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3.約束の日
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コーデリアは明日、アビントン公爵家を出て行く。
すでに準備は完璧だ。外国で暮らせるように語学やその国の常識も学んだ。仕事を探す為に何か資格をと思ったが実際に取得することは出来ないので準ずる知識を身につけた。コーデリアは数字に強いので経理に関する勉強には特に力を入れた。
今の自分には不安よりも希望が大きくワクワクしている。ダーナには意外と楽天家ですねと笑われてしまったがコーデリアには明るい未来が待っている。
荷物は最低限のものと貴重品を鞄に詰めた。本を持っていけないのは悲しいがすぐにでも出国させられるだろうし、定住場所が決まるまでは身軽な方がいいだろう。そのとき部屋をノックする音がしてはいと返事をする。
「失礼します。コーデリア様」
「お久しぶりね。お元気でしたか?」
そこに居たのは老齢の公爵家の執事だった。会うのは結婚式を挙げた日以来で懐かしく感じる。といっても何の感慨も抱くことはない。
「ええ。早速ですが本日は2年間の慰労金と出国の為の書類をお持ちしました。こちらは新しい身分証でございます。明日よりコーデリア様はルシンダという名の平民となって頂きます。渡航の為の書類も一緒に準備してあります。明日の朝、旦那様にご挨拶をして速やかに出発してください。2年間、お疲れさまでした」
淡々と説明を聞き書類一式とお金を受け取る。私はルシンダになる……新しい人生に新しい名前!
「ありがとうございます。お世話になりました」
用件を済ませた執事が出て行くと入れ替わりにダーナが入ってきた。
「コーデリア様。ルシンダという名前は馴染めそうですか?」
「ええ、とっても気に入ったわ」
「それはよかったです」
コーデリアはダーナに抱き着いた。
「ありがとう。ダーナのおかげでこの2年間素敵な毎日を過ごせたわ。あなたに心からの感謝を!」
ダーナもコーデリアをぎゅっと抱きしめた。
「私も2年間とても楽しかったです」
コーデリアはその晩、幸せな気持ちで眠りについた。翌朝、コーデリアは迎えに来た執事と共にエイベルの執務室に挨拶に向かった。
「旦那様。コーデリア様をお連れしました」
「お久しぶりです。エイベル様。お暇のご挨拶に伺いました。2年間お世話になりました」
コーデリアにとってエイベルは勝手な男だという心証のままだが、衣食住を保証してもらい今後の為のお金も受け取っていることから一応感謝すべきだと頭を下げた。
「コーデリア?…………」
エイベルは半ば呆然とコーデリアの名前を呼んだ。
「はい」
そしてコーデリアを見つめたまま動かない。段々と頬を染める様子に不愉快になる。早くここを出ていきたいコーデリアは何も言わないエイベルにイライラする。しばらくするとエイベルは満面の笑みをコーデリアに向けた。
「ははは。まさかあのみすぼらしい女がこれほど化けるとは……。気が変わった。コーデリア。お前を妻にしてやる」
コーデリアはとんでもない言葉に眉を顰め睨みつけた。
「はっ? あなたの妻はベティ様ですよね?」
エイベルは顔をひどく歪めた。
「あの女は公爵夫人に相応しくない。なんだ、その顔は? 私の妻にしてやると言っているのに何故喜ばない。本来の姿に戻してやるんだ。何の問題もないはずだ」
冗談じゃない。問題しかないだろう。2年前に必ずコーデリアを解放するといったのにその約束を反故にするなど許せない。あまりにも自分の気持ちを無視した発言にコーデリアは怒りで体を震わせながらも怒鳴りそうになるのを必死に抑えた。
「ベティ様はどうされたのですか? 彼女を公爵夫人にするのですよね?」
「あの女は追い出した!!」
エイベルは顔に青筋を立てて吐き捨てる。
この2年の間にエイベルとベティに何があったとしてもコーデリアには関係ない。それなのにベティを追い出したから自分を妻にするなどコーデリアをあまりにもバカにしている。コーデリアが本当に喜ぶとでも思っているのか? この男は馬鹿なの?
「エイベル様。約束が違います。2年後に必ずわたしを解放するとおっしゃいましたよね?」
コーデリアの反応に不機嫌そうに顔をしかめると怒鳴りつけた。
「何が不満だ。私の妻になる栄誉に文句があるのか? 感謝すべきだろう。私がそう決めた。これは決定だ。いいな? 今夜、妻にしてやる。そうすればお前の気も変わるだろう。夜までコーデリアを夫婦の部屋に閉じ込めておけ!」
コーデリアはエイベルの後ろに控える従僕に無理やり腕を掴まれ引きずられるように連れられ大きな部屋に閉じ込められた。続きの部屋には寝室があり中央にある大きなベッドを見て不快感から目を逸らした。2年前、ここに来た時に妻として迎えられていたならばあんな傲慢な男でもきっと仕方なく受け入れただろう。実家にいるよりは幸せになれるかもしれないと希望を抱いていたあの頃ならば。でも今は到底無理だ。
今のコーデリアにとってエイベルの妻になることは拷問でしかない。地獄に落ちるに等しい。あんな嫌な奴の妻になどなりたくない。ここを出て平民として生きる方が公爵夫人になることよりもコーデリアにとってははるかに価値がある。
なんとしてもここから逃げて見せる。扉はさっき従僕がカギをかけてしまったから出られないだろう。扉の前で見張っているかもしれない。
それならば……窓から出ることは出来ないだろうか。ここは3階だ。木をつたって降りることは可能かもしれない。いや、絶対にやってみせる。エイベルは窓からは逃げられないと油断しているはずだ。その隙をつくことでしか脱出することは出来ない。コーデリアは勇んで窓を開けた。
すでに準備は完璧だ。外国で暮らせるように語学やその国の常識も学んだ。仕事を探す為に何か資格をと思ったが実際に取得することは出来ないので準ずる知識を身につけた。コーデリアは数字に強いので経理に関する勉強には特に力を入れた。
今の自分には不安よりも希望が大きくワクワクしている。ダーナには意外と楽天家ですねと笑われてしまったがコーデリアには明るい未来が待っている。
荷物は最低限のものと貴重品を鞄に詰めた。本を持っていけないのは悲しいがすぐにでも出国させられるだろうし、定住場所が決まるまでは身軽な方がいいだろう。そのとき部屋をノックする音がしてはいと返事をする。
「失礼します。コーデリア様」
「お久しぶりね。お元気でしたか?」
そこに居たのは老齢の公爵家の執事だった。会うのは結婚式を挙げた日以来で懐かしく感じる。といっても何の感慨も抱くことはない。
「ええ。早速ですが本日は2年間の慰労金と出国の為の書類をお持ちしました。こちらは新しい身分証でございます。明日よりコーデリア様はルシンダという名の平民となって頂きます。渡航の為の書類も一緒に準備してあります。明日の朝、旦那様にご挨拶をして速やかに出発してください。2年間、お疲れさまでした」
淡々と説明を聞き書類一式とお金を受け取る。私はルシンダになる……新しい人生に新しい名前!
「ありがとうございます。お世話になりました」
用件を済ませた執事が出て行くと入れ替わりにダーナが入ってきた。
「コーデリア様。ルシンダという名前は馴染めそうですか?」
「ええ、とっても気に入ったわ」
「それはよかったです」
コーデリアはダーナに抱き着いた。
「ありがとう。ダーナのおかげでこの2年間素敵な毎日を過ごせたわ。あなたに心からの感謝を!」
ダーナもコーデリアをぎゅっと抱きしめた。
「私も2年間とても楽しかったです」
コーデリアはその晩、幸せな気持ちで眠りについた。翌朝、コーデリアは迎えに来た執事と共にエイベルの執務室に挨拶に向かった。
「旦那様。コーデリア様をお連れしました」
「お久しぶりです。エイベル様。お暇のご挨拶に伺いました。2年間お世話になりました」
コーデリアにとってエイベルは勝手な男だという心証のままだが、衣食住を保証してもらい今後の為のお金も受け取っていることから一応感謝すべきだと頭を下げた。
「コーデリア?…………」
エイベルは半ば呆然とコーデリアの名前を呼んだ。
「はい」
そしてコーデリアを見つめたまま動かない。段々と頬を染める様子に不愉快になる。早くここを出ていきたいコーデリアは何も言わないエイベルにイライラする。しばらくするとエイベルは満面の笑みをコーデリアに向けた。
「ははは。まさかあのみすぼらしい女がこれほど化けるとは……。気が変わった。コーデリア。お前を妻にしてやる」
コーデリアはとんでもない言葉に眉を顰め睨みつけた。
「はっ? あなたの妻はベティ様ですよね?」
エイベルは顔をひどく歪めた。
「あの女は公爵夫人に相応しくない。なんだ、その顔は? 私の妻にしてやると言っているのに何故喜ばない。本来の姿に戻してやるんだ。何の問題もないはずだ」
冗談じゃない。問題しかないだろう。2年前に必ずコーデリアを解放するといったのにその約束を反故にするなど許せない。あまりにも自分の気持ちを無視した発言にコーデリアは怒りで体を震わせながらも怒鳴りそうになるのを必死に抑えた。
「ベティ様はどうされたのですか? 彼女を公爵夫人にするのですよね?」
「あの女は追い出した!!」
エイベルは顔に青筋を立てて吐き捨てる。
この2年の間にエイベルとベティに何があったとしてもコーデリアには関係ない。それなのにベティを追い出したから自分を妻にするなどコーデリアをあまりにもバカにしている。コーデリアが本当に喜ぶとでも思っているのか? この男は馬鹿なの?
「エイベル様。約束が違います。2年後に必ずわたしを解放するとおっしゃいましたよね?」
コーデリアの反応に不機嫌そうに顔をしかめると怒鳴りつけた。
「何が不満だ。私の妻になる栄誉に文句があるのか? 感謝すべきだろう。私がそう決めた。これは決定だ。いいな? 今夜、妻にしてやる。そうすればお前の気も変わるだろう。夜までコーデリアを夫婦の部屋に閉じ込めておけ!」
コーデリアはエイベルの後ろに控える従僕に無理やり腕を掴まれ引きずられるように連れられ大きな部屋に閉じ込められた。続きの部屋には寝室があり中央にある大きなベッドを見て不快感から目を逸らした。2年前、ここに来た時に妻として迎えられていたならばあんな傲慢な男でもきっと仕方なく受け入れただろう。実家にいるよりは幸せになれるかもしれないと希望を抱いていたあの頃ならば。でも今は到底無理だ。
今のコーデリアにとってエイベルの妻になることは拷問でしかない。地獄に落ちるに等しい。あんな嫌な奴の妻になどなりたくない。ここを出て平民として生きる方が公爵夫人になることよりもコーデリアにとってははるかに価値がある。
なんとしてもここから逃げて見せる。扉はさっき従僕がカギをかけてしまったから出られないだろう。扉の前で見張っているかもしれない。
それならば……窓から出ることは出来ないだろうか。ここは3階だ。木をつたって降りることは可能かもしれない。いや、絶対にやってみせる。エイベルは窓からは逃げられないと油断しているはずだ。その隙をつくことでしか脱出することは出来ない。コーデリアは勇んで窓を開けた。
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