優しい夜のうた〜美夜篇〜

第1章 さよなら、果樹園

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姉は結局亡くなってしまったけれど、二人の間には凜りんという娘が出来た。二人の恋の結末はハッピーエンドではなかったけれど、姉は最後には幸せになれたのだと、信じている。

私の母親はその前に事故で亡くなり、父親も今は精神病院にいて、一生出ることはない。

だけど私は、彼を父親だと思っていない。

実の娘である幼かった私を、性的虐待してきたのだから。忌ま忌ましい記憶は、今では途切れ途切れになっている。霧がかかって、はっきり覚えていない。カウンセリングに通ったお陰なのかもしれないけれど、できるなら完全に忘れたいくらいだ。ただ、おもちゃのように体を触られたことは、記憶よりも体が覚えている。

体に焼き付けられたおぞましい記憶など、いっそ捨ててしまえたら、いいのに………。

そうして私たち兄弟は、みんなバラバラになった。

兄は凜ちゃんと、弟の圭太兄さんは東京に住む友人の佃島滋の家に、私は静岡の果樹園を営む祖父母に引き取られた。

まだ若い兄はシングルファザーで、受験などを控える弟や私の面倒まで見るのは大変だ、という祖父母の考えで、みんなで納得できるまで話し合った。私のことは、東京から離れた方が事件の当事者であることを避けられるだろうって、刑事の坂井さんの案もあった。