『愛の霊感』〜風と共に祈りを〜

ジョン・グレイディー

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第四十一章

『私は重荷…』

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 バーハムと祖母はリビングのソファーに座り、浩子は自室に向かった。

 祖母は浩子を心配そうに見遣り、ソファーから立ちあがろうとしたが、バーハムが祖母の膝に手を乗せ、それを止めた。

 そして、バーハムは封書を開いた。

 ジョンからの手紙は便箋1枚の短い文書であった。

『拝啓

親愛なるバーハム神父様、突然のお手紙で失礼致します。

私の今後について、心の言うとおりにしたく、折角のご厚意である神学校の講師の件も辞退致します。

イエズス会本部にも退会届を提出しております。

これまでの恩を仇で返すような私の振舞いをお許しください。

そして、私を探すことのないよう併せてお願い致します。
             敬具
      ジョン・ブラッシュ』

 バーハムは便箋の上半分にしか記されてない文字列を一読すると、何も言わず便箋を畳み、封書に戻した。

 そして、隣に座る祖母を見て、こう言った。

「ジョンは『心の言うとおり』にしたいみたいです。」と

 それを聞いた祖母はまた心配そうに2階を見遣り、バーハムに、

「ちょっと浩子の様子を見てきます。」と言い、浩子の部屋に向かった。

 祖母は浩子の部屋のドアをノックしたが中から返答はなかった。

 祖母はドアをそっと開け、中を覗いて見ると、浩子はぼんやりと窓の外を眺めていた。

 祖母は浩子に声を掛けたが、浩子は返事をせず、やはり窓の外を眺めていた。

 祖母はテーブルに置かれた便箋を手に取った。

 ジョンから浩子に宛てた手紙であった。

『松原浩子様

この手紙が届く頃には貴女は神学校に入学しているかと思います。

 バーハム神父に聞いたと思いますが、僕は神学校の講師は辞退しました。

 これからは、心の想うまま、自分自身の本当の姿を探してみます。

 貴女のことは愛していました。

 それは間違いありません。

 しかし、僕は貴女と違い幸せな未来が似合わない人間です。

 僕と一緒に居ると貴女まで不幸に導くことになります。

 そして、今の僕にとって貴女は重荷でしかないのです。

 どうか、僕の気持ちを理解してください。

 決して僕を探さないようお願いします。

 貴女には僕と違って幸せな未来が必ず訪れますから。

      ジョン・ブラッシュ』

 祖母は手紙を読み終えると、浩子の側に行き、そっと肩を抱いた。

 浩子は窓の外を見遣りながら、一言囁いた。

「私はジョンにとって重荷なの」と

 祖母は浩子に掛ける言葉もなかった。

 夕食の時間になっても浩子は降りて来なかった。

 浩子は明日にはバーハムの家を離れ入寮する予定であった。

 バーハムと祖母はテーブルに付き、浩子を待っていた。

 すると、2階から浩子が降りて来た。

 浩子は席に座ると、神妙な顔付きでバーハムと祖母にこう言った。

「私、こんな手紙でジョンと別れるのは嫌です。」と

 浩子の手にはジョンの手紙が握られていた。

 バーハムは浩子に言った。

「今のジョンは本当のジョンではないんだよ。時間が経てば必ずジョンは戻って来る。」と

 しかし、浩子はこう言った。

「神父様も御承知のはずです。このままではジョンは戻って来ないことを。」

 バーハムは何も言えず、下を向いた。

 浩子はバーハムに頼んだ。

「神父様、お願いです。ジョンを一緒に探してください!お願いです!」と

 バーハムは浩子に言った。

「ジョンは私が必ず探し出すから…、浩子は…」

 浩子はバーハムの言葉を遮ってこう言った。

「私、神学校で勉強なんてする気になりません。早く、ジョンを探さないと…」と

 そして、浩子は泣きながらバーハムに頼んだ。

「お願いです。私、このまま、ジョンと別れるなんて出来ません!

 ジョンの顔を見て話したい…。

 だから、私と一緒にジョンを探してください!

 お願いします!」

 バーハムは何も答えなかった。

 すると、祖母が浩子にこう言った。

「浩子、時を待つのも大事な事よ。」と

 浩子は泣き続けていた。

 祖母は続けた。

「私はね。ブラッシュ神父様と浩子が逢うのは今ではないと思っているの。
 必ず、逢うべき日が来るはずなの。

 2人の関係がこのまま終わったりはしないわ。

 浩子、今は待つのよ。」と

 バーハムが言った。

「おばあさんの言うとおりだ。

 浩子、今のジョンに逢っても浩子が傷つくだけだ。」と

 そして、浩子にあのイエス・キリストの言葉を教示した。

『愛する者を手放しなさい。
 もし、その人が戻って来なければ、初めから貴方のものではなかったのです。
 もし、戻って来れば、初めから貴方のものだったのです。』

 そして、こう浩子に言った。

「浩子、君は私に言ったじゃないか?

『2人は同じ人間』と

 必ずジョンは君の元に戻って来る。

 彼が抱えている生来の問題を解決し、新しいジョンとなって君の元に戻って来る。

 君達2人は『同じ人間』であり、運命を共にするよう神が定めた相手同士なんだよ。」と

 浩子は泣きながらもバーハムの言葉に頷いた。

 バーハムは浩子の肩に手をやりこう言った。

「だから、今は待っていておくれ。私が必ずジョンを探すから。それまで、待っていてくれ。」と

 浩子はバーハムに抱きつき、こう頼んだ。

「お願いします。神父様、ジョンを見つけてください。そして、私をジョンに逢わせてください。」と、

 バーハムはそんな浩子を見ながら心に誓った。

『必ずジョンを見つけるよ。彼の為に、そして君の為に。

 私の最期の役目だ。

 彼を『風の谷』で見つけた私の責任だ。』と

 

 
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