社宅

ジョン・グレイディー

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第十九章

夢との対峙

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「白い服を着た女の夢」

 大体持って、体調のすぐれない時に限り、夜明け近くにその夢は現れて来る。

 その夢とは、

【俺はいつも薄暗い森の中に居る。

 そして、その森の中を、何処を目指す訳でもなく、彷徨い続けている。

 すると、森の中に光が見えて来る。

 木々の隙間から光が差し込んでいる場所が遠目に浮かび出す。

 その光に誘われ、俺はその場所に辿り着く。

 そして、木の幹に隠れながら、その光の正体を窺う。

 目の前には、一定の広さのサークルエリアが出現する。

 その中にベンチがあり、そこに白い服を着た女性が座っている。

 サークルエリアに差し込む光は弱く、女性の表情はハッキリとは分からないが、ただ、ぼんやりと前を見つめている。

 俺は森の中の獣のように、木の影から、獲物を狙うよう、そっと中に踏み込もうとする。

 しかし、一歩も踏み込めない。

 もどかしく足を踏み出そうと、しきりに踠いでいる俺の存在は、女性には何故か勘付かれていない。

 俺は光の中には入れないことを遂に了知し、代わりに、女性に向かって叫ぶ。

 名前を叫んだのか、何を叫んだのか、分からない…

 それでも、女性は俺の存在を察知しない。

 分かっているが相手にしないのか、それとも本当に気付いてないのか、それは分からない。

 俺は何とか女性を此方に振り向かせようと、叫び続ける。

 しかし、何の進展もなく、夢は終わり、結果、気怠い目覚めを迎える。

 目覚めた瞬間には、俺は一生懸命、夢の中の白い服装の女性のことを考える。

「誰なんだ?何故、森の中に?何故、俺の存在を無視する?」等々、しきりに考え込む。

 時間が動く。

 それに伴い、夢の形は俺の脳裏の中で氷が溶けるように次第に消え失せて行く。

 遂には、白い服を着た女性はベールを被ったまま、俺の意識の裏側に潜り込み、暫くの間は、脳と心の中からも、記憶と想いの中からも、姿を消すようにして潜伏し続ける。】

 30年以上の間、見続けている夢だが、その女性の顔も名前も仕草さえも分からない。

 初恋の相手か?友達か?昔の彼女か?妻か?母親か?

 全くもって見当がつかないまま、俺の人生の半分以上、意識の裏側で共存している存在である。

 その夢がこの社宅に現出した『黒髪の長い白い女の怨霊』と因果関係があるのか?

 多幸は言った。

「怨霊はご主人を怖がっている」と

 何故、俺を怖がっているのか?

 俺が夢の中の女性に何かをしたのか?

 忘却の積み重ねが夢として現出するのであれば、現実の隙間の中で無意識に行動した事実が何か存在するのか?

 俺は決心した。

 夢の中の女、いや、怨霊となった女性と対峙することを!

 妻と娘が九州の実家に戻った12月20日の午前6時30分頃、

 俺は出社前に北部屋に行き、押入れ四隅西側の一角に突き刺さっている杭を抜き取り、玄関の靴箱の上にお札と共に置き、

「早く戻って来い!お前と話がしたい!」と心に叫び、部屋を後にした。

 

 

 

 
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