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7.院長室
しおりを挟む注意:後半に少し虐待・暴力の表現があります。苦手な方はブラウザバックしてください。植物については完全に作者の創造物です。ご了承ください。
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ヴァレリアは言葉に詰まる。
この緑の植物は”多豊豆”という立派な名前がついている。しかし残念ながらこの国では一般的に厄介豆と言われている。普段はあまり見かけることが無くそれほど認知されていなかった。ところが昨年干ばつが起きたころから急に見かけるようになる。水分や栄養がない土地に根付き成長は早く大繁殖を始めた。根が深く抜いてもすぐに増えていく。太い茎と大ぶりの葉を持ち、固く大きな“さや”の中には大ぶりの厚みのある黄色い豆が詰まっている。麦の代わりになると期待されたが、食べるとものすごく苦く、1週間は舌が痺れ味覚が鈍化するのだ。これは腹を空かせた鳥や動物ですら吐き出す。食用にならないのに手を掛けなくても繁殖していく、それ故“厄介豆”なのだ。
フィオーレが知らないとは意外だったがクロリンダ王国には無いのかも知れない。
「王女殿下、高貴な方はご存じないようですが、これは人が食べられるものでは御座いません。家畜ですら嫌がるのです」
グイードの言葉は丁寧だがフィオーレの無知を揶揄するような含みがあった。
「そう、でも処分する必要はないわ。騎士団長、騎士を2人貸してください。その騎士にはわたくしの説明通りに子供達と豆の下処理をしてもらいます。まず葉と茎とさやに分けてください。それとその植物の根元に紫色の半月の形をした草が必ず生えているはずです。それを集めておいてください」
ノルベルトは顔に不快感を滲ませたがすぐに表情を消して指示を出す。他の騎士たちも不満を隠せないようだ。
「フィオーレ様、この豆はどう処理しても食べるのは無理なのです。考え直してくださいませ」
ヴァレリアの言葉を聞いてもフィオーレは撤回しなかった。
年長の男の子がフィオーレを睨んでいる。
「俺たちに家畜すら食べないものを食べろって言うのか!」
騎士が男の子を諫める。フィオーレはそれに返事をしなかった。そして再度ノルベルトを近くに呼ぶと小声で何かを伝える。それを受けてノルベルトは別の騎士に何か指示を出している。
グイードはフィオーレにあからさまに侮蔑の視線を投げつけた。
フィオーレはまったく意に介せずグイードに言った。
「準備が出来るまで院長室へ案内していただけますか」
「あ、あの掃除が出来ていないのです。代わりに食堂の方へご案内します」
途端にグイードは狼狽える。今更、多少部屋が汚いことなど気にしなくてもいいと思うが。
ヴァレリアはグイードの態度や発言に不信感を抱く。
「ヴァレリア、場所は知っているわね。案内してくださる?」
混乱しながらも何度も行ったことのある院長室へ案内した。
院長の必死の制止を無視して従者に扉を開けるように指示する。
部屋に入ればカビ臭さが鼻につく。机や椅子には埃が積もっていて長く使用されていないのは明らかだった。
驚いてグイードを見れば額から汗を流している。
フィオーレは部屋の状態を確認した後、年長の女の子に声をかけた。
「普段、院長が過ごしている部屋を教えてくれますか?」
女の子は体をビクリと固まらせ、怯えた目でフィオーレを見た。
「余計なことを言うな! どうなるか分かっているんだろうな」
グイードの激しい恫喝に女の子は目に涙を浮かべて震えている。
フィオーレは女の子の手を握り優しく言った。
「あなたの事は必ず守るわ。約束するから教えてくれる?」
その子は震えながらも頷いて足を進めた。
ヴァレリアはノルベルトと目を合わせる。彼も困惑している。
それでも今にも襲い掛かりそうなグイードの腕を掴んで二人の後を着いていく。ノルベルトに拘束されてはさすがに抵抗できないようだ。
一番奥の部屋を指し示した。女の子には先に食堂へ行くよう告げ部屋に入る。
その部屋は明らかに孤児院の中には似つかわしくなかった。
壁には美しい絵画が繊細な細工の額縁に飾られている。
机には銀で出来た煌びやかな大きな花瓶が置かれている。本革で作られたソファー、アンティークのキャビネット……これはどういう事なのか。
フィオーレは振り返るとグイードに問いかける。
「これはどういう事です。孤児院の運営費ではこのようなものは購入できないはずです。それともこの国では許されているのですか? これらは必要のない物でしょう。それと今あなたの指にある金の指輪についても説明してもらいましょうか?」
グレードは咄嗟に指を覆って隠した。怒りで目を真っ赤にしてフィオーレを睨んでいる。
「うっうるさい。それは私のものだ。私の報酬で手に入れたものだ。口を出すな。よくも余計なことを!!」
喚くグイードをノルベルトが後ろで拘束した。
その時、先ほどノルベルトが何か指示を出していた騎士がノックをして入室してきた。
ノルベルトの許可を受け報告をする。
「畑で作業していた少年達は全員、腕や背中に鞭の痕がありました」
「院長、何故子供達に鞭を使ったのですか?」
「躾に決まっている。言う事を聞かない子供に使うのは当然だ!!」
グイードは恐ろしいことを言う。子供達に鞭を使う?家畜のように?ヴァレリアは信じられなかった。
フィオーレは部屋の隅に置かれている鞭を認めると手に取った。
「騎士団長、その男の服の両袖を捲って前に出してください」
グイードはやめろと喚いている。
「あなたは鞭を打たれる痛みをその身で思い知るべきです」
フィオーレは動揺することなく二つ三つ、グイードの腕を打ってから鞭を下した。腕は赤くミミズ腫れになりうっすら血が滲みだした。グイードは人とも思えない程の醜悪な顔でフィオーレを罵倒し続ける。
フィオーレは冷静なままだったがヴァレリアはあまりの恐ろしさに震えた。
「騎士団長、この男を捕らえてランベルト殿下に報告をお願いします。調査はランベルト殿下の指示を仰いでください」
グイードが運営費を横領していた上に、子供達に虐待も行っていたのか。
ノルベルトは深刻な顔でフィオーレに従い騎士に指示を出した。
ヴァレリアは一連の出来事に呆然として佇んだ。
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