君につづく道〜禁断の13〜

びぅむ

文字の大きさ
上 下
59 / 260
第4章  背中合わせの答え

6

しおりを挟む

「おろせっ、このやろバカヤロどアホ……ぐへっ! いきなり下ろすなあっ」

 いきなりぽすんと放り出されたのは、リョウマのベッドの上だった。魔王が片手をひょいと振るだけで、側付きの者たちは潮が引くように外へ出ていく。

「下ろせと申したり、下ろすなと申したり。そなた一体、私にどうして欲しいのだ」
「べっ、べつにどうもして欲しくねえっ」

 叫びながらがばっと上体を起こした時にはもう、すぐ隣に座りこまれてひょいと顎に手を掛けられていた。

「そう言えば、もうそろそろ致さねばならぬ頃合いだな」
「ほえっ? な、なにをだよ……」
「とぼけるでない。体液の交換よ。そろそろしておかねば、そなたが困ることになるやもしれぬ」
「うっ……」

 軽く顎を上げられてみれば、すぐ目の前に魔王の端正な顔があった。リョウマは思わずごくりと喉を鳴らし、口を一文字に噛みしめる。ぎゅっと睨みつけたら、魔王は意外にもやや落胆の色を見せた。

「心配せずともよい。『無理強むりじいはせぬ』と申したではないか」

 そう言っていながら、一向にリョウマのそばを離れる様子も、顎を放す様子もない。リョウマはさらにむうっとふくれっ面を作った。

「……だったら放せよ。あっちいけ」
「断る」
「っんだよ、それ!」
「なんなのだろうな? それは私も訊きたいよ。そなたにこそな」
「は……?」

 魔王はふっとかすかに微笑むと、リョウマの頬をほんのわずかに触れる程度に撫でた。

「そなたがまことに『イヤだ』と申しておるのならば否やはない。そなたの思う通りにしよう。私が約束をたがえることなどあり得ぬ。そこは信じてもらいたい。……しかし、本当にイヤなのか?」
「な、なに?」
「気づいておらぬと思ったか」
「え──」

 ぐっと魔王の顔が近づいてきて、リョウマは目を見開いた。一瞬、思わず呼吸が止まる。

「普通、人は嫌悪する相手に非常に強く、攻撃的な凄まじい《気》を放つものだ。だが、今のそなたからは、そういう《気》をほとんど感じぬ。このところは特にな」
「な……なにを言って──」
「拒絶する気があるのなら、もっと抵抗するものではないか? いや抵抗どころではないな。これほど近くに不倶戴天の敵がおるのだぞ。大暴れをし、あるいは悪だくみをして、私の隙をつき命を取ろうとしたとて、なんの不思議もない。そなたはほかならぬ私の仇敵、あの《戦隊レッド》なのだから」
「う……」

 そこは返す言葉もない。誰よりもリョウマ自身が、自分の大きな変化に戸惑っているのだから。
 だが、今の自分はもうこの男を心底から憎めなくなっている。
 本当は認めたくなかった。そうしていられるものなら、このままずっと目を逸らしつづけていたかった。けれど、真正面からこの男に真面目な顔で問い詰めてこられては、もう自分自身にもごまかしは効かなかった。
 事実を突きつけられる。
 誰よりも、自分自身の心がそう突きつけてくる。

(俺、は……)

 そんなことでいいのか。いや、いいはずがない。
 自分は《BLレッド》だ。《BLレンジャー》のリーダーだ。そんなことは許されない。あってはならないことなのだ──。
 リョウマはぎゅっと目をつぶってうつむいた。意識していたわけではないが、その頭がすぐ目の前の魔王の胸元にとん、と当たる。

「俺……サイテーだ」
「そんなことはない」

 大きな手が自分の背中を優しくさすっているのに気づいたら、あっという間に涙腺が危なくなった。それを堪えようとしたら、今度はひどく声がかすれた。

「こんなバカなことあるか? アホだろ俺。なにやってんだ、だって俺は」
「そなたがなんでも、同じことだ。そなたは何も悪くない。ただ心が広いだけだ」
「なわけねえっつうんだようっ」

 片手で目元を覆ってうなだれ、黙り込む。うっかりすると嗚咽が漏れ出てしまいそうで、必死で歯を食いしばった。

「……リョウマ」
「…………」
「もう一度、たずねてもよいか」

 リョウマは答えない。いや、答えることができなかった。嗚咽をせき止めた喉は詰まって、もう声なんて出せなかったから。
 魔王の両腕が、リョウマの背中をそっと抱き寄せるのを感じた。ひどく優しくて、温かい腕だった。

「そなたと口づけがしたい。……ダメだろうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...