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5.すれ違いのその先に
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私は彼が喜んでくれますようにと綺麗にラッピングをして、明日の授業が終わったら送るつもりで机に置いておいた。翌日、部屋に戻ったら机の上のタペストリーがなくなっていた。私が慌てて探しているとヘレンが部屋に戻ってきた。
「セリーナ。机の上にあったプレゼントなら寮母さんに頼んで送ってもらったわよ? ロニーの名前が書いてあったからあれはロニーに送るものでしょう。早い方がいいと思って今行ってきたところよ」
「ヘレン! ありがとう。助かるわ。私が刺繍したタペストリーなの。ロニーは喜んでくれるかしら?」
「絶対に喜ぶわよ。セリーナが一生懸命彼のために刺繍したものなんだから大丈夫」
私は彼から手紙が来るのを毎日待ち焦がれた。一言「嬉しかった」その言葉が聞きたかった。でもいくら待ってもとうとう返事は来なかった。
ロニーなら受け取ったと連絡くらいはあると思ったのに私はすっかり嫌われてしまったようだ。
学園祭も終わりお休みも取れるようになった。外出申請も可能となったが、私は彼に連絡することが怖くなってしまった。彼の怪我を聞いてから一度も手紙が来ていない。また、出しても無視されてしまったら。これ以上決定的な拒絶をされるのを恐れ「会いたい」と伝えられなかった。結局私の内気な性格は治っておらず臆病なまま逃げてしまった。
ある日、クラスメイトが心配そうに私に話しかけてきた。
「セリーナ様。その、……婚約者の方と大丈夫ですか?」
「大丈夫とは?」
ロニーのことを想うと胸がギュッとなる。それでも何のことかと首を傾げて問いかけた。
「私昨日、ヘレンと一緒にデートしている所を見たのよ。私だけでなく他にも……。前々から噂になっていたのだけどセリーナは知らないのかと思って心配になったのよ」
「前々から噂?」
私はその噂を全く知らなかった。ロニーとヘレンは二人でカフェや植物園に出かけているそうだ。最初はヘレンが私の友人であることで偶然会って過ごしていると思ったそうだが、二人は腕を組んで歩いて仲睦まじそうだったと教えてくれた。
私は頭の中が真っ白になった。ヘレンからは何も聞いていない。信じたくない。それなのにクラスメイトの言葉が心にストンと落ち納得できてしまった。
ロニーが私に冷たくなったのはヘレンに心変わりしたからだ。
私は彼の婚約者だ。二人に噂を問い質すべきだと思ったがその勇気がでなかった。ただの噂だと思っていれば私は傷つかない。そう考え自分を誤魔化した。私はいつロニーから婚約解消を言われるのかとびくびくしながら過ごした。彼を好きな気持ちは変わっていなかった。
ヘレンは知らない内に寮の部屋の移動願いを出していたらしく、ある日突然、彼女の荷物が無くなり移動したことをクラスメイトの子が教えてくれた。もともとクラスは違うので会いに行かなければ顔を合わせることはない。
ヘレンも私に会いに来なかった。彼女はもはや親友ではなかった。
ロニーからは一度だけ手紙が来た。怪我が治ってそのまま休学し侯爵家に戻ったそうだ。単位は足りていたのでそのまま卒業できるらしい。私が学園を卒業したら会おうと書かれていた。まるで業務報告のような内容に彼の心が離れてしまったことを感じた。
しばらくして私も学園を無事に卒業し寮を出て屋敷に戻った。
ロニーは卒業をお祝いしに会いに来てくれた。久しぶりの再会はどこかぎこちなかった。
彼は婚約解消を言い出さなかった。私と結婚する意志があるということなら、もう一度やり直せるかもしれない。ヘレンと別れて私と結婚することを望んでくれた。彼は私を選んでくれたとそう思った。それならまた、昔のような二人に戻れると信じた。
私は結婚式の準備とパーカー侯爵家の家政を手伝うために頻繁にロニーのもとを訪れた。彼は笑顔で迎えてくれて世間話などで楽しませてくれた。いつのまにかぎこちなさはなくなり、昔のように過ごせていた。
でも私は気付いていた。ロニーが遠くをぼんやりと眺め切なさそうに溜息をつくことを。もしかしたらヘレンを思い出しているのかもしれない。
私は自分の不安や不満を必死に押し殺し、作り笑いを浮かべ結婚式の準備を進めた。
結局私は彼とヘレンの噂の不信感を抱いたまま、彼と一緒になることを諦められなかった。
結婚することで彼の気持ちが整理されることを願っていた。
ところが彼は結婚式の前日に私のもとを訪れ「他の人を愛している」と言った。私は自分の考えは都合のいい幻想にすぎないと思い知らされた。
『いまでも彼はヘレンを愛している』
私とは家のために愛のない結婚をするつもりなのだ。でも彼の本心なんて聞きたくなかった。ヘレンと一緒になれない恨みを私に向け私を傷つけたかったのか。それとも彼は良心の呵責から逃れるために私に愛せないと告げたのか。彼が何を考えているのかは分からない。
幼い頃、彼との婚約が嬉しくてたまらなかった。待ち望んだ憧れの結婚式は虚しく悲しいものだった。今、愛を誓うこの瞬間も彼の心にはヘレンがいる。最後の望みを捨てきれず提案した契約は最初から無意味だった。
私の結婚生活は、後悔から始まった。
「セリーナ。机の上にあったプレゼントなら寮母さんに頼んで送ってもらったわよ? ロニーの名前が書いてあったからあれはロニーに送るものでしょう。早い方がいいと思って今行ってきたところよ」
「ヘレン! ありがとう。助かるわ。私が刺繍したタペストリーなの。ロニーは喜んでくれるかしら?」
「絶対に喜ぶわよ。セリーナが一生懸命彼のために刺繍したものなんだから大丈夫」
私は彼から手紙が来るのを毎日待ち焦がれた。一言「嬉しかった」その言葉が聞きたかった。でもいくら待ってもとうとう返事は来なかった。
ロニーなら受け取ったと連絡くらいはあると思ったのに私はすっかり嫌われてしまったようだ。
学園祭も終わりお休みも取れるようになった。外出申請も可能となったが、私は彼に連絡することが怖くなってしまった。彼の怪我を聞いてから一度も手紙が来ていない。また、出しても無視されてしまったら。これ以上決定的な拒絶をされるのを恐れ「会いたい」と伝えられなかった。結局私の内気な性格は治っておらず臆病なまま逃げてしまった。
ある日、クラスメイトが心配そうに私に話しかけてきた。
「セリーナ様。その、……婚約者の方と大丈夫ですか?」
「大丈夫とは?」
ロニーのことを想うと胸がギュッとなる。それでも何のことかと首を傾げて問いかけた。
「私昨日、ヘレンと一緒にデートしている所を見たのよ。私だけでなく他にも……。前々から噂になっていたのだけどセリーナは知らないのかと思って心配になったのよ」
「前々から噂?」
私はその噂を全く知らなかった。ロニーとヘレンは二人でカフェや植物園に出かけているそうだ。最初はヘレンが私の友人であることで偶然会って過ごしていると思ったそうだが、二人は腕を組んで歩いて仲睦まじそうだったと教えてくれた。
私は頭の中が真っ白になった。ヘレンからは何も聞いていない。信じたくない。それなのにクラスメイトの言葉が心にストンと落ち納得できてしまった。
ロニーが私に冷たくなったのはヘレンに心変わりしたからだ。
私は彼の婚約者だ。二人に噂を問い質すべきだと思ったがその勇気がでなかった。ただの噂だと思っていれば私は傷つかない。そう考え自分を誤魔化した。私はいつロニーから婚約解消を言われるのかとびくびくしながら過ごした。彼を好きな気持ちは変わっていなかった。
ヘレンは知らない内に寮の部屋の移動願いを出していたらしく、ある日突然、彼女の荷物が無くなり移動したことをクラスメイトの子が教えてくれた。もともとクラスは違うので会いに行かなければ顔を合わせることはない。
ヘレンも私に会いに来なかった。彼女はもはや親友ではなかった。
ロニーからは一度だけ手紙が来た。怪我が治ってそのまま休学し侯爵家に戻ったそうだ。単位は足りていたのでそのまま卒業できるらしい。私が学園を卒業したら会おうと書かれていた。まるで業務報告のような内容に彼の心が離れてしまったことを感じた。
しばらくして私も学園を無事に卒業し寮を出て屋敷に戻った。
ロニーは卒業をお祝いしに会いに来てくれた。久しぶりの再会はどこかぎこちなかった。
彼は婚約解消を言い出さなかった。私と結婚する意志があるということなら、もう一度やり直せるかもしれない。ヘレンと別れて私と結婚することを望んでくれた。彼は私を選んでくれたとそう思った。それならまた、昔のような二人に戻れると信じた。
私は結婚式の準備とパーカー侯爵家の家政を手伝うために頻繁にロニーのもとを訪れた。彼は笑顔で迎えてくれて世間話などで楽しませてくれた。いつのまにかぎこちなさはなくなり、昔のように過ごせていた。
でも私は気付いていた。ロニーが遠くをぼんやりと眺め切なさそうに溜息をつくことを。もしかしたらヘレンを思い出しているのかもしれない。
私は自分の不安や不満を必死に押し殺し、作り笑いを浮かべ結婚式の準備を進めた。
結局私は彼とヘレンの噂の不信感を抱いたまま、彼と一緒になることを諦められなかった。
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ところが彼は結婚式の前日に私のもとを訪れ「他の人を愛している」と言った。私は自分の考えは都合のいい幻想にすぎないと思い知らされた。
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幼い頃、彼との婚約が嬉しくてたまらなかった。待ち望んだ憧れの結婚式は虚しく悲しいものだった。今、愛を誓うこの瞬間も彼の心にはヘレンがいる。最後の望みを捨てきれず提案した契約は最初から無意味だった。
私の結婚生活は、後悔から始まった。
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