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13.再会

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 オディリアは髪を結い上げしっかりと身だしなみを整えてからマリーの先導で応接室に向かう。
 歩きながら四年振りの再会の第一声を考える。まずは寝過ごしたことの謝罪をして……いや、出国してブリューム公爵家に迎え入れてくれたお礼が先だろうか。お久しぶりです? ごめんなさい? ありがとうございます? どの言葉がしっくりくるかと思案する。

 マリーがノックをして扉を開ける。まだ心の準備ができていないと僅かな焦りと緊張で体を硬くするオディリアにマリーは安心させるように頷いて入室を勧めた。オディリアは一瞬息を止め、深呼吸をして応接室に大きく一歩を踏み入れた。

 室内を見ればディック様とカロリーナ様とイデリーナがソファーに座りオディリアを待っていた。懐かしい……とても懐かしい三人の顔を見てきゅっと胸が締め付けられる。あれほど望んだこのときをどこか信じられないのかもしれない。
 伝えたいことがあるのに唇が震え準備していた言葉は何一つ出てこなかった。みんなの顔が滲んでぼやける。オディリアはそこに立ち竦み動くことが出来ない。真っ先に動いたのはイデリーナだった。オディリアを見つめる琥珀色の瞳は潤んでいる。ソファーから立ち上がると駆け寄り勢いよくオディリアに抱きついた。

「……おかえり、リア」

 小さい声だけどはっきりとオディリアには聞こえた。
 その瞬間、瞳に溜まった涙が零れ落ちた。イデリーナのおかえりのその言葉が耳から胸にストンと落ちじわじわと熱を持って体に広がる。ただいまって言ってもいい? ここに帰ってきてもいいの? 言葉にならない思いに答えるようにイデリーナはオディリアの背中を優しく擦る。ああ、ようやく帰ってくることが出来た。この世界で私の存在を許してくれる場所に。

「っ……た、……ただい……ま」

 オディリアとイデリーナはお互いがしがみつくように抱きしめてまるで子供のように泣きながら再会を喜んだ。ディック様とカロリーナ様は二人が落ち着くのを待っていてくれた。

「オディリア。私に顔をよく見せて頂戴」

 カロリーナはオディリアの頬に手を添えて顔を覗き込み、優しく微笑んだ。

「ふふ。すっかり美しくなって。でも泣き顔は昔のままだわ」

「オディリア。大変だったね。助けるのが遅くなってすまない。これからはブリューム公爵家が君を守る。安心しなさい」

 ディック様の言葉は頼もしく今のオディリアにとってこれほど心強いものはない。

「はい……ありがとうございます」

「リア! これからは一緒に過ごせるわ。いろいろ話したいこともあるのよ」

「くぅ~~~」

「………………」

 オディリアは自分のお腹を押さえて真っ赤になった。返事をしようとしたらお腹が鳴ってしまった。そういえば昨日のお昼を最後に何も食べていなかった……。

「まあ、大変。そういえばオディリアは食事をしていなかったわね。昼食の準備は出来ているのよ。食堂へ行きましょう」

「リア。行こう。いっぱい食べてね!」

 イデリーナはくすくす笑いながらオディリアの手を引っ張って食堂へと向かう。変わらないイデリーナに離れていた四年の月日があっという間に消えてあの頃に戻ったようだ。
 食堂には昼食としては品数も多く手の込んだ豪華な食事がすでに用意されていた。みんなが席につけば給仕がカボチャのポタージュを皿によそう。美味しそうな匂いが湯気と共に漂う。オディリアが大好きなスープだ。

「いただきます」

 スプーンですくい口に運ぶ。美味しくて顔が綻ぶ。その様子を三人に見られていることに気付き恥ずかしくなって手を止めた。

「あの……」

「そんなにみんなで見ていたらオディリアが落ち着いて食べることができないわ。私たちも頂きましょう」

「はーい。リアが美味しそうな顔をしていてよかった。ふふふ」

 並べられた食事はオディリアが好きな物ばかりだった。この屋敷に人々の優しさに胸がいっぱいになる。
 食事が終わりお茶を飲みながら差し障りのない会話をした。三人はシュミット侯爵家であったことにはオディリアを気遣い触れなかった。

「オディリア。ここでの生活が落ち着いたら今後の事を話そう。それまでは羽を伸ばすといい」

「リアと遊べるなんて楽しみだわ」

「イデリーナは王太子妃教育があるでしょう? さぼることは許しませんよ」

 イデリーナは悲しそうに眉を下げカロリーナに訴える。

「せっかくリアが帰ってきたのに少しくらいいいでしょう? お母様」

「それならばお勉強をその分頑張ってね」

 カロリーナ様は甘くはなかった。イデリーナはあからさまに肩を落とししょんぼりした。

「そうだわ。リーナ。婚約おめでとう。大好きな人と婚約出来てよかったわね」

「ありがとう。リア。今度アルを紹介するわ」

 イデリーナはほんのり頬を染めている。幸せそうにはにかむその可愛い姿を見ればオディリアの顔に笑みがこぼれる。

「あの……。ティバルト様は、……今日はお仕事ですか?」

 少し歯切れ悪く問いかけた。実のところオディリアはティバルトがいないことを少し……残念に思っていた。食事中もティバルトのことが聞きたくて仕方なかったのだがそのタイミングが掴めなかった。彼には迎えに来てくれたお礼と、眠ってしまった自分を運ばせてしまったお詫びを伝えたかった。だが変に意識してしまい上手く聞けなかったのだ。カロリーナはオディリアの顔を見て何かを感じたようで嬉しそうだ。

「ティバルトは仕事でどうしても王宮に行かなくてならなくて。オディリアに会いたがっていたわ。夕食までには帰ってくると思うの。その時にきちんと紹介するわ」

「あっ! 私、ものすごく寝過ごしてしまってごめんなさい」

「いいのよ。それだけ気を張り詰めていたのだろうし、この屋敷で気を緩めることが出来たのなら嬉しいわ。これからは、ブリューム公爵家があなたの家で私達はあなたの家族なのよ。そのことを忘れないでね」

「はい。ありがとうございます。すごく……嬉しいです」

 シュミット侯爵家の中では自分は異物のようで家族ではなかった。
 オディリアは落ち着いたらティバルトとの婚約の解消をして修道院に行くかまた別の道を探さなければならないが、きっと力になってくれるだろう。
 カロリーナの言葉にオディリアは一人じゃないと思えて心から救われた。

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