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28.偶然
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オディリアはまず目的のシュークリーム店に向かった。邪魔にならないようお店のある通りから少し離れたところに馬車を停めお店まで歩くことにした。
店の外には女性ばかりの行列が見える。離れた場所でも甘い匂いが漂う。オディリアもその列に並ぼうとわくわくしながら馬車を降りようとしたのだがすぐさま護衛に止められた。順番が来るまで御者に並んでもらい買う時にオディリアが店内に行くように言われた。
それではずるをしているようで嫌だったが、ティバルトから安全を考えてそういう指示を受けていると聞かされれば断ることは出来ない。従者にも申し訳ないことをしてしまった。仕方なく馬車でじっと待つ。これでは屋敷に呼ぶのとあまり変わらない気がしてきた。オディリアは密かに列に並び周りの様子を観察するのを楽しみにしていたのだ。それでも店内を見ることが出来るのだからと気を取り直す。
暫く待つと護衛の合図で店内に向かう。店員は慣れているようで手際よくお客を捌いているので想像したよりも待ち時間は短かった。
カラフルで可愛らしい店内は若い女性が多くいる。シュークリームの並んでいるガラスケースを見ればやや小ぶりのシュークリームに色とりどりのチョコレートが掛かっておりそこには顔が描かれている。猫や犬、熊や兎など動物の顔が描かれていて何とも可愛らしい。見ているだけでも楽しいが食べても美味しそうだ。
全種類を買い求め馬車に戻ろうと店を出れば、来るときに気付かなかった店が目に留まった。
その店の陳列窓には綺麗な人形が並べられている。それ以外にも縫いぐるみもあり、パッと見る限り値段も様々で貴族以外でも買い求めやすそうな商品も並んでいるようだ。
高い位置の棚には手の込んだ女の子の人形が可愛らしく座っている。来ているドレスも丁寧の縫製で手の込んだまるで本物のドレスのミニチュア版だ。少し店内を覗きたくなって護衛には店の前で待っていてほしいと頼んだ。
「オディリア様。私も中へご一緒致します。ティバルト様からは目を離さないよう言われております」
ティバルトに忠実な護衛の言葉に苦笑いをしながらオディリアは頷いた。護衛が扉を開けてくれたので店内へと足を踏み入れる。
「こんにちは」
店内の照明は控えめでやや暗い。広さはそれほどなくアンティークな雰囲気の机や棚が置かれており、そこに美しい人形や可愛らしい縫いぐるみが一定の間隔で陳列されていた。
奥から年配の穏やかそうな男性がニコニコと現われた。彼が店主のようだ。
「いらっしゃいませ」
「お人形を見せて頂いてもいいですか?」
「どうぞ。触れて頂いても構いませんよ」
オディリアはゆっくりと店内を歩き置かれている人形たちを眺めた。見慣れない異国風の豪華な衣装を着た人形も多くある。輸入したものだろう。人形の顔も様々だ。これならば貴族の娘が珍しがって欲しがりそうだ。
護衛は入り口でその様子を見守っている。暫くすると店主がオディリアに声をかけてきた。
「お嬢さま。よかったら奥にある人形もご覧になりますか。最近入荷したものですが大きくて店内には置く場所がなく奥に飾ってあります。これほどの物はかなり珍しいものです。この人形は売るための物ではなく特別なお客様にお見せするための物なのですが見ればきっと驚かれると思います。ぜひ、どうぞ」
初めて来た自分が見ていいのか迷ったがせっかくの誘いだしその珍しい人形がどのような物なのか興味が湧いた。
「では、お言葉に甘えて見せて頂こうかしら?」
「ええ、遠慮などなさらずに。少し前に来られたお客様が先にご覧になっていますがご一緒にどうぞ」
店主の後について奥の部屋に進むと重そうな扉があった。
扉を開けるとその部屋には窓がなく中央にはアンティークの大きな椅子がありそこに等身大の美しい少女の人形が座っている。あまりの精巧な作りに見惚れるよりも正直なところぞっとしてしまった。オディリアは本物の人間が座っていると思ったほどだった。その人形は高価な宝石が散りばめられたドレスを纏っている。どれ程の値が付くのだろうかと驚いてしまった。
その横に女性が一人立っていた。シンプルながら来ているドレスを見る限り裕福な貴族の女性だろう。人形を近くで観察していた女性はオディリアが入室するとゆっくりと振り返った。そしてお互いに目を合わせると驚きで目を見開く。
「ウルリカ様!」
「オディリア様。どうしてここに?」
オディリアはウルリカと偶然会えたことが嬉しくて声をかけたがウルリカは険しい表情になると鋭く低い声で問いかけてきた。
オディリアは困惑する。先日のウルリカの態度と違い過ぎて戸惑ってしまい返事の声が震えてしまった。
「偶然通りかかったら可愛らしい人形があったので覗いてみたのですが……」
「このお店はオディリア様には相応しくありませんわ。すぐに帰られたほうが」
「ゴン!!」
ウルリカは一体何を言い出すのだと思ったら背後から鈍い大きな音がした。
振り返れば足元に護衛が頭を押さえて倒れていた。その後ろで店主が大きな棒を握っていた。オディリアは目の前で起こったことが理解できなかった。
店の外には女性ばかりの行列が見える。離れた場所でも甘い匂いが漂う。オディリアもその列に並ぼうとわくわくしながら馬車を降りようとしたのだがすぐさま護衛に止められた。順番が来るまで御者に並んでもらい買う時にオディリアが店内に行くように言われた。
それではずるをしているようで嫌だったが、ティバルトから安全を考えてそういう指示を受けていると聞かされれば断ることは出来ない。従者にも申し訳ないことをしてしまった。仕方なく馬車でじっと待つ。これでは屋敷に呼ぶのとあまり変わらない気がしてきた。オディリアは密かに列に並び周りの様子を観察するのを楽しみにしていたのだ。それでも店内を見ることが出来るのだからと気を取り直す。
暫く待つと護衛の合図で店内に向かう。店員は慣れているようで手際よくお客を捌いているので想像したよりも待ち時間は短かった。
カラフルで可愛らしい店内は若い女性が多くいる。シュークリームの並んでいるガラスケースを見ればやや小ぶりのシュークリームに色とりどりのチョコレートが掛かっておりそこには顔が描かれている。猫や犬、熊や兎など動物の顔が描かれていて何とも可愛らしい。見ているだけでも楽しいが食べても美味しそうだ。
全種類を買い求め馬車に戻ろうと店を出れば、来るときに気付かなかった店が目に留まった。
その店の陳列窓には綺麗な人形が並べられている。それ以外にも縫いぐるみもあり、パッと見る限り値段も様々で貴族以外でも買い求めやすそうな商品も並んでいるようだ。
高い位置の棚には手の込んだ女の子の人形が可愛らしく座っている。来ているドレスも丁寧の縫製で手の込んだまるで本物のドレスのミニチュア版だ。少し店内を覗きたくなって護衛には店の前で待っていてほしいと頼んだ。
「オディリア様。私も中へご一緒致します。ティバルト様からは目を離さないよう言われております」
ティバルトに忠実な護衛の言葉に苦笑いをしながらオディリアは頷いた。護衛が扉を開けてくれたので店内へと足を踏み入れる。
「こんにちは」
店内の照明は控えめでやや暗い。広さはそれほどなくアンティークな雰囲気の机や棚が置かれており、そこに美しい人形や可愛らしい縫いぐるみが一定の間隔で陳列されていた。
奥から年配の穏やかそうな男性がニコニコと現われた。彼が店主のようだ。
「いらっしゃいませ」
「お人形を見せて頂いてもいいですか?」
「どうぞ。触れて頂いても構いませんよ」
オディリアはゆっくりと店内を歩き置かれている人形たちを眺めた。見慣れない異国風の豪華な衣装を着た人形も多くある。輸入したものだろう。人形の顔も様々だ。これならば貴族の娘が珍しがって欲しがりそうだ。
護衛は入り口でその様子を見守っている。暫くすると店主がオディリアに声をかけてきた。
「お嬢さま。よかったら奥にある人形もご覧になりますか。最近入荷したものですが大きくて店内には置く場所がなく奥に飾ってあります。これほどの物はかなり珍しいものです。この人形は売るための物ではなく特別なお客様にお見せするための物なのですが見ればきっと驚かれると思います。ぜひ、どうぞ」
初めて来た自分が見ていいのか迷ったがせっかくの誘いだしその珍しい人形がどのような物なのか興味が湧いた。
「では、お言葉に甘えて見せて頂こうかしら?」
「ええ、遠慮などなさらずに。少し前に来られたお客様が先にご覧になっていますがご一緒にどうぞ」
店主の後について奥の部屋に進むと重そうな扉があった。
扉を開けるとその部屋には窓がなく中央にはアンティークの大きな椅子がありそこに等身大の美しい少女の人形が座っている。あまりの精巧な作りに見惚れるよりも正直なところぞっとしてしまった。オディリアは本物の人間が座っていると思ったほどだった。その人形は高価な宝石が散りばめられたドレスを纏っている。どれ程の値が付くのだろうかと驚いてしまった。
その横に女性が一人立っていた。シンプルながら来ているドレスを見る限り裕福な貴族の女性だろう。人形を近くで観察していた女性はオディリアが入室するとゆっくりと振り返った。そしてお互いに目を合わせると驚きで目を見開く。
「ウルリカ様!」
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振り返れば足元に護衛が頭を押さえて倒れていた。その後ろで店主が大きな棒を握っていた。オディリアは目の前で起こったことが理解できなかった。
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