【完結】大食漢カルロス1世の胃袋をつかんで、愛妻家な彼の可愛い奥さまをつとめます

空原海

文字の大きさ
上 下
3 / 5

3 コロンブスにヴァスコ・ダ・ガマ。世は大航海時代なのである

しおりを挟む



「カルロスさま、カルロスさま」

 ちょうど目の前で生ガキをつるん、と飲み込んだ夫の名を呼ぶと、カルロスさまはきょとん、とつぶらな目を丸くしてこちらを見た。

「先日、貿易船がなにやら、新たな香辛料を持ち込んだとうかがいました」
「うむ」

 カルロスさまは口のはしから垂れた、カキの汁を手でぬぐう。
 それからちっちゃい男の子みたいな、愛らしいしぐさで首をかしげた。

「きみの御父上、ポルトガル王のマヌエル殿がインド総督としたヴァスコ・ダ・ガマだったか? 彼がポルトガルに胡椒を大量にもたらしたろう。であるからして、我がスペインも負けてはいられぬな、と」

 カルロスさまのふくふくとした手が、新たな生ガキへとのびる。
 これはまずい。

「はい。わたくし達のお祖母さま、カスティリヤ先王イザベルさまがジェノヴァ人の船乗り、コロンブスを取り立て。そしてその彼が、我らがスペインのため、新たな航路を発見しましたでしょ」

 カルロスさまの瞳を見つめながら、手をそっと取る。
 するとカルロスさまは、あたしの手を情熱的な手つきで、スリスリなで返してくれた。

 やだー、あたしったら、愛されてる!
 もうカルロスさま、大好きっ!

「ですから、父マヌエルもまた、我らがスペインに負けじとガマに航路を開拓させたのだそうですわ」

 あたしの生まれる前年に、ガマがインド航路航海に出たって、今世のおとうさまが言ってたなぁ。

「そうだったな」
 カルロスさまはあたしの手をにぎにぎしながら、こんどは反対側へと首をかしげた。
「彼のおかげで、我が領港アントウェルペンが香辛料貿易で栄えることができた」

 カルロスさまの、ご機嫌そうなニッコニコ顔。

 そらそうよね。
 香辛料という莫大な利益をあげる貿易。
 それをこれまでずっと、ヴェネツィアが独占していたのが、ポルトガルのリスボアを経由するとはいえ、カルロスさまの領地へうつったのだもの。

 スペインとポルトガル、ウッハウハよね。

 ……大国の栄光の影に隠れて、アステカ帝国やインカ帝国の征服、インディオの大虐殺とかアフリカの黒人奴隷問題とか、あったような気がするけど。

 カトリック両王の先王治世でもそうだったけど。
 カルロスさまのご威光は、遠く離れた新天地で君主ヅラする総督には届かないのよね……。
 カルロスさまご自身は、もんのすごくストイックで敬虔な、慈悲深いカトリック教徒でいらっしゃるのに。

 政治ってむずかしーわー。
 Fラン大学をようやく卒業できただけのバカ女には、荷が重いわー。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

絆夫婦

有箱
恋愛
互いに深く愛し合う、一組の老夫婦がいる。 二人が強く結ばれたのは、とある出来事があったから。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

隠り世あやかし結婚事情~私の夫は魅惑のたぬたぬ~

瀬戸呼春
キャラ文芸
旧題:私の夫は魅惑のたぬたぬ~異種族夫婦のあやかし新婚ライフ~ 千登世(ちとせ)には秘密がある。あと、とっておきの癒しが。 ひょんなことから半年前に結婚した永之丞(えいのじょう)の正体は、なんとたぬきのあやかし! 隠り世という独自の世界を持ちながらも、あやかし達は人間界のあちこちに紛れていると言う。 夫の正体は周りには秘密だが、優しくてもっふもふのしっぽ付きの彼と千登世の新婚生活は順風満帆だった。 けれどある日、千登世は会社の後輩に指摘されてしまう。 「だって、先輩からたぬきの匂いがぷんぷんするんですもん!」 いきなりの身バレ!?千登世と永之丞の平穏な生活は守られるのか――――?

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...