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Chapter_1:旅の心得
Note_10
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恐怖、逃避、悲劇。狂乱のB5階に残る暖かい空気は、残火と、呼吸と、硝煙もどきがかき混ぜられたものであった。
廊下の暖かさは、見かけとは裏腹に、まるで天国のように優しい心地であった。絶望に泣くには丁度良く、起きているものは皆、涙を落とした。
彼らを除いて…
『……やはり、見届けて正解でしたわ。』
もはや、ロボットの正体は言うまでもない。リリアであった。コクピットから顔が見えている。レオは話す。
「……そんなロボットで何しようってんだ…?」
『あらあら///、このご時世、ロボットを使わない戦争はもはや存在しませんわ。それをお思いになさらないで、とても愛らしいこと。
私もレジスタンスを一捻りしたいと存じまして、軍からロボットを一台、支給して参りましたわ。
5メートル汎用移動兼特殊警察機体【クラスA-e型】。政府が贔屓している、【Majin社】の【クラスシリーズ】最新型。無論、マニュアルですわ。』
淡々と話を進める中で、レオは左手に緊急用光線銃を構える。
「セールストークは他所でやれ。」
『せっかちなこと…なら端的に申しましょう。このロボットで…
・タイタン号内の乗務員を殲滅すること。
・キャンソンの子息二人を排除すること。
・他の貴族に露わにされないようこなすこと。
……それが、私の任務ですわ。タイタン号の中に侵入し、このロボットで任務を全ういたしますわ。採寸も確認済み。大胆なロボットでレジスタンスの人間を……
……楽しみで た ま り ま せ ん わ~ !!!///』
二人はその機体の先程の勢いを、直に感じた人間である。絶対に彼女を先に行かせてはならない。レオは機体に光線銃を撃つ。無傷であった。
「行かせねぇよ。」
『……そういえば、あなたに名乗らせておきながら、私からは本名を申し上げませんでしたわね。
……【リリア・エンダー】。由緒正しき、六大貴族、エンダー家の末裔、7姉妹の第5女でありますわ。』
レオ…ではなく、今度はサドがその名を聴いて反応した。
「エンダー家のお嬢様…アルゴ・エンダーの手先?」
『アルゴ・エンダー “様” ですわ!雑魚ふぜいがっ!!!』
「……お前が…」
「アルゴは、キャンソンの姓を強く憎む。政府に攫われたときに、アルゴから雇われた奴らに何度も殺されかけた…。そのたびに逃げて、また元に戻って、味方が来るまでずっとそのループだった…。」
『……フフ…そういうことですわ。ですから、キャンソンと名乗られた皆様方を無き者とさせていただくために、私、張り切って私刑致しますわ!
今、銃を突きつけておられるあなた。今すぐにでも、【キャンソン】の姓を捨てて、彼を見捨てればあなたの命だけは見逃して差し上げますわ。共に任務なされた縁。私も有情の…』
「断る。」
レオは即断した。ハンマーを振りかぶり、ロボットに向けてぶち込む。
『キャッ!!』
ロボットは脚部に大きなダメージを受けた。鈍い音がリリアにまで響く。しかし、一見するとロボットには痣ができるほどでしかなく、何も状況は変わらない。
リリアは文句を言いたげだった。
『話の続きをしてもよろしくて?…先程の希望に満ちたお二方の表情、吐息、距離…とても尊いですわ~///
そして…それを絶望にして届けることは、更なる快感への、“最効率”の道のりですわ。
【キャンソン】の名を捨ててくださらないなら…つぶされ、紅く散る覚悟はよろしくて?』
リリアはロボットの武装を使う。弾丸は大きいが弾速は遅い。
サドは下に入り込み、左脛の装甲をスパナを使って外そうとする。思いっきり力を込めた。体中が若干赤くなるぐらい、本気だった。
「っ~!///」
大胆に一つだけ装甲が外された。晒された内側に向けて、レオはハンマーを使う。
『……遅いですわ。』
ロボットは上半身を回して二人を引き剥がす。それぞれ呼びかけ合う。
「レオ!」
「大丈夫だ!そっちは!?」
「大丈夫…」
「アアアアアアアアアアッッッ!!!」
一歩踏み込んだ途端、唐突に身体が痺れてしまい、レオは倒れた。
「あっ…あ…くっ…あ…」
「……【エレキネット】…!」
先程の銃弾の着弾点を中心に、円状に弧を描いて、青い光が点々と煌めく。対策しないまま触れると強力な電撃が襲う。
サドが直ちにレオのもとに向かう。リリアはレオのところまで歩き、右腕を上げる。
『あらあら。どのご時世でも、気に食われない方がいらしたら、生身の人間相手に機械で対抗されたらよろしくて?…こんなふうに!』
上げた右腕を人間めがけて叩き込む。間一髪、サドが救い出した。光線を2発撃ち込む。無論、無傷だ。
リリアは1つ疑問に思う。
(防護服もなしに動ける…?この電撃地帯を怯まず恐れず、助けだせるなんて…なるほど…)
軽い考察の上、リリアは結論づけた。
『身体に電気の耐性を持っておられて?これが俗に言う【完全体】…科学者のおっしゃられることはよく存じませんわ…
まるでロボットみたいですこと。人間の従順な下僕に相応しい。自分の命さえ顧みず、制御された心で反射的に身体を動かす…
今更、姉弟ごっこなされて、お人形遊びする年齢でもないでしょう!【レオ・キャンソン】とやら!』
2つ目の武装を開放する。小型ミサイルであり、一発でも人間が受け止めるには、あまりにも過剰なダメージだと予測できる。
『あなたがいくら彼を【サド・キャンソン】と呼ばれましても、結局は人間に記憶を植え付けて従順な動きをこなさせる…
人工知能にデータを与えて従順な動きをこなしていくことに大して変わりありませんこと。あなたは人間ではありませんわ。そして彼女と同様、【サド・キャンソン】でもない。』
サドはリリアになんと言われようと、目を離すことなく、黙って聞き流した。
レオは麻痺に苦しみながらもハンマーで支えながら、膝をついて話す。
「……サド、もしあんたが人間なら、私を使って突き進め。あの野郎に一泡吹かせろ。」
「うん。」
サドは頷く。空かさずリリアはミサイルを発射する。レオはサドの左手を繋いで走る。アースの役割としてレオを守ろうとした。
『まず手始めに3発…』
3発放たれるも、3発とも外れる。どうやらハッタリのようだ。
…と思いきや背後にて変形し、不安定ながらも後ろから追尾してきた。
サドは緊急用光線銃を使った。2発を命中させて爆発したが、3発目…安全装置が働き、撃つことができなかった。
…爆発した。直撃すればロボットに傷を負わせられる。人間は言わずもがな。
『“悪”のみを狙う変形追尾型【AIミサイル】。レジスタンスの人間を名乗るお二方に対して最適な代物ですわ。
……あっけない終わり方で…!?』
リリアは自身の機体が示す、敵の反応に気がついた。煙の中、彼らは生きていた。
サドが爆風からレオを守り、レオが左手で、同じ光線銃で撃ち落とした姿を捉える。レオが先頭に出て、右手で弟の左手と繋ぎ直した。そしてサドに助言する。
「この銃は2発撃ったら、ひと呼吸置いてから撃て。一撃で決めるための切り札ってのが、本来の用途だからな…」
二人は電撃地帯を駆け抜ける。リリアは次々とエレキネットを地面に撃ち込み、ミサイルを多く発射する。すべて彼らには当たらない。効果はこれから発動するのだ。
しかし、電気はサドが耐え抜き、彼らと機体との距離は既に間近であった。二人は機体の後ろに身を隠す。
何発ものミサイルが、ロボットに向けてすべて命中し、爆発をその身で受けた。コクピット内は灰色の映像で満たされる。
『……近くにいらっしゃいますわね…。』
リリアは機体を巧みに動かし煙の中、生身の人間にロボットで格闘を行う。足払いをして、1人に当たったことを確認する。
その倒れた1人に全力で殴り、殴り、殴りかかった。鈍い音が廊下に響きわたり、飛沫が機体に飛び散る。感知センサーが破損しているものの、リリアには感じる。
『はぁ///やっぱり、ロボットは【マニュアル】ですわ!!エンダー家の特注品はすべて【オートマチック】で私の意思のままに動作が可能……
……しかし!【マニュアル】でしたら相手が壊れる感触をより直接触れられますこと!【オートマチック】では得られない快感が、生きる実感が、体の底から 湧 い て き ま す わあああああ!!!///
ア ッ ハ ハ ハハハハハハ!!ハハハ!!!ホホホホホホホ…フフフフフ…』
ただ1人に向けて全力で拳を叩き込む。そして飽きたのか彼を握り、壁に押し込む。力を強めて落とさないように固める。そして銃を壁に向けて構える。
『逝ってらっしゃい。【レオ・キャンソン】。せめて最期は、いいお顔でお逝きなさい。』
コンクリートの壁であろうと、壁周囲に電撃を走らせる。人間ならば、もはや耐えられないほどの電撃だった。
煙が徐々に消えていき、リリアはレオの蕩ける顔を待ちわびる。
しかし、そこにいるのは【レオ・キャンソン】ではなかった。彼から血は流れておらず、痣が少しできただけ。飛沫の正体は、機体の燃料であった。
『あら?あらあら?』
「……僕は【サド・キャンソン】。真の相手を見失って殴った君に…
…他人の…
…心と存在を…
…捻じ曲げる資格はない!」
『彼女はどこにいらして!?おっしゃられないのならこのまま…』
突然、コクピットが下に落ちていく。機体が膝を崩して座る。燃料が漏れ出ている。
機体の後ろの部位に鈍い音が走る。リリアは不意討ちをくらって、一瞬だけ意識が飛びそうになった。警報も鳴り響く。
『まさか…』
レオがハンマーを振りかぶる。
「うちの弟に何、手ェ出してんだ…?
もう一発だ!オラッ!」
『うおおおおおおおおおっっっ!!!!!』
太い声で機体を前に反らし、上から振り下ろされるハンマーを回避した。鈍い響きが今度はレオにやってくる。
(後ろは…背中は…バッテリーの場所…!絶対に守り抜かなければなりませんわ!)
「……やっぱりそこか。
デカブツ相手にまともに戦えるかよ…弱点に一生、届かねぇから脚からご丁寧に崩してんだ。
サドが装甲を外して、私がぶち込む。それで脚は壊れる。既に、お前の両脚とってんだよ。お前が向こうに行かないようにな…。
……地位の高い貴族の末裔なら、往生際の作法も弁えてるだろうよ…。」
『……エンダー家をなめないで戴きまして?あなた方のような没落エンジニアの末裔に負けるわけにはいきませんわ!!
出発時刻まで…あと20分もあれば…レジスタンスなど光線銃で…』
「3秒でまとめろ。“ダサい”ぞ。」
レオは再び、ハンマーをぶちこんだ。背中に直撃し、渾身の一撃が機体を通じてリリアにも響く。リリア自身、腕の力を緩めてしまい、そのままサドを解放した。
ハンマーから、弱点に届く感触が得られた。空気が一気に吹き出ているような音に気づき、レオはすぐに指示する。
「走るぞ!作業場に全力で!」
「りょ!」
レオは作業場に向けて走り出す。リリアはコクピットを開けて、その様子を見逃さなかった。
「……しょ、少々お待ちなられて!?…熱ッ!」
脚が燃えるように熱い。床に焦げ目がついており、合成ゴムの義足が溶け出している。リリアは両脚の義足を外し始める。
「……もっと快走致したいところですが、お別れですわね…心惜しいこと、この上ありませんわ。」
緊急用の義足に替えて、思い切り飛び降りた。なじまないものの、落下のダメージを抑えてなるべく遠くへと跳躍できる。
機体は燃え上がり、燃料も相まって廊下を封じる。作業場側には姉弟と、生き残りが1人いた。…生き残りは義足が外れ、下を向いて匍匐していた。
(……まだ…任務はこなせますわ…私もそのような光線銃を持つレジスタンスであったこと…忘れまして?…逃げた背中を…)
「……出してみろよ。“切り札”を…」
リリアは顔を上げた。真正面でしゃがんでいるレオの姿を捉える。レオはリリアの額に緊急用光線銃を向ける。
「……ダブりは無しだ。」
「……レオ…キャンソン!」
「今更お前がエンダー家とひけらかそうが、私らとお前らの部下どもには…何も響いてこねぇな。
味方を吹き飛ばして、人に兵器を向けて、味方の努力を無下にして…
…おまけに散り際の作法さえも見苦しい…酷い体たらくだな。」
右手の銃を構えようとしたところを、サドに軽々と取られた。
「勝手に触れないで戴きまして!?それは私の…」
「……もう…あなたには、何も言えません…。」
サドは銃を押収した。レオは立ち上がり、話を続けた。
「お前に任務はこなせねぇ。他人の命で近道を通れると思うな。
お前が【リリア・エンダー】だろうが、アルゴの手先だろうが…私にはどうでもいい。
お前らが私らに擦り付けてきた罪すべて…突っ撥ねてやる。
全員分あばいて、引き摺り落とす。“私の命”を懸けて…な。」
レオとサドはこの場から立ち去る。リリアは荒れ狂う炎を背に、怒りを滾らせていた。
「……フフ…
雑 魚 ど も が ァァァァァッッ!!!
屈 辱 で す わ !!!!!
ごんの 野 郎 オ ォォォォォォォッッッ!!!」
姉弟は作業場に入り、扉を閉ざす。鍵をかけて、最後の搭乗者としてお互いうなずいて、確かめる。
二人の時間が、再び動き始めた。泣いてばかりではいられない。地獄のような現実でやり残したことがまだあるからだ。
廊下の暖かさは、見かけとは裏腹に、まるで天国のように優しい心地であった。絶望に泣くには丁度良く、起きているものは皆、涙を落とした。
彼らを除いて…
『……やはり、見届けて正解でしたわ。』
もはや、ロボットの正体は言うまでもない。リリアであった。コクピットから顔が見えている。レオは話す。
「……そんなロボットで何しようってんだ…?」
『あらあら///、このご時世、ロボットを使わない戦争はもはや存在しませんわ。それをお思いになさらないで、とても愛らしいこと。
私もレジスタンスを一捻りしたいと存じまして、軍からロボットを一台、支給して参りましたわ。
5メートル汎用移動兼特殊警察機体【クラスA-e型】。政府が贔屓している、【Majin社】の【クラスシリーズ】最新型。無論、マニュアルですわ。』
淡々と話を進める中で、レオは左手に緊急用光線銃を構える。
「セールストークは他所でやれ。」
『せっかちなこと…なら端的に申しましょう。このロボットで…
・タイタン号内の乗務員を殲滅すること。
・キャンソンの子息二人を排除すること。
・他の貴族に露わにされないようこなすこと。
……それが、私の任務ですわ。タイタン号の中に侵入し、このロボットで任務を全ういたしますわ。採寸も確認済み。大胆なロボットでレジスタンスの人間を……
……楽しみで た ま り ま せ ん わ~ !!!///』
二人はその機体の先程の勢いを、直に感じた人間である。絶対に彼女を先に行かせてはならない。レオは機体に光線銃を撃つ。無傷であった。
「行かせねぇよ。」
『……そういえば、あなたに名乗らせておきながら、私からは本名を申し上げませんでしたわね。
……【リリア・エンダー】。由緒正しき、六大貴族、エンダー家の末裔、7姉妹の第5女でありますわ。』
レオ…ではなく、今度はサドがその名を聴いて反応した。
「エンダー家のお嬢様…アルゴ・エンダーの手先?」
『アルゴ・エンダー “様” ですわ!雑魚ふぜいがっ!!!』
「……お前が…」
「アルゴは、キャンソンの姓を強く憎む。政府に攫われたときに、アルゴから雇われた奴らに何度も殺されかけた…。そのたびに逃げて、また元に戻って、味方が来るまでずっとそのループだった…。」
『……フフ…そういうことですわ。ですから、キャンソンと名乗られた皆様方を無き者とさせていただくために、私、張り切って私刑致しますわ!
今、銃を突きつけておられるあなた。今すぐにでも、【キャンソン】の姓を捨てて、彼を見捨てればあなたの命だけは見逃して差し上げますわ。共に任務なされた縁。私も有情の…』
「断る。」
レオは即断した。ハンマーを振りかぶり、ロボットに向けてぶち込む。
『キャッ!!』
ロボットは脚部に大きなダメージを受けた。鈍い音がリリアにまで響く。しかし、一見するとロボットには痣ができるほどでしかなく、何も状況は変わらない。
リリアは文句を言いたげだった。
『話の続きをしてもよろしくて?…先程の希望に満ちたお二方の表情、吐息、距離…とても尊いですわ~///
そして…それを絶望にして届けることは、更なる快感への、“最効率”の道のりですわ。
【キャンソン】の名を捨ててくださらないなら…つぶされ、紅く散る覚悟はよろしくて?』
リリアはロボットの武装を使う。弾丸は大きいが弾速は遅い。
サドは下に入り込み、左脛の装甲をスパナを使って外そうとする。思いっきり力を込めた。体中が若干赤くなるぐらい、本気だった。
「っ~!///」
大胆に一つだけ装甲が外された。晒された内側に向けて、レオはハンマーを使う。
『……遅いですわ。』
ロボットは上半身を回して二人を引き剥がす。それぞれ呼びかけ合う。
「レオ!」
「大丈夫だ!そっちは!?」
「大丈夫…」
「アアアアアアアアアアッッッ!!!」
一歩踏み込んだ途端、唐突に身体が痺れてしまい、レオは倒れた。
「あっ…あ…くっ…あ…」
「……【エレキネット】…!」
先程の銃弾の着弾点を中心に、円状に弧を描いて、青い光が点々と煌めく。対策しないまま触れると強力な電撃が襲う。
サドが直ちにレオのもとに向かう。リリアはレオのところまで歩き、右腕を上げる。
『あらあら。どのご時世でも、気に食われない方がいらしたら、生身の人間相手に機械で対抗されたらよろしくて?…こんなふうに!』
上げた右腕を人間めがけて叩き込む。間一髪、サドが救い出した。光線を2発撃ち込む。無論、無傷だ。
リリアは1つ疑問に思う。
(防護服もなしに動ける…?この電撃地帯を怯まず恐れず、助けだせるなんて…なるほど…)
軽い考察の上、リリアは結論づけた。
『身体に電気の耐性を持っておられて?これが俗に言う【完全体】…科学者のおっしゃられることはよく存じませんわ…
まるでロボットみたいですこと。人間の従順な下僕に相応しい。自分の命さえ顧みず、制御された心で反射的に身体を動かす…
今更、姉弟ごっこなされて、お人形遊びする年齢でもないでしょう!【レオ・キャンソン】とやら!』
2つ目の武装を開放する。小型ミサイルであり、一発でも人間が受け止めるには、あまりにも過剰なダメージだと予測できる。
『あなたがいくら彼を【サド・キャンソン】と呼ばれましても、結局は人間に記憶を植え付けて従順な動きをこなさせる…
人工知能にデータを与えて従順な動きをこなしていくことに大して変わりありませんこと。あなたは人間ではありませんわ。そして彼女と同様、【サド・キャンソン】でもない。』
サドはリリアになんと言われようと、目を離すことなく、黙って聞き流した。
レオは麻痺に苦しみながらもハンマーで支えながら、膝をついて話す。
「……サド、もしあんたが人間なら、私を使って突き進め。あの野郎に一泡吹かせろ。」
「うん。」
サドは頷く。空かさずリリアはミサイルを発射する。レオはサドの左手を繋いで走る。アースの役割としてレオを守ろうとした。
『まず手始めに3発…』
3発放たれるも、3発とも外れる。どうやらハッタリのようだ。
…と思いきや背後にて変形し、不安定ながらも後ろから追尾してきた。
サドは緊急用光線銃を使った。2発を命中させて爆発したが、3発目…安全装置が働き、撃つことができなかった。
…爆発した。直撃すればロボットに傷を負わせられる。人間は言わずもがな。
『“悪”のみを狙う変形追尾型【AIミサイル】。レジスタンスの人間を名乗るお二方に対して最適な代物ですわ。
……あっけない終わり方で…!?』
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サドが爆風からレオを守り、レオが左手で、同じ光線銃で撃ち落とした姿を捉える。レオが先頭に出て、右手で弟の左手と繋ぎ直した。そしてサドに助言する。
「この銃は2発撃ったら、ひと呼吸置いてから撃て。一撃で決めるための切り札ってのが、本来の用途だからな…」
二人は電撃地帯を駆け抜ける。リリアは次々とエレキネットを地面に撃ち込み、ミサイルを多く発射する。すべて彼らには当たらない。効果はこれから発動するのだ。
しかし、電気はサドが耐え抜き、彼らと機体との距離は既に間近であった。二人は機体の後ろに身を隠す。
何発ものミサイルが、ロボットに向けてすべて命中し、爆発をその身で受けた。コクピット内は灰色の映像で満たされる。
『……近くにいらっしゃいますわね…。』
リリアは機体を巧みに動かし煙の中、生身の人間にロボットで格闘を行う。足払いをして、1人に当たったことを確認する。
その倒れた1人に全力で殴り、殴り、殴りかかった。鈍い音が廊下に響きわたり、飛沫が機体に飛び散る。感知センサーが破損しているものの、リリアには感じる。
『はぁ///やっぱり、ロボットは【マニュアル】ですわ!!エンダー家の特注品はすべて【オートマチック】で私の意思のままに動作が可能……
……しかし!【マニュアル】でしたら相手が壊れる感触をより直接触れられますこと!【オートマチック】では得られない快感が、生きる実感が、体の底から 湧 い て き ま す わあああああ!!!///
ア ッ ハ ハ ハハハハハハ!!ハハハ!!!ホホホホホホホ…フフフフフ…』
ただ1人に向けて全力で拳を叩き込む。そして飽きたのか彼を握り、壁に押し込む。力を強めて落とさないように固める。そして銃を壁に向けて構える。
『逝ってらっしゃい。【レオ・キャンソン】。せめて最期は、いいお顔でお逝きなさい。』
コンクリートの壁であろうと、壁周囲に電撃を走らせる。人間ならば、もはや耐えられないほどの電撃だった。
煙が徐々に消えていき、リリアはレオの蕩ける顔を待ちわびる。
しかし、そこにいるのは【レオ・キャンソン】ではなかった。彼から血は流れておらず、痣が少しできただけ。飛沫の正体は、機体の燃料であった。
『あら?あらあら?』
「……僕は【サド・キャンソン】。真の相手を見失って殴った君に…
…他人の…
…心と存在を…
…捻じ曲げる資格はない!」
『彼女はどこにいらして!?おっしゃられないのならこのまま…』
突然、コクピットが下に落ちていく。機体が膝を崩して座る。燃料が漏れ出ている。
機体の後ろの部位に鈍い音が走る。リリアは不意討ちをくらって、一瞬だけ意識が飛びそうになった。警報も鳴り響く。
『まさか…』
レオがハンマーを振りかぶる。
「うちの弟に何、手ェ出してんだ…?
もう一発だ!オラッ!」
『うおおおおおおおおおっっっ!!!!!』
太い声で機体を前に反らし、上から振り下ろされるハンマーを回避した。鈍い響きが今度はレオにやってくる。
(後ろは…背中は…バッテリーの場所…!絶対に守り抜かなければなりませんわ!)
「……やっぱりそこか。
デカブツ相手にまともに戦えるかよ…弱点に一生、届かねぇから脚からご丁寧に崩してんだ。
サドが装甲を外して、私がぶち込む。それで脚は壊れる。既に、お前の両脚とってんだよ。お前が向こうに行かないようにな…。
……地位の高い貴族の末裔なら、往生際の作法も弁えてるだろうよ…。」
『……エンダー家をなめないで戴きまして?あなた方のような没落エンジニアの末裔に負けるわけにはいきませんわ!!
出発時刻まで…あと20分もあれば…レジスタンスなど光線銃で…』
「3秒でまとめろ。“ダサい”ぞ。」
レオは再び、ハンマーをぶちこんだ。背中に直撃し、渾身の一撃が機体を通じてリリアにも響く。リリア自身、腕の力を緩めてしまい、そのままサドを解放した。
ハンマーから、弱点に届く感触が得られた。空気が一気に吹き出ているような音に気づき、レオはすぐに指示する。
「走るぞ!作業場に全力で!」
「りょ!」
レオは作業場に向けて走り出す。リリアはコクピットを開けて、その様子を見逃さなかった。
「……しょ、少々お待ちなられて!?…熱ッ!」
脚が燃えるように熱い。床に焦げ目がついており、合成ゴムの義足が溶け出している。リリアは両脚の義足を外し始める。
「……もっと快走致したいところですが、お別れですわね…心惜しいこと、この上ありませんわ。」
緊急用の義足に替えて、思い切り飛び降りた。なじまないものの、落下のダメージを抑えてなるべく遠くへと跳躍できる。
機体は燃え上がり、燃料も相まって廊下を封じる。作業場側には姉弟と、生き残りが1人いた。…生き残りは義足が外れ、下を向いて匍匐していた。
(……まだ…任務はこなせますわ…私もそのような光線銃を持つレジスタンスであったこと…忘れまして?…逃げた背中を…)
「……出してみろよ。“切り札”を…」
リリアは顔を上げた。真正面でしゃがんでいるレオの姿を捉える。レオはリリアの額に緊急用光線銃を向ける。
「……ダブりは無しだ。」
「……レオ…キャンソン!」
「今更お前がエンダー家とひけらかそうが、私らとお前らの部下どもには…何も響いてこねぇな。
味方を吹き飛ばして、人に兵器を向けて、味方の努力を無下にして…
…おまけに散り際の作法さえも見苦しい…酷い体たらくだな。」
右手の銃を構えようとしたところを、サドに軽々と取られた。
「勝手に触れないで戴きまして!?それは私の…」
「……もう…あなたには、何も言えません…。」
サドは銃を押収した。レオは立ち上がり、話を続けた。
「お前に任務はこなせねぇ。他人の命で近道を通れると思うな。
お前が【リリア・エンダー】だろうが、アルゴの手先だろうが…私にはどうでもいい。
お前らが私らに擦り付けてきた罪すべて…突っ撥ねてやる。
全員分あばいて、引き摺り落とす。“私の命”を懸けて…な。」
レオとサドはこの場から立ち去る。リリアは荒れ狂う炎を背に、怒りを滾らせていた。
「……フフ…
雑 魚 ど も が ァァァァァッッ!!!
屈 辱 で す わ !!!!!
ごんの 野 郎 オ ォォォォォォォッッッ!!!」
姉弟は作業場に入り、扉を閉ざす。鍵をかけて、最後の搭乗者としてお互いうなずいて、確かめる。
二人の時間が、再び動き始めた。泣いてばかりではいられない。地獄のような現実でやり残したことがまだあるからだ。
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第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
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