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第四章 『アイリス』
3年前の話
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「あらあら、やっぱりモットレイ子爵様も今年一番話題のオルヴィス侯爵令嬢が気になるようですね」
そう言って近づいてきたのは、友人として親しいルクリアだった。ルクリアには3人の妹がおり、すぐ下の妹はデビュタントを数日前に終えたばかりだった。ルクリアはネビュラ伯爵の長女で、もう既に結婚している。その相手は同じ伯爵位の次男である、バーナビーだ。彼はネビュラ伯爵の遠縁だった。ちなみに、モットレイ子爵とバーナビー、ルクリアは元々仲の良い3人組だった。
「ルクリア、からかうのはよしてくれ。ただ、あの子を知っているだけだよ」
そうヘイウッドが言うと、ルクリアは眉をひそめた。
「あのお嬢様は今年初めてここに来たのよ。どうして知っているの?」
「先日、ロクレウノ・ガーデンでぶつかったんだ。彼女、なんだか急いでいたみたいだ」
「デビュタント直後の子がロクレウノ・ガーデンでひとり?なんだかそれって奇妙ね」
ルクリアは探偵のように頭を傾げ、手を顎に添えて考え込んだ。
一方のヘイウッドは侯爵令嬢の方を何度か見て、周りに誰かしらいるのを毎度確認し、もうぶつかったことを謝りに行くのは諦めた。
***
しばらく経って、パーティーが中盤に差しかかったところで、モットレイ子爵はいつものように招待された屋敷のバルコニーに出た。室内では若い令嬢子息が疲れを知らずに踊っている。モットレイ子爵だって未婚で若いのだが、社交の場があまり好きではない彼は夜風に当たる方が考え事ができてよかった。
広い屋敷の中人の居ない居心地の良さそうなバルコニーを探して壁に沿って、人と人の間をうねるように進むと、モットレイ子爵は再びあのセラフィーヌとぶつかったのである。
「失礼、レディ」
「こちらこそ、失礼いたしました」
その時のセラフィーヌは物腰柔らかく優雅に足を折った。その行為は彼女にとってほぼ癖になっていた。
「おや、また会いましたね」
モットレイ子爵がセラフィーヌに気づいてそう声をかけると、うつむいてモットレイ子爵の顔までまともに見ていなかったセラフィーヌは、表情を上げた。
「あぁ、先日の…」
「もう一度謝りたかったんです。あなたに」
モットレイ子爵が言うと、セラフィーヌはキョトンとした顔をした。
「いえ、こちらこそ。先日も今日も私がちゃんと前を見ていなかったせいですわ」
するとそこに、ルクリアが現れた。
「あら、レディ・セラフィーヌ、モットレイ子爵と面識が?」
「いえ、初めてです」
「それでは、紹介致しましょう」
ルクリアは笑顔になって、紹介を始めた。
例外は多々あるが、紹介なしに話しかけたり友好を結ぼうとしたりするのは、貴族の間ではマナー違反なのだ。
「こちらモットレイ子爵、そしてこちらがデビュタントを終えたばかりの、社交界の花オルヴィス侯爵令嬢、レディ・セラフィーヌですわ」
ルクリアはふたりの軽いお辞儀を見守ってから再び続ける。
「モットレイ子爵は出版社をお持ちですの。昨年かしら、前にナイトの子息が書いたラヴストーリーが出版されましたでしょう?モットレイ子爵が、彼に可能性を見出して出版したんですのよ」
余計なことを。とモットレイ子爵が思っていると、セラフィーヌは楽しそうに話を聞いている。
それをみてモットレイ子爵も自然と笑顔になった。
そう言って近づいてきたのは、友人として親しいルクリアだった。ルクリアには3人の妹がおり、すぐ下の妹はデビュタントを数日前に終えたばかりだった。ルクリアはネビュラ伯爵の長女で、もう既に結婚している。その相手は同じ伯爵位の次男である、バーナビーだ。彼はネビュラ伯爵の遠縁だった。ちなみに、モットレイ子爵とバーナビー、ルクリアは元々仲の良い3人組だった。
「ルクリア、からかうのはよしてくれ。ただ、あの子を知っているだけだよ」
そうヘイウッドが言うと、ルクリアは眉をひそめた。
「あのお嬢様は今年初めてここに来たのよ。どうして知っているの?」
「先日、ロクレウノ・ガーデンでぶつかったんだ。彼女、なんだか急いでいたみたいだ」
「デビュタント直後の子がロクレウノ・ガーデンでひとり?なんだかそれって奇妙ね」
ルクリアは探偵のように頭を傾げ、手を顎に添えて考え込んだ。
一方のヘイウッドは侯爵令嬢の方を何度か見て、周りに誰かしらいるのを毎度確認し、もうぶつかったことを謝りに行くのは諦めた。
***
しばらく経って、パーティーが中盤に差しかかったところで、モットレイ子爵はいつものように招待された屋敷のバルコニーに出た。室内では若い令嬢子息が疲れを知らずに踊っている。モットレイ子爵だって未婚で若いのだが、社交の場があまり好きではない彼は夜風に当たる方が考え事ができてよかった。
広い屋敷の中人の居ない居心地の良さそうなバルコニーを探して壁に沿って、人と人の間をうねるように進むと、モットレイ子爵は再びあのセラフィーヌとぶつかったのである。
「失礼、レディ」
「こちらこそ、失礼いたしました」
その時のセラフィーヌは物腰柔らかく優雅に足を折った。その行為は彼女にとってほぼ癖になっていた。
「おや、また会いましたね」
モットレイ子爵がセラフィーヌに気づいてそう声をかけると、うつむいてモットレイ子爵の顔までまともに見ていなかったセラフィーヌは、表情を上げた。
「あぁ、先日の…」
「もう一度謝りたかったんです。あなたに」
モットレイ子爵が言うと、セラフィーヌはキョトンとした顔をした。
「いえ、こちらこそ。先日も今日も私がちゃんと前を見ていなかったせいですわ」
するとそこに、ルクリアが現れた。
「あら、レディ・セラフィーヌ、モットレイ子爵と面識が?」
「いえ、初めてです」
「それでは、紹介致しましょう」
ルクリアは笑顔になって、紹介を始めた。
例外は多々あるが、紹介なしに話しかけたり友好を結ぼうとしたりするのは、貴族の間ではマナー違反なのだ。
「こちらモットレイ子爵、そしてこちらがデビュタントを終えたばかりの、社交界の花オルヴィス侯爵令嬢、レディ・セラフィーヌですわ」
ルクリアはふたりの軽いお辞儀を見守ってから再び続ける。
「モットレイ子爵は出版社をお持ちですの。昨年かしら、前にナイトの子息が書いたラヴストーリーが出版されましたでしょう?モットレイ子爵が、彼に可能性を見出して出版したんですのよ」
余計なことを。とモットレイ子爵が思っていると、セラフィーヌは楽しそうに話を聞いている。
それをみてモットレイ子爵も自然と笑顔になった。
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