33 / 48
第五章 社交シーズン(セラフィーヌ)
ヨハン・リヴァヴァルト
しおりを挟むヨハン・リヴァヴァルトのような高位の貴族がネビュラ伯爵の夕食会に招かれたのか、それは、彼の友人、ネオ卿がネビュラ家の夕食会に招かれたからである。招待の際に偶然居合わせた彼は、バーナビーの配慮によって夕食会に招かれたのだった。
そこで目を奪われたのが、セラフィーヌ・オルヴィス侯爵令嬢だったのだ。
「ネオ、彼女は誰だ」
リヴァヴァルト卿が友人ネオ卿に声を潜ませて聞くと、ネオ卿はすぐさま答えた。
「あぁ、彼女がノックストーク誌に名前が載っていたセラフィーヌ・オルヴィス侯爵令嬢だよ。彼女が社交界デビューをしてから、何度かダンスに誘おうと思ったが、これが難しいんだ。彼女は常に誰かと踊っているか、隠れていなくなっているんだ」
ネオ卿はリヴァヴァルト卿と同い年であるので、実家の爵位に差はあるが、敬語抜きで話をするほど親しかった。
「逃げ足が速いのか」
「あぁ、そうとも言えるかもな」
ネオ卿の話を聞いてさらに興味が湧いたリヴァヴァルト卿は、質問を重ねた。
「それで、結婚秒読みと言われている相手は誰なんだ」
「あのディキンソン卿だよ」
「なんだって?」
リヴァヴァルト卿には、自身が令嬢を虜にしやすい性質であることを自覚していた。もちろん、セラフィーヌも例外ではないと思っている。そんな、社交界で注目されるほどの令嬢が、対してパッとしないディキンソン卿と結婚秒読みとささやかれていることが、腑に落ちなかった。
…赤毛に比べたら、俺の金髪と緑の瞳の方がいいに決まっている。
内心、リヴァヴァルト卿はそう思っているのだった。
***
ネビュラ伯爵家の夕食会は筒がなく行われた。フィナデレカテドラルの時とは違って、皆長細い食卓に並べられた食事にありつき、ワインを飲んで、正面の人、隣の人と会話を楽しんだ。正面の人とも会話が楽しめるのが、長い食卓の良い部分である。しかし、食卓には向かうと手前を隔てるように、多くのキャンドルや花が飾られている。それなりに食卓の幅は広いのだ。
女主人であるルクリアが食卓の中心に座り、その正面にバーナビー、その横には序列の順なのか、リヴァヴァルト卿がいる。
一方で、ルクリアの隣にはセラフィーヌ、そしてヘイウッド・モットレイ子爵が座った。
真横をよく知る人に囲まれて、セラフィーヌは安心していた。
「セラフィーヌ嬢、いかがですか。創作の方は」
まるで秘密の話をするようにヘイウッドはセラフィーヌに聞いた。
ヘイウッドは食前酒を飲みながら、セラフィーヌと話す機会をうかがっていたのだが、見つからず、ここでその日初めて会話を始めるに至っていた。
「順調ですわ。モットレイ卿。明後日原稿を持って、ノース地区に参りたいと思っております」
「あなたの作品は毎度読むのが楽しみですよ」
普段笑顔を見せないモットレイ子爵が、セラフィーヌに笑顔を向ける。
セラフィーヌは自身の作品に対して、楽しみだと言われて嬉しくて、破顔した。
「セラフィーヌ嬢、夜祭りは行かれるのですか?」
食事をすすめながらモットレイ子爵が聞く。
「えぇ、社交シーズンで最も楽しい行事ですもの」
「そうですね。ではご一緒しましょう」
そう、モットレイ子爵は言ったのだった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる