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6.僕の婚約者(ロニー)
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僕の婚約者のセリーナはお人形のような可愛らしい女の子だ。伯爵家で大事に育てられたせいか人見知りで気が弱く、いつも親の影に隠れ顔を恐々と覗かせる。でもその姿が愛らしく僕が守ってあげたいと思った。手を差し出し遊ぼうと誘えば花が咲いたようにぱあと笑顔を見せる。その瞬間がとても大好きだった。
セリーナとの婚約が決まった時は純粋に嬉しかった。だが、自分の家がセリーナの家に多額の金を借りて、その経緯から結ばれた婚約だと知った時酷く自尊心が傷ついた。まるで僕自身が金で買われたように感じた。セリーナは知らないようで無邪気に僕に話しかける。だから心の暗い軋みを彼女に見せないように気を付けた。
ある日、陛下の生誕祭で近衛兵が王城から行進する姿を二人で見学した。
「ロニー、騎士様たちがすごく格好よくて素敵ね!」
「ああ、そうだね」
一糸乱れぬ行進は圧巻で二人とも興奮しながら眺めた。
僕はその時のセリーナのキラキラした目が忘れられず学園に入学して騎士科を選んだ。本来ならばパーカー侯爵家を継ぐために有利になる科を選択するべきだが、強い男になって彼女を守りたい、あの時の騎士に向けるような眼差しを彼女にして欲しい、そんな気持ちで決めた。その理由を聞いた父は苦笑いをしながら勉強を疎かにさえしなければいいと許してくれた。
騎士科の訓練は想像以上に大変で辛かったが、長期休暇の度にセリーナが僕を尊敬の眼差しで見てくれることに喜びが湧き、くじけることなく励むことが出来た。
セリーナも学園に入学する。学年も科も違うし授業は男女別で学び、更に全寮制で外出許可をもらえなければ簡単に会うことは出来ないが、それでも彼女が身近にいると思えば嬉しく感じた。セリーナは内気な性格で友人が出来るのか心配していたが、互いの外出許可日に会った時に親友が出来たと紹介してくれた。
それがタナー子爵令嬢のヘレンだ。ヘレンは気さくで明るく話し上手だ。引っ込み思案のセリーナもすっかりと打ち解けたようで安堵した。
外出の度にヘレンも一緒に来ていたが、僕は彼女との会話が楽しくそのことに違和感を抱いたことはなかった。普段騎士科で令嬢と話す機会がなく新鮮で少し浮かれていたのかもしれない。
「ロニー、いくら婚約者の友人でもいつもデートにくっついてくるなんて変じゃないか? 婚約者が断りづらいならロニーから一言遠慮してもらうように言った方がいいと思うぞ?」
騎士科の友人に忠告されたが、僕は笑い飛ばした。
「別に三人で楽しく話をしているだけだ。疚しいことなどないのに断る必要はないだろう? セリーナもきっと三人の方がいいと思って断らないんだろう」
二人は親友だから結婚後も付き合いは続くだろう。セリーナの夫となる僕も親しくしていてもおかしなことはないはずだ。
僕は日々の鍛錬の結果、それなりに実力をつけ強くなった。騎士科の公開試合ではセリーナに格好いい所が見せられると意気込んでいたが、彼女は留学生の世話で来れないと分かりすごくガッカリした。だが年上の余裕を見せて留学生を優先するように勧めた。
「私がセリーナの分もロニーを応援するわ!」
ヘレンの言葉に慰められた。最近のセリーナは生徒会に入り忙しくしている。いずれ結婚し社交に出た時の人脈作りにもなると張り切っているが、もう少し僕との時間を優先して欲しかった。
そして公開試合で僕は格上相手に負けて、体を打撲し利き腕を骨折してしまった。こんな情けない姿をセリーナに見せなくて良かったと思う反面、見舞いにすら来ないことに不満を抱いた。
僕は意固地になりセリーナから会いに来るか連絡があるまでこちらからは会いに行かないことにした。
数日経ってもセリーナからは手紙すら来ない。ベッドの上で痛みに喘いでいるとヘレンが見舞いに来てくれた。
「ロニー、大丈夫?」
「ああ、ヘレン。あまり……大丈夫ではないけれど、なんとかなっているよ。あの、セリーナは?」
ヘレンは顔を曇らせ悲しそうな目で僕を見た。
「セリーナは今、学園祭の準備でとても忙しくて、お見舞いどころじゃないみたい」
「見舞いどころじゃない?……」
僕は心が冷えていくのを感じた。セリーナにとって僕は学園の行事よりも軽い存在なのか。怪我をしたと聞いて顔すら見に来ないなんて心配されていないんだと苛立った。
「ロニー、私あなたにお見舞いの手紙を書いてきたの。後でゆっくり読んでね。私、こっそり寮を抜け出してきたからもう帰るわ」
「ああ、ありがとう。気を付けて」
僕はヘレンに感謝をし、夜にゆっくりその手紙を読んだ。
セリーナとの婚約が決まった時は純粋に嬉しかった。だが、自分の家がセリーナの家に多額の金を借りて、その経緯から結ばれた婚約だと知った時酷く自尊心が傷ついた。まるで僕自身が金で買われたように感じた。セリーナは知らないようで無邪気に僕に話しかける。だから心の暗い軋みを彼女に見せないように気を付けた。
ある日、陛下の生誕祭で近衛兵が王城から行進する姿を二人で見学した。
「ロニー、騎士様たちがすごく格好よくて素敵ね!」
「ああ、そうだね」
一糸乱れぬ行進は圧巻で二人とも興奮しながら眺めた。
僕はその時のセリーナのキラキラした目が忘れられず学園に入学して騎士科を選んだ。本来ならばパーカー侯爵家を継ぐために有利になる科を選択するべきだが、強い男になって彼女を守りたい、あの時の騎士に向けるような眼差しを彼女にして欲しい、そんな気持ちで決めた。その理由を聞いた父は苦笑いをしながら勉強を疎かにさえしなければいいと許してくれた。
騎士科の訓練は想像以上に大変で辛かったが、長期休暇の度にセリーナが僕を尊敬の眼差しで見てくれることに喜びが湧き、くじけることなく励むことが出来た。
セリーナも学園に入学する。学年も科も違うし授業は男女別で学び、更に全寮制で外出許可をもらえなければ簡単に会うことは出来ないが、それでも彼女が身近にいると思えば嬉しく感じた。セリーナは内気な性格で友人が出来るのか心配していたが、互いの外出許可日に会った時に親友が出来たと紹介してくれた。
それがタナー子爵令嬢のヘレンだ。ヘレンは気さくで明るく話し上手だ。引っ込み思案のセリーナもすっかりと打ち解けたようで安堵した。
外出の度にヘレンも一緒に来ていたが、僕は彼女との会話が楽しくそのことに違和感を抱いたことはなかった。普段騎士科で令嬢と話す機会がなく新鮮で少し浮かれていたのかもしれない。
「ロニー、いくら婚約者の友人でもいつもデートにくっついてくるなんて変じゃないか? 婚約者が断りづらいならロニーから一言遠慮してもらうように言った方がいいと思うぞ?」
騎士科の友人に忠告されたが、僕は笑い飛ばした。
「別に三人で楽しく話をしているだけだ。疚しいことなどないのに断る必要はないだろう? セリーナもきっと三人の方がいいと思って断らないんだろう」
二人は親友だから結婚後も付き合いは続くだろう。セリーナの夫となる僕も親しくしていてもおかしなことはないはずだ。
僕は日々の鍛錬の結果、それなりに実力をつけ強くなった。騎士科の公開試合ではセリーナに格好いい所が見せられると意気込んでいたが、彼女は留学生の世話で来れないと分かりすごくガッカリした。だが年上の余裕を見せて留学生を優先するように勧めた。
「私がセリーナの分もロニーを応援するわ!」
ヘレンの言葉に慰められた。最近のセリーナは生徒会に入り忙しくしている。いずれ結婚し社交に出た時の人脈作りにもなると張り切っているが、もう少し僕との時間を優先して欲しかった。
そして公開試合で僕は格上相手に負けて、体を打撲し利き腕を骨折してしまった。こんな情けない姿をセリーナに見せなくて良かったと思う反面、見舞いにすら来ないことに不満を抱いた。
僕は意固地になりセリーナから会いに来るか連絡があるまでこちらからは会いに行かないことにした。
数日経ってもセリーナからは手紙すら来ない。ベッドの上で痛みに喘いでいるとヘレンが見舞いに来てくれた。
「ロニー、大丈夫?」
「ああ、ヘレン。あまり……大丈夫ではないけれど、なんとかなっているよ。あの、セリーナは?」
ヘレンは顔を曇らせ悲しそうな目で僕を見た。
「セリーナは今、学園祭の準備でとても忙しくて、お見舞いどころじゃないみたい」
「見舞いどころじゃない?……」
僕は心が冷えていくのを感じた。セリーナにとって僕は学園の行事よりも軽い存在なのか。怪我をしたと聞いて顔すら見に来ないなんて心配されていないんだと苛立った。
「ロニー、私あなたにお見舞いの手紙を書いてきたの。後でゆっくり読んでね。私、こっそり寮を抜け出してきたからもう帰るわ」
「ああ、ありがとう。気を付けて」
僕はヘレンに感謝をし、夜にゆっくりその手紙を読んだ。
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