社宅

ジョン・グレイディー

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第二十七章

殺戮の真実は確かにあった

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 俺は正月休みの間、毎晩、同じ夢を見た。

 夢のスタート画面は森の中に光が差すサークルエリアのベンチに腰掛けている白い服を着た女の画像から始まる。

 エンディングは何処までも続く縁日の道

 そして、隣には必ず白い服の女が俺の掌を握り歩いている。

 その間に表出される画像場面は様々であった。

 元恋人夫婦を惨殺した場面も数回なく映し出される。

 更に意識裏にある記憶の引き出しを順に開けるように、奴等を惨殺した者が間違いなく俺であることが映し出された。

 そう、俺はあの愚かな裏切り女と間男を叩き殺した後、森の中に死に場所を求めて歩いていたんだ。

 その途中、光に誘われあの女と遭遇し、聖水のような水面の中の道を歩き続ける。

 俺が夢から蘇った時はアパートのベットの上だった。

 奴等の頸動脈を抉り切った手の感覚は右手に残っている。

 しかし、その凶器である柳刃包丁は握ってない。何処にもない。

 かなり浴びた返り血…

 だが、俺の着ている白いシャツは真っ白であった。

 朦朧とした記憶を辿るが、何をどうして此処に辿り着いたのか分からない。

 記憶の引き出しの2段目が開く

 そうだ。

 警察からも聴取を受けていた…

 森の中から戻った次の日だった。

 そうだ。

 既にテレビでも大々的に報道されていた。

「新婚夫婦が殺害される。犯行は怨恨か」と

 俺はいつ警察がやって来るか待ち構えていたんだ。

 警察は昼過ぎにやって来た。

 聴取はあっさりしていた。

 俺が新妻の元恋人、春まで付き合っていた事、別れた理由等々を聴取され、事件当日の夜の行動履歴を聞かれた。

 俺は淡々と答え、当時はこのアパートで寝ていたと答えた。

 警察官は執拗でもなく、聴取を終えるとあっさりと帰って行った。

 そうだ!

 思い出した。

 俺は警察が此処まで来たことから半ば逮捕されるのを観念していたんだ。

 そうそう!

 自首するかどうか迷っていたんだ…

 その後、どうなったか…

 俺は思い出せない。

 夢に答えを求めるよう眠りに着く。

 夢は意識裏の引き出しをまた開く。

 見えた。

 夢はどんどんと記憶を表出してくれ出した。

 そうだ!

 夢の中で『白い服の女』があの何処までも続く縁日の道を歩きながら、俺に教示する。

「貴方は何もしてないのよ。貴方は夢を見ただけなのよ。心配しないで良いのよ。」

「包丁は見つからないわ。水の中深く深くに消えて行ったのよ。
 大丈夫、決して見つからない。」

「貴方は次期に全てを忘れる。貴方は悪くない。貴方を裏切った女が悪いのよ。貴方には私が居るから。」

「何も心配しないで。貴方はこの道を私と歩き続ければ良いのよ。」

 そう女は俺を安心させ続けたんだ!

 女の言う通り、俺の残虐極まりない行為は俺の記憶から泡のように消え失せた。

 そう…

    ショッキングな新婚夫婦の惨殺事件も大きく報道される中、俺の周りには何も近づいて来なかったんだ。

 事件は真実と違う方向に解決口が設けられたんだ!

 元恋人の夫

 金持ちのボンボン

 奴の品行が極めて問題とされ始めた。

 きな臭い家業も明らかにされ始めた。

 非社会的組織との交流

 中国人留学生の不正入国

 犯行の悲惨さから通常の犯行ではないと、報道各社は競って論じ始めた。

 中国マフィアの存在

 そうそう、亡くなった夫の遺体から覚醒剤の反応が示されたんだ。

 捜査舞台は海外経路へと移って行った。

 そして、数人の中国留学生が海外に逃亡したと報道され、中国内の捜査機関との連携、更には外交上の軋轢が生じ…

 新妻の元恋人で単なるサラリーマンの俺への容疑は微塵の欠片も無くなった。

 そう、俺の記憶と競うように容疑も消え失せて言ったんだ。

 結局、話だけが外交問題、留学生の受け入れ問題と大きく逸れ始め、凶器も発見されず仕舞い、お蔵入りの事件となったんだ。

 もう30年前の事件

 俺は『白い服の女』によって精神が守られていた。

 あれ程の残虐な殺し方をしたのに記憶から死体の残像をも消して貰っていたんだ。

 思い出した…

 俺は殺人鬼であったことを…

   そうだ!

 思い出した!

 俺はあの女の魔術のような優しい教示により普通に生きて来れたんだ。

 見返り…

   そうだ!

『愛に満ち溢れる2人だけの世界に行く』

 その契りの元に今があることを…

 その契りが…

 其の後、どう進展したんだ!

 その契りに反する現実…

    至って普通の家庭を築いたこの現実…

   夢での契りと、現実の幸せ

 俺は何かを分かり始めた。

 社宅

 あの北部屋で俺の頬を突き刺した冷たい感覚…

    全ては夢の中、いや、俺の意識裏に存在する引き出しの中にアーカイブされていることを…

 俺は正月明け、

 多幸に会うことを決意した。
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