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第五章 社交シーズン(セラフィーヌ)

ヨハン・リヴァヴァルト

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 ヨハン・リヴァヴァルトのような高位の貴族がネビュラ伯爵の夕食会に招かれたのか、それは、彼の友人、ネオ卿がネビュラ家の夕食会に招かれたからである。招待の際に偶然居合わせた彼は、バーナビーの配慮によって夕食会に招かれたのだった。

 そこで目を奪われたのが、セラフィーヌ・オルヴィス侯爵令嬢だったのだ。

 「ネオ、彼女は誰だ」

 リヴァヴァルト卿が友人ネオ卿に声を潜ませて聞くと、ネオ卿はすぐさま答えた。

 「あぁ、彼女がノックストーク誌に名前が載っていたセラフィーヌ・オルヴィス侯爵令嬢だよ。彼女が社交界デビューをしてから、何度かダンスに誘おうと思ったが、これが難しいんだ。彼女は常に誰かと踊っているか、隠れていなくなっているんだ」

 ネオ卿はリヴァヴァルト卿と同い年であるので、実家の爵位に差はあるが、敬語抜きで話をするほど親しかった。

 「逃げ足が速いのか」

 「あぁ、そうとも言えるかもな」

 ネオ卿の話を聞いてさらに興味が湧いたリヴァヴァルト卿は、質問を重ねた。

 「それで、結婚秒読みと言われている相手は誰なんだ」

 「あのディキンソン卿だよ」

 「なんだって?」

 リヴァヴァルト卿には、自身が令嬢を虜にしやすい性質であることを自覚していた。もちろん、セラフィーヌも例外ではないと思っている。そんな、社交界で注目されるほどの令嬢が、対してパッとしないディキンソン卿と結婚秒読みとささやかれていることが、腑に落ちなかった。

 …赤毛に比べたら、俺の金髪と緑の瞳の方がいいに決まっている。

 内心、リヴァヴァルト卿はそう思っているのだった。


***


 ネビュラ伯爵家の夕食会は筒がなく行われた。フィナデレカテドラルの時とは違って、皆長細い食卓に並べられた食事にありつき、ワインを飲んで、正面の人、隣の人と会話を楽しんだ。正面の人とも会話が楽しめるのが、長い食卓の良い部分である。しかし、食卓には向かうと手前を隔てるように、多くのキャンドルや花が飾られている。それなりに食卓の幅は広いのだ。
 女主人であるルクリアが食卓の中心に座り、その正面にバーナビー、その横には序列の順なのか、リヴァヴァルト卿がいる。
 一方で、ルクリアの隣にはセラフィーヌ、そしてヘイウッド・モットレイ子爵が座った。

 真横をよく知る人に囲まれて、セラフィーヌは安心していた。

 「セラフィーヌ嬢、いかがですか。創作の方は」

 まるで秘密の話をするようにヘイウッドはセラフィーヌに聞いた。
 ヘイウッドは食前酒を飲みながら、セラフィーヌと話す機会をうかがっていたのだが、見つからず、ここでその日初めて会話を始めるに至っていた。

 「順調ですわ。モットレイ卿。明後日原稿を持って、ノース地区に参りたいと思っております」

 「あなたの作品は毎度読むのが楽しみですよ」

 普段笑顔を見せないモットレイ子爵が、セラフィーヌに笑顔を向ける。
 セラフィーヌは自身の作品に対して、楽しみだと言われて嬉しくて、破顔した。

 「セラフィーヌ嬢、夜祭りは行かれるのですか?」

 食事をすすめながらモットレイ子爵が聞く。

 「えぇ、社交シーズンで最も楽しい行事ですもの」

 「そうですね。ではご一緒しましょう」

 そう、モットレイ子爵は言ったのだった。
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