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16.絶望
しおりを挟む※女性が襲われるシーンがあります。不快に感じる方はプラウザバックしてください。
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あっという間に人気のない通路まで移動させられ誰にも助けを求める事が出来なかった。
そのまま連れていかれた控室の奥にはベッドが見える。
ヴァレリアは恐ろしさに震える。まさか……。
騎士に無理やりベッドの上に放り投げられる。体には力が入らないので抵抗も儘ならない。
セラフィーナを見れば部屋に鍵をかけているところだった。
なぜセラフィーナがこんなことを。嘘だ。信じたくない。
体の力は入らないが意識ははっきりしていた。動悸が激しく心臓の音が頭の中でこだまする。薬のせいか恐怖のせいかもう分からない。
「セラフィーナ……。なぜこんなことを……」
返事をしたのはいつもの朗らかな顔の自分の知っているセラフィーナではなかった。
口を歪ませヴァレリアを見る瞳には激しい憎悪が滲んでいる。
「もちろん、私がランベルト様の妃になるためよ。ずっとお慕いしていたわ。王女が邪魔だけど、まあもうじき毒が効いてくるわ。王女が死んでもまたあなたが婚約者になってしまっては困るのよ。今のうちに傷物になってもらわないと。馬車の事故で死んで貰うつもりだったけどずっと王宮に呼び出されて隙がなかったのよ。そっちのほうがよかったかしら?」
「……私たち親友ではなかったの?」
縋るようにな気持ちでこれが間違いであってほしいと願い問う。今からでも冗談だと、ヴァレリアを驚かせただけだと言ってほしかった。
「私は親友なんて思ったことはないわ! ずっと大嫌いよ。はじめてランベルト様とお会いした時からお慕いしていたのに、私は家を継ぐために婿をとらなければならない。婚約者候補にすら入れなかったのよ。もしもランベルト様が私を強く望んで下さればその可能性もあったけど、ランベルト様は最初からあなたしか見ていなかったわ。どれ程私があなたを妬んで憎んでいたか分かる?」
ランベルト様を好きだった?
「それならなぜ友人になったの?」
「婚約者であるあなたと友人でいれば、ランベルト様のお話が聞けるし、運が良ければお会いすることも出来るじゃないの。私はね、あなたを見ていつもイライラしたわ。私の方が妃に相応しいのにって。」
セラフィーナがそんなことを思っていたなんて気づかなかった。私は一体彼女のなにを見てきたのだろう。
「こんなことお父様が知ったらあなたの家もどうなるか分からないわ。お願いやめて。今ならまだ誰にも言わないわ。お願い」
セラフィーナが笑い出した。お腹を抱えて、おかしくて仕方ないと。
「あら、大丈夫よ。私達二人が襲われた事にするの。あなたは残念ながら救出が間に合わなくて傷物に。私は間一髪で無事なのよ。ふふふっ。公爵様はあなたに起こったことを公に出来ないわ、娘が傷物になったなんて言えないでしょう。そしてあなたはもう殿下に嫁げない体になる。私は大丈夫よ。ショックで数日寝込むくらいかしら。その後は可哀そうなあなたを慰めて、そして私が殿下と結婚するのよ」
王家に嫁ぐなら純潔でなければならない。彼女はヴァレリアを汚すと言うのだ。信じられない恐ろしい計画をとても楽しそうに話す。こんなこと聞きたくない。耐えられない。ヴァレリアの瞳からは涙が流れていた。
「宰相閣下はご存じなの?お知りになったら悲しまれるわ」
「もちろん知っているわ。準備したのはお父様ですもの。お父様はね?ずっと私に後継ぎとして厳しく接してきたの。でも弟が生まれた途端、私のことなどどうでも良くなったのよ。男児の後継ぎが出来たって大喜びで! 周りはもう婚約者を決めてしまっているから私が今から相手を探すのが大変なのは分かるでしょう。来た話と言えばせいぜいお父様より年上の方の後妻になれとか、商人も候補にいたわ。私にそんな相手は相応しくないわ。屈辱よ。だからお願いしたの。ランベルト様の妃になりたいって。賛成して下さったわ。弟の将来のためにいいって。あなたが飲んだ薬もこの男も、サルトーリ公爵をあなたから引き離すよう手配したのもお父様よ」
絶望で目の前が真っ暗になる。
セラフィーナは騎士に向かって赤い錠剤を渡す。
「あなたにいい物をあげるわ。朝までヴァレリアを楽しませてあげられる薬よ」
迷わず騎士はそれを口に含み飲む。
「私はここであなたが殿下の妃になれなくなる瞬間を見届けてあげるわ」
セラフィーナは本気でヴァレリアを襲わせる。躊躇いは感じない。それほど憎まれていたのだ。笑って見て楽しんでいる。悍ましさに胃の奥から吐き気がこみあげてくる。友人だと思っていたのは自分だけだった。一緒に過ごしたのはランベルトに近づきたいから利用しただけ。それに気づきもせず信頼してランベルトの話を楽しそうに話して、それを彼女はどんな気持ちで聞いていたのだろう。
「ヴァレリアが飲んだ薬は体が動かなくなるだけよ。意識まで失ったらつまらないでしょう? いっそ、合意で楽しんでいたことにしてもいいわよ」
もう、セラフィーナが恐ろしくてたまらなかった。真っ赤な口紅が塗られた唇からは残酷な言葉ばかり溢れ出す。 ヴァレリアを甚振ることを心から楽しんでいるのだ。
「悲鳴を上げられると困るわ。これを口に入れて」
そう言って騎士にハンカチを渡した。逃げ出したいのに体が動かない。手も足もまったく力が入らない。
もぞもぞ動くヴァレリアの口にハンカチが押し込まれる。
苦しくて喘ぐが満足な抵抗も出来ない。そして手を頭の上に拘束して紐で縛っていく。
セラフィーナを見ればグラスにワインを注ぎ、ベッドが見える位置にあるソファーに腰かけた所だった。
騎士はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべてヴァレリアのドレスの胸元に短剣を当てて一気に切り裂いた。
その音に恐怖心が増す。悲鳴はハンカチに飲み込まれヴァレリアの体はガタガタと震えた。必死の抵抗は身を捩ることだけだ。
いやだ。こんなこと耐えられない。ランベルト以外の男に触れられるなんておぞましい。
だれか助けて。ランディ! ランディ! たすけて。
ランディとは婚約解消するまで呼んでいたランベルトの愛称だ。とっさにヴァレリアが心で助けを求めたのはランベルトだった。
騎士の手がヴァレリアの足を撫でると全身に鳥肌がたつ。目の前には絶望しかなかった。
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