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第五章 社交シーズン(セラフィーヌ)

夜祭り

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 夕食会が終わり、玄関周りに下僕やメイドが一斉に待機する。その間を抜けるようにして、招かれた客は外へと赴いた。
 外にばらばらっと散り、帰宅するものと、メリ地区へ行く者とで人の波はまばらに分かれる。

 「それでは、リック、お留守番をお願いしますね」

 ルクリアが自邸の執事にそう言って、屋敷を後にする。
 一緒にメリ地区へと歩く約束をしていた、モットレイ子爵、バーナビー、セラフィーヌは最後に敷居を跨いだルクリアを、門のところで待ち受けていた。

 「それでは行きましょうか」

 ルクリアは、バーナビー、ヘイウッド、セラフィーヌ、3人の顔を見てそう言った。

 「セラフィーヌさん、去年の夜祭り同様、きっと楽しい夜になるわね」

 ルクリアがバーナビーの腕に自分の腕を絡めながら言う。

 「また、公園でダンスでもしましょう。覚えている?去年楽団が演奏していた曲は本当に素敵なものばかりだったわね」

 前年にこの四人組が夜祭りに参加した際、彼らはレモネード片手にストリートを練り歩き、道端で芸を披露している者に賞賛の声とコインを投げ、最後にはメリ地区の公園を終点として、公園の湖に浮かべるようにして設置された野外ダンスホールで、踊り明かしたのだった。

 決して顔には出さなかったし、言葉にもしなかったが、ヘイウッド・モットレイ子爵はセラフィーヌとその場で踊れたことを、内心とても喜んでいた。
 今年も、また一緒に夜祭りへ行く、最後には再び一緒にダンスができる、とヘイウッドの心の中は興奮していた。

 この夜祭りで踊るダンスは、舞踏会で踊るものとは違って、楽しむことが大切なものだった。舞踏会のダンスは堅苦しく、マナーに気を付け、第一に優雅さが求められる。ヘイウッドはその堅苦しさが苦手だった。そんなものよりも、相手の女性がくるくるの楽しそうに踊る夜祭りの方が、ヘイウッドは好きだったのだ。



***



 「ネオ、協力してくれ」

 彼の声を聞くものがそこにはいないにも関わらず、リヴァヴァルト卿は声を細めて、ネオ卿にささやいた。

 「なんだ。そんな声を小さくする必要はないぞ、リヴァヴァルト!」

 ふざけたようにネオ卿がリヴァヴァルト卿の肩をガツンと叩いた。

 「真剣なんだ、聞いてくれ」

 リヴァヴァルト卿の真面目な面持ちを見て、ネオ卿はふと我に帰ったように、顔から笑みを消した。


 「なんだ」

 「セラフィーヌ嬢は夜祭りに行くらしい。ということは、終点の公園のダンスにも参加するはずだ。そこでわたしが彼女とダンスをできるように、協力しろ」

 リヴァヴァルトの言葉を聞いたネオ卿は、意外にもすぐに応じた。

 「いいぜ。だが、あのセラフィーヌ嬢のことだ。ダンスはしないかもしれないぞ。舞踏会で巧みに逃げ隠れてしまうお嬢様だからな」

 素直に応じたものの、ネオ卿はこう付け加えた。

 「だから、助けて欲しいんだ。逃げないように、誘導したい」


 まるで悪巧みをする子どものようなふたつの影が、街頭の下に揺れていた。



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