『愛の霊感』〜風と共に祈りを〜

ジョン・グレイディー

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第十二章

もう一つのプレゼント

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 12月、久住の山々は、積雪の白い帽子を被りながら、嫌々ながらに冬支度を始め出していた。

 緑の大地もあっと言う間に、枯れ草に占領され、辺り一面、生命体の存在は消え去っていた。

 でも、子供の風達は元気に飛び回り、芒の穂を揺らしながら、茶色い大地を隅から隅まで駆け巡る。

「寒いよう~、吹かないでぇ~!
皆んな、少しはおとなしくしてよ~」

 朝、洗濯物を干しながら浩子が風達に呼びかける。

「このくらいの寒さなんかへっちゃらさ!

浩子は寒がりだぁなぁー」

「寒いものは寒いの!」

「わかったよ!少し休んでやるよ。」

 すると、空に浮かぶ鰯雲はその動きを止め、寒風は吹きやみ、雲の間から朝日が放つ柔い光線が茶色い大地に差し込み始め、大地は、ほんのひと時、黄金色に覆われた。

「浩子!クリスマスはどうするんだい?」

「何が?」

「プレゼントだよ!」

「ジョンへのプレゼントだよ!」

「うん、まだ、決めてないの。」

「何が良いかなぁ~」

「手編みのマフラー、手袋、靴下!かな!」

「うーん、なんか、サンタさんみたいじゃない?」

「サンタさんで良いじゃん!」

「違うのよ!君達、子供には分からないのよ!」

「うん?子供には分からない?」

「そうそう、分からないの。」

「ちぇっ!浩子は恋する乙女か!」

「うん」

「わかったよ、俺達、応援するよ!」

「ありがとう!」

 浩子は、ジョンのプレゼントを既に用意していた。

 実は風達が言ったのと同じ、手編みのセーターをこしらえていたのだが、

 もっと、ジョンに貰って欲しいものがあった。

 浩子は17歳から18歳へと大人の階段を登っていた。

 心も身体も少女から大人の女性へと成長していた。

 ジョンとの秘密の交際が始まり、3か月以上が経っていた。

 ジョンに抱き寄せられ、甘い口付けを交わす中、浩子の想いは、それ以上を欲するようになっていた。

 しかし、ジョンは神父であり、殉教者である。

 神への対峙を敢行し、神より浩子を信じると誓い、『俺は浩子の前では単なる男性だ』と言ってくれてはいるものの、

 ジョンは浩子に対して、口付け以上の男女の関係を決して求めることはなかった。

『私…、魅力ないのかなぁ~、まだ、子供ぽっいのかなぁ~』と

 浩子は時より自分の魅力に自信を無くしていた。

『違うの…、ジョンは私のことを大事に想ってくれてるから…

そうよ…、私のこと大事に…』

『でも…、抱いて欲しい…、私の全てを捧げたい…』

 そう、浩子は心の中で感じていた。

 ジョンも同じであった。

 あの朝、太陽光線の逆光に映し出された、ビーナスのような浩子の身体。

 全身全霊を駆け巡った電流のような快感。

 ジョンはその衝動を忘れずにはいられなかった。

 毎日行う、夕暮れ時の浩子との密会

 ジョンの心と身体も浩子を求めようと騒ぎ出すが、

 ジョンは踏みとどまっていた。

『浩子の全てが欲しい。

浩子もあんなに安心して、俺に身を任せてくれている。

浩子を抱きたい…』

 こう思いながらも、やはり、神父たる殉教者として蓄積された邪魔な知識がジョンの衝動を理性として押さえ込んでいた。

『浩子を魔女にしてはならないのだ。

殉教者をたぶらかす魔女になんか、絶対にしてはならないのだ。

その時、浩子は堕天使として天国から追放されてしまう。

俺は構わない。

大罪を犯し、堕天使になろうとも構わない。

どうせ異端児扱いされてきた人間だ。

しかし、浩子は違う!

浩子は天使なんだ!

魔女にしてはならない!』

 そう考えを巡らしながら、ジョンは最後の一線を越えずにいた。

 先のことは神に任せ、今ある現実を平穏に生き、純粋な愛を神の咎めの掛からぬ範疇で行うとしていた。

 まさか、浩子がそこまで愛を深めたいと思っているなど、夢にさえ思わなかった。

 クリスマスの日

 教会でクリスマス行事が盛大に行われた。

 聖母マリアへの敬い、そして、イエス誕生の喜びを讃美歌に乗せ、教徒全員で合唱を行い、

 赤ワインとパン一欠片をそれぞれ口に含み、聖なる夜に祈りを捧げた。

 晩餐会も盛大に行われた。

 それぞれ、手作りのプレゼントを持ち寄り、互いに交換しやった。

 クッキー、キャンディ、ステンドガラスのしおりなどなど、上品な小物が皆に配られて行った。

 宴も終わり、教徒達は散々五々に帰って行った。

 浩子も教会の後片付けを済ますと、祖母の運転する軽トラに乗った。

 ジョンはゆっくりと軽トラに近づき、浩子と祖母に、

「メリークリスマス。

気おつけて帰ってください!」と

声を掛けた。

 すると浩子は祖母に目配りをすると、車から降りて、ジョンの前に行き、

「はい!ジョン、私からのプレゼント!」と言い、

 手編みのセーターが入ったプレゼントを手渡した。

 ジョンは包みからセーターを取り出し、

「浩子、サンキュー、ありがとう!」と言い、

「では、僕からのプレゼント!」と言い、

 後ろに組んだ手を伸ばし、革のブーツを手渡した。

「凄い!牛革のブーツだ!ジョン、ありがとう!」

「僕のとお揃いだよ!」

「うん!ありがとう!」

「じゃぁ、気をつけて!」

とジョンが言うと、浩子は、例の悪戯っぽいウインクをジョンに飛ばした。

 ジョンは「あっ」と声を出し掛けたが、浩子が祖母に聞こえないよう「シー」と唇に指を立てた。

 浩子は何食わぬ顔をし、車に戻ると、浩子と祖母は、改めて、ジョンにおやすみの挨拶をし帰路についた。

 道中、祖母が浩子に言った。

「浩子、いつから神父様のこと、『ジョン』って呼び出したの?」と

 浩子は暗闇の中、顔を赤らめ、

「最近…、かな?」と答えた。

 祖母は笑いながら言った。

「良いのかい?クリスマス?」

「何が?」

「恋人達のクリスマスでしょう。」

「えっ」

「今夜は良いのかいって、言ってるのよ!」

「うん、大丈夫。明日も会えるからね。」

「そうかい。要らぬお節介だったね~」

 浩子と祖母は、くすくす笑いながら家路に着いた。

 浩子には計画があったのだ。

 誰にも言えない計画。

 祖母にさえ言えない計画。

 祖母の配慮に乗り、ジョンのもとに戻って、クリスマスデートをすることは簡単ではあったが、

 ジョンの家に泊まる事はできない。

 台風の夜とは違う。

 泊まる理由が見当たらない。

 そう、浩子は深夜に家を抜け出し、誰にも気づかれず、ジョンのもとに行くつもりであったのだ。

 時計が12時を回った。

 浩子は布団から抜け出し、部屋の電気を付けず、姿見の前に立った。

 パジャマも下着も脱ぎ、全裸になると、箪笥の奥から新しい下着を取り出した。

 そして、黒のセーターとジーンズを履き、ダウンジャケットを羽織ると、

 部屋の窓から外に降り立ち、森の中に消えて行った。

 暗闇の森の中

 月光も届かぬ暗闇

 しかし、浩子は夜行性の動物の如く、軽快な足取りで森を抜けて行く。

 30分ぐらい歩いたであろうか。

 やっと教会裏の平屋の明かりが見えて来た。

『ジョンは待ってるわ』

 浩子はそう思うと、足取りはさらに軽快になり、やがて小走り駆け出していた。

 浩子の掛け音がジョンにも伝わって来た。

 ジョンは寝室の窓を開け、浩子の姿を捉えると、こちらに手招きした。

 そして、浩子の腕を掴むと、窓越しに部屋に引っ張り上げた。

 息を切らし、窓際のベットにしゃがんでいる浩子はニコニコと笑っていた。

 ジョンは何も言わず、浩子を抱き抱えると唇にキスをした。

 浩子もそれに応えてキスを交わし、そして、こう言った。

「ジョン、ちょっとの間、目を閉じていてね。

私がいいと言うまで、絶対に、目を開けたらダメだからね!」と

 浩子は、例の悪戯っぽい目付きでジョンに忠告すると、部屋の電気を消し、部屋の外に出て行った。

 ジョンは見当も付かなかった。

 ジョンは浩子とゆっくりキスを交わしたかったが、浩子に言われたとおり、仕方なく目を閉じることにした。

 何分かが経った。

 部屋のドアが静かに開く音、そして、ドアが閉まる音が続いて聞こえた。

 そして、

「ジョン、目を開けて…」と浩子の声が囁いた。

 ジョンは目を開いた。

 窓越から差し込む月光の光が、一人の少女、いや、一人の大人の女性を映し出した。

 シースルーのブラウス

 何色か分からないが、裸体に近い小さな下着

 ジョンは言葉を失い、ただただ、見惚れていた。

 浩子の表情は、恥ずかしそうでもなく、逆に毅然とし、何かを決意した趣きであった。

 浩子が言った。

「ジョン、愛してます。

だから…、私を抱いて…」と

そう言う浩子の表情は、毅然たるものから次第に緩み出し、大きな瞳が潤み、暗闇の中、月光に照らされ輝き出していた。

「おいで、浩子」

ジョンは手を伸ばした。

浩子は、この上なく美しく、妖艶な仕草により、ゆっくりとジョンのもとに歩みより、

 そして、ジョンの力強い腕の中に身を任せた。

「ビーナス、いや、浩子はやはり妖精だ。『風の妖精』さ」と、

 ジョンはそう言いながら、シルクのブラウスをそっと脱がせた。

 そして、二人は深いキスを交わすと、ゆっくりとベットに横たわり、身体を重ね合った。

 浩子が言った。

「ジョンのためにね。綺麗な下着、着けてきたのよ。ジョンが好きな水色なの。」

 ジョンは言った。

「ありがとう。でも、今は綺麗な下着も僕にとっては邪魔者だよ。」と

 ジョンはあっという間に浩子から下着を剥ぎ取った。

「もぉ~、もっと見て欲しかったのに~!

私、もう少女じゃない、セクシーな女だもん!」と

 浩子は、悪戯っぽく、そう言うと、ジョンの上着のボタンを外し出した。

 ジョンも一緒にボタンを外し、ズボンも脱ぎ、そして、浩子をベットに横たわらせ、その上に身体を寄せた。

「暖かい…」と浩子が呟いた。

「俺もだ。」とジョンが言った。

「抱いてくれる?」

「もう、お黙り…」と

 ジョンが浩子の麗しい唇に指を這わせた。

 ジョンは浩子の月光に輝く綺麗な瞳を見つめ、こう思った。

『魔女なんかじゃない。

浩子は魔女なんかじゃない。

天使さ。美の天使さ。俺だけの天使さ。

神よ!

貴方を信じます。

貴方ほど天使と魔女の区別がつく存在はありません。

浩子は天使ですよ!神様…』

 そう心に念じると、ジョンは何かから解き放たれたように、心の重荷が軽く感じられるようになった。

 そして、今ある現実

 最愛の女性が、この世のものとは思えないほど美しく、妖艶な姿をし、求愛をしてくれてる、この幸せ

 それが眼前にあるのだ。

 ジョンが生まれてから初めて味わう真の幸せが、目の前にあるのだ。

 ジョンは、自然に浩子の唇を優しく奪い、そして、また、同じ言葉を繰り返した、恰も自分自身に唱えるように。

「浩子は美の妖精さ!

浩子は僕の天使さ!」と

「うん…」と浩子は頷き、そして、目を閉じた。

 そして、二人は、深く深く交わり、互いが唯一無二の存在であることを心と身体で確かめ合うよう一つになっていった。

 静寂のクリスマスの夜

 月は翳ることなく、二人の交わりを照らし続けていた。



 


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