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小話1.オディリアは甘え上手になりたい
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オディリアは綺麗な角度で頭を下げた。
「王太子妃殿下、本日はお招き「堅苦しい挨拶なんてやめてよ~、リア。早く座って?」
今日は王宮の庭園でお茶をしようとイデリーナに招かれた。
顔を上げればイデリーナの隣で女官長がこめかみに指を当て溜息を吐いている。
王族となってもイデリーナは何も変わらなかった……。これでいいのかしら? 駄目ですよね? 女官長が首を横に振りながら諦めたように侍女に何かを指示している。
「妃殿下……「今日は二人だけのお茶会なんだから今まで通りにして。ね?」
オディリアはふうと息を吐き出した。
「イデリーナ様。あなたはもう王太子妃です。今まで通りとはいかないでしょう?」
なんで自分はお説教などしているんだろう……。
「分かっているわ。結婚して2週間、周りからのお説教の嵐でよーーーーく理解しました! でもリアと二人の時だけはリーナでいさせて」
寂しそうにお願いされるとつい甘やかしたくなってしまう。
「仕方ないわね。分かったわ。リーナ、でも二人の時だけよ」
「ありがとう。それで今日はリアに見せたい子がいるのよ!」
イデリーナはパッと嬉しそうな顔になり声を弾ませる。二人が小さな丸テーブルに座ると侍女がお茶を用意してくれる。すると別の侍女が籠を手にオディリアのもとに来た。差し出された籠を覗けばそこには仔猫が顔を覗かせてみゅーみゅー鳴いている。
「まあ、可愛い。あら? マグ!」
昔のマグそっくりの仔猫に驚く。子猫は頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。籠に気を取られているとオディリアの足元にモコモコしたものが動く気配がある。下を見れば艶やかな毛並みのぽっちゃりした黒猫がいた。足の色は白く靴下猫だけど……もしかしてこっちがマグ?
オディリアの驚く様子にイデリーナはしてやったりの顔で楽しそうに笑っている。
「下にいるのがマグよ。侍女たちが可愛がって色々食べさせるからすっかり太ってしまったわ。もう歳だからのんびりして過ごしているの。籠の中の仔猫はマグの孫で名前はノア。可愛いでしょう? 私が育てている仔猫よ。私にとってここでの大切な癒しなの~」
オディリアは籠の仔猫をイデリーナに渡した。そして屈んでマグを持ち上げ膝の上に乗せる。ずっしりとして見た目より重いかもしれない。
「マグ、私を覚えている? オディリアよ?」
マグはオディリアを見上げるとにゃーんと鳴いた。まるで久しぶりとでも言ったような気がする。
「リーナ。他に子猫はいないの? 私も飼いたいなあ」
イデリーナは眉を下げ申し訳なさそうにする。
「いたのだけど……。リアはきっとそう言うと思ってお兄様に相談したのよ? だけど自分より仔猫を大事にしたら困るからダメだって。仔猫にまで焼きもちなんてお兄様も心が狭いわよね~」
初めて聞く話にオディリアは頬を染めた。なにそれ、仔猫に焼きもち? ティバルトって普段凛々しいのに時々すごく可愛らしいわ。
「いや、可愛くないと思うけど」
「えっ? 今声に出してた?」
「出してた。でも、お兄様とリアはお似合いだと思う。あの時リアからの助けを求める手紙をお兄様が勝手に読んだのは腹が立ったけど、結果的に大好きなリアと家族になれたし初めてお兄様を見直したわ」
あの情けない手紙を読まれていた? ちょっと恥ずかしいな。
「まあ、リーナったら。あんな素敵な人がお兄様だったら私はすごく自慢すると思う。でもお兄様より旦那様の方がいいかな」
イデリーナは肩を竦め、仔猫をよしよしと撫でる。
「はいはい。ごちそう様。リアの結婚式ももうすぐね。楽しみだけど準備は大丈夫?」
「準備は万端だけど……。それよりリーナは本当に緊張しなかったの? 私は今から緊張でお腹が痛くなってしまっているわ」
「なんで緊張するの? 隣にアルがずっといてくれるから大丈夫だって思っていたわ。リアだってお兄様がずっと横にいるから何か失敗しても助けてくれるから大丈夫よ」
成程、そう考えればいいのか。イデリーナは失敗して当然でそのフォローは王太子殿下がしてくれると分かっているから緊張しなかったのだ。でもオディリアは失敗してティバルトを煩わせたくない。
「失敗してティバルトにガッカリされたくないのよ……」
イデリーナは不思議そうに首を傾げた。
「お兄様にとってリアの失敗はガッカリどころかご褒美だと思うけど? お兄様はリアに頼られたいのよ。もっと甘えちゃえばいいのに。王妃様も夫は甘えて操縦するのが夫婦円満の秘訣だっておっしゃっていたわ。お母様はリアに似て甘えるのが下手なせいでお父様の心配症に拍車がかかって余計にべったりするようになったみたいだから、上手く甘えないとお兄様も束縛が激しくなるわよ?」
「そもそも何を甘えればいいのか分からないわ。リーナは殿下にどうやって甘えているの?」
イデリーナは人差し指を顎に当て考え込む。
「普段の些細な事でいいのよ。例えば私は昨日外出で疲れたから馬車止めから部屋まで抱っこしてほしいってお願いして連れて行ってもらったけど?」
オディリアは目を丸くして口を開けた。子供じゃないのに疲れたから抱っこ?
「えっ!! 殿下も疲れていたのでは? 嫌がられなかった?」
「大丈夫だったけどなあ。なんかウキウキしながら抱っこしてくれたから嫌がられてないと思う。リアも今日帰ったら早速試してみたら? 馬車を降りる時に抱っこしてほしいって上目遣いでお願いすればきっとお兄様は喜ぶと思う」
イデリーナはニヤニヤと揶揄う。オディリアが言えないと思っているのだろう。本当に喜んでもらえるなら言ってみたいけどもし不愉快そうにされたら悲しい……。
「さあ! 言うの? 言わないの? リアは意気地なしじゃないわよね?」
イデリーナは調子に乗って煽ってきた。そこまで言われたら引き下がれない。
「いいわ。今日……言ってみるわ」
「ふふふ。リア、頑張ってね!」
勢いでイデリーナに応じてしまったがオディリアは帰りの馬車の中ですでに後悔し始めていた。それでもシミュレーションを繰り返して備えた。プレッシャーで手に汗をびっしょりとかいている。さっきはイデリーナと話していて出来そうだと思ったが冷静になったらものすごく恥ずかしいお願いをしようとしていることに気付いて怖気づいている。でも、出来ないとイデリーナと次に会った時にやっぱり無理だったと笑われそうで悔しい。
でも、でも、でも……。
気付けば馬車は公爵邸に着いていた。御者が扉を開けても決断できずになかなか降りることが出来ない。オディリアが顔を出さないことを不審に感じたようで、出迎えてくれたティバルトが馬車を覗き込む。
「オディリア? どうした。具合が悪いのか? 顔が赤いな。少し汗もかいている。熱があるのかもしれない」
そう言うとティバルトはさっさとオディリアを抱き上げて馬車を降り歩き出した。
あれ? 言えなかったけど結果的にティバルトに抱っこしてもらっている? でも抱っこってやっぱり恥ずしい……。オディリアは彼の首に手を回し、顔を隠すようにしがみついた。部屋に着くなりベッドに寝かされ医者を呼ぼうとする。オディリアは慌ててティバルトを止めた。彼に心配をかけたかったわけではないが本当の理由は気まずくて言えない。困った……。
「ティバルト。本当に大丈夫です。あの……、そう結婚式の事を考えていたら緊張してしまって、それだけだから! 体調は何ともないわ。元気だからお医者様を呼ばないで」
ティバルトは眉間を寄せ溜息を吐く。
「オディリアは我慢強くてなかなか弱音を言わないから心配なんだ。出来れば医者を呼びたいが、そこまで言うなら様子を見よう。少しでも具合が悪くなったらすぐに教えてくれ。いいね?」
「はい。ありがとうございます」
「夕食は胃に優しいものを用意するように伝えておくからオディリアは寝ていなさい」
そう言ってティバルトが部屋を出て行くのをオディリアはベッドの上から眺めていた。甘えるのって難しいことなんだと痛感した。イデリーナには敗北宣言をして甘え上手になる秘訣を教えてもらおうと決意したのであった。
「王太子妃殿下、本日はお招き「堅苦しい挨拶なんてやめてよ~、リア。早く座って?」
今日は王宮の庭園でお茶をしようとイデリーナに招かれた。
顔を上げればイデリーナの隣で女官長がこめかみに指を当て溜息を吐いている。
王族となってもイデリーナは何も変わらなかった……。これでいいのかしら? 駄目ですよね? 女官長が首を横に振りながら諦めたように侍女に何かを指示している。
「妃殿下……「今日は二人だけのお茶会なんだから今まで通りにして。ね?」
オディリアはふうと息を吐き出した。
「イデリーナ様。あなたはもう王太子妃です。今まで通りとはいかないでしょう?」
なんで自分はお説教などしているんだろう……。
「分かっているわ。結婚して2週間、周りからのお説教の嵐でよーーーーく理解しました! でもリアと二人の時だけはリーナでいさせて」
寂しそうにお願いされるとつい甘やかしたくなってしまう。
「仕方ないわね。分かったわ。リーナ、でも二人の時だけよ」
「ありがとう。それで今日はリアに見せたい子がいるのよ!」
イデリーナはパッと嬉しそうな顔になり声を弾ませる。二人が小さな丸テーブルに座ると侍女がお茶を用意してくれる。すると別の侍女が籠を手にオディリアのもとに来た。差し出された籠を覗けばそこには仔猫が顔を覗かせてみゅーみゅー鳴いている。
「まあ、可愛い。あら? マグ!」
昔のマグそっくりの仔猫に驚く。子猫は頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。籠に気を取られているとオディリアの足元にモコモコしたものが動く気配がある。下を見れば艶やかな毛並みのぽっちゃりした黒猫がいた。足の色は白く靴下猫だけど……もしかしてこっちがマグ?
オディリアの驚く様子にイデリーナはしてやったりの顔で楽しそうに笑っている。
「下にいるのがマグよ。侍女たちが可愛がって色々食べさせるからすっかり太ってしまったわ。もう歳だからのんびりして過ごしているの。籠の中の仔猫はマグの孫で名前はノア。可愛いでしょう? 私が育てている仔猫よ。私にとってここでの大切な癒しなの~」
オディリアは籠の仔猫をイデリーナに渡した。そして屈んでマグを持ち上げ膝の上に乗せる。ずっしりとして見た目より重いかもしれない。
「マグ、私を覚えている? オディリアよ?」
マグはオディリアを見上げるとにゃーんと鳴いた。まるで久しぶりとでも言ったような気がする。
「リーナ。他に子猫はいないの? 私も飼いたいなあ」
イデリーナは眉を下げ申し訳なさそうにする。
「いたのだけど……。リアはきっとそう言うと思ってお兄様に相談したのよ? だけど自分より仔猫を大事にしたら困るからダメだって。仔猫にまで焼きもちなんてお兄様も心が狭いわよね~」
初めて聞く話にオディリアは頬を染めた。なにそれ、仔猫に焼きもち? ティバルトって普段凛々しいのに時々すごく可愛らしいわ。
「いや、可愛くないと思うけど」
「えっ? 今声に出してた?」
「出してた。でも、お兄様とリアはお似合いだと思う。あの時リアからの助けを求める手紙をお兄様が勝手に読んだのは腹が立ったけど、結果的に大好きなリアと家族になれたし初めてお兄様を見直したわ」
あの情けない手紙を読まれていた? ちょっと恥ずかしいな。
「まあ、リーナったら。あんな素敵な人がお兄様だったら私はすごく自慢すると思う。でもお兄様より旦那様の方がいいかな」
イデリーナは肩を竦め、仔猫をよしよしと撫でる。
「はいはい。ごちそう様。リアの結婚式ももうすぐね。楽しみだけど準備は大丈夫?」
「準備は万端だけど……。それよりリーナは本当に緊張しなかったの? 私は今から緊張でお腹が痛くなってしまっているわ」
「なんで緊張するの? 隣にアルがずっといてくれるから大丈夫だって思っていたわ。リアだってお兄様がずっと横にいるから何か失敗しても助けてくれるから大丈夫よ」
成程、そう考えればいいのか。イデリーナは失敗して当然でそのフォローは王太子殿下がしてくれると分かっているから緊張しなかったのだ。でもオディリアは失敗してティバルトを煩わせたくない。
「失敗してティバルトにガッカリされたくないのよ……」
イデリーナは不思議そうに首を傾げた。
「お兄様にとってリアの失敗はガッカリどころかご褒美だと思うけど? お兄様はリアに頼られたいのよ。もっと甘えちゃえばいいのに。王妃様も夫は甘えて操縦するのが夫婦円満の秘訣だっておっしゃっていたわ。お母様はリアに似て甘えるのが下手なせいでお父様の心配症に拍車がかかって余計にべったりするようになったみたいだから、上手く甘えないとお兄様も束縛が激しくなるわよ?」
「そもそも何を甘えればいいのか分からないわ。リーナは殿下にどうやって甘えているの?」
イデリーナは人差し指を顎に当て考え込む。
「普段の些細な事でいいのよ。例えば私は昨日外出で疲れたから馬車止めから部屋まで抱っこしてほしいってお願いして連れて行ってもらったけど?」
オディリアは目を丸くして口を開けた。子供じゃないのに疲れたから抱っこ?
「えっ!! 殿下も疲れていたのでは? 嫌がられなかった?」
「大丈夫だったけどなあ。なんかウキウキしながら抱っこしてくれたから嫌がられてないと思う。リアも今日帰ったら早速試してみたら? 馬車を降りる時に抱っこしてほしいって上目遣いでお願いすればきっとお兄様は喜ぶと思う」
イデリーナはニヤニヤと揶揄う。オディリアが言えないと思っているのだろう。本当に喜んでもらえるなら言ってみたいけどもし不愉快そうにされたら悲しい……。
「さあ! 言うの? 言わないの? リアは意気地なしじゃないわよね?」
イデリーナは調子に乗って煽ってきた。そこまで言われたら引き下がれない。
「いいわ。今日……言ってみるわ」
「ふふふ。リア、頑張ってね!」
勢いでイデリーナに応じてしまったがオディリアは帰りの馬車の中ですでに後悔し始めていた。それでもシミュレーションを繰り返して備えた。プレッシャーで手に汗をびっしょりとかいている。さっきはイデリーナと話していて出来そうだと思ったが冷静になったらものすごく恥ずかしいお願いをしようとしていることに気付いて怖気づいている。でも、出来ないとイデリーナと次に会った時にやっぱり無理だったと笑われそうで悔しい。
でも、でも、でも……。
気付けば馬車は公爵邸に着いていた。御者が扉を開けても決断できずになかなか降りることが出来ない。オディリアが顔を出さないことを不審に感じたようで、出迎えてくれたティバルトが馬車を覗き込む。
「オディリア? どうした。具合が悪いのか? 顔が赤いな。少し汗もかいている。熱があるのかもしれない」
そう言うとティバルトはさっさとオディリアを抱き上げて馬車を降り歩き出した。
あれ? 言えなかったけど結果的にティバルトに抱っこしてもらっている? でも抱っこってやっぱり恥ずしい……。オディリアは彼の首に手を回し、顔を隠すようにしがみついた。部屋に着くなりベッドに寝かされ医者を呼ぼうとする。オディリアは慌ててティバルトを止めた。彼に心配をかけたかったわけではないが本当の理由は気まずくて言えない。困った……。
「ティバルト。本当に大丈夫です。あの……、そう結婚式の事を考えていたら緊張してしまって、それだけだから! 体調は何ともないわ。元気だからお医者様を呼ばないで」
ティバルトは眉間を寄せ溜息を吐く。
「オディリアは我慢強くてなかなか弱音を言わないから心配なんだ。出来れば医者を呼びたいが、そこまで言うなら様子を見よう。少しでも具合が悪くなったらすぐに教えてくれ。いいね?」
「はい。ありがとうございます」
「夕食は胃に優しいものを用意するように伝えておくからオディリアは寝ていなさい」
そう言ってティバルトが部屋を出て行くのをオディリアはベッドの上から眺めていた。甘えるのって難しいことなんだと痛感した。イデリーナには敗北宣言をして甘え上手になる秘訣を教えてもらおうと決意したのであった。
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