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18.囮
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ランベルトはヴァレリアを部屋に送り届け公爵へ伝言を頼むと取り調べの部屋に向かった。
今日の歓迎会はフィオーレの体調が優れない事を理由に解散となった。もちろん建前で最初から切り上げる予定だった。国王も王妃も長い時間の夜会を過ごせるほど体調が回復していない。それを皆に気付かれる前に理由をつけて早めに終わらせなければならなかった。
いずれ開かなければと思っていた歓迎会だったが、フィオーレが宰相を誘導したいから早めに開いてほしいと言ってきた。そしてその為にヴァレリアを囮にすることを提案してきた。
宰相やセラフィーナは早くフィオーレとヴァレリアを始末したがっている。
今回の歓迎会で必ず動くからヴァレリアの警備を甘くしてくれと言われた。フィオーレはアンブラでは持ちえない情報取集の能力を持っている。それでも一度は断った。冗談ではない。ヴァレリアを危険にさらしたくない。
だが、解決すれば自分は遊学を終えて帰国する。必ず婚約の話をなかったことにする。すでに渡した小麦は無償援助で、これ以上の小麦は正当な価格での取引に応じるからと言われ、更に自分に毒を盛ったことを不問にしたはずだと言われて折れるしかなかった。
それもこちらに良い条件過ぎて怪しんだが、それに対して誓約書を出してきた。
それほどフィオーレは帰国を焦っていた。ランベルトも早く解決したい気持ちは同じだった。やむを得ず囮の件を承諾した。
そして夜会当日、フィオーレをエスコートした。隣にいるのがヴァレリアでないことに激しい違和感がありそして不快でもあった。
会場内は一瞬でフィオーレの存在感に呑まれていた。そしてファーストダンスに誘う。フィオーレとのダンスは踊りやすかった。目を合わせればやはりフィオーレは美しい。だがそれだけ、それ以上の何かを感じることはなかった。
ヴァレリアのショコラのようなダークブラウンの髪は少し癖がありふわふわと愛らしい。
ヴァレリアの紅茶色の瞳を見つめ、そこに自分が写れば独占欲が満たされ、更に愛おしい気持ちが湧いてくる。
どれほど一緒に過ごそうと、このような気持ちをフィオーレに抱くことはないと断言できるほどヴァレリアの事しか考えられなかった。
ダンスをしながら宰相の様子を注意して見れば、従者に指示を出し公爵をヴァレリアから離した。
公爵には協力を頼んであるがヴァレリアを危険に晒すことは言えなかった。後で叱責を受けるだろう。
宰相の思惑はともかく、ランベルトはセラフィーナがヴァレリアに悪意を抱いていることには半信半疑だった
二人はいつも仲が良かった。宰相の独断で娘を利用しているのではと思っていたが、フィオーレは確信があるようでセラフィーナの悪意を断言した。
そして一番大切なものを守りたいなら間違えるなと、年下のフィオーレに窘められた。
この王女は噂に聞くような我儘で傲慢な人ではなかった。自分より優れた決断力と目を持っている。
彼女の力を借りなければヴァレリアを守れない。ならば頭を下げて助力を乞うのに躊躇いはなかった。
そして今、先ほど捕らえた宰相とセラフィーナが目の前にいる。二人とも手を後ろで拘束され横に騎士が立ち監視をしている。ヴァレリアを襲った騎士は既に牢に移した。この手でその男を切り捨てたいのを必死で堪えた。
ランベルトの横にはフィオーレがいる。一緒に話を聞くためだ。
「殿下、これはどういうことです。いったい何の罪で捕らえられているのですかな。このような真似をするだけの証拠はあるのでしょうね」
宰相の態度は太々しい。ばれないという自信があるのだろう。
「宰相、お前は王女殿下に毒を盛る指示を出し実行させた。そして今夜ヴァレリアを襲うよう指示を出した。娘と捕らえた男は実行犯だ」
二人を睨みつけ吐き捨てるように追及する。
「ランベルト殿下、なにか誤解があります。私とヴァレリアは親友なんです。そんなことをするはずがないでしょう」
涙を流しながら自分の無実を必死に訴える儚げな姿は、知らぬものが見れば信じてしまうだろう。だがランベルトにとっては決して許すことのできない女だ。
「牢に移した男が宰相の指示だと証言しているが?」
「そんな男は知らない」
牢の男は体調の変化に怯えて、全てを自供していた。
「ランベルト殿下、どうして信じて下さらないのです! 私もヴァレリアもあの騎士に無理やり部屋に連れ込まれたのです。誤解です!」
「あなたがヴァレリアを連れ込ませたことは部屋を見張らせたていた騎士から確認を取っている。言い逃れは出来ない。あなたは間違えなく罪人だ。ヴァレリアを傷つけた人間を私が許すことはない」
宰相は僅かに肩を揺らし、セラフィーナは驚愕した後、醜悪に顔を歪ませた。
「なぜヴァレリアを選ぶのです。なぜ私ではいけないのですか。私の方が妃としての能力もあります。ヴァレリアより私の方が殿下を愛している! それなのに……あの女さえいなければ!」
「だから襲わせたと? 自分の利のために罪を犯す者が私の妃に相応しいとは思わない。私があなたを愛することなど絶対にない」
ランベルトの怒りのこもった声を聞き、セラフィーナは絶望に目を見開き体を震わせると嗚咽を漏らした。宰相はそんな娘の姿を侮蔑するように眺めていた。
今日の歓迎会はフィオーレの体調が優れない事を理由に解散となった。もちろん建前で最初から切り上げる予定だった。国王も王妃も長い時間の夜会を過ごせるほど体調が回復していない。それを皆に気付かれる前に理由をつけて早めに終わらせなければならなかった。
いずれ開かなければと思っていた歓迎会だったが、フィオーレが宰相を誘導したいから早めに開いてほしいと言ってきた。そしてその為にヴァレリアを囮にすることを提案してきた。
宰相やセラフィーナは早くフィオーレとヴァレリアを始末したがっている。
今回の歓迎会で必ず動くからヴァレリアの警備を甘くしてくれと言われた。フィオーレはアンブラでは持ちえない情報取集の能力を持っている。それでも一度は断った。冗談ではない。ヴァレリアを危険にさらしたくない。
だが、解決すれば自分は遊学を終えて帰国する。必ず婚約の話をなかったことにする。すでに渡した小麦は無償援助で、これ以上の小麦は正当な価格での取引に応じるからと言われ、更に自分に毒を盛ったことを不問にしたはずだと言われて折れるしかなかった。
それもこちらに良い条件過ぎて怪しんだが、それに対して誓約書を出してきた。
それほどフィオーレは帰国を焦っていた。ランベルトも早く解決したい気持ちは同じだった。やむを得ず囮の件を承諾した。
そして夜会当日、フィオーレをエスコートした。隣にいるのがヴァレリアでないことに激しい違和感がありそして不快でもあった。
会場内は一瞬でフィオーレの存在感に呑まれていた。そしてファーストダンスに誘う。フィオーレとのダンスは踊りやすかった。目を合わせればやはりフィオーレは美しい。だがそれだけ、それ以上の何かを感じることはなかった。
ヴァレリアのショコラのようなダークブラウンの髪は少し癖がありふわふわと愛らしい。
ヴァレリアの紅茶色の瞳を見つめ、そこに自分が写れば独占欲が満たされ、更に愛おしい気持ちが湧いてくる。
どれほど一緒に過ごそうと、このような気持ちをフィオーレに抱くことはないと断言できるほどヴァレリアの事しか考えられなかった。
ダンスをしながら宰相の様子を注意して見れば、従者に指示を出し公爵をヴァレリアから離した。
公爵には協力を頼んであるがヴァレリアを危険に晒すことは言えなかった。後で叱責を受けるだろう。
宰相の思惑はともかく、ランベルトはセラフィーナがヴァレリアに悪意を抱いていることには半信半疑だった
二人はいつも仲が良かった。宰相の独断で娘を利用しているのではと思っていたが、フィオーレは確信があるようでセラフィーナの悪意を断言した。
そして一番大切なものを守りたいなら間違えるなと、年下のフィオーレに窘められた。
この王女は噂に聞くような我儘で傲慢な人ではなかった。自分より優れた決断力と目を持っている。
彼女の力を借りなければヴァレリアを守れない。ならば頭を下げて助力を乞うのに躊躇いはなかった。
そして今、先ほど捕らえた宰相とセラフィーナが目の前にいる。二人とも手を後ろで拘束され横に騎士が立ち監視をしている。ヴァレリアを襲った騎士は既に牢に移した。この手でその男を切り捨てたいのを必死で堪えた。
ランベルトの横にはフィオーレがいる。一緒に話を聞くためだ。
「殿下、これはどういうことです。いったい何の罪で捕らえられているのですかな。このような真似をするだけの証拠はあるのでしょうね」
宰相の態度は太々しい。ばれないという自信があるのだろう。
「宰相、お前は王女殿下に毒を盛る指示を出し実行させた。そして今夜ヴァレリアを襲うよう指示を出した。娘と捕らえた男は実行犯だ」
二人を睨みつけ吐き捨てるように追及する。
「ランベルト殿下、なにか誤解があります。私とヴァレリアは親友なんです。そんなことをするはずがないでしょう」
涙を流しながら自分の無実を必死に訴える儚げな姿は、知らぬものが見れば信じてしまうだろう。だがランベルトにとっては決して許すことのできない女だ。
「牢に移した男が宰相の指示だと証言しているが?」
「そんな男は知らない」
牢の男は体調の変化に怯えて、全てを自供していた。
「ランベルト殿下、どうして信じて下さらないのです! 私もヴァレリアもあの騎士に無理やり部屋に連れ込まれたのです。誤解です!」
「あなたがヴァレリアを連れ込ませたことは部屋を見張らせたていた騎士から確認を取っている。言い逃れは出来ない。あなたは間違えなく罪人だ。ヴァレリアを傷つけた人間を私が許すことはない」
宰相は僅かに肩を揺らし、セラフィーナは驚愕した後、醜悪に顔を歪ませた。
「なぜヴァレリアを選ぶのです。なぜ私ではいけないのですか。私の方が妃としての能力もあります。ヴァレリアより私の方が殿下を愛している! それなのに……あの女さえいなければ!」
「だから襲わせたと? 自分の利のために罪を犯す者が私の妃に相応しいとは思わない。私があなたを愛することなど絶対にない」
ランベルトの怒りのこもった声を聞き、セラフィーナは絶望に目を見開き体を震わせると嗚咽を漏らした。宰相はそんな娘の姿を侮蔑するように眺めていた。
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