憤慨

ジョン・グレイディー

文字の大きさ
上 下
7 / 37
第七章

暗黒の隅に備蓄されたアーカイブ

しおりを挟む
 だんだんと胸糞悪くなって来た。ここまで書いたら、俺の暗黒の20代を一気に書き綴り、早く30代に乗り換えたく、ここからは早足で書き綴る。

 結局、二浪したよ。

 共通一次試験、今のセンター試験かな、3回受けたが点数は変わらなかったよ。私立大学も合計10校以上受験したが一流私立大学は全て滑ったよ。

 俺は可もなく不可もなくの福岡市の私立大学に入学した。

 二浪したので既に20歳になっていた。

 成人式など無縁であった。他県のボロアパートで1人暗闇の中、角瓶を飲んでいた記憶しかない。

 二浪目は違う意味でいろいろあったよ。

 恋愛もしたよ。

 高校時代の同級生さ。

 相思相愛で付き合ったが、いつの間にか、その女は俺の前から姿を消したよ。

 理由も何もなく、知らぬ間に消えて行ったよ。

 後々、風の便りで聞いた話だが、その女は同じ同級生の男と付き合い結婚したそうだ。

 俺はその男の印象は全くないが、その女はその男と高校時代付き合っていて、俺と付き合っていた頃は、その男の悪口を言っていたが…

 女は分からない生き物だ。

 そして、その男は何の因果か、警察官になったそうだ。そう、俺の大嫌いなポリ公にな。

 その男の父親が地元警察署のお偉方だったそうだ。コネの温床の警察人事、さぞお偉くなっている事だろう。

 胸糞悪いから、この話はこれでお終いだ!

 俺の大学時代はそんな胸糞悪い出来事の後でもあり、人嫌いの二浪生であったことから、当然ながら孤独であった。

 はっきり言うと、人と話したことなどないかも知れない。

 大学の講義もいつも1人、教壇の真前に座り聴いていた。

 大学祭など行ったこともなく、当然、サークルなどにも属せず、講義が終わるとそのままアパートに直帰していた。

 バイトは日雇のみで土方の仕事を好んで探し、体力があったことから、どこに行っても重宝された。

 その日銭でパチンコをし、勝ったら、1人、居酒屋で一杯引っ掛ける日々を送っていた。

 アパートでは常時、カーテンを閉め、昼間でも光が入らないようにし、角瓶を飲みながら、ハードロックを聴いていた。

 アイアンメイデン 、ブラックサバス、ディープパープルなど、怒り狂ったサウンドを酒と煙草で酩酊しながら、何も考えず、何も感じず、何も恐れず、何も欲せず、ただただ、時が進むのに身を任せていた。

 これが俺の大学生活さ。

 24歳で大学を卒業したが、人と交わり、会話をし、楽しんだ思い出など皆無である。

 知らない間に大学時代が終わっていた感じだ。そう、眠りに付き、夢も見ることなく(正確には見た夢の記憶もなく)、目が覚めたら、卒業していた、そんな感覚だ。

 お陰で大嫌いなポリ公や先公への怒りも鎮静化し、良いか悪いか、精神衛生上、落ち着いた4年間であった。

 4年間、人と心から話すこなく生活することが出来るかい?
 普通は無理だろ?
 俺には出来たんだよ!

 生来的に孤独が好きな人間であることが、この4年間で実証されたよ。

 気が触れる事もなく、ポリ公達が宣った犯罪に手を染める事なく、暗闇の中でひっそり生息し続けたよ。天然記念物のオオサンショウウオと同じさ。

 この暗闇に過去の24年間の出来事を全て俺の脳味噌から掠奪し、暗闇の更に暗い隅っこに小屋を建て、そこに備蓄して置いて行ったよ。「怒り」のアーカイブをね。

 いつか、その小屋に掛けた閂が下され、小屋の中に備蓄された「怒り」の映像が光を浴びる日が来ることを予期し、ちゃんと整理整頓をして置いたよ。

 その意味で貴重な時間ではあった。

 大学を卒業し、俺は大手の不動産会社に就職した。

 バブル景気でもあり、難なく入社出来たよ。

 初任地は大学と同じ福岡市で、アパートもそのままさ!
 
 会社は俺の性格には持ってこいであった。

 熱心に仕事をすれば、同僚と交わる事もなく、仕事の成果を出せば、上司から認められた。

 飲み会は俺の独壇場だ。

 人並み外れた肝臓の強さ、学生時代から知り尽くした福岡の夜の街、散々によそ者社員をもてなしてあげたよ!

 簡単な事だ。

 ただ、俺の心は納得していなかった。

 何に?

「怒り」のアーカイブを俺が忘れてしまうのではと、それが不安であったようだ…

 俺の心は、事件を待っていたんだ。

 俺を見下す輩の出現を心待ちにしていたんだ。

 なかなか獲物は現れなかった。

 俺は心に諭すように言ったものだ。

「慌てるな。俺のエネルギーは「怒り」そのものだ。それを忘れる事はない。慌てるな。必ず、獲物は現れるから。」とね…

 俺は憔悴する心を他所に28歳で見合い結婚をし、30歳で子宝に恵まれた。
 両親も俺の見せかけの幸せに安堵し、喜んだ。

 俺の心は俺が幸せそうになるにつれ更に焦りだし、ザワザワと落ち着かなくなり、俺に面倒を駆け始め出した。

 閉所恐怖症、パニック障害、脳波異常、そして、うつ病へと、俺に、「怒り」を備蓄した暗闇の小屋の閂を下させようと、あらゆる病を招集し始めた。

 慌てるな!

 俺は「怒り」を忘れやしない。

 これからが本番だ!

 俺は俺を見下した輩を地獄の果てまで追って行く。

 決して許さない!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『新宿の刑事』

篠崎俊樹
ミステリー
短編のミステリー小説を、第6回ホラー・ミステリー大賞にエントリーします。新宿歌舞伎町がメイン舞台です。大賞を狙いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

最後のリゾート

ジョン・グレイディー
ミステリー
ウィルスに感染し、腎臓動脈血栓と鬱の後遺症を抱え込んだ男 今度の鬱病は、彼にとって15年前に発症したものより重く心を蝕む。 ウィルスに体を、鬱に心を、どうしようもない現実が、彼に襲いかかる。 彼の脳裏にイーグルスのThe Last Resort のメロディーが鳴り響く。最後の楽園、いや、彼には最後の手段「死」の近づきを感じる。 華やかな現代は、途方もない先住民の血で固められた土地の上に成り立っている。 彼の嘆きは、先住民の嘆きと同じ、アイデンティティを奪われた嘆き、ウィルスから、鬱から、そして、社会から 不条理に置かれた現状、嘆きは全て泡と消える。 50代半ばを過ぎ、それなりにエリート街道を進んできた中年男性、突然のウィルス感染が、彼の人生を大きく左右する。 運命は生と死、人生は山と谷、万人に公平なのは運命なのか、人生なのか 宗教哲学的な心理描写により、現代のウィルス感染者の苦悩を綴る。

向日葵のような君へ

Kaito
ミステリー
高校生活を送る達哉。父の交通事故から悪夢は始まった。 男女の恋愛ミステリー。

通勤電車

kumapom
ミステリー
ある日の事、主人公は奇妙な夢を見て目が覚める。気を取り直し、普通に出勤の準備をして出かけるが、ホームで電車を待っていた主人公の元に来たのは、いつもと違う奇妙な電車だった。

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

星乃純は死んで消えたい

冷泉 伽夜
青春
 打たれ弱い二世アイドルがグループをのしあげていく話。  父親は大物タレント・母親は大物女優。  息子の純は、ただの中学生。――のはずだった。  いつものように父親と一緒に芸能事務所を出入りしていると、社長にスカウトされてアイドルになることが決まってしまう。  ダンスも歌もダメダメな純は、芸能界の荒波にもまれながら必死に生き抜いていく。  これは  心がすさみ、病んで、絶望しながらもアイドルとして歩んだ純の、精いっぱいの物語――。

処理中です...