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第五十章
『あの子はお前には勿体無い』
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ビリーはリオ・グランデ川の川沿いの農道からタオスの中心部にかけて2人が立ち寄りそうなハイウェイのサービスエリア、ガソリンスタンド、量販店等で聞き込み調査を行ったが目撃情報を得ることは出来ずにいた。
ビリーは取り敢えずタオスの森林保安官事務所に立ち寄り、その日の報告をサンタフェの所長にし、併せて当分の間はタオス事務所を拠点にして捜索に当たる旨を告げた。
電話を掛け終わるとビリーはタオス事務所の所長室に向かった。
「ビリーか!今日は別嬪さんの彼女は一緒じゃないのかい?」
「その別嬪さんを探してるんですよ!」
タオスの所長とビリーは長年、コンビを組んだ間柄であった。
ビリーはタオスの所長に事情を話した。
「事情は分かったが、お前さんまでもが骨を折る必要は無かろう?
放っておけ!
昔から保安官とポリ公は色恋沙汰の不祥事がオンパレードだ!
お前さんが心配するほどマスコミは食いつかないよ。」
「分かってますよ、それぐらい。うちのボスは出世欲の塊ですから、彼に了解を得るためマスコミで脅したまでです。」
「あんまりイジメるなよ。彼は直に偉くなるぞ!なんせ、州幹部の視察の際は正座して靴まで磨いた男だからな。後々仕返しされるぞ!」
「構いませんよ。俺はお偉い方がどうも好きになれませんから。」
「さて、それは良いとして、ビリー、お前の狙いは何だい?
こんなくだらないことにお前が首を突っ込むには理由があるはずだ。」
「狙いはありません。理由ですか…」
ビリーは改めてそう問われると、自分自身でも何故か明瞭な答えはないような気がした。
タオスの所長が鎌をかけた。
「あの別嬪さんがその神父とできたのが気に食わないのか?」
ビリーはその愚問に苦笑いしたが、ふとそれに近いような気がした。
「所長、30口径の弾を2時間で100発撃ち続けることができますか?」
ビリーは所長の鎌には乗らず、逆にそう質問してみた。
「ライフル銃でか?ここがイラクの戦場ならできるかもな。普通は無理だ。」
「それをやってのけたのが18歳の少女」
「ビリー、お前、いつから映画監督になったんだい。ランボーの女版か!」
「愛する人を助けるため、カーソンの森の中で撃ち続けた。SOSをね。」
所長の顔が真顔になった。
「本当の話かよ?詳しく聞かせてくれ。」
ビリーは所長に浩子のことを詳しく説明した。
それを聞いた所長はビリーにこう聞き直した。
「お前が惚れたのはその少女か?それならよく分かるさ。お前好みだ。」
ビリーは笑いながら首を振り、
「俺がその子に惚れてる?俺は年上好みですよ!」
そう惚けながらもビリー自身も浩子に何かを感じていた。
『確かにあの子は奴には勿体無い。』
ビリーは再度こう感じると、所長に言った。
「マリアと一緒にいる元神父がその少女を捨てやがった。
あんなに必死で助けを呼んだ少女を手紙一枚で捨てやがった。
所長、俺はそんな奴が反吐が出るくらい大っ嫌いなんです。
奴の首根っこを掴んででも少女の元に連れ戻し、
そして顔に土が付くくらい土下座させてやりたいんですよ!」と
所長はニヤリと笑いこう言った。
「ビリー、お前は間違いなくその子に恋してるよ。
それはともあれ、俺にどうしろと?」
ビリーは所長の机に両手をつき、顔を乗り出して、こう頼んだ。
「あの時と同じように俺と一緒にヘリで…」
「あの時…、10年前の獣道か?」
ビリーは所長の目を睨みゆっくり頷いた。
そう、10年前の獣道の惨劇、その救援ヘリを操縦したのがタオスの所長であった。
「ビリー、マリア達はあの獣道に向かっているのか?」
所長の表情が急に険しくなった。
「間違いありません。」
「今からでも間に合うか?」
「恐らく2人はまだこのタオス近郊に居るかと。
また、2人は馬で川沿いを登るつもりです。」
「よし、それなら十分間に合う。お前の計画を聞かせてくれ。」
ビリーはこう説明した。
『この時期のリオ・グランデ川の支流は靄が立ち込み上空から川沿いを目視するのは難しい。かつ、ヘリの着陸地点が限られている。
よって、先回りして橋桁の手前にヘリを着陸させ、そこで待機する。』と
所長は頷きながらも一つ質問した。
「2人は大人しく説得に応じてヘリに乗ると思うか?」と
ビリーは言った。
「大人しくはしないと思います。その時は力尽くです。」と
所長も同感し、こう言った。
「それで行こう。獣道に入るのは二度とごめんだからな。」と
そう言うと所長は州本部に電話を掛けた。
「こちらタオス事務所、ヘリを一台要請する。リオ・グランデ川支流を北上しカーソン森林地帯を抜けようとする登山者の情報あり。」と
電話を切ると所長はビリーに言った。
「ヘリは明朝には此処に着く。それまで、装備品の用意をしておこう。」と
2人は事務所を出るとビリーの特殊ジープからライフル銃、散弾銃等を降ろした。
所長はビリーが乗って来た特殊ジープをまじまじと見ながらこう問うた。
「ビリー、ヘリで行くなら、特殊ジープでわざわざ来なくても良かったな。」と
ビリーは言った。
「こいつはクリスト山脈の放牧地帯に行くために必要です。」
「放牧地帯?」
「奴等は馬を連れている。川を登る前に必ず馬に餌を食わせます。」
「『ランチェス・デ・タオス』の放牧地か?」
「ええ、マリアの生まれ故郷です。今からこいつで行って来ます。」
「おいおい、それならヘリは必要なかったんじゃないか?」
「ヘリは次の手段です。先の一手を打つように教えたのは所長、貴方ですよ。」
「流石、ニューメキシコ州のホープだ!君には参ったよ。
では、ヘリをキャンセルできることを願うとするか。」
ビリーはジープに乗り込み『ランチェス・デ・タオス』へと向かった。
『腐れ野郎共、そこに居ろよ!俺も獣道を二度と通りたくはないからな。』
ビリーはそう思うと同時に所長の言葉が浮かんだ。
『お前は間違いなくその子に恋してるよ』
そして、ライフル銃を握ったまま呆然としていた浩子の姿が浮かんできた。
ビリーはまたも呟いた。
『あの子はお前には勿体無い』と
ビリーは取り敢えずタオスの森林保安官事務所に立ち寄り、その日の報告をサンタフェの所長にし、併せて当分の間はタオス事務所を拠点にして捜索に当たる旨を告げた。
電話を掛け終わるとビリーはタオス事務所の所長室に向かった。
「ビリーか!今日は別嬪さんの彼女は一緒じゃないのかい?」
「その別嬪さんを探してるんですよ!」
タオスの所長とビリーは長年、コンビを組んだ間柄であった。
ビリーはタオスの所長に事情を話した。
「事情は分かったが、お前さんまでもが骨を折る必要は無かろう?
放っておけ!
昔から保安官とポリ公は色恋沙汰の不祥事がオンパレードだ!
お前さんが心配するほどマスコミは食いつかないよ。」
「分かってますよ、それぐらい。うちのボスは出世欲の塊ですから、彼に了解を得るためマスコミで脅したまでです。」
「あんまりイジメるなよ。彼は直に偉くなるぞ!なんせ、州幹部の視察の際は正座して靴まで磨いた男だからな。後々仕返しされるぞ!」
「構いませんよ。俺はお偉い方がどうも好きになれませんから。」
「さて、それは良いとして、ビリー、お前の狙いは何だい?
こんなくだらないことにお前が首を突っ込むには理由があるはずだ。」
「狙いはありません。理由ですか…」
ビリーは改めてそう問われると、自分自身でも何故か明瞭な答えはないような気がした。
タオスの所長が鎌をかけた。
「あの別嬪さんがその神父とできたのが気に食わないのか?」
ビリーはその愚問に苦笑いしたが、ふとそれに近いような気がした。
「所長、30口径の弾を2時間で100発撃ち続けることができますか?」
ビリーは所長の鎌には乗らず、逆にそう質問してみた。
「ライフル銃でか?ここがイラクの戦場ならできるかもな。普通は無理だ。」
「それをやってのけたのが18歳の少女」
「ビリー、お前、いつから映画監督になったんだい。ランボーの女版か!」
「愛する人を助けるため、カーソンの森の中で撃ち続けた。SOSをね。」
所長の顔が真顔になった。
「本当の話かよ?詳しく聞かせてくれ。」
ビリーは所長に浩子のことを詳しく説明した。
それを聞いた所長はビリーにこう聞き直した。
「お前が惚れたのはその少女か?それならよく分かるさ。お前好みだ。」
ビリーは笑いながら首を振り、
「俺がその子に惚れてる?俺は年上好みですよ!」
そう惚けながらもビリー自身も浩子に何かを感じていた。
『確かにあの子は奴には勿体無い。』
ビリーは再度こう感じると、所長に言った。
「マリアと一緒にいる元神父がその少女を捨てやがった。
あんなに必死で助けを呼んだ少女を手紙一枚で捨てやがった。
所長、俺はそんな奴が反吐が出るくらい大っ嫌いなんです。
奴の首根っこを掴んででも少女の元に連れ戻し、
そして顔に土が付くくらい土下座させてやりたいんですよ!」と
所長はニヤリと笑いこう言った。
「ビリー、お前は間違いなくその子に恋してるよ。
それはともあれ、俺にどうしろと?」
ビリーは所長の机に両手をつき、顔を乗り出して、こう頼んだ。
「あの時と同じように俺と一緒にヘリで…」
「あの時…、10年前の獣道か?」
ビリーは所長の目を睨みゆっくり頷いた。
そう、10年前の獣道の惨劇、その救援ヘリを操縦したのがタオスの所長であった。
「ビリー、マリア達はあの獣道に向かっているのか?」
所長の表情が急に険しくなった。
「間違いありません。」
「今からでも間に合うか?」
「恐らく2人はまだこのタオス近郊に居るかと。
また、2人は馬で川沿いを登るつもりです。」
「よし、それなら十分間に合う。お前の計画を聞かせてくれ。」
ビリーはこう説明した。
『この時期のリオ・グランデ川の支流は靄が立ち込み上空から川沿いを目視するのは難しい。かつ、ヘリの着陸地点が限られている。
よって、先回りして橋桁の手前にヘリを着陸させ、そこで待機する。』と
所長は頷きながらも一つ質問した。
「2人は大人しく説得に応じてヘリに乗ると思うか?」と
ビリーは言った。
「大人しくはしないと思います。その時は力尽くです。」と
所長も同感し、こう言った。
「それで行こう。獣道に入るのは二度とごめんだからな。」と
そう言うと所長は州本部に電話を掛けた。
「こちらタオス事務所、ヘリを一台要請する。リオ・グランデ川支流を北上しカーソン森林地帯を抜けようとする登山者の情報あり。」と
電話を切ると所長はビリーに言った。
「ヘリは明朝には此処に着く。それまで、装備品の用意をしておこう。」と
2人は事務所を出るとビリーの特殊ジープからライフル銃、散弾銃等を降ろした。
所長はビリーが乗って来た特殊ジープをまじまじと見ながらこう問うた。
「ビリー、ヘリで行くなら、特殊ジープでわざわざ来なくても良かったな。」と
ビリーは言った。
「こいつはクリスト山脈の放牧地帯に行くために必要です。」
「放牧地帯?」
「奴等は馬を連れている。川を登る前に必ず馬に餌を食わせます。」
「『ランチェス・デ・タオス』の放牧地か?」
「ええ、マリアの生まれ故郷です。今からこいつで行って来ます。」
「おいおい、それならヘリは必要なかったんじゃないか?」
「ヘリは次の手段です。先の一手を打つように教えたのは所長、貴方ですよ。」
「流石、ニューメキシコ州のホープだ!君には参ったよ。
では、ヘリをキャンセルできることを願うとするか。」
ビリーはジープに乗り込み『ランチェス・デ・タオス』へと向かった。
『腐れ野郎共、そこに居ろよ!俺も獣道を二度と通りたくはないからな。』
ビリーはそう思うと同時に所長の言葉が浮かんだ。
『お前は間違いなくその子に恋してるよ』
そして、ライフル銃を握ったまま呆然としていた浩子の姿が浮かんできた。
ビリーはまたも呟いた。
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