4 / 7
ラクリエ国篇
ルカの谷のニーナ
しおりを挟む
「どうして?どうしておじいさんが殺されたと思うんだい?」
エトが問うと、ニーナは涙を浮かべた。
「わたしがお役人さんたちに連れて行かれる時、家の中から銃声とお父さんの泣き叫ぶ声が聞こえたわ。だからわたし一刻も早く帰って家族の無事を確認しなきゃいけないの!」
ニーナはとうとう顔を覆ってシクシクと泣き始めた。
エトはもの不思議そうにその泣いている様を見つめて、何か決心したようにおばあさんに向き直った。
「おばあさん、僕この子が故郷に着くまで着いて行くよ」
エトがそうおばあさんに言っても、おばあさんも何か考え事をしているようで、二つ返事でニーナ帰郷の許しを得られたわけではなかった。
「これはおじいさんが帰ってきてから考えましょう」
おばあさんはエトの視線を避けるようにベッド脇から立ち去った。
「ルカの谷っていうのはどこにあるんだい?」
おばあさんが部屋から出るのを見届けてすぐに、エトはニーナに向き直った。
「ラクリエより西の方にあるの。それ以外はわからないわ。部屋に閉じ込められていた時、わたしをからかいにきていた人から頑張って聞き出したのが、このことだけなの」
「それじゃあ、とりあえず西の方に行けば、君の故郷には辿り着けるんだね?」
「えぇ、そのはずよ。」
「君はその歳で大変な苦労をしたんだね。きっと僕がルカの谷まで君を送り届けてあげるよ。だから、心配しないで、ゆっくり休んで」
エトがそう言うと、ニーナはしばらく時間をかけて、眠りについた。
その日の午後遅く、2日間サウストフト島の集落に行っていたおじいさんが帰ってきた。
「おばあさん、エト、帰ったよ」
そう言いながら、室内に入ってきたおじいさんは、寝室でおばあさんのベッドで寝ていたニーナに気づき、驚いた。そのすぐ横にはずっと張り付いてニーナを看ていたエトがいた。
「エト、この子は…?」
「おじいさん、おかえりなさい。おばあさんが今食事を用意しているから、台所の方で話そうよ。ニーナは今ぐっすり寝ているから」
ふたりが台所に入ると、おばあさんは一通り終わったところのようで休憩をしていた。
「お帰りなさい、おじいさん」
おばあさんの言葉を皮切りに、おじいさん、おばあさん、エトは3人で額を寄せ合った形になって話し合いを始めた。
「ニーナはルカの谷に帰りたがってる。あの後聞いたら、ここより西の場所にあるってことしかわからないんだって。だから、僕はニーナを、ニーナの故郷まで送り届けてあげたいんだ」
「しかし、生まれてこの方14年この島を出たことのないお前が外に行くには危険があり過ぎる」と、おじいさん。そこにおばあさんは同調していた。
「わたしもそれが心配でね」
「おじいさん、おばあさん、僕はこの島の外に出てみたい。ニーナを送り届けるのは本心からの申し出だけど、あの子を無事に送り届けたら、僕は世界を見てここに帰ってくるつもりだよ」
エトが外界に出たいと思っていることは、おばあさんもおじいさんもよく知っていた。朝焼けを毎朝欠かさずに見ている時のエトの瞳は、その世界への憧れに対して向けられていたのを、いつも見ていたからだ。
「エト、お前が帰ってくるまでに何年掛かる?その、ニーナって女の子さんは、ルカの谷から来たと言ったが、そのルカの谷がどこにあるのか、私たちは知らない。ここから西の世界に何があるのかも知らないんだ」
エトが問うと、ニーナは涙を浮かべた。
「わたしがお役人さんたちに連れて行かれる時、家の中から銃声とお父さんの泣き叫ぶ声が聞こえたわ。だからわたし一刻も早く帰って家族の無事を確認しなきゃいけないの!」
ニーナはとうとう顔を覆ってシクシクと泣き始めた。
エトはもの不思議そうにその泣いている様を見つめて、何か決心したようにおばあさんに向き直った。
「おばあさん、僕この子が故郷に着くまで着いて行くよ」
エトがそうおばあさんに言っても、おばあさんも何か考え事をしているようで、二つ返事でニーナ帰郷の許しを得られたわけではなかった。
「これはおじいさんが帰ってきてから考えましょう」
おばあさんはエトの視線を避けるようにベッド脇から立ち去った。
「ルカの谷っていうのはどこにあるんだい?」
おばあさんが部屋から出るのを見届けてすぐに、エトはニーナに向き直った。
「ラクリエより西の方にあるの。それ以外はわからないわ。部屋に閉じ込められていた時、わたしをからかいにきていた人から頑張って聞き出したのが、このことだけなの」
「それじゃあ、とりあえず西の方に行けば、君の故郷には辿り着けるんだね?」
「えぇ、そのはずよ。」
「君はその歳で大変な苦労をしたんだね。きっと僕がルカの谷まで君を送り届けてあげるよ。だから、心配しないで、ゆっくり休んで」
エトがそう言うと、ニーナはしばらく時間をかけて、眠りについた。
その日の午後遅く、2日間サウストフト島の集落に行っていたおじいさんが帰ってきた。
「おばあさん、エト、帰ったよ」
そう言いながら、室内に入ってきたおじいさんは、寝室でおばあさんのベッドで寝ていたニーナに気づき、驚いた。そのすぐ横にはずっと張り付いてニーナを看ていたエトがいた。
「エト、この子は…?」
「おじいさん、おかえりなさい。おばあさんが今食事を用意しているから、台所の方で話そうよ。ニーナは今ぐっすり寝ているから」
ふたりが台所に入ると、おばあさんは一通り終わったところのようで休憩をしていた。
「お帰りなさい、おじいさん」
おばあさんの言葉を皮切りに、おじいさん、おばあさん、エトは3人で額を寄せ合った形になって話し合いを始めた。
「ニーナはルカの谷に帰りたがってる。あの後聞いたら、ここより西の場所にあるってことしかわからないんだって。だから、僕はニーナを、ニーナの故郷まで送り届けてあげたいんだ」
「しかし、生まれてこの方14年この島を出たことのないお前が外に行くには危険があり過ぎる」と、おじいさん。そこにおばあさんは同調していた。
「わたしもそれが心配でね」
「おじいさん、おばあさん、僕はこの島の外に出てみたい。ニーナを送り届けるのは本心からの申し出だけど、あの子を無事に送り届けたら、僕は世界を見てここに帰ってくるつもりだよ」
エトが外界に出たいと思っていることは、おばあさんもおじいさんもよく知っていた。朝焼けを毎朝欠かさずに見ている時のエトの瞳は、その世界への憧れに対して向けられていたのを、いつも見ていたからだ。
「エト、お前が帰ってくるまでに何年掛かる?その、ニーナって女の子さんは、ルカの谷から来たと言ったが、そのルカの谷がどこにあるのか、私たちは知らない。ここから西の世界に何があるのかも知らないんだ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

【完結】元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる