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本編

第四話 バルドゥールの願いは一つ

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 アンナは家庭教師や商人といった、グリューンドルフ公爵に許された極わずかな者以外、外部の誰とも会うことはない。ほとんど屋敷に閉じこもって過ごしている。
 置かれた境遇に、仕方がないこととはいえ、やはり退屈で仕方がなかった。
 それを知っているフルトブラント。そして察したバルドゥール。
 両名は、この日から頻繁にアンナの元へ通うようになる。

 王立学園は全寮制で、長期休暇以外はなかなか時間をとれない。
 週末には、騎士学校と合同で行われる、泊りがけの軍務訓練もある。
 しかし予定のない週末は、二人ともなんとか都合をつけた。

 二人はグリューンドルフ公爵タウンハウスへ、せっせと足を運ぶ。
 バルドゥールには公務があり、フルトブラントほど自由に時間はとれなかったが、出来うる限りアンナに会いに行った。

 アンナはいつだって、バルドゥールの訪れを喜んでくれた。

 バルドゥールはアンナに会いにいく度に、小さな贈り物をする。

 公務の視察で訪れた地特有の珍しい特産物もあったし、海で拾った綺麗な貝殻を組紐で繋いで、ブレスレットを作ったりもした。

 学園の軍務訓練で魔物を倒した折に得た魔石。それをアンナのために加工した飾りを作ったこともある。アンナが護身用に身に着けている短剣につけられるように。
 気休め程度ではあるが、アンナの身を守ってくれる効力のある魔石だ。

 もっと牧歌的なものであれば、王族専用の庭園に咲く、美しく貴重な花を押し花にした栞。
 またはバルドゥールが読んで面白いと感じた娯楽本に興味深い参考書。
 浪漫溢れる冒険譚に古代の神話や歴史書。

 バルドゥールがアンナに贈る数々に、際立って高価な品はない。けれど、バルドゥールがアンナを想い心を尽くした品ばかり。

 第三王子であるバルドゥールは、それなりに個人資産がある。けれど高価な宝飾品でアンナの気を引けるとは思わなかった。
 そしてそれは正しかった。

 アンナはバルドゥールの真心を受け取る度、はにかんだ笑顔を見せる。
 バルドゥールだけが見ることのできる、アンナの少女らしく繊細な微笑み。


「バル、ありがとう。嬉しいわ」


 アンナの謝辞はいつもたったそれだけ。
 たったそれだけの言葉が、バルドゥールを何より幸せにさせる。
 バルドゥールは、ほんのりと赤らんだアンナの頬に触れたい気持ちを押しとどめ、にっこりと紳士的に微笑み返す。


「アーニャの喜ぶ顔が見たいだけなんだ」


 そうそれだけ。
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