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第三十章
未来が怖い
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ジョンは夢の中に居た。
・・・・・・・・・・・・・
目の前には、『神秘の湖』が見える。
渓谷の岩山の上からは朝日が昇り、群青色の湖面が瞬く間に黄金色に変身して行った。
森の方を振り向くと小さな平屋が見える。
その屋根の煙突から白い煙が上がっていた。
ふと、隣を見遣ると舌を出して笑っているような顔をした犬が座っていた。
平屋の窓が開き、明るい声が聞こえる。
『朝ごはんできたよ♪』と
ジョンは無意識に犬を連れ、家に戻る。
家に入るとテーブルの上に焼き立てのパンと野菜料理が用意されている。
ジョンが椅子に座ると浩子が祈りを捧げ、祈りを終えると、浩子がカップにコーヒーを注ぐ。
2人は楽しそうに話しながら朝食をする。
しかし、ジョンが何を喋っているのかは分からない。
聞こえるのは浩子の楽しそうな声のみであった。
『今日の狩は何処に行くの?』
『分かったわ。キジ狩ね!じゃぁ、今夜はローストチキンでも作ろっかなぁ♪』
『うん、私は編み物をしてるから。そろそろ、貴方のセーターを完成させないと。』
そして、浩子がしみじみと言う。
『今が一番幸せ。こうやって、のんびり2人っきりで過ごせるから。
他に欲しいものなんてないわ。』と
ジョンはそう話す浩子の微笑みとその後ろで『パチパチ』と暖かい音を立てて燃える暖炉の焚き火を眺めている。
そして、ジョンはこう思う。
『ゆっくりと動いている。焚き火の炎、浩子の言葉、部屋の空気、時間もそうだ。そう、僕の心もそうだ。全てがゆっくりと動いている。』と
・・・・・・・・・・・・・・
ジョンは目を覚ました。
ぼんやりと見えてきたのはテントの天井であった。
ジョンはふと我に返り、隣を見遣ると、浩子がぐっすりと寝ていた。
『夢か…』とジョンは心で呟くと、そっとテントから出て、湖畔に行き、湖を眺めた。
ジョンは何となく、この場所から動きたくないように思った。何となく…
そして、ジョンはぼんやりと湖を見ながら、その『何となく』を考えた。
『夢か…、僕の未来への気持ちを表した夢だ。
そう、あんな風に、浩子と2人っきりで、この美しい自然の中で暮らしたい。
此処でもいい、いや、久住でもいい、自然の中でゆっくり暮らしたい。』と
ジョンは今見た夢をひとまず解釈したが、何か腑に落ちない感じがした。
『僕の欲する未来の形…、でも、何故か今の僕の心は喜んでない。
どうして…、
あんなに幸せな未来であるのに、何故か、心が晴れない。』と
その時、ジョンは『ピッ』と脳と心に棘が刺さるような痛みを感じた。
そして、『あっ!』と言葉を漏らした。
『そうだ、そうだよ。無理なんだ。あんな幸せな未来は来やしないんだ。今のままでは…』
ジョンは今ある現実に改めて気付き、それに怯えた。
『今のままでは浩子と一緒になれやしない。
神父のままでは…
じゃぁ、僕はどうする?神父以外に何になる?
2人っきりなら何も要らない?
それは夢だ。
現実は違う。
僕は果たして浩子を幸せにできるのか?
浩子を不自由なく養っていけるのか?
浩子はまだ18歳だ、浩子の人生を僕が独り占めにしても良いのか?
バーハム神父、浩子のおばあさん達を裏切って良いのか?
何故、僕は焦るんだ?
僕は一体何から逃げようとしているんだ?
一体僕は今何をしているんだ?
どうすれば良い?
分からない…』
ジョンは、母マリアのアイデンティティを探し求めるという、この旅の目的さえも、なんか…、どうでも良いように感じ始めていた。
ジョンはこれまで生きていく中で『過去』も『現在』も『未来』も大嫌いであった。
そんな風に思って生きて来た。
だが、浩子と出逢ってから、『現在』のみがジョンに微笑んでくれた。
幸せ過ぎる今を過ごしている。
ならば、この幸せを未来に繋げたい。
未来も好きになりたい。
そう思う潜在意識が夢に表出していたのだ。
しかし、『現在』と『未来』への想いは、シーソーのように互いを違える。
『未来』を好きになろうと欲すれば欲するほど、幸せな『現在』の隅々まで目が行き届き、その綻びを探し当てる。
探さなくても良い、無用の不安を拾い集め、その挙句に幸せであるはずの『現在』を急に嫌うようになる。
そして、最後は昔同様、『過去』も『現在』も『未来』も嫌いになる。
ジョンは心の晴れない原因を無闇に詮索し、先に進まず、『何となく』此処に止まろうと思っていた。
「おはよう♪ジョン♪」と
明るい声がテントの中から聞こえて来た。
ジョンは声のする方を振り返る。
テントの小窓から可愛い笑顔が見えた。
『夢と同じだ。』とジョンは感じながら、
「おはよう!」と浩子に言った。
そして、テントに近づくと、ジョンは浩子にこう言った。
「浩子、此処に暫く居ようか?」と
それを聞いた浩子は急いでテントから出るとジョンに抱き付き、
「うん!私ももう少し此処に居たいと思っていたの!こんな美しい自然の中でジョンと一緒に過ごしたいと思っていたの!」と喜んだ。
『夢と同じだ。』とジョンは再びそう感じた。
そして、ジョンは悲観的に自身を見つめた。
『此処は僕の中で唯一『現在』と『未来』の幸福が同居できる場所なのかも知れない。
此処に居よう。
時間を止め、もう少し『幸せ』を感じたい。
『未来』が怖いんだ。
だから、僕は動きたくない。時を進めたくない。先を見たくない。
幸せな『現在』と同じ『未来』なんて…、所詮、夢でしかないんだ…』と
・・・・・・・・・・・・・
目の前には、『神秘の湖』が見える。
渓谷の岩山の上からは朝日が昇り、群青色の湖面が瞬く間に黄金色に変身して行った。
森の方を振り向くと小さな平屋が見える。
その屋根の煙突から白い煙が上がっていた。
ふと、隣を見遣ると舌を出して笑っているような顔をした犬が座っていた。
平屋の窓が開き、明るい声が聞こえる。
『朝ごはんできたよ♪』と
ジョンは無意識に犬を連れ、家に戻る。
家に入るとテーブルの上に焼き立てのパンと野菜料理が用意されている。
ジョンが椅子に座ると浩子が祈りを捧げ、祈りを終えると、浩子がカップにコーヒーを注ぐ。
2人は楽しそうに話しながら朝食をする。
しかし、ジョンが何を喋っているのかは分からない。
聞こえるのは浩子の楽しそうな声のみであった。
『今日の狩は何処に行くの?』
『分かったわ。キジ狩ね!じゃぁ、今夜はローストチキンでも作ろっかなぁ♪』
『うん、私は編み物をしてるから。そろそろ、貴方のセーターを完成させないと。』
そして、浩子がしみじみと言う。
『今が一番幸せ。こうやって、のんびり2人っきりで過ごせるから。
他に欲しいものなんてないわ。』と
ジョンはそう話す浩子の微笑みとその後ろで『パチパチ』と暖かい音を立てて燃える暖炉の焚き火を眺めている。
そして、ジョンはこう思う。
『ゆっくりと動いている。焚き火の炎、浩子の言葉、部屋の空気、時間もそうだ。そう、僕の心もそうだ。全てがゆっくりと動いている。』と
・・・・・・・・・・・・・・
ジョンは目を覚ました。
ぼんやりと見えてきたのはテントの天井であった。
ジョンはふと我に返り、隣を見遣ると、浩子がぐっすりと寝ていた。
『夢か…』とジョンは心で呟くと、そっとテントから出て、湖畔に行き、湖を眺めた。
ジョンは何となく、この場所から動きたくないように思った。何となく…
そして、ジョンはぼんやりと湖を見ながら、その『何となく』を考えた。
『夢か…、僕の未来への気持ちを表した夢だ。
そう、あんな風に、浩子と2人っきりで、この美しい自然の中で暮らしたい。
此処でもいい、いや、久住でもいい、自然の中でゆっくり暮らしたい。』と
ジョンは今見た夢をひとまず解釈したが、何か腑に落ちない感じがした。
『僕の欲する未来の形…、でも、何故か今の僕の心は喜んでない。
どうして…、
あんなに幸せな未来であるのに、何故か、心が晴れない。』と
その時、ジョンは『ピッ』と脳と心に棘が刺さるような痛みを感じた。
そして、『あっ!』と言葉を漏らした。
『そうだ、そうだよ。無理なんだ。あんな幸せな未来は来やしないんだ。今のままでは…』
ジョンは今ある現実に改めて気付き、それに怯えた。
『今のままでは浩子と一緒になれやしない。
神父のままでは…
じゃぁ、僕はどうする?神父以外に何になる?
2人っきりなら何も要らない?
それは夢だ。
現実は違う。
僕は果たして浩子を幸せにできるのか?
浩子を不自由なく養っていけるのか?
浩子はまだ18歳だ、浩子の人生を僕が独り占めにしても良いのか?
バーハム神父、浩子のおばあさん達を裏切って良いのか?
何故、僕は焦るんだ?
僕は一体何から逃げようとしているんだ?
一体僕は今何をしているんだ?
どうすれば良い?
分からない…』
ジョンは、母マリアのアイデンティティを探し求めるという、この旅の目的さえも、なんか…、どうでも良いように感じ始めていた。
ジョンはこれまで生きていく中で『過去』も『現在』も『未来』も大嫌いであった。
そんな風に思って生きて来た。
だが、浩子と出逢ってから、『現在』のみがジョンに微笑んでくれた。
幸せ過ぎる今を過ごしている。
ならば、この幸せを未来に繋げたい。
未来も好きになりたい。
そう思う潜在意識が夢に表出していたのだ。
しかし、『現在』と『未来』への想いは、シーソーのように互いを違える。
『未来』を好きになろうと欲すれば欲するほど、幸せな『現在』の隅々まで目が行き届き、その綻びを探し当てる。
探さなくても良い、無用の不安を拾い集め、その挙句に幸せであるはずの『現在』を急に嫌うようになる。
そして、最後は昔同様、『過去』も『現在』も『未来』も嫌いになる。
ジョンは心の晴れない原因を無闇に詮索し、先に進まず、『何となく』此処に止まろうと思っていた。
「おはよう♪ジョン♪」と
明るい声がテントの中から聞こえて来た。
ジョンは声のする方を振り返る。
テントの小窓から可愛い笑顔が見えた。
『夢と同じだ。』とジョンは感じながら、
「おはよう!」と浩子に言った。
そして、テントに近づくと、ジョンは浩子にこう言った。
「浩子、此処に暫く居ようか?」と
それを聞いた浩子は急いでテントから出るとジョンに抱き付き、
「うん!私ももう少し此処に居たいと思っていたの!こんな美しい自然の中でジョンと一緒に過ごしたいと思っていたの!」と喜んだ。
『夢と同じだ。』とジョンは再びそう感じた。
そして、ジョンは悲観的に自身を見つめた。
『此処は僕の中で唯一『現在』と『未来』の幸福が同居できる場所なのかも知れない。
此処に居よう。
時間を止め、もう少し『幸せ』を感じたい。
『未来』が怖いんだ。
だから、僕は動きたくない。時を進めたくない。先を見たくない。
幸せな『現在』と同じ『未来』なんて…、所詮、夢でしかないんだ…』と
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