独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第六章 社交シーズン(ウイレミナ)

ヒューの要望

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 セラフィーヌがメリ地区の祭りから帰ってきた翌日、珍しく侯爵夫人は階下で朝食を取った。

 テーブルには四人分のお皿とカトラリーが並んでおり、背後には一緒にきたドリーが控えている。しかし、テーブルに座っているのは侯爵夫妻のみである。

 「ケイト、やはり車をフィナデレ・カテドラルから持って来させよう。今日頼めば、明後日には使えるだろう」

 「やっぱり車必要なの?」

 と、ケイトが返す。

 「デビュタント後に車博物館のティーパーティーに招待されたんだ。そこに馬車で行くのは、妙だろう」

 その言葉を聞いて、ケイトはふーっと息をついた。

 「ドリー、フィナデレ・カテドラルに連絡を入れて、ジョンに車を持って来させて」

 「承知いたしました、奥様」

 ドリーはしっかりと脳にその言葉を刻んで、再び動かぬ彫像に戻った。

 「セラフィーヌは戻ったのかい?」

 今度は侯爵がドリーに話しかけた。

 「はい、今朝方お嬢様とディキンソン卿を屋敷のおもてでお見かけしました」

 「メリ地区の祭りだなんて、私たちが若い頃はなかったな。そうだろう?ケイト」

 「えぇ、夜更けまで外で踊るなんて、考えたこともなかったわ」

 「時代は変わったな。おそらく、もっと変わるだろうが」

 侯爵は今朝方届いたばかりの手紙を開きながら、答えた。

 「ヒュー、うちで開く晩餐会なのだけれど、今日シンガーさんと話してメニューを決めるわ」

 「あぁ、そうしてくれ」

 「おはよう、お父様、お母様」

 ちょうどそこにウィレミナがやってきた。
 
 「おはよう、ミナ。よく眠れたかい?」

 ヒューが優しく声をかける。

 「えぇ、アイヴィーがよく眠れるようにと、自家製のハーブティーを作ってくれたの」

 そのウィレミナの言葉に、ドリーは密かに笑みを浮かべた。

 「ミナ、こっちに座りなさい。きっとサラは起きて来ないわ」

 ケイトの言う通り、ウィレミナはいつもセラフィーヌが座る場所に座った。
 
 「ドリー、お皿を一式片付けてくれるかしら」

 ケイトの言葉に従って、ドリーは反対側で胸を張っていた下僕にうなづいて合図を送る。下僕はドリーの鋭い視線に怯えながら、慌てて食器を片付けた。

 
 ***


 「もしもし?カーライルさんかね?」

 まるで隔たれた壁の向こうに話すように、ドリーは電話口に声を張り上げていた。

 (えぇ、どうしました?ドリーさん、そんなに叫ばなくても聞こえていますよ)

 ドリーは新たな発明品に疎い。ここ数年で貴族の屋敷に普及した電話を、まだ怖がりながら使っているのは、ドリーくらいなものだった。

 「旦那様が、ジョンに運転させて車をこっちのお屋敷に持ってくるようにとの仰せだ。それから、料理人の手が足りないから、リリーを連れてくるように、シンガーさんが言っている」

 (やっぱり、そんなことになるだろうと思ったわ)

 「カーライルさん、余計なことを電話で言わなくていいのだよ。電話は必要条件だけ話せばいいのだ」

 と、ドリーが言うと、アン・カーライルが不平を言った。その口調から、口を尖らせていっているのが容易に想像できる。

 (それじゃあ、まるで電報のようではありませんか!
  どうです?そちらは。みなさん楽しんでおられますか?)

 「カーライルさん、帰ってから全て話すよ。それでは、頼んだことをよろしく頼むよ」

 (はい。わかりました。ジョンに車を首都へ持って行かせるのと、リリーを同乗させることですね。承知いたしました)

 「あぁ」

 そう言って、電話はガチャリと切れた。

 
 


 

 
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