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第一章
神様ごめんなさい
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九州山脈の久住山の梺、南に祖父岳、西に阿蘇山を見遣る風の大地。
川のせせらぎの清らかな流れ、色もなく音もしない純粋・無垢な清らかな流れ。
天頂の太陽は、西に傾き出し、陽光から夕陽に、イエローからオレンジに変化する途中、
その暫しひと時
風の大地に柔らかいクリーム色の光線を放つ。
この風の大地の杉林の真ん中に、枯葉の煉瓦で形取られた1本の小径が伸びている。
その小径を通るためには、神の許しを乞う必要があるかのように、
獣の足跡は、遠慮がちに脇の方に跡を付けた。
そして、この小径の主役は、正に風であり、
風が指揮するとおり、傍の杉の枝葉は擦れ合うようハーモーニーを奏で、
そして、枯葉はプリマドンナのように舞い続ける。
小径の行き止まり
そこには、小さな教会がある。
真っ白な漆喰の壁、金色の十字架を空に向け、天の声を感じ取るかのように、神秘的な装いをした教会。
その教会の扉は風が自由に行き来できるよう常に開かれ、
恰も風が教徒として、聖歌を合唱するかのように風音を奏でいた。
常に開かれた扉の外からは、十字架に張り付けられたイエス・キリストがどの方角からでも見えるよう、
万物に対し、公平な救いのオーラを注いでいる。
イエス・キリストの十字架の真下に祭壇台が備えられ、
そこには、聖書を開き、祈りを捧げる少女の後姿が見て取れる。
地味な白のワンピースも彼女が着ると天使の羽衣のように見え、華奢な後姿も可憐に見えた。
教徒となった風は、彼女の注目を集めるよう、教会の壁を渡り歩く。
漆黒の艶のある髪は少女らしくショートに刈られていたが、その分、鍾乳洞の氷柱のような真っ白な顔肌が露わになり、
時折、イエス・キリストを見つめる瞳は、日本人には珍しいブラウンであり、
かつ、殆ど白目が見当たらないほど大きな宝石のような瞳であった。
鼻筋も日本人とは思えぬほど筋が通り、
唇は遠慮がちな大きさではあるが血流の傑作のような淡いピンク色をし、瑞々しい艶を放っていた。
背格好からして中学生ぐらいと思われ、腕と脚は細く長く、東欧の美少女のように見て取れた。
彼女はこの教会の近くに住む『松原浩子』、14歳、中学2年生。
浩子は毎日のように、この教会に祈りを捧げにやって来ていた。
開いた聖書は、神への便宜であり、ただ開いていただけであった。
浩子は毎日繰り返し祈りを捧げていた。
「神様、あの人に私の心の言葉を伝えてください。
『愛してます。』
『愛してます。』
『愛してます。』
お伝えください。」
浩子は、そう祈りながら、時折、瞑想し、左手でネックレスの十字架を握り、右手で十字を切り、また、同じ祈りを繰り返した。
浩子が『愛してます。』と神に仲人を頼む相手は、その年の夏、この小径で偶然、すれ違った少年であった。
浩子はその少年の名前も住所も何も知らなかった。
ただ、すれ違う前から、心が小刻みに震え、自然と顔が下を向き、歩幅が狭くなり、風の音も気を効かすかのように鎮まり、
『おい!浩子、顔を上げなよ。勇気を持って、奴の瞳を見つめるんだ。」と
風達の励ましの声が浩子には聞こえた。
浩子は少年とすれ違う寸前、顔を上げ、その少年の瞳を見つめた。
真っ黒な綺麗な瞳であり、その中には、明らかに浩子の白いワンピースが映って見えた。
その瞬間、浩子の瞳は潤み、足取りは止まり、自然と唇は開き、心の音は小鳥の囀りのように奏で、
身体中を流れる血流がゆっくりとその速度を落とした。
少年は浩子を見て微笑み、小首を傾げるように歯に噛んだ挨拶をし、すれ違った。
その何秒後、浩子はそっと振り返った。
浩子の瞳の中に振り返った少年が映った。
少年はまた、軽くお辞儀をし、振り向き直し、教会に歩み進んだ。
浩子は少年の後ろ姿を見ながら、自然と両手で胸を押さえた。
心の音は小鳥の囀りから、シンバルの縁で震える振動のようにジンジンと鳴り響いていた。
この瞬間、浩子は「インスピレーション」=「愛の霊感」を感じた。
それはまさに、スピリチュアル的、神秘的な「愛の霊感」であった。
従順なカトリック教徒イエズス会の信者であった浩子は、その日から無償の愛を捧げることをやめ、
小さな恋に芽生えた愛を捧げる信者となった。
「天にましますわれらの父よ、わたしはあなたを信じております。
でも…、お許しください。
神様より好きな人ができました。
神様、ごめんなさい。」
神は寛大であり、純粋無垢な浩子の祈りに微笑むかのよう、
微風が、やっかみ半分、『ヒューヒュー」と、教会の壁を走り続けていた。
川のせせらぎの清らかな流れ、色もなく音もしない純粋・無垢な清らかな流れ。
天頂の太陽は、西に傾き出し、陽光から夕陽に、イエローからオレンジに変化する途中、
その暫しひと時
風の大地に柔らかいクリーム色の光線を放つ。
この風の大地の杉林の真ん中に、枯葉の煉瓦で形取られた1本の小径が伸びている。
その小径を通るためには、神の許しを乞う必要があるかのように、
獣の足跡は、遠慮がちに脇の方に跡を付けた。
そして、この小径の主役は、正に風であり、
風が指揮するとおり、傍の杉の枝葉は擦れ合うようハーモーニーを奏で、
そして、枯葉はプリマドンナのように舞い続ける。
小径の行き止まり
そこには、小さな教会がある。
真っ白な漆喰の壁、金色の十字架を空に向け、天の声を感じ取るかのように、神秘的な装いをした教会。
その教会の扉は風が自由に行き来できるよう常に開かれ、
恰も風が教徒として、聖歌を合唱するかのように風音を奏でいた。
常に開かれた扉の外からは、十字架に張り付けられたイエス・キリストがどの方角からでも見えるよう、
万物に対し、公平な救いのオーラを注いでいる。
イエス・キリストの十字架の真下に祭壇台が備えられ、
そこには、聖書を開き、祈りを捧げる少女の後姿が見て取れる。
地味な白のワンピースも彼女が着ると天使の羽衣のように見え、華奢な後姿も可憐に見えた。
教徒となった風は、彼女の注目を集めるよう、教会の壁を渡り歩く。
漆黒の艶のある髪は少女らしくショートに刈られていたが、その分、鍾乳洞の氷柱のような真っ白な顔肌が露わになり、
時折、イエス・キリストを見つめる瞳は、日本人には珍しいブラウンであり、
かつ、殆ど白目が見当たらないほど大きな宝石のような瞳であった。
鼻筋も日本人とは思えぬほど筋が通り、
唇は遠慮がちな大きさではあるが血流の傑作のような淡いピンク色をし、瑞々しい艶を放っていた。
背格好からして中学生ぐらいと思われ、腕と脚は細く長く、東欧の美少女のように見て取れた。
彼女はこの教会の近くに住む『松原浩子』、14歳、中学2年生。
浩子は毎日のように、この教会に祈りを捧げにやって来ていた。
開いた聖書は、神への便宜であり、ただ開いていただけであった。
浩子は毎日繰り返し祈りを捧げていた。
「神様、あの人に私の心の言葉を伝えてください。
『愛してます。』
『愛してます。』
『愛してます。』
お伝えください。」
浩子は、そう祈りながら、時折、瞑想し、左手でネックレスの十字架を握り、右手で十字を切り、また、同じ祈りを繰り返した。
浩子が『愛してます。』と神に仲人を頼む相手は、その年の夏、この小径で偶然、すれ違った少年であった。
浩子はその少年の名前も住所も何も知らなかった。
ただ、すれ違う前から、心が小刻みに震え、自然と顔が下を向き、歩幅が狭くなり、風の音も気を効かすかのように鎮まり、
『おい!浩子、顔を上げなよ。勇気を持って、奴の瞳を見つめるんだ。」と
風達の励ましの声が浩子には聞こえた。
浩子は少年とすれ違う寸前、顔を上げ、その少年の瞳を見つめた。
真っ黒な綺麗な瞳であり、その中には、明らかに浩子の白いワンピースが映って見えた。
その瞬間、浩子の瞳は潤み、足取りは止まり、自然と唇は開き、心の音は小鳥の囀りのように奏で、
身体中を流れる血流がゆっくりとその速度を落とした。
少年は浩子を見て微笑み、小首を傾げるように歯に噛んだ挨拶をし、すれ違った。
その何秒後、浩子はそっと振り返った。
浩子の瞳の中に振り返った少年が映った。
少年はまた、軽くお辞儀をし、振り向き直し、教会に歩み進んだ。
浩子は少年の後ろ姿を見ながら、自然と両手で胸を押さえた。
心の音は小鳥の囀りから、シンバルの縁で震える振動のようにジンジンと鳴り響いていた。
この瞬間、浩子は「インスピレーション」=「愛の霊感」を感じた。
それはまさに、スピリチュアル的、神秘的な「愛の霊感」であった。
従順なカトリック教徒イエズス会の信者であった浩子は、その日から無償の愛を捧げることをやめ、
小さな恋に芽生えた愛を捧げる信者となった。
「天にましますわれらの父よ、わたしはあなたを信じております。
でも…、お許しください。
神様より好きな人ができました。
神様、ごめんなさい。」
神は寛大であり、純粋無垢な浩子の祈りに微笑むかのよう、
微風が、やっかみ半分、『ヒューヒュー」と、教会の壁を走り続けていた。
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