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1.砕かれた希望
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「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな。それまでは別邸で大人しくしているように。心配しなくてもそれなりの金はくれてやる」
今日、結婚式を挙げ夫となった男は吐き捨てるように冷たく言い放った。その言葉にコーデリアは青ざめ立ち竦んだ。コーデリアは投げつけられた言葉に心をズタズタにされた。結婚に対して縋るように抱いていた期待する気持ちを粉々に砕かれた。
名ばかりの夫となったのはエイベル・アビントン公爵という。19歳のコーデリアより一回り年上だ。長身で見目麗しい姿、爵位の高さからくる滲み出た自信が男らしさを際立たせる。貴族令嬢の中で最も人気のある男性からの是非にという求婚になぜ自分がと戸惑いながらも、もしかしたら幸せになれるかもしれないと夢を見てここに来た。
「なんだ? その顔は。まさかお前のような貧相な醜い女を私ほどの男が本当に妻にと望むと思っていたのか? 随分と身の程知らずだな」
酷い侮辱だが反論は出来なかった。自分が美しくないことは誰よりも知っている。悔しさに思わず強く唇を噛む。
「では……なぜ私に婚姻を申し込んだのですか?」
エイベルが後ろに合図を送れば金色の髪に青く美しい瞳の女性が彼に寄り添う。艶々な髪に玉のような肌、女性らしい魅力的なスタイルは男性を虜にしそうだ。それでいて清楚な雰囲気もある。茶色の髪に茶色の瞳をもちガリガリに痩せた地味な自分とは対極にいるような人だった。その女性は薄い腹に手を当て幸せそうに微笑んでいる。
「お前とベティを入れ替える為だ。彼女は娼館から身請けした平民で公爵家に嫁ぐことが出来ない。だが私はどうしても彼女を妻に迎えたい。腹の中には私の子も宿っている。その為に都合のいい身分の低い女を探していた。体が弱く社交界に出ておらず顔も知られていない、入れ替わるのにちょうどいい女をな。出産後、準備が整い次第ベティは公爵家に嫁いだ子爵令嬢コーデリアだったことにして社交界に出す。その時、本物は要らなくなる。分かるな?」
ああ、だから今日の婚姻式には招待客もおらずコーデリアとエイベル、そして公爵家の執事と神父だけだったのだ。おかしいとは思っていた。婚姻の打診から1か月での結婚式。手紙も贈り物もなく顔を合わせたのも結婚式当日だ。
今朝、公爵家の迎えの馬車が来るまでこの話は嘘に違いないと思うほど不自然だった。教会に着くなりエイベルとの誓いの言葉もおざなりに婚姻宣誓書にサインしただけだった。最初こそ驚いたが、やっぱりという思いもあった。自分が普通の幸せを望むことなど無謀だった。心の中のもう一人の自分がコーデリアを憐れんだ。
「なぜ2年なのですか?」
「ベティが出産を無事に終えることと、公爵夫人としての教育期間が必要だからだ。公爵家の後継ぎが腹にいるのだから今は教養を身につけるより体を大事にしなければならない。お前の役割は別邸で誰にも会わず静かに暮らし2年後に出て行くだけだ。もちろんこのことを誰にも漏らしてはならない。まあ、言ったところで誰も信じはしないだろうが。私は心が広いからな。2年間屋敷から一歩も出なければ自由に過ごしていい。最低限必要な物は与えてやる。だが、2年後には必ず国外に出てもらう。万が一、真実が露呈すると困るがお前さえいなければ何とでも誤魔化せるからな」
私は、自分の存在と名前を奪われ、2年間ここに居候するということか。そして外国へと……。その事実に思わず体を震わせた。
「私の両親はこのことを知っているのですか?」
「ああ、大喜びで受け入れたぞ。代わりに大金を払ったがな。随分と酷い親だな」
エイベルは醜く顔を歪めると自分の事を棚に上げて愉快そうに笑っている。
ベティは穏やかな聖女のような微笑みを浮かべているがその瞳はコーデリアを見下すものだ。コーデリアはそっと息を吐いた。
「分かりました。仰せの通りにします。その代わり必ず2年後に私を解放してください」
エイベルは鼻で笑って請け負う。
「もちろんだ。用が済めばお前の存在など邪魔なだけだ。絶対に出て行ってもらう」
そうして、コーデリアの別邸での生活が始まった。
今日、結婚式を挙げ夫となった男は吐き捨てるように冷たく言い放った。その言葉にコーデリアは青ざめ立ち竦んだ。コーデリアは投げつけられた言葉に心をズタズタにされた。結婚に対して縋るように抱いていた期待する気持ちを粉々に砕かれた。
名ばかりの夫となったのはエイベル・アビントン公爵という。19歳のコーデリアより一回り年上だ。長身で見目麗しい姿、爵位の高さからくる滲み出た自信が男らしさを際立たせる。貴族令嬢の中で最も人気のある男性からの是非にという求婚になぜ自分がと戸惑いながらも、もしかしたら幸せになれるかもしれないと夢を見てここに来た。
「なんだ? その顔は。まさかお前のような貧相な醜い女を私ほどの男が本当に妻にと望むと思っていたのか? 随分と身の程知らずだな」
酷い侮辱だが反論は出来なかった。自分が美しくないことは誰よりも知っている。悔しさに思わず強く唇を噛む。
「では……なぜ私に婚姻を申し込んだのですか?」
エイベルが後ろに合図を送れば金色の髪に青く美しい瞳の女性が彼に寄り添う。艶々な髪に玉のような肌、女性らしい魅力的なスタイルは男性を虜にしそうだ。それでいて清楚な雰囲気もある。茶色の髪に茶色の瞳をもちガリガリに痩せた地味な自分とは対極にいるような人だった。その女性は薄い腹に手を当て幸せそうに微笑んでいる。
「お前とベティを入れ替える為だ。彼女は娼館から身請けした平民で公爵家に嫁ぐことが出来ない。だが私はどうしても彼女を妻に迎えたい。腹の中には私の子も宿っている。その為に都合のいい身分の低い女を探していた。体が弱く社交界に出ておらず顔も知られていない、入れ替わるのにちょうどいい女をな。出産後、準備が整い次第ベティは公爵家に嫁いだ子爵令嬢コーデリアだったことにして社交界に出す。その時、本物は要らなくなる。分かるな?」
ああ、だから今日の婚姻式には招待客もおらずコーデリアとエイベル、そして公爵家の執事と神父だけだったのだ。おかしいとは思っていた。婚姻の打診から1か月での結婚式。手紙も贈り物もなく顔を合わせたのも結婚式当日だ。
今朝、公爵家の迎えの馬車が来るまでこの話は嘘に違いないと思うほど不自然だった。教会に着くなりエイベルとの誓いの言葉もおざなりに婚姻宣誓書にサインしただけだった。最初こそ驚いたが、やっぱりという思いもあった。自分が普通の幸せを望むことなど無謀だった。心の中のもう一人の自分がコーデリアを憐れんだ。
「なぜ2年なのですか?」
「ベティが出産を無事に終えることと、公爵夫人としての教育期間が必要だからだ。公爵家の後継ぎが腹にいるのだから今は教養を身につけるより体を大事にしなければならない。お前の役割は別邸で誰にも会わず静かに暮らし2年後に出て行くだけだ。もちろんこのことを誰にも漏らしてはならない。まあ、言ったところで誰も信じはしないだろうが。私は心が広いからな。2年間屋敷から一歩も出なければ自由に過ごしていい。最低限必要な物は与えてやる。だが、2年後には必ず国外に出てもらう。万が一、真実が露呈すると困るがお前さえいなければ何とでも誤魔化せるからな」
私は、自分の存在と名前を奪われ、2年間ここに居候するということか。そして外国へと……。その事実に思わず体を震わせた。
「私の両親はこのことを知っているのですか?」
「ああ、大喜びで受け入れたぞ。代わりに大金を払ったがな。随分と酷い親だな」
エイベルは醜く顔を歪めると自分の事を棚に上げて愉快そうに笑っている。
ベティは穏やかな聖女のような微笑みを浮かべているがその瞳はコーデリアを見下すものだ。コーデリアはそっと息を吐いた。
「分かりました。仰せの通りにします。その代わり必ず2年後に私を解放してください」
エイベルは鼻で笑って請け負う。
「もちろんだ。用が済めばお前の存在など邪魔なだけだ。絶対に出て行ってもらう」
そうして、コーデリアの別邸での生活が始まった。
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