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Chapter_1:旅の心得

Note_11

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 タイミングが悪いと死ぬ。技術が発達した今の時代でも同じである。特に移動に関しては、AIが施された惑星による不安定な気候も考慮した上で、天運に任せて動かなければならない。

 レオとサドは時間を気にしつつ、【タイタン号】がある格納場に入ってきた。左足の非常口が開いており、彼らを待っていた。


『7分遅刻だ。急いで入れ。』


 二人はタイタン号の中に入った。サドが非常口を閉ざす。

 中を見ると、多くのロボットがコンパクトに格納されており、落ちてこないようにしっかりと支えられている。


「中身が…すごいな…」

「1万年も前なのに…技術だけでここまでのロボットを…まるで空母…どうりで政府が恐れているわけだ。」

「これをオンボロだからと、タカを括った政府か…もったいないな…」

「でも大丈夫?整備がちゃんと行き届かないと脱出すら無理だと思うけど。」

「そこら辺は、先輩達に任せてる。アンタも一緒にやってみるか…?」

「手伝えるなら。」


 二人はエレベーターの前に来て、レオがボタンを押すも、何も反応がない。何度押しても、光ることがなかった。


「「?」」

「おかしいな…。長押しも、連打もいかねぇ…」


 二人は理由を探る。他にエレベーターもない。サドが察してしまい、脱力する。


「どうした?」

「……多分、エンジンかかったら上にあがれないやつかもしれない。」

「はぁ!?んじゃあどうすんだよ!こんな場所で脚とか動かされたら、少なくとも私は一発で終わりだろ!」

「多分…

“遅刻したら安全な脱出は見込めない”

ってこういうこと!?」

「地上に出すまで10分だろ!?安全な場所を見つけろ!」

「ええと…」


 サドは上を向いて探した。すると制御室らしき場所が上に置かれていた。階段で登ることができる。


「あそこ!あの四角い部屋が天井低いし安全だと思う!底も上もしっかりしているし!」

「本当か?…信じるぞ。」

「それ言われると、こっちも心配になってくるんだけど…」

「本当に!いいな!?」

「……先輩達を信じよう!」

「決まりだ…っ!?」


 突然、レオは体のバランスを崩された。どうやら地上に向かっているようだ。


「……マジで勘弁してくれよ…。」

「無断で出ていった上に、30分前集合破ったから…まあ酷いことになるとは知ってたけども!」


 姉弟は上の部屋を目指し、階段をのぼる。


_____


 エリウス中尉は集中していた。遠方の様子、【団子虫ダンゴムシ型】機械霊の様子を観測していた。このままならば、無事いけると考え、機を狙う。

 一方でケンリー少将は深く、悩んでいた。


『少将!警官用ロボットの火災により目的地へ迎えません!このままでは私達の部隊が!』

「少将!偵察隊が巨大ロボットの出現を確認いたしました!」


 少将は恐れていた。


「まさか、エンダー家の者がいたとはな…儂らが先に目をつけたところを姑息な…。そこにエンダー家がいる以上、退避するしかないようだな…。

捕らえたレジスタンスを拘束して検挙せよ。あくまでレジスタンスは反乱軍。それを尊ぶものは内乱陰謀および共同正犯に当たるからの…。

エンダー家とは難しい関係ではあるが…星の平和を乱すものを止めるのが先決じゃろう。」


 エンダー家の介入に恐れ、部下を一旦退かせる。ただし、表のレジスタンス部隊を逃すことはなかった。

 タイタン号が起動する以上、軍部が彼らを止められる手段は、もはや1つしなかった。


「エリウス中尉よ。」

「……少将、お呼びでしょうか。」

「おう。今この軍には、あのロボットに相対するロボットは持ちえない。だが、止められる手段は1つだけある。」

「まさか…【雷光砲】とおっしゃられるわけではありませんよね…?」

「そのまさかだ。」

「いけません、少将。雷光砲は一発のみの猶予。巨大ロボに使えば、機械霊に対抗する手段はありません。」

「だから、“余裕があれば”の話だ。危険な距離に来る前に、丁度巨大ロボと機械霊の照準を合わせることはできるかの…?

敵の度量にもよるが、お主に見極めることができたら2階級以上の昇進は間違いない。危ない場合は機械霊のみをやるとよい。

射程から危険範囲を除き、我々の方向からその更に約3分の2の距離差し引いた部分を猶予としよう。それなら即断できるだろう。…健闘を祈る。」

「…了解いたしました。」

「偵察班、巨大ロボはどれぐらい顔を出している?」

「ただいま午前3時57分現在、間もなく100%表出します。」

「来たか…」


 中尉は持ち場につく。


_____


 コーヴァスは【タイタン号】のパイロットである。【EDSダストサンドキャンプ】において、唯一の“戦闘員”であり、かつ300メートル級の巨大ロボの【臨時ハンドル】を扱える唯一で貴重な人材でもある。

 彼がなぜリーダーなのか、それは彼が唯一“本部”から来たメンバーであるからだ。


「……サド君。君達の技術、しかと受け止めた。

【プラズマネットワーク】、オン。」


 スイッチをオンにすると、電子マップが目的地の位置を探り出す。その間にある天候状況や風速、更には遠方にいる機械霊の情報も探り当てた。

 第2人工惑星は現在、他の惑星との送受信ができなくなっており、原因は連合の調査でも未だ不明である。本技術はこの惑星のAIを経由して、情報調達が可能なレジスタンスの技術である。

 コーヴァスは機体内、および他の場所に対してもアナウンスする。


「現在、午前3時58分。定刻より早いが、これよりEDSキャンプより、【タイタン号】を発進する。

搭乗者およびサブキャンプ陣営に告ぐ。

本来、午前9時サブキャンプ到着予定だが、政府軍の進行、機械霊との相対、脚部に2名のメンバーがいることから、安全確認次第、途中で停止し、直ちに救出、そして再度発進する。そのため予定時刻より数十分の遅れが出る。

繰り返す…」


 コーヴァスは丁寧に報告し、その音声はその“2人”にも届いていた。


『リーダー!アンタ大概に…』

「おう!元気だったか?コントロールパネルまで来たらもう安全だぞ♪」

『コーヴァスさん!ここだとまだ完全には…』

「そこの設備はある程度の傾きならまっすぐ保ってくれる。真っ逆さまになったらごめんだが、いい加減、二人とも俺の腕を信じてくれよ~!頼むから!

二人で仲良く下に隠れな!」


 コーヴァスは半ば笑いながら対応する。


「……丁度、午前4時…行くぞ!」


 目つきを変え、アナウンスを終了する。

 タイタン号は、背中からジェットを噴射し、足裏にも若干の熱を出すホバー型の機構を10万年前から採用している。

 街にジェットが当たらないよう、街にロボットが走らないよう十分注意した上で、発進した。どうやら発進はうまく行ったそうだ。

 機会霊が見えてくる。既に丸まっており、突進を始めたところであった。

 再びアナウンスを行う。


「皆々、今日の【タイタン号】は、レジスタンスの科学技術、エンジニア達の巧みな腕前、パイロット達の資源調達により、蘇った。

そしてその中には、今は亡きレジスタンスの科学者達が遺した技術も含まれている。その証人として、【サド・キャンソン】も生きている!

我々、レジスタンス全メンバーは科学者達への弔いと、我々の名誉向上のため!政府を打倒する!!目指すは中枢【CTPセントラルタワープラント】!!レジスタンスに栄光あれ!」


 機体内に歓声が響きわたる。目指すは中枢、旅の第一歩が始まる。

 しかし、コーヴァスとしてはこの機会霊を倒さずには旅の一歩を踏み出せない。


「かかってこい!街の仲間に傷ひとつ、つけさせはしない。」


 機械霊に挑発する。挑発せずとも、機械霊は獲物の大きさに目がくらみ、こちらに来てくれる。

 政府は巨大ロボに機械霊が突っ込む状況に備えて、兵器を構える。


「射程圏内にて重なります!」

「射程外付近だ!狙いはあくまで機械霊に定めろ!」


 政府としても機械霊の大打撃を受けるのは避けたい。しかし機械霊だけでは、レジスタンスが外で暴れる可能性がある。両方討ち取りたいのが本音だが、猶予は一回。外すことは許されない。


「チャンスを逃すなよ!」

「雷光砲チャージ完了!発射できます!」


 あとは中尉が発射を要請するのみ。タイミングは早くても遅くてもダメ。一回のミスが政府の滅亡につながる。中尉の責任は重いものであった。

 しかし、中尉は雷光砲に関する腕は確かであり、少将も信頼においている。慌てず、落ち着いて、狙いを定める。

 機械霊が突っ込み、タイタン号は押されながら受け止める。地に足をつけ、強引に止めようとする。砂塵が宙に舞い、大型機体達の動きが止まった。


「上等だ…。」


 タイタン号は丸まった機械霊に対して、隙間に指を入れてこじ開けていく。そして、腕を中に入れる。


「手始めだ…光線銃を試させてもらうぞ。」


 タイタン号の掌から光線が放たれる。機械霊は、殻の中で爆発した。

 タイタン号は頑丈にコーティングされており、無論平気である。機械霊は街の方向に吹き飛ぶ。ここで、コーヴァスはあることに気づく。


「…やべ。」


 コーヴァスは直ちに反応して街を去る。

 政府は狙いを“一直線”に定めた。この瞬間を逃すことはない。機械霊と巨大ロボ、一発で倒す…それが任務である。


「……撃て!!!」



 雷光砲は一直線に、存在するものすべてを一息に吹き飛ばした。タイタン号は横にジェット噴射させ、間一髪のところを避けきった。



 光が徐々に消えていく中、政府は遠方を確認する。機械霊は倒した。しかし、タイタン号は立っている。右手でサインを出し、射程範囲外へと出た。


「機械霊の破壊…任務達成…。

レジスタンスの殲滅…任務失敗…。

結果…レジスタンスを先に行かせてしまいました…。」


 エリウス中尉はやりきれない気持ちでいっぱいであった。少将はそれを聞いて、これからの話をする。


「……そうか。そうか。

儂には向こうのパイロットが、咄嗟の判断で操縦を行ったように見える…。奴らのほうがほんの一歩、上手だった。

機械霊の破壊、ご苦労。素晴らしい指示と精度、君の部隊にはいつも感服させられる。

…レジスタンスに関しては保険をかけている。この街から逃げ出したときのために、3年ほど煮詰めておいたスパイがいる…。

……ここからは儂が直接出よう。機械霊討伐任務は達成…ご苦労であった。あとは任せたまえ…。以上だ…。」


 ケンリー少将はこの場を去る。中尉は敬礼を忘れず、少将を心配しつつ、勇姿を見届けた。


_____


 タイタン号は、一時停止している。岩陰に座り込むように止まっていた。

 キャンソン姉弟が球状コロニーに入場するための時間である。エレベーターで、球状コロニー1階のメインホールに着いた。サドがレオの肩を組んでいた。レオは気落ちしながら言う。


「遅刻…やっぱダメだな。さっきのスライドで完璧にいったと思った。マジでありえねぇ…」

「おまけにエレベーターというか、ゴンドラというか…あれでもう一度やりかけたの、本当にびびったんだよ…。」

「左手ぶつけたけど大丈夫か?…なんかついてるけど…」

「これは…リリアのときの…」


 痣ひとつ付いていない。よく見ると、燃料が引っ付いて汚れていただけだった。


「……平気。今日はもう、寝よう…。」

「ロボットも寝るもんなのか?電源とか切るタイプなのか…?」

「多分、“僕”が寝る。P-botピーボットとしての【スリープモード】みたいな感じ。」

「……まあいい。早く部屋に行こうぜ…」


 姉弟がメインホールを出ようとしたところに、コーヴァスとグロリアがやってきた。


「おう!無事だったようだな!」

「リーダー…これを無事とでも言うんですか?うぅ…」

「わりっ!敵も精確に撃ってくるもんだから、ターボ使っちゃった。結果的に全員生きてキャンプを…」


 グロリアが姉弟を一緒に抱く。


「……本当っ、人騒がせなんだから…!あなた達が巻き込まれていたら…

戦争なんか…そうそう上手く行かないわよ!今、生きているのは本当に…奇跡なのよ…」


 グロリアはより強く二人を抱き締めた。コーヴァスは、二人に激励の言葉をかける。


「よく…生きてここに来てくれた。

レオは機械霊との戦いで、腕を上げてきた。その技術は幹部以上の実力も備わっている。

サド君も知識も腕も、ちゃんと本部で磨いてきたかいがあるな。それに何より…よく戦った。これからも、頼りにしてるぞ。」


 二人は気を引き締めた。戦争を知らない者と、戦争から逃げた者。彼らはともに旅の心得をむねに秘め、戦場へと赴く。


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