『愛の霊感』〜風と共に祈りを〜

ジョン・グレイディー

文字の大きさ
上 下
2 / 75
第二章

友達は風の音

しおりを挟む
 浩子はこの久住山の麓で生まれ育った。
 家族は祖母と二人暮らしであった。
 浩子の両親は数年前の台風による土砂崩れにより亡くなっていた。

 この地域は過疎化が進み、浩子の通う中学校も全校生徒で8名しか居らず、中学2年は浩子1人であった。

 浩子の家は山奥の森の中にあり、代々、牛の放牧地の管理、林業を家業とし、そして、あの教会の管理を任せられていた。
 
 この地域はあまり有名ではないが隠れキリシタンの地であり、浩子の先祖もそうであった。

 浩子は兄弟もなく、山奥に家があったことから、小さい時から1人で遊ぶ癖が付き、学校以外の時間は森の中で遊んでいた。

 学校の生徒からは、

 「風の妖精」と言われていた。
 
 浩子は森の中に1人で居るのが好きだった。
 特に夕暮れの木漏れ日が森に差し込む時間帯が好きであった。
 その時間帯は丁度、下校する時間帯であり、学校仲間と一緒に下校することはなく、いつも浩子の姿は妖精のように、いつの間にか森の中に溶けるように消えていくのであった。

 県道から牧草地に降りて、森林の中に入っていく。
 夕陽が木々、枝葉にカットされ、毎日、異なるデザインを浩子に見せつける。
 足元の落ち葉の煉瓦は、その日の光の差し込み具合により、踏み鳴らす音色が異なる。また、浩子の歩み方に忠実に演奏をしてくれた。

 そして、一番の友達は、風達であった。

 森の真ん中の楠木の大木の木穴に腰掛けると、風達がやって来る。

 杉林の中を木漏れ日の光を伴いサワサワとやって来る。

「浩子、知ってるかい。そろそろ、水槽所の上の高原で蕨(わらび)が取れるぜ。」

「浩子、今日は元気ないな。寝不足かい。ちょっと寝なよ。俺たちが起こしてやるから。」

「浩子、また、話してくれないかなぁ。国語の教科書の話。なんでもいいぜ。まあ、古典の平家物語は俺たちよく知ってるから、もう話さなくていいぜ。」
 【※この地域は平家の落武者も多かった。】

「分かったよ。じゃぁ、今日は井上靖の『氷壁』を読んであげるね」

 浩子は10分ぐらい、ゆっくりと感情を込め、1人五役以上の話ぶりに変化を付けるなど風達のために朗読してあげた。

 風が途中で止んだ。

「もぉ~、寝るなよなぁ~、折角、感情込めて話してあげてやってるのに!」

「浩子、ちょっと、それは難しい。俺たちは、吹き抜けるように軽やかで、楽しい物語が好きなんだ。」

「はいはい、また、風の又三郎でしょう!」

「そうそう」

 こんなふうに、浩子の親友は森の中に注ぎ込む爽やかな純情な風達であった。

 森の中を浩子が全速力で走っても転けることもなく、木にぶつかることもなかった。
 風達がいつも一緒に走ってくれて、風音で何もかも浩子に教えてくれた。

 森の外でも風達は浩子と一緒に遊んだ。

 久住山の真前にある大高原。
 蕨を採りに行くと、決まって風達が付いて来た。

 風達は浩子のスカートが捲れるくらい強く吹く。

「もう~、エッチ、やめてよー、パンツ見たいんでしょ」

「見たくねぇーよ」

「なら、そんなに下から吹かないで!」

「知らねぇーよ、俺じゃないよ」

「誰なの、エッチな風は!、今度吹いたらスカート履かないからね!」

「分かったよ~、ズボンはやめてくれ。浩子に似合わない。浩子にはスカートかワンピースが似合うよ。」

「うん!私もズボンは嫌い。可愛くないもんね。」

「そうそう」

「きゃぁー、また、下から吹く~、エッチ!」

「もぉ~、風達の馬鹿!」

 浩子と風達は親友であった。

 雨の日は大人の風が吹く。

 強風の時は悪い大人の風が吹く。

 浩子の友達は、晴れた日の風、そう、子供達の風であった。

「よーし、今日は晴れだ。あの子達も出て来るかなぁー」

「浩子、1人で寂しくないかい? おばあちゃん、学校まで一緒に行こうか?」

「おばあちゃん、大丈夫?おばあちゃん、腰悪いでしょ。無理しないで。私には一杯友達は居るから大丈夫!」

「一杯居る?」

「いや、学校に行けばね…」

「そっか、そんじゃ、気をつけて、いってらっしゃい!」

「いって来まーす」

「おはよう、浩子!」

「おはよう」

「今日は河原で待ってるよ。」

「何かあるの?」

「うん、綺麗なすみれの花が咲いたんだよ」

「分かった!行くからねー」

「浩子の今日のワンピースと同じ色だよ」

「やったぁー、この色、私、好きなんだ!」

「俺達も好きだよ」

「あなた達、私のこと好きなんでしょ~」

 風が止まって、森の中に沈黙を作った。

「恥ずかしがり屋さん、正直ね~、私も皆んなが大好きだよ~」

 風が照れ臭そうに、落ち葉の煉瓦を軽く吹き上げるように微風となり、浩子の足取と風速を合わせ、手を握るように優しく吹いた。


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...