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第四十ニ章
『風の谷』の奇跡をもう一度
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その夜、やはり浩子はなかなか寝付けないでいた。
浩子は電気も付けず暗闇の中、ベットに腰掛けていた。
浩子は迷っていた。
ジョンの手紙をもう一度見るか否かを。
浩子は、一度、ジョンの手紙をグシャグシャに丸めゴミ箱に捨てていた。
しかし、もう一度読めばジョンの真意が行間から読み取れることが出来るかもと淡い期待も心の中で渦巻いていた。
浩子は暫しゴミ箱を見つめていた。
遂に浩子は藁にもすがる想いで、ベットから立ち上がると、ゴミ箱からジョンの手紙を拾い上げた。
そして、手紙の皺を引き延ばすと、一呼吸し、意を決して、手紙を読み返そうとした。
しかし、読み返すまでもなく、浩子の視界を覆い尽くしたのは、
『今の僕にとって貴女は重荷でしかないのです。』の一文であった。
浩子の目からまた涙が溢れ、手紙を握る手は恐怖で震えていた。
『酷い…、あんまりにも酷い…、私が重荷なんて…』
そう思うと浩子は何度も何度もベットの布団を叩き続けた。
そして、途方に暮れて、心に問いかけた。
『私は本当に重荷なの?私の存在が貴方にとって迷惑なの?私の何処がいけないの?』と
浩子の心は何も返答することなく、その問いを暗い深淵へと吸い込むだけであった。
浩子は何も答えようとしない心の淵へ神の助けを求めた。
『神様、教えてください。お願いします。私の何処がいけなかったのですか?教えて下さい!』と
そして、悪あがきをするかのように、敢えて自分自身を追い込むかのように、見なくても良い手紙にまた、目を通した。
『貴女のことは愛していました。』
今度は、この一文が浩子の心をぐさりと突き刺した。
浩子は泣き崩れた。
『『愛してました』、私は貴方にとって既に過去の人なのね…、今は私を愛してないのね…』
そう思うと浩子は悲しみよりも悔しさが湧き上がり、浩子は泣きながら、こう叫んだ。
「何でなの?私の何処が嫌いになったの?あんなに愛してくれたのに?私のどんな振舞いがいけなかったの?」
「私が貴方に甘えてばかりいたからなの?それが重荷になったの?」
「私がシアトルまで着いて来たからなの?」
「私がまだ子供染みているから?私に手が掛かるから?」
「それだったら、私、しっかりするから!甘えてばっかりしないから!私、大人になるから!
ジョン!
お願い!
もし、本当に私のことが嫌いになったなら、お願い…、何処が嫌いか、教えて…、
私、ちゃんと直すから!
貴方が嫌いな所、ちゃんと直すから!
ジョン!
私の何処が嫌いになったの?
頼みます!
教えて下さい!」
浩子は布団を口に当て、そう叫び続けた。
そして、『はっ』と我に返り、思い出さなくても良いことまで思い起こし、
『マリア…、マリアさんとは笑って話していた。
マリアさんは貴方が必要とする女性なの?
私じゃなくてマリアさんなの?
今、貴方が必要とする人は…』
そう思うと涙が止めなく零れ落ちた。
『どうしてなの?何で急に?何があったの?私の何処がいけないの?』
浩子はまた何度も何度もそう呟き、泣き続けた。
翌朝、
浩子は目を真っ赤に腫らし、バーハムと祖母が見守るリビングへと降りて来た。
バーハムと祖母は浩子の心中を察し、何も言葉を掛けずにいた。
浩子はバーハムの前に座ると、こう言い出した。
「神父様、ジョンはマリアと言う森林保安官と一緒に居ると思います。
ジョンは…、ジョンは彼女を慕っています。
もし…、ジョンが彼女と一緒に居たならば…、
私…、ジョンのこと諦めます。
だから、もし…、ジョンが彼女と一緒に居たなら、直ぐに教えて下さい。
私…、覚悟はできてますから…、
私、耐えられますから…」と
祖母は浩子に近寄りそっと抱き寄せ、優しく頭を撫でた。
『この子、朝までずっと、眠らないで、考え続けたのね…。
悪い方、悪い方へ』
祖母はそんな浩子が不憫でならなかった。
『折角の新しい門出をこんなにも悲しみの心で迎えるなんて…』
そう思うと祖母は少なからずジョンを恨んだ。
『ブラッシュ神父様、貴方は余りにも身勝手過ぎませんか?
あんな手紙一枚寄越し、それで終わりなんか…、
この子が貴方に何をしたんですか!
貴方が苦しむのは勝手です。
どうして、この子までここまで苦しまさせる必要があるのですか?
余りにも…』と
バーハムは浩子を落ち着かせるよう、浩子の手を握り、諭すようにこう言った。
「分かったよ。私がジョンを必ず見つけるから。
マリアさんだね。マリアさんに聞いてみるよ。
私が聞いてみる。ジョンの居場所を私が聞いてみるよ。」と
そして、バーハムは浩子の覇気のない表情を見て思い出した。
『そうだ。空港に行く前もこの子はこんな表情をしていた。
そう、病院に寄った後、浩子の様子は明らかにおかしかった。
いや、待てよ。
ホテルを出た時から浩子の様子は変だった。
前の日、病院で何かあったんだ。』
そして、浩子の言った『森林保安官』で思い出した。
『そうか。ビリーと言う保安官が言っていた。『もう1人の保安官が事情聴取をしに病院へ向かった。』と。』
そして、浩子の不安がやっと理解できた。
『その保安官がマリアか!
浩子は何かを感じたんだ。
ジョンとその保安官の関係を。
浩子は感受性の強い子だ。
何かを…
それと、浩子は明らかにジョンとその保安官の関係を危惧している。
女性として危惧している。
ならば、ジョンには何か目的がある。
その保安官にジョンが近づいた目的があるはずだ。
浩子、分かったよ。
君の言うとおり、先ずはサンタフェの保安官事務所に行ってみるよ。』と
その日、バーハムは浩子と祖母を寮に送ると、その足でサンタフェに向かった。
車のハンドルを握りしめ、バーハムはあの時を思い出し、こう願っていた。
『主よ!もう一度、私に奇跡を授けてください。
『風の谷』の奇跡をもう一度』と
浩子は電気も付けず暗闇の中、ベットに腰掛けていた。
浩子は迷っていた。
ジョンの手紙をもう一度見るか否かを。
浩子は、一度、ジョンの手紙をグシャグシャに丸めゴミ箱に捨てていた。
しかし、もう一度読めばジョンの真意が行間から読み取れることが出来るかもと淡い期待も心の中で渦巻いていた。
浩子は暫しゴミ箱を見つめていた。
遂に浩子は藁にもすがる想いで、ベットから立ち上がると、ゴミ箱からジョンの手紙を拾い上げた。
そして、手紙の皺を引き延ばすと、一呼吸し、意を決して、手紙を読み返そうとした。
しかし、読み返すまでもなく、浩子の視界を覆い尽くしたのは、
『今の僕にとって貴女は重荷でしかないのです。』の一文であった。
浩子の目からまた涙が溢れ、手紙を握る手は恐怖で震えていた。
『酷い…、あんまりにも酷い…、私が重荷なんて…』
そう思うと浩子は何度も何度もベットの布団を叩き続けた。
そして、途方に暮れて、心に問いかけた。
『私は本当に重荷なの?私の存在が貴方にとって迷惑なの?私の何処がいけないの?』と
浩子の心は何も返答することなく、その問いを暗い深淵へと吸い込むだけであった。
浩子は何も答えようとしない心の淵へ神の助けを求めた。
『神様、教えてください。お願いします。私の何処がいけなかったのですか?教えて下さい!』と
そして、悪あがきをするかのように、敢えて自分自身を追い込むかのように、見なくても良い手紙にまた、目を通した。
『貴女のことは愛していました。』
今度は、この一文が浩子の心をぐさりと突き刺した。
浩子は泣き崩れた。
『『愛してました』、私は貴方にとって既に過去の人なのね…、今は私を愛してないのね…』
そう思うと浩子は悲しみよりも悔しさが湧き上がり、浩子は泣きながら、こう叫んだ。
「何でなの?私の何処が嫌いになったの?あんなに愛してくれたのに?私のどんな振舞いがいけなかったの?」
「私が貴方に甘えてばかりいたからなの?それが重荷になったの?」
「私がシアトルまで着いて来たからなの?」
「私がまだ子供染みているから?私に手が掛かるから?」
「それだったら、私、しっかりするから!甘えてばっかりしないから!私、大人になるから!
ジョン!
お願い!
もし、本当に私のことが嫌いになったなら、お願い…、何処が嫌いか、教えて…、
私、ちゃんと直すから!
貴方が嫌いな所、ちゃんと直すから!
ジョン!
私の何処が嫌いになったの?
頼みます!
教えて下さい!」
浩子は布団を口に当て、そう叫び続けた。
そして、『はっ』と我に返り、思い出さなくても良いことまで思い起こし、
『マリア…、マリアさんとは笑って話していた。
マリアさんは貴方が必要とする女性なの?
私じゃなくてマリアさんなの?
今、貴方が必要とする人は…』
そう思うと涙が止めなく零れ落ちた。
『どうしてなの?何で急に?何があったの?私の何処がいけないの?』
浩子はまた何度も何度もそう呟き、泣き続けた。
翌朝、
浩子は目を真っ赤に腫らし、バーハムと祖母が見守るリビングへと降りて来た。
バーハムと祖母は浩子の心中を察し、何も言葉を掛けずにいた。
浩子はバーハムの前に座ると、こう言い出した。
「神父様、ジョンはマリアと言う森林保安官と一緒に居ると思います。
ジョンは…、ジョンは彼女を慕っています。
もし…、ジョンが彼女と一緒に居たならば…、
私…、ジョンのこと諦めます。
だから、もし…、ジョンが彼女と一緒に居たなら、直ぐに教えて下さい。
私…、覚悟はできてますから…、
私、耐えられますから…」と
祖母は浩子に近寄りそっと抱き寄せ、優しく頭を撫でた。
『この子、朝までずっと、眠らないで、考え続けたのね…。
悪い方、悪い方へ』
祖母はそんな浩子が不憫でならなかった。
『折角の新しい門出をこんなにも悲しみの心で迎えるなんて…』
そう思うと祖母は少なからずジョンを恨んだ。
『ブラッシュ神父様、貴方は余りにも身勝手過ぎませんか?
あんな手紙一枚寄越し、それで終わりなんか…、
この子が貴方に何をしたんですか!
貴方が苦しむのは勝手です。
どうして、この子までここまで苦しまさせる必要があるのですか?
余りにも…』と
バーハムは浩子を落ち着かせるよう、浩子の手を握り、諭すようにこう言った。
「分かったよ。私がジョンを必ず見つけるから。
マリアさんだね。マリアさんに聞いてみるよ。
私が聞いてみる。ジョンの居場所を私が聞いてみるよ。」と
そして、バーハムは浩子の覇気のない表情を見て思い出した。
『そうだ。空港に行く前もこの子はこんな表情をしていた。
そう、病院に寄った後、浩子の様子は明らかにおかしかった。
いや、待てよ。
ホテルを出た時から浩子の様子は変だった。
前の日、病院で何かあったんだ。』
そして、浩子の言った『森林保安官』で思い出した。
『そうか。ビリーと言う保安官が言っていた。『もう1人の保安官が事情聴取をしに病院へ向かった。』と。』
そして、浩子の不安がやっと理解できた。
『その保安官がマリアか!
浩子は何かを感じたんだ。
ジョンとその保安官の関係を。
浩子は感受性の強い子だ。
何かを…
それと、浩子は明らかにジョンとその保安官の関係を危惧している。
女性として危惧している。
ならば、ジョンには何か目的がある。
その保安官にジョンが近づいた目的があるはずだ。
浩子、分かったよ。
君の言うとおり、先ずはサンタフェの保安官事務所に行ってみるよ。』と
その日、バーハムは浩子と祖母を寮に送ると、その足でサンタフェに向かった。
車のハンドルを握りしめ、バーハムはあの時を思い出し、こう願っていた。
『主よ!もう一度、私に奇跡を授けてください。
『風の谷』の奇跡をもう一度』と
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