社宅

ジョン・グレイディー

文字の大きさ
上 下
5 / 33
第五章

悔恨と憎悪の地

しおりを挟む
 比叡山の麓に位置する狭隘な地

 東からは間近に琵琶湖が迫り、西からは鬱蒼と茂った比叡の山裾が伸びている。

 猫の額程の僅少の地に、無駄に広い社宅敷地が悠然とのさばり続ける。

 何を力に!

 何を理由に、この令和の世においても他者から侵蝕されることなく存在し得るのか!

 愚かな人間は、琵琶湖リゾートに過大な期待を寄せ、湖岸沿いを競うように、狭い底地に上へ上へと伸びる高層マンションを乱立させている。

 それを傍目に、無用な広さを今尚、保持し続ける社宅

 この社宅には、血生臭い因果な歴史があった。

 後になって聞き及んだことではあるが…

 社宅隣地の自治会の老人から聞いたことである。

 この周辺は、第二次世界大戦中、捕虜にした連合軍兵士を収監する施設があった。

 終戦間際、敗戦色濃くなった頃合、米軍の本土上陸が危惧され始め、乱気に満ちた日本軍は、多くの捕虜を斬首した。

 首無し死体は容赦なく琵琶湖に放り捨てられ、京都へ流れる疏水の水は、いつまで経っても赤い血の色に染まっていた。

 戦後、その捕虜施設はGHQの監視下となり、米軍駐留地としての保養施設として改良された。

 これが社宅の出生である。

 保養施設は、この広大な敷地に3連列に伸びる10棟の建物が建設され、総部屋数120戸であった。

 敷地内には公園も設置され、軍車両が通行できるよう道幅も広く整備された。

 その後、GHQが去り、一時、空き家状態とはなったが、昭和30年代後半からの高度経済成長期を迎え、多くの企業がこの敷地利用に興味を示し、結果、複数企業が共同で出資する形で社員用の社宅と変身した。

 最も住居者が多い時は500人を超える人々がこの社宅で暮らしていた。

 そのため、周辺地域もその恩恵に預かり、社宅の経済効果として、今はシャッター商店街となっている近傍の商店街も活気に溢れ非常に賑わった。

 しかし、時が平成に移ると、湖岸沿いに高層マンションが立ち並び、社宅内の住民も近代設備が完備されたマンションへ徐々に移るようになって行った。

 更にバブルが崩壊し、経済悪化に伴い、社宅を管理していた各社は、社宅の維持費の捻出に苦慮するようになり、結果、3列の内2列は封鎖することが決定された。

 これが社宅の現在までの経緯である。

 不思議である。

 時代の移り変わりにより旧態物は取り壊されるのが世の常のところ、尚も古びながらも存立している。

 誰も手を出さないのか?

 立地条件も決して悪くない。

 県庁所在地の最寄駅である大津駅までは車で10分、京都への利便性の高い大津京駅には徒歩10分である。

 どうして…

 こんなにも利便の良い、狭隘地の中に広々と存在する敷地が活用されないのか…

 地元自治会の老人は言った。

「いつもいつも人が死ぬ場所やさかい、皆、怖がって、壊さんのや!

 祟られるさかいな。」と

 理由は分からないが、社宅住民の自殺者が後を絶たなかったとのことである。

 最盛期の賑わいの中でも月に1回はパトカーと救急車が停まっていたそうである。

 老人はこうも言った。

「日本中探しても、この土地ほど血を吸った土地はないでぇ!」

「都の結界の外れの地や!

 怨霊が野放しに、うじゃうじゃおるさかい…」

 歴史が物語る。

 南北朝時代、戦国時代、都を巡り、多くの人々が戦で血を流した土地

 そう、何百年もの間、正に無法地帯の戦場であり、殺戮の場であったのだ。

 知らぬが仏か!

 何も知らない俺達家族は、この後、想像を絶する恐怖を体験することとなる。

 血が染み込み、血の匂いが漂うこの地で…

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつもと違う日常

k33
ホラー
ある日 高校生のハイトはごく普通の日常をおくっていたが...学校に行く途中 空を眺めていた そしたら バルーンが空に飛んでいた...そして 学校につくと...窓にもバルーンが.....そして 恐怖のゲームが始まろうとしている...果たして ハイトは..この数々の恐怖のゲームを クリアできるのか!? そして 無事 ゲームクリアできるのか...そして 現実世界に戻れるのか..恐怖のデスゲーム..開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

雪山のペンションで、あなたひとり

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ホラー
あなたは友人と二人で雪山のペンションを訪れたのだが……

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員

眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

5A霊話

ポケっこ
ホラー
藤花小学校に七不思議が存在するという噂を聞いた5年生。その七不思議の探索に5年生が挑戦する。 初めは順調に探索を進めていったが、途中謎の少女と出会い…… 少しギャグも含む、オリジナルのホラー小説。

処理中です...