1 / 11
第一章
負け犬様の仰る通り
しおりを挟む
「無事に産まれましたよ。元気な男の子ですよ。」
「お母さんも大丈夫です。5年前は双子さんで大変でしたからね。」
6月5日午後1時30分
市内の産婦人科で1人の子供が産声を上げた。
どうやら、母親は初産ではなく2回目の出産であり、5年前に双子を産んでいるようだ。
病室で父親らしき男が出産直後の赤ん坊を抱き、顔を覗き込み、目を細めている。
ベットに横たわる母親が父親に声を掛ける。
「双子と違って、顔は歪んでないでしょう。」と
父親は嬉しそうに「うん、うん」と頷く。
「2人は大丈夫?」と
母親が2人の子供を心配する。
「お袋が良くしてくれるから、大丈夫だよ。」
父親は、上の2人の子の存在を忘れたように、可愛い赤ん坊を夢中にあやしている。
「貴方、名前は決めたの?」と母親が何気に聞く。
「大介にしたよ。」
「あら、普通じゃない。」
「もうね、凝った名前は付けないさ。」
「そんな事言ったら、お兄ちゃんが可哀想よ。」
昼下がりの病室から和やかな笑い声が飛び交う。
その時、産まれて間もない赤ん坊の耳元に誰かが囁く。
【ほら見ろ、俺の言う通りだ。ちゃんと一個で産まれただろう。
俺は双子の片割れで、子宮の中で相方の片割れに踏まれ続け、栄養も半分以上も奪われ、逆子で頭蓋骨がひん曲がった未熟児だったよ。
親父は俺を一目見て、嘆いたそうだ。
『可愛い』などの次元には程遠い、不細工な赤子さ。
それも長男だったから、親父はがっかりしたそうだ。
名前は坊さんみたいな大層な名前を命名されてな…
誰も読めない名前だったよ。
『大介』か!
簡単明瞭で何よりだよ。
それに末っ子だ!
可愛がってくれるぞー!
上の兄姉とは5歳も違う。
お前の両親はお前に首ったけになる。
母親の乳もお前が独り占めだ。
何はともあれ、出だしは上手く行ったな。
神もちゃんと約束を守ってくれたよ。
『前世の不幸者は、来世では幸福者となる。』
神はそう宣ったが…
いいか!
まだまだ、神を信じちゃぁ~、いけない。
これからも俺の言う通りにするんだ。
いろいろと、落とし穴があるからな。
そして、俺も見てみたいんだよ。
俺の負け犬人生が勝ち組に変わって行く瞬間、瞬間を、この目で見てみたいんだよ。】
父親に抱かれた赤ん坊は、すやすやと寝たふりをし、
負け犬の遠吠えを心に留めながら、愛くるしい寝顔を披露し続けていた。
「お母さんも大丈夫です。5年前は双子さんで大変でしたからね。」
6月5日午後1時30分
市内の産婦人科で1人の子供が産声を上げた。
どうやら、母親は初産ではなく2回目の出産であり、5年前に双子を産んでいるようだ。
病室で父親らしき男が出産直後の赤ん坊を抱き、顔を覗き込み、目を細めている。
ベットに横たわる母親が父親に声を掛ける。
「双子と違って、顔は歪んでないでしょう。」と
父親は嬉しそうに「うん、うん」と頷く。
「2人は大丈夫?」と
母親が2人の子供を心配する。
「お袋が良くしてくれるから、大丈夫だよ。」
父親は、上の2人の子の存在を忘れたように、可愛い赤ん坊を夢中にあやしている。
「貴方、名前は決めたの?」と母親が何気に聞く。
「大介にしたよ。」
「あら、普通じゃない。」
「もうね、凝った名前は付けないさ。」
「そんな事言ったら、お兄ちゃんが可哀想よ。」
昼下がりの病室から和やかな笑い声が飛び交う。
その時、産まれて間もない赤ん坊の耳元に誰かが囁く。
【ほら見ろ、俺の言う通りだ。ちゃんと一個で産まれただろう。
俺は双子の片割れで、子宮の中で相方の片割れに踏まれ続け、栄養も半分以上も奪われ、逆子で頭蓋骨がひん曲がった未熟児だったよ。
親父は俺を一目見て、嘆いたそうだ。
『可愛い』などの次元には程遠い、不細工な赤子さ。
それも長男だったから、親父はがっかりしたそうだ。
名前は坊さんみたいな大層な名前を命名されてな…
誰も読めない名前だったよ。
『大介』か!
簡単明瞭で何よりだよ。
それに末っ子だ!
可愛がってくれるぞー!
上の兄姉とは5歳も違う。
お前の両親はお前に首ったけになる。
母親の乳もお前が独り占めだ。
何はともあれ、出だしは上手く行ったな。
神もちゃんと約束を守ってくれたよ。
『前世の不幸者は、来世では幸福者となる。』
神はそう宣ったが…
いいか!
まだまだ、神を信じちゃぁ~、いけない。
これからも俺の言う通りにするんだ。
いろいろと、落とし穴があるからな。
そして、俺も見てみたいんだよ。
俺の負け犬人生が勝ち組に変わって行く瞬間、瞬間を、この目で見てみたいんだよ。】
父親に抱かれた赤ん坊は、すやすやと寝たふりをし、
負け犬の遠吠えを心に留めながら、愛くるしい寝顔を披露し続けていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春を売る少年
凪司工房
現代文学
少年は男娼をして生計を立てていた。ある時、彼を買った紳士は少年に服と住処を与え、自分の屋敷に住まわせる。
何故そんなことをしたのか? 一体彼が買った「少年の春」とは何なのか? 疑問を抱いたまま日々を過ごし、やがて彼はある回答に至るのだが。
これは少年たちの春を巡る大人のファンタジー作品。
★【完結】八月のアクアマリーン(作品240324)
菊池昭仁
現代文学
タイトルを変更して内容も少し変えることにしました。
読み返してみたら、あまりに酷い作品だったので。
同じ女子大に通う三人は、出会いを求めて夏のビーチにやって来た。
そこへ現れる、三人の男子大学生たち。
友情と恋愛。お互いに傷付け、傷付けられて大人への階段を登って行く若者たち。
甘く切ないひと夏の青春ラブストーリーです。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる