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36.ある朝(本編完結)
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オディリアは朝目覚めると今最も大切なものが置かれている部屋へと向かった。いつも起きるよりかなり時間が早い。マリーもまだ起こしにはこないだろう。
部屋に入れば中央に置かれているのは豪奢なウエディングドレスを纏うトルソーだ。
朝日を浴びて純白のドレスがキラキラと輝いている。
ブリューム公爵家の総力を挙げて作られた自分の為の世界に一着だけのドレス。ドレスに使われているレースは見たこともない程美しく繊細で上等なものだ。そっと手に取り眺めてはため息が漏れる。
自分には勿体ないと思う反面、このドレスを着てティバルトの隣に立てるのだと思うと嬉しくて仕方がない。
昨日はイデリーナがアルフォンス王太子殿下と結婚した良き日だった。純白の美しいドレスで愛を誓うイデリーナは本当に綺麗だった。オディリアは感激に目を潤ませイデリーナを見守った。
失敗しないかとハラハラする公爵家のみんなに対し、当の本人は心配し過ぎだと笑い飛ばし堂々としていた。イデリーナは楽しみだけど緊張はしていないとまで言っていた。この度胸の良さというかあまり考えないところがイデリーナの長所で……きっと未来の王妃に相応しいのだろう。
イデリーナは王太子妃となり王家の人間になった。オディリアはただの貴族でもう立場が違う。今までのように気安く話すことが出来ないと思うと寂しかったがイデリーナが幸せならそれが一番だと思い直した。
オディリアは目が覚めた時に昨日のイデリーナを思い出した。そしてあの時の喜びが蘇り無性に自分のドレスを見たくなってしまった。
あとひと月後にはこのドレスを着て昨日のイデリーナが殿下にしたように自分もティバルトに永遠の愛を誓う。段取りは既に何百回も頭の中で確認しているが不安は拭えない。彼の隣で失敗は絶対にしたくない。ティバルトには自分のとびっきりいい所を見せたいからだ。
結婚式の日に自分はきっとティバルトを今よりも大好きになるだろう。だから彼にも同じように好かれるように完璧を目指したい。そう心に誓い拳を握り頷いていると後ろからくすくすと声がする。
振り返ればティバルトが扉にもたれ掛かって、肩を震わせ拳を口に当てて笑っている。
「まあ、ティバルト。いつからいたの?」
「さっきだ」
ティバルトはようやく笑いをおさめた。オディリアは首を傾げる。
「朝早くから、どうしてこの部屋に?」
「たぶん、オディリアと同じ気持ちになったからだと思う」
その言葉に胸が温かくなる。ティバルトはオディリアの前に来るとそっと額に口付けた。
「おはよう。オディリア」
オディリアはティバルトの肩に手を乗せつま先立ちで彼の頬に口付けた。
「おはようございます。ティバルト」
目を合わせ微笑み合う。
オディリアは自分がブリューム公爵家風の愛情表現にすっかり慣れたと感慨深く思った。今ではすっかり照れずに挨拶ができるようになった。想定外の溺愛にも慣れることが出来るんだと新発見である。
「今朝は天気がいいから庭で朝食にしようか?」
「まあ、素敵! マリーには手間をかけさせてしまうけどそうしましょう」
ティバルトがすっとエスコートのために腕を差し出した。
オディリアはその腕に手を添え一緒に歩き出す。
きっと結婚式の日もその後も……ずっとこんな風に二人並んで歩いていくのだと思いながら。
(おわり)
お読みくださりありがとうございました。
部屋に入れば中央に置かれているのは豪奢なウエディングドレスを纏うトルソーだ。
朝日を浴びて純白のドレスがキラキラと輝いている。
ブリューム公爵家の総力を挙げて作られた自分の為の世界に一着だけのドレス。ドレスに使われているレースは見たこともない程美しく繊細で上等なものだ。そっと手に取り眺めてはため息が漏れる。
自分には勿体ないと思う反面、このドレスを着てティバルトの隣に立てるのだと思うと嬉しくて仕方がない。
昨日はイデリーナがアルフォンス王太子殿下と結婚した良き日だった。純白の美しいドレスで愛を誓うイデリーナは本当に綺麗だった。オディリアは感激に目を潤ませイデリーナを見守った。
失敗しないかとハラハラする公爵家のみんなに対し、当の本人は心配し過ぎだと笑い飛ばし堂々としていた。イデリーナは楽しみだけど緊張はしていないとまで言っていた。この度胸の良さというかあまり考えないところがイデリーナの長所で……きっと未来の王妃に相応しいのだろう。
イデリーナは王太子妃となり王家の人間になった。オディリアはただの貴族でもう立場が違う。今までのように気安く話すことが出来ないと思うと寂しかったがイデリーナが幸せならそれが一番だと思い直した。
オディリアは目が覚めた時に昨日のイデリーナを思い出した。そしてあの時の喜びが蘇り無性に自分のドレスを見たくなってしまった。
あとひと月後にはこのドレスを着て昨日のイデリーナが殿下にしたように自分もティバルトに永遠の愛を誓う。段取りは既に何百回も頭の中で確認しているが不安は拭えない。彼の隣で失敗は絶対にしたくない。ティバルトには自分のとびっきりいい所を見せたいからだ。
結婚式の日に自分はきっとティバルトを今よりも大好きになるだろう。だから彼にも同じように好かれるように完璧を目指したい。そう心に誓い拳を握り頷いていると後ろからくすくすと声がする。
振り返ればティバルトが扉にもたれ掛かって、肩を震わせ拳を口に当てて笑っている。
「まあ、ティバルト。いつからいたの?」
「さっきだ」
ティバルトはようやく笑いをおさめた。オディリアは首を傾げる。
「朝早くから、どうしてこの部屋に?」
「たぶん、オディリアと同じ気持ちになったからだと思う」
その言葉に胸が温かくなる。ティバルトはオディリアの前に来るとそっと額に口付けた。
「おはよう。オディリア」
オディリアはティバルトの肩に手を乗せつま先立ちで彼の頬に口付けた。
「おはようございます。ティバルト」
目を合わせ微笑み合う。
オディリアは自分がブリューム公爵家風の愛情表現にすっかり慣れたと感慨深く思った。今ではすっかり照れずに挨拶ができるようになった。想定外の溺愛にも慣れることが出来るんだと新発見である。
「今朝は天気がいいから庭で朝食にしようか?」
「まあ、素敵! マリーには手間をかけさせてしまうけどそうしましょう」
ティバルトがすっとエスコートのために腕を差し出した。
オディリアはその腕に手を添え一緒に歩き出す。
きっと結婚式の日もその後も……ずっとこんな風に二人並んで歩いていくのだと思いながら。
(おわり)
お読みくださりありがとうございました。
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