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3.噂

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 ヴァレリアは何度目かの溜息をついた。

 あの日から3か月が経っている。しばらくは泣き暮らして、涙が乾いてくると無気力になってしまいぼんやりと過ごしていた。
 お父様は労わってくれて今後の話は避けてくれていた。王女やランベルトの話も屋敷のみなが気を使って私の耳に入らないようにしてくれたおかげで、少しずつ落ち着きを取り戻した。
 それでも気になって王女がどのような人なのかクロリンダ国内での噂を教えてもらったがそれはひどいものだっ た。
 癇癪持ちでわがまま、気に入らないことがあれば物を投げつけ使用人に怪我をさせたこともあるとか、ドレスや宝石などを集め贅沢や華美を好むと。顔はそばかすが多く美しいとは言い難い。作法も王女としては見苦しくやはり側室の子だからと言われているらしい。

 聞かなければよかった。自分より素晴らしい女性ならば諦められると思っていた。いや、きっとどんな女性でも納得できないだろうとも思う。だけどそんな女性ならきっとランベルトが好きになることはないと思うずるい考えも浮かぶ。

 たとえ一緒になれなくてもヴァレリアのことを想っていてほしい、一緒に苦しんでほしいなどと最低なことを考えてしまう。
 ランベルトの幸せを願いたいのに隣に自分が立てないと思うだけで息が出来なくなりそうなほど辛い。こんな醜い考えに自己嫌悪になる。

 王女が3日前に入国したことは聞いていた。
 そして今朝、突然王宮によばれ応接室で待機している。

「お久しぶりですヴァレリア様、思ったより元気そうで安心しました。本当なら私がお世話するのはヴァレリア様なのに……。今は王女様についているんですが、本当に我儘な方なんですよ。到着してから食事が気に入らないと碌に手も付けないんですから。自分が無理やり押しかけてきたのに殿下に対しても慇懃な態度で悔しいったら!」

 ヴァレリアにお茶を入れるとメアリーはいつものように矢継ぎ早に話しかけてきた。二人きりとは言えあまりにも不満を隠さない明け透けな言い方にヒヤリとしてしまう。

 それでも苛立ちが隠せないその言葉に、メアリーは私の味方だとどこか喜んでしまう自分がいる。

 彼女は元々ランベルトの乳母であり今はランベルト付きの侍女として王宮に勤めている。砕けた話し方は不敬になりそうだが、王妃やランベルトからの信頼も厚く多少は許されている。そしてランベルトのことは実の息子以上に溺愛している。ヴァレリアのことも大事にしてくれている。
 それにしてもさっきの言葉が気になった。

「メアリー、王女様が望んできたとはどういうことなの?」

「それが王女様の付き添いの伯爵夫人とやらが言っていたんですが。ああ、あの人も居丈高な態度で嫌な人なんですよ。主に似るってことなんでしょうね。なんでも王女様が殿下に一目ぼれして、どうしても結婚したいと強請って今回の話になったようです。本来は婚姻は条件ではなかったそうなんです! なんて図々しんでしょう! 私がどうにかできれば絶対に殿下とヴァレリア様を一緒にすることができたのに」

 その話に血の気が引いていく。一目惚れ……。王女だからその権力を使って何の努力もなしにランベルトの婚約者になろうと言うのか。ふつふつと怒りがこみあげてくる。王女の我儘を叶えるために婚約解消しなければならず2人で築いた12年間を手放したのだ。国同士の政略的な婚姻だからと仕方ないと、諦めなければと自分に言い聞かせてきたことが虚しくなる。このままランベルトと王女が幸せになるところなんて見たくない。

 今回クロリンダ王国が出した条件は2つ、1つは鉱物の取引の優先権と輸出量を増やすこと、2つ目はランベルトとの婚姻だ。婚姻についてアンブラ王家にクロリンダ王家の血を入れ政治介入しやすくする目的だと思っていたが王女の望みを叶える為だったのだ。それほど愛されて大事にされてきた王女がヴァレリアからランベルトまで奪う。

 世間的にはランベルトとヴァレリアの婚約が解消されたことは布告されている。だが王女との婚約はまだ正式なものではない。半年間王女が我が国に遊学してその間にランベルトと思いを通わせての婚約という筋書きになると昨夜お父様から教えて頂いた。
くだらない建前だが必要なことだと。

 手を付けなかった紅茶はすっかり冷めてしまった。メアリーに返事も出来ずにいると従者が迎えに来た。
説明もなくメアリーも同行するように言う。彼女もなにも聞かされていないようで困惑しながらヴァレリアの後ろを歩く。そして一番豪華な客室へと向かった。

 ああ、とても嫌な予感がする。王女様には会いたくない。何故ここに呼ばれなければならないのか。

 無情にも扉が開き入るように促された。

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