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第12章 聖なる夜
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しおりを挟む「えええええ⁉」
みんな揃って驚きの声を上げた。
誰もが、ニハルは何を言い出すのか、とビックリしている。
あんなにもイスカのことが大好きだとアピールしていて、実際恋人同士にもなったのに、このタイミングで離ればなれになる道を選んだのが、信じられないのだ。
「ど、どーして⁉ おねーさま、それでいいの⁉」
「うん……いろいろ考えたけど、こうするのが一番いいと思うんだ」
「はああ⁉ ありえない! ありえない! いや、私は大歓迎だけど! おねーさまをひとり占めできるんなら! だけど、なんか変よ!」
ライカに激しくツッコミを入れられて、ニハルは苦笑した。
「じゃあ、教えてくれ。なぜイスカがこのカジノを治めるのにふさわしいと考えたのだ?」
クイナも不思議そうな顔で追及してくる。
それに対して、ニハルはただ苦笑いを浮かべるだけで、まともに答えようとしない。特にイスカを指名したことに考えはないようだ。その態度を見て、ますますみんな、首を傾げた。
「ニハル……お前、何か隠し事してるだろ」
アイヴィーに尋ねられたニハルは、フッ、と寂しそうな笑みを浮かべた。実にわかりやすい。明らかに隠し事をしている。
「ニハルさん。話して。何があったの」
「うん……実はね……」
真剣な表情でイスカに問われて、あっさりと、ニハルは白状した。
イスカを助けるために、通りすがりの謎の男と、とんでもない契約を交わしてしまったことを。そして、その謎の男は、自分のことを「悪魔」と名乗っていたことを。
「なんですってえええ⁉ おねーさまに、俺の女になれ、ですってええ⁉」
「んだよ、その悪魔とかいうやつ! ふざけんな! 言うこと聞く必要ねーよ!」
ギャアギャアとやかましく、ライカとアイヴィーは喚き散らしている。
「もしかして、ニハルさん、それで僕のことを、離れたところに置いておこうと?」
イスカの問いに対して、コクン、とニハルは頷いた。
「だって……イスカ君に見られたくなかったから……他の男に連れていかれちゃうところなんて……」
「それって、つまり、僕がもしもカジノにいて、ニハルさんがコリドールにいたら、知らない間にニハルさんが、その悪魔とかいう男に迎えられて、どこかへ行っちゃってたかもしれない、っていうこと?」
「うん……」
「ひどいよ、ニハルさん。そんなことになったら、僕、立ち直れないくらいショックを受けていたよ」
プクッ、とイスカは頬をふくらませた。ニハルを責めたくはなかったけれど、それでも、誰にも相談せずに一人で抱え込んでいたことに、悲しみと若干の怒りを感じていた。
「警戒して誰も寄せ付けないようにしていれば、平気じゃないの?」
「ううん、レジーナ。あいつは、そんなことで食い止められるような奴じゃなかった。だって、いまにも死にそうだったイスカ君の怪我を、きれいに治したんだよ。回復魔法を使ったにしても、人間業じゃないわ」
「つまり……本物の、悪魔……ということ?」
「そうとしか考えられないよ」
ニハルは自分の腕を抱いて、ブルッ、と体を震わせた。
「私……そのうち、連れていかれちゃうんだ……あの男に……」
「そんなことはさせない! 絶対に!」
いまにも泣き出しそうなニハルの両肩を掴んで、イスカは真正面からしっかりと見据えて、力強い言葉を投げかけた。
「僕がいるし、アイヴィーさんもいる! 師匠だってきっと手伝ってくれる! 他にも、戦いに強い人達はいっぱいいる! みんなで力を合わせれば、悪魔なんて怖くない! ニハルさんのことを守り抜いてみせる!」
「イ、イスカ君……」
ニハルはウルウルと瞳を潤ませている。一人でどうにかしようと、ちょっとでも考えていた自分がバカだった、と言わんばかりに、イスカのことを見つめ返す。
「もぉ、仕方ないわねぇ。カジノのことは、私に任せてちょうだい」
いつまで経っても、カジノの新しい統治者が決まらないので、とうとうネネが自ら名乗りを上げた。
「ネネなら安心して任せられるね」
クークーの言葉に、他の者達も、同意を示した。
巨人族の血を引いており、人の心を読むことができる、かなり桁外れの能力を誇るネネ。マザーバニーを務めていたこともあり、まさに、このカジノを治めるのにうってつけの人材である。
「いいの? 帝国がいつ攻めこんでくるかわからないのに」
レジーナにそう忠告されても、ネネは動じることなく、うふふ、と余裕の笑みを見せた。
「私、強いからぁ」
頼もしく、説得力のあるセリフ。身長が三メートルもある迫力のネネにそう言われると、それもそうだ、と納得させられてしまう。
「それじゃあ、コリドールへ戻るか。オレ達が束になってかかれば、悪魔だろうと帝国だろうと、怖くなんかないさ!」
勇ましいアイヴィーの言葉に、他の面々も頷く。イスカ狙いで、本来ならニハルのことが邪魔なはずのクイナやレジーナも、つい場の雰囲気に流されて、同調している。いつの間にか、みんなでニハルを守ろう、という空気感が作り上げられていた。
こうして、ニハルは、仲間を増やした上に、カジノという新しい領地を手に入れて、コリドールへと凱旋することとなったのである。
※ ※ ※
一方で、帝国の首都では、早くもルドルフが敗れたことの報せが届き、緊急で騎士団の面々が召集されて、会議を開いていた。
みんな揃って驚きの声を上げた。
誰もが、ニハルは何を言い出すのか、とビックリしている。
あんなにもイスカのことが大好きだとアピールしていて、実際恋人同士にもなったのに、このタイミングで離ればなれになる道を選んだのが、信じられないのだ。
「ど、どーして⁉ おねーさま、それでいいの⁉」
「うん……いろいろ考えたけど、こうするのが一番いいと思うんだ」
「はああ⁉ ありえない! ありえない! いや、私は大歓迎だけど! おねーさまをひとり占めできるんなら! だけど、なんか変よ!」
ライカに激しくツッコミを入れられて、ニハルは苦笑した。
「じゃあ、教えてくれ。なぜイスカがこのカジノを治めるのにふさわしいと考えたのだ?」
クイナも不思議そうな顔で追及してくる。
それに対して、ニハルはただ苦笑いを浮かべるだけで、まともに答えようとしない。特にイスカを指名したことに考えはないようだ。その態度を見て、ますますみんな、首を傾げた。
「ニハル……お前、何か隠し事してるだろ」
アイヴィーに尋ねられたニハルは、フッ、と寂しそうな笑みを浮かべた。実にわかりやすい。明らかに隠し事をしている。
「ニハルさん。話して。何があったの」
「うん……実はね……」
真剣な表情でイスカに問われて、あっさりと、ニハルは白状した。
イスカを助けるために、通りすがりの謎の男と、とんでもない契約を交わしてしまったことを。そして、その謎の男は、自分のことを「悪魔」と名乗っていたことを。
「なんですってえええ⁉ おねーさまに、俺の女になれ、ですってええ⁉」
「んだよ、その悪魔とかいうやつ! ふざけんな! 言うこと聞く必要ねーよ!」
ギャアギャアとやかましく、ライカとアイヴィーは喚き散らしている。
「もしかして、ニハルさん、それで僕のことを、離れたところに置いておこうと?」
イスカの問いに対して、コクン、とニハルは頷いた。
「だって……イスカ君に見られたくなかったから……他の男に連れていかれちゃうところなんて……」
「それって、つまり、僕がもしもカジノにいて、ニハルさんがコリドールにいたら、知らない間にニハルさんが、その悪魔とかいう男に迎えられて、どこかへ行っちゃってたかもしれない、っていうこと?」
「うん……」
「ひどいよ、ニハルさん。そんなことになったら、僕、立ち直れないくらいショックを受けていたよ」
プクッ、とイスカは頬をふくらませた。ニハルを責めたくはなかったけれど、それでも、誰にも相談せずに一人で抱え込んでいたことに、悲しみと若干の怒りを感じていた。
「警戒して誰も寄せ付けないようにしていれば、平気じゃないの?」
「ううん、レジーナ。あいつは、そんなことで食い止められるような奴じゃなかった。だって、いまにも死にそうだったイスカ君の怪我を、きれいに治したんだよ。回復魔法を使ったにしても、人間業じゃないわ」
「つまり……本物の、悪魔……ということ?」
「そうとしか考えられないよ」
ニハルは自分の腕を抱いて、ブルッ、と体を震わせた。
「私……そのうち、連れていかれちゃうんだ……あの男に……」
「そんなことはさせない! 絶対に!」
いまにも泣き出しそうなニハルの両肩を掴んで、イスカは真正面からしっかりと見据えて、力強い言葉を投げかけた。
「僕がいるし、アイヴィーさんもいる! 師匠だってきっと手伝ってくれる! 他にも、戦いに強い人達はいっぱいいる! みんなで力を合わせれば、悪魔なんて怖くない! ニハルさんのことを守り抜いてみせる!」
「イ、イスカ君……」
ニハルはウルウルと瞳を潤ませている。一人でどうにかしようと、ちょっとでも考えていた自分がバカだった、と言わんばかりに、イスカのことを見つめ返す。
「もぉ、仕方ないわねぇ。カジノのことは、私に任せてちょうだい」
いつまで経っても、カジノの新しい統治者が決まらないので、とうとうネネが自ら名乗りを上げた。
「ネネなら安心して任せられるね」
クークーの言葉に、他の者達も、同意を示した。
巨人族の血を引いており、人の心を読むことができる、かなり桁外れの能力を誇るネネ。マザーバニーを務めていたこともあり、まさに、このカジノを治めるのにうってつけの人材である。
「いいの? 帝国がいつ攻めこんでくるかわからないのに」
レジーナにそう忠告されても、ネネは動じることなく、うふふ、と余裕の笑みを見せた。
「私、強いからぁ」
頼もしく、説得力のあるセリフ。身長が三メートルもある迫力のネネにそう言われると、それもそうだ、と納得させられてしまう。
「それじゃあ、コリドールへ戻るか。オレ達が束になってかかれば、悪魔だろうと帝国だろうと、怖くなんかないさ!」
勇ましいアイヴィーの言葉に、他の面々も頷く。イスカ狙いで、本来ならニハルのことが邪魔なはずのクイナやレジーナも、つい場の雰囲気に流されて、同調している。いつの間にか、みんなでニハルを守ろう、という空気感が作り上げられていた。
こうして、ニハルは、仲間を増やした上に、カジノという新しい領地を手に入れて、コリドールへと凱旋することとなったのである。
※ ※ ※
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