権のライセンス、マスタークラス感謝祭のロボット引換券をプレゼント!
スケジュールによりインタビューは避けるが、【ライト】クラスでも挑戦待ってるぜ!』
「すげぇじゃんか!!ナイス!」
サドは退場した。どうやら受付でもらえるらしい。レイがハイタッチを要求する。サドは渋々やった。
「マナちゃん……ドンマイドンマイ。【ビギナーズ】でもこれだけの人気だ。この時点で色んな猛者がいる。勝つのはとっても難しいことだ。
でも君は若いから色々学べる!先輩達のプレイを見て成長していこうぜ!最初は真似からやってみるもんだ!
勝ってみんなに見返してやろうぜ!」
「……うん!」
マナも敗北から立ち直った。とても強い心を持っている。サドはその強さを羨ましく思う。
席に戻るも3人の姿は見られなかった。
「……多分外出だと思いますね。」
「せっかくディオン君が勝ったのにか!?マジすか……。」
「………。」
サドは先に仕度を済ませて1人で出ていこうとする。サドには用事がある。
「あの、僕は受付で賞品をもらったり、仲間と連絡を取ったりするので、先に外に出て3人を探してもらってもよろしいでしょうか。」
「合点承知!」
レイが笑顔で快く引き受けてくれた。
「“昨日の敵は今日の友”……“今日の味方は明日の敵”だ!」
(あの時の事まだ根に持ってんのか……?)
しかしこの街において、この台詞はあながち間違っていない。結局ここにいる3人は勝手に集められただけで、特に関係を持っていないからだ。
「頼みましたよ。」
サドは先立つ。
受付へと向かう前に、休憩所付近にてタイタン号の様子を把握する。左腕不随のダメージを負っているが、自動操縦状態であり、無事動いているそうだ。
(……油線を買っておいてよかった。それに自動操縦ということは、機械霊を倒したんだね。)
「……優勝報告、まず誰にやるんだ?」
サドは後方をゆっくりと振り向く。そこには1人の大きな女性がいた。金髪で、色白の美女であった。それにも関わらず、まるで顔見知りのようにサドは睨む。
「なんつー顔しやがる……せっかくの勝利だってのにさ。ほら、喜べよ。」
「……エンダー家長女の、【ポーラ・エンダー】さん……ですよね。」
「知っているのか?若いのに政治熱心だな。勤勉で良いことだ。
私の目的が何か知りたげな顔のようだな?」
サドは黙秘を保つ。寡黙な彼に対して、ポーラはご親切に説明を始める。
「私はここの稼ぎ頭となるパイロットを、格安で手に入れるために来た。ここの自治区の賞金は、【シニア】クラスになると億超えになることもある。
投資は今まで散々やってきたけど、選手を育成するのはこれが初めてでね。お前はその一人になる……はずだった。」
ポーラは鼻で笑い、サドを推し量る。
「もし、お前が潔白ならすぐにでも従えたいところだ。【HFRキャンプ】で科学者を守り抜いた“元”レジスタンスならな。だが……その表情じゃまだ付き従ってるようだな。」
サドに近づき、小声で話す。
(……反社に資金援助する気はねぇよ。当たり前だが、科学者だろうが、被検体だろうが、敵は敵だ……【サド・キャンソン】。)
サドはポーラから目を逸らさずも黙る。互いの名前は知られているのだ。ポーラは不敵な笑みを浮かべてすぐ後ろの従者に向けて話す。
「よぉく拝んでおけ。コイツは私とも面識があるレジスタンスの“科学者”様だ。」
「科学者……あの事故の生き残りですか?」
「そうだ。どうやって出てきたのかは野暮な質問だから聞かねぇよ。仲良かったそうだったからなぁ。
……その中でもこいつは群を抜いて狡猾。幼いときに【ダストサンド】で、大の女に殴られ蹴られ、姉さえも攫われた。そのまま助けずに、コイツは姉を見捨てた。
そんで……キャンプの本部に来たところ……自分がロボに乗っておきながら、【HFRキャンプ】のガキ共を見捨てたわけだ。無能過ぎて笑っちまうよ。
……お前について…向こう陣営の人でも、“あいつは使えねぇガキだ”ってよく言ってくるもんだ。
更には、“他人の命を踏み台にして生き延びているクズ野郎”とも言ってたな。
弟がこうも不出来だと、姉貴もさぞ無念だったろうなぁ?」
「………。」
サドは目を逸らした。仲間も身内も守れない自分に対して、ポーラは彼の過去を容赦なく抉ってくる。
「……辛いか?辛いだろうよ。」
ポーラは彼の目を追うように見つめる。
「ここで大事にするのも、民衆が混乱する上に、自治区の顔も立てられねぇ。有力なエンジニアも見つけたところだ。今回は大目に見ておいてやる。
次、遭うときまで答えを待つ……その時まで、自首する決心でもしておけ。」
ポーラと従者はこの場から立ち去った。サドは気落ちしながら歩いていく。緊張と不安に縛られつつ、受付へと向かう。
_____
「……ディオンくん!!」
「えっ、あっ!はい!」
「これからどないするん?もう4人解散したんやけども!」
「すみません!急いで準備します!」
サドはライセンスと金と引換券をバッグに急いで入れる。メニは詮索する。
「そんなに考え込んで……仲間でも心配しとるんか?向こうに家族でもおるんか?」
「……試合前の報告で、機械霊に襲われてしまったんです。強い仲間が守ってくれたのでもう大丈夫らしいのですが……大きなダメージを受けているので、心配です。
これから仲間の命令でロボットを引き換えたり、賞金で引き続き買い物を続けるつもりです。」
メニは一息つきながら話す。
「つまり“パシリ”っちゅーことかい。そこまで乱雑に扱うとはなぁ。」
「でも…強い仲間と一緒に旅ができて……すごく嬉しいです。
その人のためにと思うと……いくらでも頑張れる気がします。」
サドの瞳は強く輝いている。暗い表情が一気に晴れ晴れしくなった。
メニは彼を見て、ひとつ案ずる。
(こんな……強いし、若いし、優しくて……侠客の一人やけど、それでいてパシられるチンピラ級やもんな……奴らにはもったいないわ。
……強いお仲間さんに免じて、一人ぐらい……取っても構わんよな?)
「なぁ、一緒に買い物してもいいんか?私もディオン君に付いていったら……ダメなんか?」
「誰もそうとは言いってません。……この街だけですよ。」
メニがついて行くことになった。どう考えても怪しい気がするが、紹介してくれた恩情でサドは彼女を許すことにした。
2人は場所を移す。賞金をもらったので更に買えるものが増える。
(この街は機械に詳しい分、良い義肢も安く売られているな……レオにも必要かも……ちょっと高いのにしよっかな)
937Uドルの一般義手。通常価格と同等だ。義手のタイプは【L-OH-V_黒】である。レジスタンスの標準と同様のタイプで、通常の生活にも溶け込める黒い義手だ。かっこいい。
「……たっか……。これ買うつもり?」
「店員さん呼ぶか。……すみません!」
機械を行っている店員を呼ぶ。
「はい、お呼びでしょうか?」
「すみません。この義手を少し安くすることはできませんか?あまり資金もなくて……姉に買うプレゼントの義手にします。」
「んん………900Uドルでいいかな?」
「浮かせていただいた代金は手入れに必要なものに使わせていただきます。しかし家族に他にも頼まれていまして……
この製品は強固な人気を誇る、売れ筋の製品だと伺っております。そして、レジスタンスに買い占めを行われてしまい、売り切れになる実情もあります。
遠い砂漠を越えて、ようやく見つけたものです。帰りも長くなると思います……。ガソリンも必要になります。申し訳ありませんが、もう少しだけ、安くしていただけたら幸いです。」
「ディオン君………」
サドは店員の顔色を伺わない。自身のそのままの心境を彼に伝えた。そして店員は答える。
「800Uドル。これ以上は下げられねぇ。」
「…ありがとうございます。」
サドは義手を手に入れた。そして中性液体洗剤と、ガーゼ、包帯などのものと合わせて、計825Uドルとなった。あと175Uドルである。
サドは会計を済ませた。
「……過酷な環境で生きとるんかぁ。君も大変やなぁ。」
「事実を言ったまでです。実際に機体で参りましたし、姉もいます。ガソリンもほしいところです。次はロボット……。」
サド達はエリアを歩き回った。その道中でメニから話しかけてきた。
「……なぁ?君は1人で戦うんか?」
「戦うときもあります。」
「仲間の尻に敷かれて、そんな無茶なコトを押し付けられるっちゅうことは、下っ端だとよくある事やな。
……普通、パイロットはエンジニアと二人三脚で動くもんや。そっちの方がよく勝てるし成長できる。
この街のエンジニアも、今の私と同じように…スカウトしてよく探しとるんよ……。」
メニは立ち止まり、サドに言う。
「引き続き、私とタッグを組んでみんか?この2人ならどこまでも上に行けるやろ。もう上にパシられる心配もないし、こっちの方が姉の資金も集まるやろ。
いいと言うまで、帰させへんよ……。」
サドは困るふりをしながらデータを送っていた。本当はすぐにでもロボを買って帰りたい。候補のロボも決めたところなので、レオに連絡する。
「姉に連絡します。」
「ええよぉ?」
レオは反応してきた。
『……データ見たけどさ、黒いのはありかもな。通常武装は?』
「アストラルストームの【フレアハリアー】。通常武装は後付けではない【電磁砲】と【ビームソード】。そしてアクセサリーの【スフィアシールド】。とっても頼りになると思う!
……これでいいかな?」
『それにしてくれ。』
「レオは……大丈夫だった?」
サドは尋ねる。レオは答える。
『……義手はあるか?』
サドは青ざめた。
「今すぐ向かう!」
サドはメニを置き去りにしようとした。
「おい!どこいくねん!」
「ごめんなさい!ロボ引き換えてからすぐに行かなきゃ!」
「待っで!!!そんな別れ方はないやろ!ここまで来といてそんな展開あるん!?」
サドはすぐに店の中に入った。直ちに用事を済ませて、例の場所にすぐ持っていくようお願いもした。
サドはとにかく急いだ。走った。メニの姿が見えなくなるまで。
「サドぐううぅぅんん!待っでぐれぇぇぇぇぇッッ!!!おおおおい!!」
サドは駐機場に戻った。約束通りに、例の機体が送られていた。そしてその近くにある若者がいた。
「坊っちゃん!いかがたったっすか?」
「一試合、お試しでやってきました。これ駐機券です。」
「そうすか……一人でもこの競技に触れてほしいのもあって、そういう形で行われるマッチもここにはある……
それより、ここに持ってきたってことは急ぎの用事すかね?」
「人手が足りないんです。ロボットを送り届けることはできませんか?」
「200Uドルです。」
(あと10Uドル……チュロスとか買う暇なかったな……危ない危ない。)
サドは少し焦るも、丁度支払った。
「毎度あり。1人と機体1台用意おなしゃす!」
「うぃ~~っす!!」
遠くから声が聞こえた。この街で準備すべきことは尽くした。それ以上の収穫を、サドとレオはこなしたのだ。
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SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
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