5 / 7
ラクリエ国篇
老夫婦の過去
しおりを挟む
「そのルカの谷がどこにあるのか、私たちは知らない。ここから西の世界に何があるのかも知らないんだ」
そう言い放ったおじいさんの言葉に、エトはきょとんとして、身動きひとつしなかった。
「どうして?おじいさんは世界を回って、おばあさんと出会ったんでしょう?どうしてルカの谷を知らないの?」
ひと昔前、エトのおじいさんは巷で有名な探検家だった。心が赴くままに旅をして、心が赴くままに進み続ける。それを信条にして、世界を見てきたのだった。
その旅路で、おばあさんと出会い、ふたりは夫婦になった。ふたりは一緒にそれから旅を続け、ここサウストフト島にやってきて、今に至る、というわけである。と、エトは聞かされていた。
「ごめんね、エト。実はこれにはまだ話してないことがあるの。
サウストフト島はね、ラクリエの最西端、この世界の一番西なのよ」
おばあさんがおもむろに話し始めるが、エトにはさっぱり分からなかった。
「うん、それがどうしたの?」
「この島から西の方に行った人は数多くいる。だけど、その場所から帰ってきた者は誰一人としていないのよ。わたしたちも、一度西のその果てに行こうと試みたことがあるの。でも、出立してすぐに嵐にあってね、命からがらサウストフト島に戻ってこれたのだよ。可愛い子には旅をさせろ、と言うけれど、そんな危ないところに行かせるのは反対だよ」
物腰柔らかくおばあさんが言うと、おじいさんも同じように「そうだ、そうだ」顔を縦に振った。
ここで、老夫婦はエトに決して言わないが、エトはふたりにとって実の孫ではなかった。探検をやめてサウストフト島に永住することを決めたこの夫婦はしばらくして双子を授かった。男の子と女の子の双子である。双子は大きくなって、息子の方は外の世界を知りたいと言って、インアシュタット国へと旅立った。一方娘は、海の外側が知りたいと言って、夫婦が止めたにも関わらず、西の果てに船を出したのだった。それきり娘は戻ってこなかった。彼女が旅立ったのは、天井まで見えるほど晴れた、明るい日だった。また、息子の方はインアシュタット国に言って数年後に手の指2本だけ帰ってきた。
「仮に西に行けて、ルカの谷にあの子を送り届けることができたとしよう。だけど、なぜだかは知らないが、あの子は追われている身。いつ、ラクリエのお役人さんにあの子を匿っていることがバレて追求されるか分からないんだ」
「それじゃあ、おじいさんもおばあさんもあの子を見捨てるの?」
エトが不安そうに問うと、老夫婦は言った。
「そうじゃないよ。しかし、西の世界は未知の場所だ。本当にあの女の子さんが西から来たのなら、何か手がかりがあるかもしれない。西についての事実が新しく見つかったのかもしれない。そう言った情報を集めてから行くのでも、遅くはないのではないかい?」
「だけど、ニーナは家族の無事を確かめたいって。願いを叶えてあげようよ」
「しかし、そう言って焦って帰郷すれば、命の危険だってある。帰り着く前に死んでしまっては元も子もないだろう」
エトはそれ以上何かを言うのをやめた。なぜなら、おじいさんとおばあさんの言っていることに納得したからだ。
「とりあえず、今日は夕飯を食べてお休みなさい」
おばあさんが言って、その日はそれで終わりとなった。
夕飯を食べ終わっても、ニーナは起きては来ず、そのまま夜はふけていった。
そう言い放ったおじいさんの言葉に、エトはきょとんとして、身動きひとつしなかった。
「どうして?おじいさんは世界を回って、おばあさんと出会ったんでしょう?どうしてルカの谷を知らないの?」
ひと昔前、エトのおじいさんは巷で有名な探検家だった。心が赴くままに旅をして、心が赴くままに進み続ける。それを信条にして、世界を見てきたのだった。
その旅路で、おばあさんと出会い、ふたりは夫婦になった。ふたりは一緒にそれから旅を続け、ここサウストフト島にやってきて、今に至る、というわけである。と、エトは聞かされていた。
「ごめんね、エト。実はこれにはまだ話してないことがあるの。
サウストフト島はね、ラクリエの最西端、この世界の一番西なのよ」
おばあさんがおもむろに話し始めるが、エトにはさっぱり分からなかった。
「うん、それがどうしたの?」
「この島から西の方に行った人は数多くいる。だけど、その場所から帰ってきた者は誰一人としていないのよ。わたしたちも、一度西のその果てに行こうと試みたことがあるの。でも、出立してすぐに嵐にあってね、命からがらサウストフト島に戻ってこれたのだよ。可愛い子には旅をさせろ、と言うけれど、そんな危ないところに行かせるのは反対だよ」
物腰柔らかくおばあさんが言うと、おじいさんも同じように「そうだ、そうだ」顔を縦に振った。
ここで、老夫婦はエトに決して言わないが、エトはふたりにとって実の孫ではなかった。探検をやめてサウストフト島に永住することを決めたこの夫婦はしばらくして双子を授かった。男の子と女の子の双子である。双子は大きくなって、息子の方は外の世界を知りたいと言って、インアシュタット国へと旅立った。一方娘は、海の外側が知りたいと言って、夫婦が止めたにも関わらず、西の果てに船を出したのだった。それきり娘は戻ってこなかった。彼女が旅立ったのは、天井まで見えるほど晴れた、明るい日だった。また、息子の方はインアシュタット国に言って数年後に手の指2本だけ帰ってきた。
「仮に西に行けて、ルカの谷にあの子を送り届けることができたとしよう。だけど、なぜだかは知らないが、あの子は追われている身。いつ、ラクリエのお役人さんにあの子を匿っていることがバレて追求されるか分からないんだ」
「それじゃあ、おじいさんもおばあさんもあの子を見捨てるの?」
エトが不安そうに問うと、老夫婦は言った。
「そうじゃないよ。しかし、西の世界は未知の場所だ。本当にあの女の子さんが西から来たのなら、何か手がかりがあるかもしれない。西についての事実が新しく見つかったのかもしれない。そう言った情報を集めてから行くのでも、遅くはないのではないかい?」
「だけど、ニーナは家族の無事を確かめたいって。願いを叶えてあげようよ」
「しかし、そう言って焦って帰郷すれば、命の危険だってある。帰り着く前に死んでしまっては元も子もないだろう」
エトはそれ以上何かを言うのをやめた。なぜなら、おじいさんとおばあさんの言っていることに納得したからだ。
「とりあえず、今日は夕飯を食べてお休みなさい」
おばあさんが言って、その日はそれで終わりとなった。
夕飯を食べ終わっても、ニーナは起きては来ず、そのまま夜はふけていった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる