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22.幸せに包まれて

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「ロッティには苦労をかけないよう頑張るから」

「そんなこと言わないで。一緒に頑張りましょう。二人一緒なら大丈夫よ」

 ジョシュアは急遽、公爵位を継ぐことになった。
 今シーズンの社交が終わったところでお義母様が体調を崩した。長年心を張り詰めさせ頑張ってきたが、ジョシュアが結婚して落ち着いたことで気が抜けたのだろう。お義父様はジョシュアに爵位を譲りお義母様を領地に連れて行って療養することを決めた。領地は空気もいいし穏やかに過ごせる。
 シャルロッテの実家の両親が王都での社交などの補助をしてくれることになっている。甘えているとは思うがお願いしてある。それにフィンレー公爵家には優秀な執事や使用人もいるからきっと大丈夫だ。

 ジョシュアがフィンレー公爵当主となるための手続きが済み、お義父様とお義母様が領地へと向かった。
 屋敷の中が少し寂しく感じるが、シャルロッテも女主人としての仕事が増え忙しくしていたのでそれほど気にならない。領地とは馬車で三日ほどの距離なので行こうと思えばすぐに会いに行ける。

 結果的にシャルロッテはジョシュアとの新婚生活を満喫中だ。

「ねえ、そういえば最近言いがかりをつける人たちが全く来なくなったわね」

「ああ、それならもう、心配はないよ」

 ジョシュアは片方の口角を上げ不敵な笑みを浮かべる。なんとなく聞かない方がいい気がしてその場では流した。

「そ、そう。それは安心だわ」

 後日、執事に確認したら、ジョシュアが爵位を継いだ時に、彼が密かに書き留めていた粛清リストの家にそれぞれ相応しい罰を与えたそうだ。

 単に出入り禁止になった家、フィンレー公爵家から絶縁を言い渡した家もある。絶縁された家は銀行の貸付の信用が落ち資金繰りが悪化し不渡りを出したそうだ。その家は没落一直線でジョシュアは手加減をしなかった。お義父様はやり過ぎではと止めたそうだがジョシュアは甘いと撥ね退けたそうだ。今フィンレー公爵家と懇意にしている縁戚は穏やかで問題のない家なので突然押しかけるような人間はいないそうだ。

 これではおじい様の残してくれた本が活躍することはなさそうだ。まあ、その方がいいことなのだが少しだけ残念な気もした。
 きっとジョシュアは自分を守るためにここまでしてくれたのだろう。せっかくなので本は子孫のために補足を続けている。いつどんな形で必要となるか分からないので保険のようなものだ。

「ジョシュ。聞いたわ。いろいろご苦労様。そしてありがとう。でも今度は一言相談して欲しいな。私も手伝いたいわ。一人で背負わないで」

「そうだね。今度からは必ず相談するよ。でも今回は自分の手で決着をつけたかったんだ。それに私はまだまだ若輩者だからね。ロッティには側で支えてもらわないと。よろしくね」

「ふふ。こちらこそよろしくお願いします」

「このあと庭でお茶にしようか」

「お天気がいいからそうしましょう」

 公爵家自慢の庭の一等地、向日葵の咲く前にテーブルを用意し二人並んで座る。

「この場所でよく地面にお絵描きしたわね」

「覚えているよ。ロッティはいつも可愛い犬を描いてくれて上手だったよね」

「…………あれは、猫よ?」

「えっ? ずっと犬だと思っていた」

 シャルロッテは頬を膨らませジョシュアじっと見る。しばらく睨むように見つめたあと、二人は噴き出して笑った。笑いがおさまるとジョシュアは蕩けるような眼差しでシャルロッテに微笑む。

「ロッティ、愛してるよ」

「ジョシュ。私も愛してるわ」

 シャルロッテもうっとりとジョシュアを見つめる。二人で過ごす時間が長くなったのでシャルロッテにも免疫が出来た。愛を囁かれたら恥ずかしがらずにスマートに返すことが出来るようになったのだ。

 まだまだシャルロッテとジョシュアの甘い新婚生活は続いていく。








 (おわり)



 お読みくださりありがとうございました。結婚後の話は蛇足だった気もしましたが投稿させて頂きました。お付き合いくださりありがとうございました。


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