『愛の霊感』〜風と共に祈りを〜

ジョン・グレイディー

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第四十七章

『貴方も私を愛してくれるよね』

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 ジョンとマリアはリオ・グランデ川の川沿いの農道を走りタオスの町へ向かっていた。

 ハンドルを握るマリアは時折バックミラーで後続車を確認し『まだ大丈夫』と心に言い聞かせながら先を急いでいた。

 マリアが怯えていたのはビリーの存在であった。

 マリアは保安官としてビリーを尊敬していた。

 行動力、洞察力に長け、射撃も州大会で上位の腕前、森林や動物にも詳しく、ニューメキシコ州の若手森林保安官のホープ。

 マリアに保安官のノウハウを教えたのもビリーであった。

 また、マリアはビリーの人間性にも憧れを抱いていた。

 直情型の無頼漢ではあるが根は優しく、部下の面倒見も良かった。そして、何よりも正義感が強く、曲がったことが大っ嫌いな性格。例え上司の指示でも理不尽なことには従わない。

 マリア自身も強気の性格であったことから、そんなビリーの一本気なところが好きであった。

 しかし、今はビリーを敵に回してしまった。

『そうよね…、ビリーなら私の行動、絶対に許さないわ…』

 退院当日、マリアがジョンを保安官事務所に連れて来た時であった。
…………………………………………
『良かったな。無事、退院出来て。』

『ありがとうございます。貴方にも助けて頂きありがとうございました。』

『礼を言うのは俺じゃないよ。あの子に礼を言うんだ。』

『浩子?ですか?』

『そうだ。君を助けるのにあの子はライフル銃を100発撃ち続けたんだ!あれがなければ俺達は気付かなかったよ!』

『そうだったんですか。』

『ビリー、聞いて欲しいの。』

『何だい?』

『ジョンを当分の間、厩舎の小屋に住まわせたいの。』

『彼はシアトルに帰るんでは?』

『帰らないの。』

『どうして?神学校の神父だろ。』

『神父は辞めたの。』

『だったら、あの子は…、どうなるんだい?あの子は君を待ってるんだろ?』

『………………』

『それより、ビリー、協力して!ジョンの足が回復するまで、厩舎の小屋に住まわせたいの。』

『君はあの子をどうするつもりだい?』

『手紙を書きました。別れの手紙を。』

『おい!いい加減にしろよ!あの子の気持ち、ちょっとは考えろ!』

『ビリーやめて!良いわ、貴方には頼まない。私、所長にお願いして来る。所長も厩舎の管理に困っていたから、きっと私の提案に賛成してくれるはず。」

『マリア!お前は保安官だぞ。個人の問題を公務に持ち込むな!』

『ビリー!貴方が最初、ジョンに協力してあげればって言ってたじやない?今更何よ!』

『母親の遺骨を探しているのは分かる。でも、どうして、あの子と一緒に探さないのか?あの子は君を心から愛している。君もあの子を愛しているんだろう?どうして、君はあの子の元に戻ってあげないんだ!』

『貴方には関係ないことです。』

『そうだ、俺には関係ないことだ。同じようにサンタフェ森林保安官事務所も既に君とは関係はない。そうだろう?違うかい?』

『そうです。関係ありません。僕は此処で失礼します。』

『ジョン!待って!この保安官は相手にしなくて良いから。事務所の前で待ってて。』

『マリア!公私混同は所長が許しても俺が絶対に許さない!』
…………………………………………

『ビリーはきっと追って来るわ。あの子の為に、きっと…』

 マリアはビリーが怒る気持ちも至極当然だと理解していた。

『でも、どうしようもないのよ。私はジョンを愛してしまったの。ビリー、分かって…』

 マリアはほんの僅かな時間でジョンの持つ勇者の血に心を占領されてしまった。

『ジョンは強い…、私では到底敵わない。だって、ジョンはロビン・フッドの息子だもの。』

『ロビン・フッド』

 それはマリアの憧れであった。

 マリアは幼い頃から父親に『ロビン・フッドの伝説』を聞かされていた。

 幼いマリアはたった1人で助けに来てくれた勇者に憧れ、

『また勇者が必ずプロブロ族を助けに来てくれる。』と信じ続けていた。

『まさか勇者の継承者に会えるなんて。奇跡でしかないわ。』

 そして、マリアはこの奇跡をジョンの母『シスターマリア』が導いてくれたものと感じていた。

 マリアはジョンの求める母の面影と自身が求めていたシスターの面影とを重ねていた。

『私も探すの。ジョンと一緒に私の女神を…』と

 マリアは暫しこの短い期間における奇跡の愛と裏切りの念を振り返り、そして、肝心要な問題へ心を移動させようとしていた。

 マリアは横に座り、何も喋らないジョンへ心の中で囁いた。

『ジョン、貴方も私をきっと愛してくれるよね。』と


 


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