『愛の霊感』〜風と共に祈りを〜

ジョン・グレイディー

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第十四章

特別講義は教会で!

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 2月に入った。

 大寒を過ぎ、ここ久住も幾分か冬の寒さも和らぎ、枯れ草一面であった茶色大地に、せっかちな野草の芽が疎に出始め、まるでチョコレートケーキに抹茶の粉を散りばめたような情景を醸し出していた。

 ジョンと浩子の日常生活にも変化があった。

 今までの夕暮れ時の森での密会は、教会での特別講義の時間となった。

 ジョンは早速、シアトル本部に居るバーハム神父と連絡を取り、シアトル神学校の情報を集めていた。

「そうですか!

浩子が神学校を目指すのですか!

それは、私にとっても大変嬉しいことです。」

「バーハム神父、シアトル神学校の入学手続きの資料を送って頂ければ助かります。
 それと、試験に必要な科目も教えて頂ければ幸いです。」

「君が入学した時と変わってないと思いますよ。

ただ、浩子はシスターコースになると思います。」

「シスターコースは特別に準備しておくことは何かありますか?」

「承知のとおり、シスターは神父の補助をし、特に聖歌の合唱、パイプオルガンの演奏などが必要となります。
それらの技能・知識は、浩子は既に身に付けているので大丈夫ですよ。」

「ですよね。後は、基本的な宗教史、宗教哲学、カトリック教会の規律等を学べは良いですよね。」

「それで大丈夫ですよ。

浩子なら大丈夫ですよ。

私から本部を通じて、推薦書を書いておきます。」

「それは助かります!ありがとうございます。」

「ジョン、後は浩子の身元引受人が必要となります。」

「バーハム神父様になって貰うことはできないのでしょうか?」

「それは構いません。

 それよりも…」

「それよりも?」

「ジョン、君が浩子の身元引受人になったらどうですか!」

「僕は確実にシアトル本部に戻れるんですか?」

「それも私から本部に推薦しておきますよ!大丈夫です。」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「私よりも君の方が浩子のためです。」

「えっ、どうしてですか?」

「実は、私はそんなに長く、この職に使えることは出来ないと思ってます。せいぜい、後、1年か2年か…」

「お身体の具合が宜しくないんですか?」

「いや、それはないですが。

もう年を取り過ぎたのです。

私に残された時間では、浩子の役にはたちません。

 それよりも、君は若くて、優秀であり、何よりも浩子の信頼が高い。

 君がアメリカでの浩子の世話人として、浩子を神の側に導いてください。」

「分かりました。」

「私は、君と浩子を息子と娘のように感じています。

 殉教者として婚姻が出来なかった身でありながら、こんな素晴らしい子供に恵まれたのは、正に神のご加護ですよ!」

「息子と娘ですか…」

「うん?どうしたのですか?」

「いや、そう思って頂き、感慨無量と…」

「ジョン、浩子の件は任せて下さい。

 君達が揃ってシアトルに来るのを首を長くして待ってますよ!」

「分かりました。それまで、バーハム神父様もお元気で居てください。」

 浩子の神学校の件は、ことの他上手く行きそうであった。

 ジョンは嬉しい反面、バーハムが言及した『息子と娘』と言う、自身と浩子の間柄の表現が重く心に影を落とした。

・・・・・・・・・・・・・・

『息子と娘か…、兄姉か…

そうだよな。

夫と妻とはならないよな。

二人とも聖職者、殉教者になるんだから。

そうだよな。』

 ジョンは、シアトルに行けば、今以上に二人の関係を秘密にする必要があると、一瞬、不安が心を掠めたが、

『僕は浩子を妹として受容することはできない。

 一生の伴侶として浩子を迎えるんだ。

 妻への愛と妹への愛は、あまりにも違いすぎる。

 しかしだ…、

 先ずは、僕は浩子の身元引受人として、兄のような存在として、浩子を守るんだ!

 そうさ!

 今できる事に最善を尽くし、未来の摂理は神に委ねるんだ!』と
決意を新たにし、

 そして、ある意味、ジョンは開き直った。

『愛さずにはいられない。

神もそれはお分かりのはずだ。

なるようになる。

公に出来ない愛

それも愛だ。

シアトルでもここ久住でも同じではないか!

忍び逢う関係

いつか、必ず、そこに日が差し込み、胸を張って、公然かつ平穏に浩子と暮らせる日が来るはずだ。

その時まで、耐え忍ぶ。

その日が来るまで耐えるんだ。

神よ、貴方に二人の未来を委ねます。』
・・・・・・・・・・・・・・

「ただいま!ジョン、帰ったよ!」

 浩子の放課後の特別講義が教会で始まる。

「おかえり!それでは、今日は新約聖書の『モーゼの十戒』を読解しよう。」

「えっ、直ぐに始めるの?少し休みたいよ!」

「時間がないだろう。おばあちゃんは、7時には迎えに来るんだ。
それまでの2時間、大事にしないとね。」

「うん、わかった…」

 浩子は渋々、聖書を開いた。

「そうそう、浩子!今日、バーハム神父に電話して、シアトル神学校の事、聞いておいたよ。
バーハム神父も浩子がシアトル神学校を目指すことに喜んでいたよ!」

「えっ!バーハム神父様が!嬉しい!シアトルに行ったら、バーハム神父様にも会えるね!」

「うん!会えるよ!

 そしてね、バーハム神父が神学校へ浩子を推薦してくれるって!」

「本当に!やったぁ!

もう勉強しなくても大丈夫じゃない?

だって、バーハム神父様の折り紙付きだもん!」

「駄目、駄目、それとこれとは違います。

神学校は入ってからが大変なんだ。

一定の知識は持っておかないとね。」

「分かりました。ジョン先生…」

「それでよろしい。」

 ジョンは講義を始め出した。

「浩子、今日から、講義は英語で行うよ!

 これも浩子がシアトルに行って困らないためだよ。」

「ラジャー!」

「グッド!」

 こんなふうに1時間、『モーゼの十戒』の講義が行われた。

「よし、浩子、10分、休憩しよう。」

「ラジャー!」

「浩子…、休憩時間は日本語で構わないよ…」

「うん!」

 浩子は背伸びをし、大きなあくびをした。

「眠たい~」

「そうだよな、学校から休む暇なくだもんね~。」

「ジョン先生は厳しいからね!」

「浩子の為だよ。」

「だったら、休憩時間、少しいい所で休ませてよ!」

「いい所?」

「うん!

『土曜日の部屋』がいいなぁ~」と、

 浩子はいつもの悪戯っぽい瞳でジョンをじっと見つめた。

「おばあちゃんが来るよ…」

「おばあちゃんには、今日は特別講義の延長があるって言ってるから、9時に迎えに来るんだ!」

「それを早く言えよ!」

「えっ、だったら『土曜日の部屋』に行ってもいいの?」

「8時までは、『土曜日の部屋』で課外授業を行うことにします。」

「やったぁ~、私、課外授業、大好き!」

「僕も大好きさ。」

 2人は手を繋ぎ、足早に教会裏の平家に消えて行く。

 そして、2人の愛の確認行為は『土曜日の部屋』で始まる。

 それは、恰も『蜻蛉』のように、今ある命の証、そして、生きた証を『愛の行為』により確認し合うかのように。

 今の幸せを謳歌し、未来の摂理は神に任せるが如くに。
 

 
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