本当はあなたに好きって伝えたい。不遇な侯爵令嬢の恋。

四折 柊

文字の大きさ
上 下
9 / 33

9.自分の気持ち

しおりを挟む
あれから無意識にD組へと足が向くようになっていた。
しぐれにアピールしていた頃より頻繁にだ。

もうしぐれにアピールする必要がなくなったのに気が付くとD組に行ってしまっていて、こっそりと花井の姿を見て帰る。そんな事を繰り返していた。

花井の事が気になってしょうがない。
顔を真っ赤にさせてもじもじとする姿や遠慮がちに話す姿。
全てが可愛くて、もっと一緒にいたいし笑顔が見たいと思ってしまう。
番になれるわけでもないのに何でこんなに気になってしまうのか…。
花井の事を想うだけで何でこんなに胸がドキドキと騒ぐのか。

もうこうなれば認めるしかなかった。
俺のこの気持ちは『恋』で、俺は花井に恋してる―――――。


俺は「よし」と頷くと花井に会う為にD組を訪れた。

が、教室を見回してみても花井の姿はなかった。
今日こそは花井に自分の気持ちを伝えようと思ったのに……。
しょんぼりと肩を落としていると後ろから声をかけられた。

「芦崎くん、どうしたの?まさか僕にアピール…?」

しぐれだった。

「あーちがうちがう。俺相手いるやつにしつこくするつもりないから」

怪訝そうな顔で俺を見るしぐれ。
まぁそりゃそうだよな。じゃあ何でここにいるんだって話だよ。

「―――花井…に……」

「菫くん?菫くんならE組の人に呼ばれて今いないよ?」

「―――え?何で呼ばれて…?」

「何でってアピールじゃない」

「アピール???何の?」

「は?何言ってるの?αがΩを呼び出す理由なんて一つでしょ?菫くんの番にして欲しいってアピールじゃない」

Ω……?番……?
だって―――

「花井はβ……」

「何言ってるのさ。菫くんは立派なΩだよ?フェロモンが薄いからってあんまりふざけた事言ってると僕が赦さないよ?ご機嫌なαだからって何でも赦されるなんて思わないでね?」

怖い顔でギロリと俺の事を睨むがまったく怖くないし気にならない。
そんな事より――――。
花井がΩ………。嘘だ……。だって薄いって言ったってフェロモンに気づかないわけが……。
―――あ、もしかしてシャンプーの匂いだって思ったあれはフェロモンだった?

「―――ごめ…。しぐれ、花井どこに呼び出されたか知ってるか?」

「え?えーと校舎裏だったと思うけど…。え?行くの?それって野暮じゃない?邪魔とか、ルール違反でしょ?」

それでも俺は行かなくちゃ。
しぐれにロクに返事をする事もせず校舎裏に向って走り出していた。

βだって思ってた時から気になっていた。
本当はしぐれにアピールする為に通っていた時も花井の事が可愛いって思っていた。
αとβじゃ番えないからブレーキかけてたけど、もういいかなって思えた。
今日こそ自分の正直な気持ちを伝えて花井が頷いてくれるなら俺は花井の手を取りたいって、この先の未来を一緒に歩いて行きたいって思ってた。
俺はご機嫌なαだからβを愛してもいいんじゃないかって思ったのに。

なのに花井はΩで別のαからアピールされてるとか―――そんなの我慢できるわけがない!

初めてなんだ。
何を失ってでも笑ってた俺が……全く笑えないなんて!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...